化粧品タルクの健康影響に関する最新論文:JOEM & JAMA, 2019.11~2020.1
目次
化粧品タルクの使用に関連した中皮腫
Moline, ,Jacqueline; Bevilacqua, Kristin; Alexandri, Maya JD; Gordon, Ronald E.
Journal of Occupational and Environmental Medicine: January 2020, Vol.62, Issue 1, p11–17
抄録
目的:化粧品タルクパウダー以外に既知のアスベスト曝露をもたない者における33件の悪性中皮腫症例を説明すること。
方法:症例は法的-医学的評価に紹介され、いくつかの症例では組織消化も行われた。説明された6症例の組織消化は標準的手法にしたがってなされた。
結果:タルクパウダーで検出された種類のアスベストが評価された6症例すべてで検出された。タルクパウダーの使用は33症例すべてについて唯一のアスベスト源だった。
結論:アスベストに汚染されたタルクパウダーへの曝露は中皮腫を引き起こし得る。臨床医は中皮腫を呈する患者すべてでタルクパウダー使用歴を引き出すべきである。
この論文に対しては、Geyer, Stanleyが「証拠は悪性中皮腫の原因として化粧品タルクへの曝露を支持していない」というタイトルの反論で、「(著者らは)疫学的証拠を提供またはその主張を支持する疫学的手法を適用していない」と主張した。
著者らは、アスベスト検査の「標準的方法」や対照群の未設定等について反論した後、次のように言っている。「論文ではっきり言っているようにわれわれの目的は、臨床医に中皮腫を引き起こし得るアスベスト曝露の潜在的源について警告し、包括的な曝露歴を取ることの重要性を強調することだった。化粧品タルクへの曝露しかない悪性中皮腫が33症例という知見は重要である。他に知られるアスベスト源がないことの確認とこの曝露情報に基づき、われわれはこの症例シリーズは、アスベストに汚染された化粧品タルクへの曝露を中皮腫の原因とみなすべき証拠を提供していると考える。化粧品タルク使用者のさらなる研究がなされるべきである。」
化粧品タルクパウダー中のアスベスト及び繊維状タルクへの曝露によって生じた漿液性卵巣がん-症例シリーズ
Steffen Joan; Tran Triet; Yimam Muna; Clancy Kate; Bird Tess; Rigler Mark; Longo William; Egilman David
Journal of Occupational and Environmental Medicine: December 20, 2019 – Volume Publish Ahead of Print – Issue –
抄録
目的:アスベストは既知の卵巣がんの原因である。われわれはジョンソン&ジョンソンのアスベスト含有「化粧品」タルク製品使用者における卵巣がんの10症例のシリーズを報告する。
方法:われわれはタルク使用中のアスベスト曝露評価を行うとともに、アスベスト及びタルクについて手術組織とタルク容器を分析した。
結果:タルクは全症例で検出され、トレモライト及び/またはアンソフィライト・アスベストが8/10症例で検出された。「化粧品」タルク容器内で検出されたアスベスト繊維は組織中に検出されたものと合致した。われわれは吸入されたアスベスト量を0.38から5.18繊維年と推計した。
結論:われわれは「化粧品」タルク使用によるアスベスト/繊維状タルクの吸入量が卵巣がんを引き起こす証拠を提供している。がん組織及び「化粧品」タルクで検出されたアスベスト様鉱物の種類のユニークな組み合わせは、アスベスト含有タルクへの曝露の指紋である。
バーモントのタルク鉱夫・精製者の拡張されたコホートにおける死亡率パターンに関する37年後のアップデート
Fordyce, Tiffani A.; Leonhard, Megan J.; Mowat, Fionna S.; Moolgavkar, Suresh H.
Journal of Occupational and Environmental Medicine: November 2019, Vol.61, Issue 11, p916–923
抄録
目的:本研究の目的は37年間の追加フォローアップ期間を含めるようバーモントのタルク鉱夫コホートをアップデートすることである。
方法:70+の死亡原因について標準化死亡比(SMR)及び95%信頼区間(CIs)が計算された。対照としてアメリカの人口死亡率が用いられた。
結果:全原因死亡率はアメリカ人口よりも30%高かった(SMR 133.4、95%CI 119.7-148.3)。非悪性呼吸器疾患(NMRD)(SMR 273.0、95%CI 210.2-348.6)及びその他の非悪性呼吸器疾患(ONMRD)(SMR 413.1、95%CI 287.7-574.5)で著しい上昇が生じた。ONMRDはすべての雇用期間カテゴリーにおいて上昇し、線型トレンド検定は有意だった(P=0.007)。
結論:本研究はバーモントのタルク鉱夫における過剰死亡が大きくNMRDによる過剰死亡によるものであるというさらなる証拠を示している。呼吸器がんのリスク増加の証拠はない。
Egilman, Davidらはこの論文に示された中皮腫症例データについて計算し直して以下のように言っている。「Fordyceらはそのコホートにおいて2例の中皮腫症例がみつかったことを報告した。1例は彼らの研究によって報告され、もう1例は以前発表されたが彼らの研究ではみつからなかった。…中略…われわれは全国曝露・非曝露率に基づいてこれらの見つけた症例の統計分析を実施したが、その結果はタルク鉱石曝露は中皮腫のリスクを増大しないという彼らの主張と矛盾した。本研究は、アスベスト及び繊維状タルクを含有するタルク鉱石への曝露が中皮腫に罹患するリスクを増大するという証拠を提供している。」
生殖器部へのパウダー使用の卵巣がんリスクとの関連
Katie M O’Brien; Shelley S Tworoger; Holly R Harris; et al
JAMA. 2020;323(1):49-59.: January 7, 2020
抄録
重要性:生殖器部へのパウダー使用と卵巣がんの関連は確立されていない。症例対照研究で報告されたポジティブな関係はコホート研究では確認されていない。
目的:前向き[プロスペクティブ]観察データを用いて生殖器部へのパウダー使用と卵巣がんの関連を推定する。
設計、設定及び参加者:データは4つの大規模なアメリカ・ベースのコホート-看護士健康調査(登録1976年、フォローアップ1982-2016年、n=81,869)、看護士健康調査(登録1989年、フォローアップ2013-2017年、n=61,261)、シスター調査(登録2003-2009年、フォローアップ2003-2017年、n=40,647)及び女性健康イニシアティブ観察調査(登録1993-1998年、フォローアップ1993-2017年、n=73,267)-からプールされた。
曝露:生殖器部へのパウダー使用 かつてあり、長期間(≧20年)及び頻回(≧週1回)
主な評価項目・尺度:一次分析では生殖器部へのパウダー使用と自己報告された卵巣がん事例の関係を検討した。コックス比例ハザードモデルを用いて共変量調整ハザード比(HRs)及び95%信頼区間(CIs)が推計された。
結果:プールされたサンプルには252,745人の女性(ベースラインにおける年齢の中央値57歳)を含み、38%が生殖器部へのパウダー使用を自己報告した。10%が長期間使用を報告し、22%が頻回使用を報告した。中央値11.2年のフォローアップ期間(リスクにさらされた380万人-年)中に2,168人の女性が卵巣がんを発症した(58例/10万人-年)。卵巣がんの発生は、かつて使用ありの者において61例/10万人-年及び使用したことのない者において55例/10万人-年であった(70歳における推計リスク差0.09%[95%CI -0.02%から0.19%])。頻回使用対使用したことなしについてのHRは1.09(95%CI 0.97から1.23)、長期間使用対使用したことなしについてHRは1.01(95%CI 0.82から1.25)であった。10の変数についてサブグループ分析が行われ、均質性の検検討はこうした比較のいずれについても統計的に有意ではなかった。無傷の生殖器官をもつ女性における生殖器部へのパウダー使用かつてありと卵巣がんリスクとの関連についてのHRは1.13(95%CI 1.01から1.26)で、無傷の生殖器官あり女性対なし女性を比較した相互作用についてのP値は.15だった。
結論と関連性:今回の4つのアメリカのコホートのプールド・データの分析では、生殖器部へのパウダー使用と卵巣がんとの間に統計的に有意な関連はなかった。しかし、本研究はリスクの小さな増加を確認するには力不足だったかもしれない。
※https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2758452
メディアは「同社のアスベストは安全で、アスベストを含有せず、がんも引き起こさない」とするジョンソン&ジョンソンのコメント等を報じているが、この論文は、使用されたタルクのアスベスト含有の有無やタルク含有アスベストと卵巣がんとの関連を検討したものでもない。また、筆者がコメントしているように、「われわれは呼吸吸入による曝露を推計しようとはしなかった。われわれが扱わなければならなかった情報を踏まえれば、それは著しく困難だろう」。
生殖器部へのパウダー使用と卵巣がんリスク:証拠の検討
Katie M O’Brien; Shelley S Tworoger; Holly R Harris; et al
JAMA. 2020;323(1):29-31.: January 7, 2020
抄録
女性は何十年間も臭気や水分を吸収する生殖器部衛生のためにパウダーを使用してきたが、過去50年の間に減少してきた。いくらかの女性にとっては日常的な慣行であり続けている。よく使われる製品には主にタルク、コーンスターチ、または両方の組み合わせがある。女性はパウダーを直接会陰部に、または衛生ナプキン、タンポン、ペッサリーや下着の上から使うかもしれない。生殖器衛生のためのタルク含有パウダーの使用と上皮性卵巣がんリスクの関連に関する研究は今日まで矛盾した結果を示しており、進行中の論争につながっている。1971年以来、ピアレビューされた論文はタルク使用と卵巣がん発症との間の関連の可能性を証明してきた。しかし、過去50年間を対象としたPubMed検索の結果は、17の一次または二次研究と、レビュー、コメンタリー、メタアナリシスや投稿意見である36の他の論文しか確認できなかった。要するに、いくらかの研究が報告されたきた一方で、出版されたものの大部分は意見や討論記事だということである。
※https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2758434?resultClick=1
安全センター情報2020年4月
(翻訳:全国安全センター)