「厳しい予算」に安全後回し・・・三年間に伐採現場だけで22人死亡/韓国の労災・安全衛生2025年8月22日

ゲッティイメージバンク

 20年目の伐木工のコ・某さん(51)は五年前に同僚を失った。故人は慶北地域のある伐採現場で会い、焼酎一杯をやりながら親しくなった『兄貴』だった。別の木に引っ掛かっていた別の作業者が「切り倒した木」(伐倒木)が強風に煽られ、突然倒れて『兄貴』を襲ったと言った。コさんも倒れる木にぶつかったことがある。彼は「運が良くて助かった」と話した。

  2022年1月の重大災害処罰法施行以後、三月までの三年間にわたって、伐採現場で木にぶつかったり下敷きになっただけで16人が亡くなった。 単一原因としては、公共部門の重大災害事件で、死亡者が最も多いタイプだ。彼らを含め伐採現場で、死亡した労働者は22人(重大災害処罰法の適用対象である六人以上の事業場)だ。

  政府が手を拱いていたわけではない。雇用労働部は2021年、産業安全保健規則を改正し、受け口の角度(伐採時に木が倒れる角度)と深さまで規定した。また、伐採する木の長さの2倍ほどの直線距離では、他の作業を禁止した。しかし、目立つ程の効果はなかった。山林庁の資料によれば、2015~2019年に年平均15件(1人以上事業場基準)だった死亡事故は、最近5年(2020~2024年)は14.4件と若干減っただけだ。今年に入って6月末までに発生した死亡事故は5件だ。

  労働部担当者はハンギョレに「伐採死亡事故は通常冬季に集中発生する。このことを念頭に置くと、今年上半期だけで5件の事故が発生したのは非常に多い」とし、「何かに巻き込まれたようだ」と打ち明けた。

  伐採死亡事故が多い理由は何だろうか。現場経験が豊富な地域のある山林組合の課長の言葉だ。「マニュアルでは、作業者は木の高さの2倍ほど離れていなければならないとなっています。しかし、現場でこのマニュアルを守ることは容易ではありません。管理者が作業者毎にくっついて、マニュアルを遵守させることも難しいですね。チェンソーの音が大きすぎて(木から離れろという)声が聞こえない作業者も少なくないです。」

  死亡事故が頻発する理由を、作業環境の特殊性だけから見つけ出すことはできない。伐採業者の代表らは、余りにも少ない事業費を事故原因に挙げる。ある国有林営林団の指定業者の代表は「信号手を別に置くことが難しい程、山林庁と地方自治体が事業費を組んで策定することが多い。」「収支計算を合わせなければならない業者の立場からは、作業を急ぐことになる」と話した。人件費などを減らすために、無理に工期を操り上げるために事故が起きるという意味だ。伐採を意味する山林庁の「森造り」事業の入札は、一般の公共事業の入札と同じように『総合審査落札制』が適用されている。事前に定めた下限線以上を入札価格に書き出した業者の中から、最も低い入札価格を書いたところを落札者とする制度だ。過去の『最低価格落札制』と同じように、落札を分ける核心変数は、依然として『価格』だ。もちろん『安全保健管理力量』も問題にするが、遵守誓約書の提出程度に代える。

ハンギョレグラフィック

  韓国電力公社や韓国鉄道公社(KORAIL)の事業場で発生する重大災害事故でも、安全より費用節減を優先する慣行が事故原因として挙げられる。建設労組のオム・インス電気分科委員長は「活線作業(電気が流れる状態で行われる作業)に必要な必須技能人員が少なくとも5人なら、業者ではこの内2~3人は(人件費が安い)書類上の基準だけを充足する未熟練作業者を使う。」「だから、現場では常に人手が不足し、時間に追われて作業する」と話した。「気が急いて、絶縁ゴム手袋を外して作業して事故が発生したりもするが、これを作業者の不注意というだけで責め立てることができない理由」と付け加えた。韓電の関係者は、「安全予算を毎年拡大し、未熟練人材の現場投入を制度的に防いでいる。事故の多くの原因は、現場の安全規則を遵守していない」と話した。

  KORAIL事業場の死亡事故は、多くは列車運行中の作業で発生する。いずれも列車を止めた状態で作業をしていれば、失わなくてもいい命だという意味だ。これまでKORAILは費用削減と鉄道利用顧客の便宜を強調し、列車運行中に作業を強行してきた。鉄道労組の政策室長は「常例作業(駅長の承認を前提に列車運行中に行う作業)は、すべて列車を止めて行う遮断作業に変えなければならない」と話した。

2025年8月22日 ハンギョレ新聞 ナム・ジヒョン記者

https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/1214576.html