アスベスト混入タルク問題・ベビーパウダー問題の原点1987年そして1975年 その1

原点報道(1987年)をたずねる

さきに掲載した下の記事の中で、1987年、アスベスト含有タルクを使ったアスベスト含有ベビーパウダー問題が大きく報じられたと触れた。

その意味で日本におけるアスベスト混入ベビーパウダー問題の原点がこの1987年だということができる。
ただし、当時の報道や環境庁(当時)が作成した報告書をみると、そのはじまりは、実はその12年前の1975年にさかのぼることができる。

1975年に政府機関の研究者が、当時、販売されていたベビーパウダーを分析し、アスベスト混入を突き止めていたのだ。その事情は、1987年の報道記事にも触れられている。

日本におけるタルク・ベビーパウダー問題の原点1987年を、いくつかの報道記事を紹介することで振り返り、さらに1975年へと、回を分けてさかのぼっておきたい。

化粧品ボディパウダーにも疑惑/日消連(日本消費者連盟)12月の公開質問状にメーカー6社まだ回答なし/“アスベスト混入”の恐れ/死者続出の発がん鉱物
1987年2月1日第307号 ニッポン消費者新聞

アメリカでは年間1万人前後がガンにかかり二千人以上が死亡しているといわれる恐怖の発がん性鉱物、アスベスト(石綿)は、家庭用品、健在など主な利用製品だけで三千種類にものぼるといわれており、大きな社会問題になっているが、乳児用の天花粉剤(ベビーパウダー=医薬部外品)の原料であるタルク鉱石に混入している疑いが強まっている。
事態を重視した日本消費者連盟(竹内直一代表委員)は、ベビーパウダー・メーカー六社に対し、昨年12月16日付で公開質問状を突き付けたが、ナシのツブテであるところから、ますます不審感を強めている。同連盟事務局では、もっか、メーカー六社に対し催促しており、回答が出そろったところで然るべき運動を展開していくという。同連盟では、規制の第一歩として、アスベスト使用製品のすべてに表示を義務付けるよう求めている。

天花粉は、もともと日本の特産であるキカラスウリ(黄烏瓜)の根から採出した白色の澱粉で、汗も防止用や化粧用、鎮咳の漢方薬用として使われてきた。
が、他の植物原料のご多分にもれず、原料不足とあって、現在ベビーパウダーの主原料はタルク(滑石)。タルク石は、外観が白色または淡緑色の鉱物で、石灰岩やマグネサイトとともに産出されることが多い。
主な産出国は、韓国や、中国、オーストラリアなどで、日本では、北海道・松前や、茨城・日立などで産出している・
天然の鉱物はたとえば、必ず他の鉱物と共存する形で存在しており、タルク石の場合もタルク石だけの鉱脈というものは存在しない。

大手ベビーパウダー・メーカーなどの場合、産出現地へ出向き鉱脈までチェックしているそうだが、タルク石鉱脈にアスベストが混在している可能性が大いにあるということである。
ベビーパウダー中に含まれるアスベストの問題が、日本で初めて指摘されたのは、八年前にさかのぼる。
当時、労働省の研究機関、産業医学総合研究所(所在地・川崎市多摩区)が、ベビーパウダーに含まれる微量アスベストの調査を行いデータをまとめたのだが、長い間日の目をみず、昨年春に公表された。
この調査では、大手以外の中小ベビーパウダーメーカー数社の製品の中に、微量のアスベストが混入していたそうで、厚生省は当時問題の数社に対し改善指導を行った。昨年春に、産医研のデータが公表されたところから、厚生省は再びこの数社に対する調査を行ったところ、「どの製品にも含まれていなかった」(薬事局審査第一課)という。
八年前に関係者の間で極秘裡に問題になった数社の製品は、鉱山産出の段階でアスベストが混在もしくは混入したものと推測されている。
天花粉には、医薬部外品扱いのベビーパウダーと、化粧品扱いのボディパウダーの二通りある。医薬部外品の場合は、汗もやおしめただれなどを防ぐ目的で少量の殺菌剤が使われているが、その他は、二つの製品にはそれほどの違いはないという。

日本消費者連盟が当面問題にしているのは医薬部外品のベビーパウダーのほうで、昨年暮れに次の三点について大手メーカー六社に公開質問状を発送した。

  • ベビーパウダーなどの天花粉剤の製造原料のタルクを、どこから購入しているか、その国名と鉱山名を教えてほしい。
  • 天花粉に含まれているアスベストの分析を行っているかどうか、もし行っている場合は、その結果を知らせてほしい。
  • もしアスベストが混入しているならば、その健康への影響についてどう考えているか、また、アスベストの混入を防ぐために何らかの措置を検討しているかどうか。

質問状を突き付けられた六社は、一ヶ月以上たっても未だに文書による回答を行っておらず同連盟では「非常に不誠実な企業対応だ。一番の問題は、危険なアスベストという物質が赤ちゃん用商品の中に含まれているということであり、それを知らないで使用している母親が多いということだ。メーカーに催促の電話をしているところであり、回答がそろった段階で具体的に行動を起こしたい」(事務局・野田克巳氏)と話している。

公開質問状の発送先は、和光堂、ジョンソン・エンド・ジョンソン、花王、資生堂、カネボウ、ピジョン
そのうち「シッカロール」の商品名で昔から知られている和光堂では「当社の場合、主原料はタルクと、トウモロコシ澱粉。アスベストはいっさい使っていない」(お客様相談室)としている。
また、ピジョンの場合も「きちんと管理しているので、アスベストは製品に入っていない」とお客様相談室の弁。
ともあれ、文書による正式な回答がないとあっては、同連盟VSメーカー六社の間で、ひと波乱もち上がりそうだ。

アスベストは直径0.01~0.03ミクロンほどの繊維状の鉱物で、熱や酸、アルカリに強く、電気絶縁性もあるため工業製品に広く使用されている。
日本では、石綿加工の工場では、全国で約60万人の作業員が働いており、毎年2千人が労災認定を受け、そのうち1千人ほどが死亡している。「じん肺訴訟」が各地の地裁や高裁で31件も起きており、昨年6月には長野で初の判決が出た。
労働省や環境庁の対応の遅れと鈍さが関係者の間で指摘されているが、同判決は企業責任は認めたものの、国の責任は退けたため、大きな問題を残した。
石綿はいったん吸い込むと肺の奥にたまって組織をおかし、アスベスト肺の他に、肺がんや悪性中皮腫を発生させる。治療法はない。

以上が「1987年2月1日第307号 ニッポン消費者新聞」の記事だ。
※記事中には一部誤認もあるようなので、それは指摘しておきたい。
「「じん肺訴訟」が各地の地裁や高裁で31件も起きており、昨年6月には長野で初の判決が出た。」のところは、当時の係争中のじん肺裁判の中で石綿じん肺(アスベスト肺)を主体にしたのは「長野じん肺訴訟」が初めて、加えて、国の責任を問うたじん肺裁判は長野じん肺訴訟が初めてだった。結果は、国に対しては敗訴した。被告2社とは判決後7月に和解が成立している。「初の判決」の「初」とはそういう意味で「初」だった。

日本消費者連盟のこの公開質問状のあと、メーカーが文書回答をしない状況のなか、1987年7月、上記記事が引用しているベビーパウダー分析をした研究者が、医学週刊誌「医学のあゆみ」7月4日号に論文を発表し、大手新聞がこぞって報道するに至った。

つづく→「アスベスト混入タルク問題・ベビーパウダー問題の原点1987年そして1975年 その2」