豪雨でも配送しろという国、宅配運転手には作業中止権がない/韓国の労災・安全衛生2024年07月11日

豪雨に見舞われた10日、大邱市が琴湖江の氾濫で浸水して孤立した中、村の住民たちが荷物をまとめて冠水した道路を避難している/聯合ニュース

「雨があまりに激しく、配送できそうにない」

9日午前5時12分頃、慶山市で行方不明になった40代女性のAさんは、事故前に同僚に残したこの言葉を最後に行方が分からなくなった。警察ではAさんが急流に巻き込まれて行方不明になったと見ている。降り続く豪雨で配送労働者の安全が脅かされる中で、気象悪化時には労働者の判断によって業務を中止できる「作業中止権」が保障されるべきだという指摘が出ている。

作業中止権は産業安全保健法上保障される権利であり、労働者は労働災害が発生する急迫した危険がある場合、作業を中止し、待避することができる。しかし、宅配運転手など配送労働者の場合、大部分が事業主の業務指示を受けているにも拘わらず、特殊雇用形態で契約しているので、産業安全保健法の適用対象から除外されてきた。

宅配業者は豪雨時の作業中止を別途規定していない

10日の豪雨で、全羅北道群山市のあるマンションの裏で山崩れが発生し、流された土砂と樹木に覆われている/聯合ニュース

しかし、気象状況の影響を強く受ける業務の特性上、配送業務中に危険な状況はしばしば発生する。2011年7月にも豪雨の中で配送業務をしていた郵便配達員が死亡し、2016年6月にも同じような死亡事故が起きた。事故が続くと郵便局は、2018年に「郵便物利用制限および郵便業務一時停止に関する告示」を制定し、危険度によって総括郵便局長が集配業務を停止できるようにした。

一方、民間の領域である宅配や配達労働者には、依然として作業を中断できる規定がない。宅配運転手たちは団体協約によって作業中止権を明文化すべきだと主張してきたが、韓進宅配、CJ大韓通運など、大部分の宅配企業は、依然として豪雨時の作業中止に関して別途の規定がまったくなかったり、あっても暗黙的な内部指針程度に止まるレベルだ。

気象悪化時は物流量そのものを減らさなければならない

宅配運転手として働くキム・ジンイルさん(49)は、「大雪が降ろうが、台風が来ようが、冷凍ものや生モノは無条件に当日配送しなければならないので、結局いくら危険でも(配送に)出ざるを得ない」と話した。冷凍ものを当日配送できずに中身が傷んだ場合、宅配運転手が自費で損害を賠償しなければならない。

根本的な問題解決のためには、気象悪化時の物流量そのものを減らすべきだという主張もある。宅配業者が「(気象悪化が激しい場合)必ず当日配送しなくとも良い」と案内しても、物流量が減らない以上、今日先送りすれば明日の配達量が増えるためだ。キム・ジンイルさんは「結局、物流量が同じであれば、どうしても負担になるのは同じだ。」「昨冬、大雪が降った時に同僚の一人は無理して配達していて、結局、滑落事故に遭った」と付け加えた。

9日午後、慶山市で、消防救助隊が大雨で行方不明になった女性を捜索している/聯合ニュース

韓国最大のオンライン小売企業「クパン」の配送専門子会社(クパンCLS)所属の配送運転手たちもやはり、「豪雨や大雪、台風が来た時は、ロケット配送の物量に制限を設け、配達量を減らすべきだ」と声を上げている。現在、クパンは気象悪化時にもロケット配送で受け付けられる物量を減らしていない。全国宅配労働組合クパン本部準備委員長のカン・ミンウク氏は「クパンの子会社であるCLSは、決められた配送量を時間内に終えられなければ、運転手に割り当てられた区域を回収して、事実上解雇する構造だ」とし、「結局、なんとしても時間内に配送しようと思うので、事故に遭う危険がより大きい」と話した。

2024年7月11日 ハンギョレ新聞 コ・ギョンジュ記者、チョ・スンウ教育研修生

https://japan.hani.co.kr/arti/politics/50566.html