技能実習生が除染労働 ベトナム人Aさんの事例から発覚/岩手・福島

「建設機械・解体・土木」で「除染」

技能実習生が除染労働など被ばく労働に従事させられていた事実が明らかになり、大きな社会問題となっている。
Aさん(ベトナム人男性、24歳)は、2015年9月に技能実習生として来日し、岩手県盛岡市に本部のある監理団体から1か月間の講習を受けた後、10月から盛岡市の建設会社に麗用され、技能実習在開始した。

Aさんが最初に従事したのは、福島県郡山市の市街地の除染作業だった。来日前、ベトナムで雇用契約書を締結した際には、除染作業のことは間かされておらずAさんの雇用契約書では、実習職種は「建設機械・解体・土木」とされ、除染作業であるとの記載はなかった。Aさんは、福島原子力発電所の事故のことは報道で知っていたが、自分が従事している作業が危険なものとの認識はなかった。会社からも、放射能の危険や被ばく労働の際の安全確保など、についての説明はなされなかった。

2015年10月から2016年3月までの半年間、Aさんは郡山市内での除染作業に従事した。除染作業は二次下請としての仕事で、現場の放射線測定と管理は元請けが行い、Aさんの会社では線量記録などは保管されていなかった。

避難地域での被ばく労働も

Aさんは郡山市での除染作業の後、岩手県、山形県内などで解体工事を行い、2016年9月から12月まで、福島県川俣町で被災建物の解体工事(国直轄の復興事業)に従事した。当時、現場は避難指示区域内に所在し、作業には外部被ばく線量の記録と放射線管理手帳の交付が義務づけられていた。また、作業者に環境省から特別作業手当が1日あたり6,600円支給されていたが、Aさんには2,000円が手渡されただけだった。

思いがけず手当を支給されたAさんは、現場責任者に質問したが、その際、次のようなやりとりがあった。
「これは何のお金ですか?」
「危険手当だよ」
「危険な仕事をしているのですか?なにが危険なんですか?」
「いやなら国へ帰るしかないだろ」

Aさんは被ばく労働を続けることの危険を強く感じたが、会社が取り合ってくれないため、2017年11月、会社の寮を脱出し、支援者に助けを求め、その後、全統一労働組合に相談した。全統一は会社と監理団体に組合加入を通知し、除染作業に関して事実関係を明らかにすることを求め、団体交渉を申し入れた。2018年2月、郡山市で会社との団体交渉が行われた。団体交渉には会社代表が出席、一方、監理団体は直前になって出席をキャンセルした。

会社は、団体交渉の場で、「除染作業が危険なものとは認識していない」、「他の会社も技能実習生に行わせている」などと発言し、「問題はない」との態度に終始した。団体交渉では、会社が除染電離則に定められた特別教育を実施していなかったこと、外部被爆測定記録を保管しなかったこと、健康診断書を本人に渡さなかったこと、川俣町での固による直轄工事の際、作業員に支給される危険手当(6,600円)を2,000円しか支給しなかったこと、川俣町での工事の際に発行された放射線管理手帳を本人に渡さなかったことなどの法違反が明らかとなった。

緊急報告会を開催

2018年3月6目、日本経済新聞は事件を大きく報じた。同日、全統一、移住連(移住者と連帯する全国ネットワーク)などは法務省、厚労省、環境省、外国人技能実習機構など、技能実習制度を所轄する中央省庁との交渉で、事件について厳しく追及した。
さらに3月14日、全統一、移住連、外国人技能実習生権利ネットワークは衆議院議員会館で緊急報告会・記者会見を開催した。報告会には野党各党から国会議員が出席、記者会見には内外のマスコミも多数出席し、Aさんの証言はテレビや新聞各紙が報じることになった。

一方、緊急報告会の当日、法務省入国管理局入国在留課、厚労省海外人材育成担当人事官室、外国人技能実習機構は連名で「技能実習制度における除染等業務について」を公表、「除染業務等は、一般的に海外で行われる業務ではない」、「放射線被ばくへの対策が必要な環境は、技能習得のための実習に専念できる環境とは言い難い」として、技能実習の趣旨にはそぐわない、実習計画認定の際に除染業務等に従事させない旨の誓約書を提出させると通知した。3月16日には、政府が技能実習生の除染業務禁止を閣議決定した。

技能実習制度に対する、異例と思えるスピードでの政府の対応は、問題が国際化し、制度に対する海外からの批判が高まることを恐れたからであろう。日経の記事は、翌日にはベトナム国内で各紙が報道し、当然にも不安が高まっていた。ベトナム政府は大使館に情報収集を指示した。

さらなる発覚 実態解明を

事件には、ピンハネや特別教育を行わなかったことなど、数々の法違反が含まれているが、たとえ法を順守したとしても、被ばく労働は許されるものではない。行政も認めざるをえなかったように、被ばく労働は先進技術の途上国への移転、国際貢献との建前から完全に逸脱しているからである。
Aさんの事件をきっかけに、郡山市の建設会社で働いていたベトナム人実習生3人が除染作業に従事させられていたことが明らかになり、さらに5月には、東京電力福島第一原発の敷地内で技能実習生6人が働いていた事実も発覚した。技能実習生の被ばく労働についての実態解明は、まだ十分とは言えない。
Aさんは今後、被ばくによる健康不安と向き合わなければならない。いったい誰が、この責任を負うのであろうか。除染作業は、今後も長期間にわたって必要な労働である。しかし、その作業は、適切な労働基準と十分な安全対策によってなされるべきであり、技能実習制度を悪用し、低賃金によって強制するようなことはあってはならない。

全統一労働組合 佐々木史朗(Mネット No.198/2018.6)

お問合せは、東京労働安全衛生センターまで

安全センター情報2018年10月号