職業がんをなくそう通信 7/第6回なくそう集会・山野優子、毛利一平記念講演・三星化学、新日本日本理化・化学物質管理

2018年2月23日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

第6回職業がんをなくそう集会 in 東京開催される

去る2月18日(日)10時~16時渋谷区立勤労福祉会館2階第1洋室にて、第6回職業がんをなくそう集会が開催されました(参加者22名)。

【記念講演 1】 産業化学物質の発がん性分類/山野優子教授 (昭和大学医学部衛生学講座)

初めに日本産業衛生学会において発がん性分類の見直し作業を進める必要性が生じた経過(校正印刷職場で多発した胆管がんの原因物質とされた 1,2- ジクロロプロパンの発がん分類がなかったこと、2014 年労働安全衛生法改正により IARC 分類2Bの化学物質が特定化学物質障害予防規則の特別管理物質になったなど)を解説され、その後 IARC における発がん性評価の方法や分類の紹介をされました。

Group1 : ヒトに対する発がん性が認められる。
2A : ヒトに対しておそらく発がん性がある(十中八九)。
2B :ヒトに対する発がん性が疑われる(五分五分)。
3 :ヒトに対する発がん性が分類できない。
4 :ヒトに対しておそらく発がん性がない。

検討小委員会での検討作業にあたり IARC、ACGIH、産衛学会に掲載されている化学物質のリンクを調査し検討物質の優先順位付けを行い検討物質の候補を選定し許容濃度委員会が検討物質を決定する流れと 2013 年 1040 物質の作業例を解説され、2014-2017 年の IARC の見直し(ナノマテリアル、赤肉加工肉やコーヒーマテ茶などvol.111-117)を紹介されました。肉の摂取量と発がん率のグラフ(肉の摂取量が増えると発がん率が高くなる)を示し、但し日本人の場合は肉消費量が圧倒的に少ないため「もっと食べた方がいい」と指摘されると会場がどっ沸きました。

その後も分類を進めた化学物質の羅列(全て英語表記)を示され「最初はこんななんですが・・安 心してください」とそれらの化学物質を分かりやすく整理した表(物質名 ,CAS No, 検討年度の一覧)を紹介されると参加者が安心した様子が伝わりました。また、
*: 発がんに関与する物質が全て同定されているわけではないもの、
† :暫定期間1 年間
などの記号も説明いただきました。小委員会によって発がん分類の見直しルール作
りができ今後は IARC の速報等を年数回確認し精査・検討していくこと、日本が先行して評価する場合もあること等にも触れられました。

最後に職業性膀胱がんの予防に多大なる貢献をされた故石津澄子先生(職業性疾病の予防に貢献した女医)の紹介をされました。

日本のアリスハミルトン(鉛工場の現場に出向き鉛中毒の実態を明らかにしてその予防に尽力したアメリカの産業医学のパイオニアの女医)になれと励まされ、現場に通い「硫安工業における慢性一酸化炭素中毒の研究」論文をまとめ慢性 CO 中毒の診断項目の設定に繋がったこと、染料工場での職業性膀胱がんが問題視され細胞診(尿沈渣・パパニコラ法)を習得にイギリスに渡り帰国後も工場に日々出向き検診の説得をして検査をしたこと(中にはサンプルに水を提出した人もいたとか)などを話されました。

山野先生は東京女子医大で石津先生にご指導を受けられました。集会当日は石津先生の七回忌であることに触れられました。

【講演の感想・質問など】

  1. 発がん性分類の経緯から始まり発がん性評価方法など非常にいい内容で勉強になりました(IARC 発がん分類は勉強不足で知りませんでした)。
  2. グループ 1 は人に対する発がん性が立証されているが、そうでないグループ 2A は 8 割くらいは発がん性があるだろう。2B でも 5 割くらいはあるだろうとのことだった。ということは、グループ2 でもグループ 1と同様の対応が必要だと思った。
  3. 「十中八九」「五分五分」という表現はよくわからなかったです。証拠の確からしさでグループ分けされているのであるから「人への証拠は五分五分であるがもし人体実験すれば発がんします」ならわかるのですが・・・。三星化学では「OT は 2A だから人の証拠は十分でなく人と動物は違う」とし人への発がんはないがごとく作業を強制してきました。
  4. 時間が短かったが系統的に話していただき(大変だったけど)理解が進みました。
  5. 分類に限界があることからばく露しないための手立て(予防)の必要性を強く感じました。
  6. 専門的で難しかったです。
  7. 短い時間ではあったが、分類の作業・経緯が良く分かった。どのように活用していくかについては私たち労組が頑張ります。
  8. 短い時間で大変分かりやすく見直し作業の経緯や進め方を説明していただきました。話し方もハキハキされていて聞き取りやすかったです。次回(?があれば)もう少し長い時間でお聞きしたいです。石津先生のご苦労されたお話も興味深かったです。
  9. 私がいた会社では、2A2B も証拠が少ないだけなので 1 に準じた取り扱い(密閉化・封じ込め・局所排気・プッシュプルなど)をするよう協定化されていました。今や全ての化学物質はばく露が定常化すれば疾病や発がんの要因になりうると認識し、 ばく露対策を進めるのが正しい方向ではないかと感じています。

【山野先生から】

2.9.は、より厳しい管理や対策をとられていることには賛成です。
3.ご存知のように、発がん性の分類は、発がんの強さではなく積み上げられた証拠の確からしさで評価しています。たとえば 2B なら、IARC の場合は発がん性がないとは言えないということだと思います。人体実験をすれば発がんするということではありません。また、2A なら、IARC の場合は発がん性があると思われるということだと思います。産衛の場合は、ヒト発がんの疫学研究からの証拠は限定的(たとえば、A作業所の○人を対象としたデータだと◉の発がんのリスクがあったけれど、B 工場の△人を対象としたデータでは●倍のリスクがあって、リスクの程度が一致しないなど)だけれども動物実験の発がん性の証拠は十分あるということです。定量的ではないと申し上げながら、英語訳を十中八九などという表現でかえってわかりにくかったかなと反省しています。
⑥専門的で難しかったというご意見は申し訳なかったとは思いますが、聴講の対象者が幅広い場合は非常に難しいですね。実際に皆、一般の方ならそれなりに、なのですが、管理者等も入っていましたし、実際の現場に役立ててほしいということもありまして、このよ
うになった次第です。

※集会当日、石津先生の七回忌がある中で山野先生に講演をお願いしました。IARC 速報に対する産衛学会のアクションが不明でしたが小委員会がルール作りをし今後の検討が随時されていくことになったのは先生のご活躍のお陰です。お忙しい中ありがとうございました。(昌)

【記念講演 2】 職業がんをなくすために-労働者 ・ 市民が知っておくべき 3 つのポイント ー/毛利一平医師 (ひらの亀戸ひまわり診療所所長)

職業がんをなくすために私たち一人一人がやらねばならないことを考えようと呼びかけられ、1.疑う、2.知る、3. 動くの 3 つのポイントを解説されました。

  1. 疑う
    健康を害する原因は労働の現場にあると疑うことが重要。同じ職場で複数の事例が集まればなお疑わしい。仕事の量や経験年数などと関係がありそうな時はなお疑わしい。同業他社で同じような事例があればなお疑わしい。ニトログリセリン製造現場の労働者に狭心症が多いこと等事例を紹介され、疑問に感じたことはどんどんぶつければ良いのだと話されました。
  2. 知る
    自分が何を使って働いているかを知る。それがどのようなものであるかを知る。知るためには何を利用すればよいかを知る。どれだけばく露されているかを知る。作業環境測定結果を知る。健康診断結果を知る。職場・同職業・国内・国外で何が起こっているかを知る。会社任せではダメで自ら知ろうとすることが重要と話されました。
  3. 動く
    自分たちの体に何が起こっているのか専門家に問いかける。相談できる専門家を見つけること、育てること。安全衛生委員会・労組・患者会等のネットワークで動く。広く情報を集める。疾病の原因を調べる。疫学調査をする。快適な職場を作る。フランスである女性研究者が地域病院のがん患者の職歴調査をして 1500 件の労災申請を行い 800 件が認定された事例を紹介され、運動・行動には執念が必要と言われました。

【講演の感想・質問など】

①労働組合があるところは職歴化学物質の取り扱い歴、SDS の周知徹底を図ると共に作業環境測定結果等を明らかにさせる運動をすべき。未組織労働者は相談あった段階からデータを集めていくことが必要ですね。
②自分の身を守るのは自分であり職場の安全を守るのは労働組合の重要な役割であると強く認識しました。
③いつも大変分かりやすい講演です。予防活動を広めるために今回の内容を利用させていただきます。
④労働組合としての任務、しなくてはいけないことの重要性が良く理解できました。
⑤働いていて辛いなどという状態をなくすことが大切とのことでした。健康被害がでてからの救済は今の日本では非常に難しいのは腹立たしい限りですが予防ならできそう。疑って知って動くことを職場で実践すれば良いのだから。国が動かないなら労働者が自ら動かなければ労働者の健康は守れないと思いました。
⑥疑う知る動く 3つのポイントについて非常にわかりやすき説明であり、より快適な生活、健康問題、職場を目指すためのいい講演でした。
⑦疑う、知る、動くの三本柱で行動することを学びました。まさに労組のチェック機能のことですね。特に動くことは産別組合の中心的役割。まず動くことが大事だと思いました。⑧職業・職場をまず疑うことはみんな感じていてもそう考えて行動まで起こさない。それは分かってないのと同じこと。予防活動が一番楽で重要なのに誰かが病気になったり怪我をしてから補償させようとしても労多くして得られるものは少ないです。職場を疑うというのは信念と自信がないとなかなかできませんね。知るに関しては少々難しい部分もありますが知ろうとしなければならないのは確かです。私は「真面目に働く人がこれはおかしいと思ったら全部法違反だ」と言っております。最後の動くが一番難しいのでしょうが難しく考えずに誰かを頼ったり組織で取り組んだりすることが重要だと思います。本日の講義は事例の紹介がたくさんあって大変分かりやすかったです。Pott・煙突掃除夫・少年・法規制などキーワードを散りばめていただけると嬉しかったです。

※毛利先生には、お忙しい中職業がんをなくすための行動提起的なものをとお願いしました。感想でも労組の役割や取り組み強化について書かれたものが多く参加者の心に先生の声が届いたようです。あとは実践ですね(昌)

【基調報告 1】 職業性膀胱がんは何故多発したか/田中康博 (化学一般関西地本三星化学工業支部)

1997 年 3 月入社早々法令を遵守しない会社に「いやな予感」を感じます。有給休暇届にしつこく理由を書かせる。工場内で従業員が倒れても救急車を呼ばない。業務上の怪我なのに健康保険を使わせる。作業環境測定時は工場の窓を全開、悪臭測定時は締め切るという使い分けをする。測定結果は職場の労働者に知らせない。危険物保安講習等の外部講習で使用したテキストを「会社の経費で行ったから」と没収し日常学習をさせない。上司
にものを言えば環境の悪い職場に配転されたり、評価点数を下げられ賃金が大幅ダウン。暴力・暴言の横行等々。

職場改善に取り組むも限界を感じ一人でも入れる労働組合である化学一般合同支部に 2006 年加入。09 年過半数代表選挙で直属上司に勝利するも徹底的な賃金と配属差別を経験します。11 年 40 代同僚がその上司にいじめられ退職後自殺。11 年職場に初めて SDS(セーフティデータシート)が配置される。OT(オルトトルイジン)はIARCの発がん性分類で 2Aと記載されており現場労働者に動揺が起きた(因みに 11 年時点ではIARCの分類はグループ1:ヒトに発がん性があるだったが06年の古いデータが記載されていた)。

その後、2014 年 2月に現職1 名、15年 2月退職者1 名、同年 8月現職1 名が立て続けに膀胱がんに罹患した。同年 9 月合同労組定期大会で膀胱がん多発を報告し助けて欲しいと訴えた。同9 月さらに現職1 名が膀胱がん。直ちに関西地本と学習会を開き、芳香族アミンが原因の職業がんであることを知る。これまでの経過から労災認定や職場改善には労組結成が必要と判断し準備に取り掛かる。

会社は感づいたか行動を監視するなどしてきたが同年 11 月田中氏本人も膀胱がんになり、これ以上隠し通せない、田中を黙らせるのはできないだろうと同年 12 月になって初めて福井労働局に相談に行く。同月厚労省の報道発表に繋がる。16 年 1 月労組を結成し厚労省要請行動、会社との団体交渉を進める。その後様々な職場改善を進めている。組合機関誌や膀胱がん多発事案を取り上げた新聞記事を引用しわかりやすく説明しました。

【報告の感想・質問など】

  1. 三星化学の経営者は全く酷い。高山委員長・田中書記長の活動は多くの従業員のいのちを(ご自分もばく露している中)護るため立ち上がったことは大変なご苦労だと思う。
  2. 自分たちの於かれている立場は恵まれているなと思いました。しかし同じような職種環境であり決して他人事ではないと思います。特に二次汚染については当労組も参考にさせていただきます。
  3. とにかく経営者の態度がなっていない。三星に限らず安全を顧みない経営者には厳しい制裁が必要だと思う。そのような経営者があらわれないような社会風土・教育が大切になってくると思う。
  4. 謝罪と犯した安全配慮義務違反を追及していくべきだ。
  5. 膀胱がん発生後の労働者に対する会社の対応はこの企業の体質をよく表していると思います。容易ではありませんが体質改善に向けて頑張りましょう。
  6. 安全衛生に終わり無し。共に頑張りましょう。
  7. 人権無視と経営者賛美の封建的支配がこの事案を引き起こした。当該労組と共に会社を断罪したい。

【基調報告 2】 職業がんと闘うオルトトルイジンの会/堀谷昌彦 (職業がんをなくす患者と家族の会)

2016 年 3 月新日本理化徳島工場の退職者に尿検査を受診するよう会社から連絡があった(費用は会社負担)が背景等の説明がなかった。同年 10 月再度検査の勧奨があったが費用は自己負担と連絡があり「これはおかしい。」と感じ退職者の訪問をしていくとかつての同僚が「OTの製造に従事していた自分が膀胱がんを発症し労災申請をしている」と教えてくれた。

ようやく在職中に製造したOTによる膀胱がんの検査だということがわかり会社に連絡を取るも詳細は説明してくれず費用も自己負担せよとのことだった。

新日本理化は労安活動をしっかり進めている会社で化学一般傘下の労組もありトップレベルの活動をしている。退職者の発がんという問題に直面し当初対応が円滑にいかなかったものと推測。

同年 12 月に三星化学工業の労災申請者 7 名全員が労災認定され、会社から新日本理化退職者に尿検査を会社負担しますと連絡があった。化学一般や職業がんを無くす患者と家族の会は厚労省要請行動を重ね同年6 月に始まった「業務上外に関する検討委員会」での検討を早め早期に労災認定するよう求めてきたがそれが僅か6 ケ月で労災認定となりOTは特化則第2 類に指定されるなどの動きに繋がった。更にそれが全国にいるOTの取り扱い歴のある労働者・退職者の尿検査の徹底や費用が会社負担になったことに繋がっている。

17 年 1 月OB全員が加盟し「職業がんと闘うOTの会」が結成された。会は徳島労働局要請行動等を進めるが「貴方方は退職者で労安法及び諸規則の対象外である」と言われるなどした。労基署行動ではそのような立場を撤回させ労災申請を補強する資料として当時の職場の様子を詳細に記した報告書を会として提出している(報告書は当日資料参照)。
報告書には各工程の定常作業や品種変更時及び定期検査時の設備洗浄作業でのばく露の様子(経気・経皮吸収)が記載されている。

労組との懇談も実現し、会社との橋渡しをお願いしている。未だ労災申請したものの認定がおりず今後も要請行動等継続していく。

【報告の感想・質問など】

  1. 新日本理化のOTの会の報告はOBから声が上がり会を立ち上げたと聞いている。現在はOTは清算されていないが会社は過去について蓋をするのではなくきちんと解決して貰いたい。
  2. OBで職業がんとなった経験を聞きました。良い方向で解決できればと思います。退職後の情報開示が難しいことを知りました。
  3. かつて劣悪だった作業環境で働いた先輩である退職者も当然救済されるべきである。
  4. 企業の姿勢を正せるのは労働組合であることを実感しました。
  5. 退職してからも苦しめられていることが残念でなりません。
  6. 私が入社する以前の話なのでピンときにくい部分があるが、過去の従事者の方々の補償を進めると共に未来での職業がんを出さない取り組みも大切だと思いました。

【基調報告 3】 化学物質管理の実例紹介/堀谷昌彦 (化学一般ダイトーケミックス支部OB)

  1. 事前協議制度の紹介
    机上検討~実験~ベンチスケール~工業化検討~本生産に移行する各段階において実施される事前協議などについて説明をした。工業化検討からは厳密な事前協議(セーフティアセスメント)が実施され会社側メンバーに加え、労組2 名が委員に加わり全員が賛成しないと作業できない。
  2. 作業者への衛生管理
    ①薬品取り扱い経歴報告書: 本人が毎月使用した化学物質を記録し職長・衛生管理者が毎月確認する。退職時に入社以来の取り扱い履歴のコピーをもらえる。資料は入社半年間のものを示した。
    ②独自のSDS: 通常のSDSは文字が多く大変読みにくい。A4一枚の独自のSDSを作成している。化学式、CAS No.、法規制、物理特性、漏洩時の処置、保護具、有害性データ、許容濃度、衛生情報(めまい、吐き気など)、参照文献、消火方法、保管上の注意等が記載されている。1 枚なのですぐに欲しい情報がわかる。文献調査をしていないとバレル(?)ので事前協議を通らない。
  3. 健康追跡調査
    退職者の発がん追跡調査を説明。

【相談事案紹介】

海外勤務で特定芳香族アミンに接触し帰国後に膀胱がんを発症した事例:作業の様子を図で説明し臭気確認時に手や鼻が染料で染まるなどのばく露を受けたが会社がばく露を認めようとせず労基署が本人提出の証拠を採用せず会社主張のみをそのまま鵜呑みにしたケース。44 歳以下で膀胱がんに罹患するのは極めて稀であり本人は喫煙歴もなく染色検査工程に従事したのであるから職業を疑うのが当然である。

【会場発言】

住宅公団におけるアスベスト問題の報告、胆管がんの労災申請事案についての報告、化学工場における感作性物質の衛生対策報告、化学物質と労働者の健康研究会(5/26ナノマテリアル)の紹介、化学工場における不注意論と事故の多発問題、工場におけるスレート中のアスベストについての質疑などがありました。