職業がんをなくそう通信13/オルトトルイジンによる膀胱がん労災認定、新日本理化徳島退職者など

2018年8月31日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

新日本理化徳島工場退職者、膀胱がんの労災認定される

新日本理化徳島工場でオルトトルイジンの製造に従事した元労働者が 2016 年膀胱がんを発症し労災申請をしていましたが本年 8 月 21 日徳島労働基準監督署が労災認定をしました。

先月号でも触れましたが(基調報告4.)、労災申請してから 2 年以上も経過しており、どのような判断がされるのか注目していましたが、まずは一安心です。京都の胆管がん労災認定に続き嬉しいニュースです。

化学物質の製造に携わり膀胱がん 徳島の男性に労災認定

化学メーカー「新日本理化」(大阪市)の徳島工場(徳島市)の元従業員の男性(70)が、発がん性のある化学物質「オルト・トルイジン」の製造を担当し膀胱(ぼうこう)がんを発症したとして、徳島労働基準監督署に労災認定されたことが関係者への取材でわかった。

同工場の元従業員計18人らでつくる「職業がんとたたかうオルト―トルイジンの会」によると、男性は1992年から10年ほど製造現場で勤務。2016年に膀胱がんが見つかり摘出手術を受け、労災申請していた。同会代表委員の川上健司さん(77)は「同じ環境で働いていた他の会員がいつ発症してもおかしくない。今回の認定は非常に意義がある」と話した。

 オルト・トルイジンは染料や顔料などの原料に使われる。新日本理化によると、徳島工場では1970年代初めから製造。92年から2002年にかけては58人が作業に関わった可能性があるという。

 オルト・トルイジンを巡っては、別の企業の福井市にある工場で働いて膀胱がんを発症した男性7人に対して16年12月、福井労基署が労災認定している。

朝日新聞2018年8月23日

ぼうこうがん労災認定 新日本理化徳島工場の元労働者  小池議員が尽力

化学メーカー、新日本理化の徳島工場で発がん性物質「オルト-トルイジン」の製造作業を担当し、ぼうこうがんを発症した元労働者が労災申請していた問題で、徳島労働基準監督署は21日、元労働者の労災を認定しました。

元労働者は16年、ぼうこうがんを発症し、手術を受け、労災を申請。徳島工場で働いていた退職者らは17年1月、「職業がんとたたかうオルト-トルイジンの会」を結成し、労災の早期認定、健康障害防止対策などを求めていました。

オルト-トルイジンをめぐっては、日本共産党の小池晃参院議員が16年5月、厚生労働委員会で、三星化学の福井工場で働き、ぼうこうがんを発症した労働者の労災認定と、化学物質を扱う職場の実態調査の実施などを要求。厚労省は同年6月、検討会を設置し、同年12月に化学工場の労働者7人について、オルト-トルイジンを原因としたぼうこうがんを初めて労災認定しました。

新日本理化の問題では、小池氏が今年6月に演説会で徳島市を訪れた際、「会」のメンバーが支援を要請。小池氏は厚労省に対し、因果関係は明確だとして、速やかに労災認定をするよう求めていました。

厚労省によると、17年にオルト-トルイジンの特殊健康診断を受けたのは1000人超で、全国で同様のケースがあるとみられます。

「会」代表委員の川上健司さんは、「小池議員には、早期認定に支援いただき本当に感謝しています。会員は職場から何も知らされず、いつ発症するか不安な毎日です。認定を出発点に、職業がん根絶へ力を合わせたい」と語っています。

しんぶん赤旗電子版 2018年8月23日

この事案は三星化学工業で発生した膀胱がんの多発(2015 年 12 月厚労省がプレスリリース)に端を発しており、その後厚労省がオルトトルイジンの取り扱いがあった製造所の労働者に膀胱がん患者がいないかを調査した際当該工場の退職者に膀胱がんが発症しており労災申請に繋がりました。2016 年春、対象となる労働者(退職者を含む)に対し会社から尿検査の勧奨がありましたが(検査費用は会社負担)背景の説明がなく半年後 10 月の勧奨においては自費で行うよう連絡が書面で送られてきました。危機感をおぼえた OB のひとりが全退職者への訪問を行う中で 1名の方が膀胱がんを発症して労災申請していることをあかされようやく全貌が見えてきました。

同年 12 月三星化学工業で労災申請していた全員が労災認定され今後の尿検査費用については会社負担で行う旨の連絡が会社からありました(この間、職業がんと闘う患者と家族の会が6 月に結成され、化学一般労働組合連合は早期労災認定についての要請行動を 2回実施しています)。

年があけた2017年1月職業がんと闘うオルトトルイジンの会(以下「OT の会」)が結成され、かつての業務状況や労働環境を詳細に記した意見書をまとめていくことになります。管理職を含めた OT の会の意見書は当時の業務の細かな部分についても記載されました。

三星化学工業のようなバッチ作業ではない密閉された連続生産とは言えフランジ部やポンプ等のメンテナンスや正規ルートではない作業でのばく露が日常的にあったことが分かります。また、蒸留塔の清掃など汚れが酷い作業は課長などの管理職がやっていたことなども分かりました。

OT の会は結成後徳島労働局への要請行動を行いましたが「労安法や諸規則は現役労働者が対象であり、皆さんのような退職者は該当しない」と言われてしまいますが(なくそう通信 No.1)、冷たい言葉に負けずそこから先の意見書をまとめ上げたことは流石としか言いようがありません。その後この意見書はOT の会が作成したものとして正式な証拠資料として採用される運びとなりました。

こうして当時の様子が分かる資料を提出した後も何回となく労基署要請行動に取り組みますが進行状況がわからず申請後 2 年が経過。共産党の小池晃議員に支援を要請したところ小池氏が厚労省に因果関係は明確だとして速やかに労災認定するよう働きかけていただきました。厚労省からはばく露の程度(三星化学工業と比べて少ないのではないか)で検討に時間を要しているが近々判断を示すと説明があり関係者は注目をしていました。

まずは労災認定がされひと山越えましたことを皆さんと喜びたいと思います。会社の対応も現在は被災者視点になってきており、健全性を感じているところです。

MOCA 事案を厚労省に問う/職業がんの包括的予防施策を求める

本年 5 月日本産業衛生学会にてある事業場で 12 名の膀胱がんが発症しており、その多くが MOCA にばく露されている旨の報告がされていたことを前 12 号で触れました(熊谷信二先生より発言)。MOCA についてはオルトトルイジンに関する調査の中で新たに発覚した事案として 2016 年 9 月厚労省が公表していますが、その後の調査で発症者が増えていることや当該者が労災申請していないのではないか等の懸念や問題点が上がっています。

健康保険法
第一章 総則 (目的)
第一条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号 ) 第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。) 以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

健康保険法第一条に業務災害以外の疾病・負傷・死亡・出産に関して保険給付を行うと書かれており、「労災」を「健康保険」で補えば本来企業責任で発生した疾病・負傷・死亡の補償を健康保険の一般加入者にも負わせることになってしまいます。

本年 6 月 22 日静岡県評といのけんセンターが静岡労働局に対しこの事案の取り扱いについて質したところ当局からは会社に任せている旨の回答がありました。

そもそも日本においては職業がんによる死亡件数は年間数万件に及ぶと推定されますが(イギリスの統計データではがん死亡件数の 5%が職業関連がんであり、日本では2017 年で年間 37 万件を超えているので職業がん死亡は 2 万件程度に相当する)、職業がんの労災認定件数はアスベストを除けば年間 20 件程度に過ぎないのが実態です。数万件の職業がんが見過ごされている背景には職業がんが社会的に殆ど認知されていないという問題があります。

今年 4 月より第 13 次労働災害防止計画が発表され、計画の重点事項に化学物質等による健康障害防止対策の推進が掲げられ、その具体的取り組みの中に遅発性の健康障害の把握があげられています。

近年発生した胆管がん事案、膀胱がん事案等、遅発性の健康障害の事案を的確に把握できるようにするため、例えば、化学物質による職業性疾病を疑わせる事例を把握した場合に国に報告がなされる仕組みづくりや、独立行政法人労働者健康安全機構と連携し、国内の労働者のがん等の疾病と職業歴や作業方法、使用物質等の関係の情報を収集・蓄積して、その結果を活用する方策等を検討する。

「第 13 次労働災害防止計画」p21

この事案は職業がんの多発を既に国が把握しているのですから、業務上外検討委員会を立ち上げ、がん多発の原因究明と予防に関する施策を講じる必要があります。

関西労働者安全センターと熊谷先生の呼びかけで全国労働安全衛生センター連絡会議・いのけん全国センター・患者と家族の会が立憲民主党阿部知子衆院議員を紹介議員として9月28日厚労省要請を実施します。

東京労働局不当決定/海外勤務で特定芳香族アミンにばく露し帰国後膀胱がんを発症した事案の審査請求

なくそう通信 2 号で紹介した海外勤務中に CI 酸性染料(強い発がん性を有するベンジジンを含む)にばく露し帰国後 42 歳という若さで膀胱がんを発症した労働者の労災申請が不支給決定され東京労働局に対し審査請求をしていましたが、8 月 14 日棄却決定がされました。不支給決定から更に後退した酷い内容です。来月詳細にご報告したいと思います。