アスベスト混入タルク問題・ベビーパウダー問題の原点1987年そして1975年 その2

日本消費者連盟公開質問状へのメーカーの対応

日本消費者連盟(竹内直一代表委員・当時)は1986年12月16日付でベビーパウダー・メーカー6社(和光堂、ジョンソン・エンド・ジョンソン、花王、資生堂、カネボウ、ピジョン)に公開質問状を出したことを前回紹介した。

まず、質問状への各社の対応状況である。

ベビーパウダー/アスベスト混入認める!?/回答しないメーカー
1987年6月27日第651号 消費者レポート

「ベビーパウダーにアスベスト?!ー無責任!メーカー、回答せず」というリポート記事(八七年4月27日号)をご記憶でしょう。三度目の督促にもメーカーは依然として一言も答えないという状態がつづいています。
日消連は、3月19日付の二度目の質問状の返事を根気強く待ちましたが、和光堂以外は何の返事もありません。
その和光堂の文書も「いずれご返事を差上げたいと考えております」といった程度です。

他社は電話の督促に対してー
ジョンソン・アンド・ジョンソン 厚生省からは何の指示も指導もない。おたずねの点は検討中。これ以外言えない。
ピジョン 担当者が不在なのであとで電話させる(その後音沙汰なし)。
資生堂 あとで担当者が電話する(その後なし)。
カネボウ (電話を早く済まそうという逃げ腰で)検討中。返事をするかしないかも検討中。
花王 化粧品工業会で相談して答える。

いずれも世間に名の知れた企業ですが、その後もダンマリをきめこんでいます。
「入っている」とも「入っていない」とも答えないのですから、察するところ、入っているという事実を知っているため、答えに窮しているのでしょうか。
こうして時間かせぎをしておいて、厚生省にかばってもらってお茶を濁そうというつもりなんだろうか、とかんぐりたくもなります。
こうしている問にも、全国の赤ちゃんには、ベビーパウダーが使われているのですから・・・。

以上が消費者レポートが伝えた、当時の各社の対応状況だ。ぜんぜん不真面目な対応に終始している。この間、各社や業界は何をしていたのか?以下の報道で見えてきた。

1986年5月に分析した結果に関する報道が1987年7月3日に

そして、1987年7月2日夕刊で各社が一斉で「二人の研究者が1986年5月に市販されていたメーカー11社の19製品をX線回折装置で分析したら、5社5製品から4%から0.4%のクリソタイルを検出した。これの内容の論文が同日発売の医学週刊誌「医学のあゆみ」に掲載された(あるいは、掲載論文で明らかになった)」と報じた。
記事は詳細で、事前に情報提供ないしはレクが行われたとみられるものだ。各社横並びの一斉報道で柱の内容もほぼ同じ、1986年5月の分析結果から、1987年7月までの行政や業界の動きも含まれている。

「二人の研究者」は労働省と大阪府の公務員であり、結果を受けた担当の役所や業界がこの情報によって対応を取った上での、解禁付きの記者レクまたは情報提供が行われたとみてとれる。「二人の研究者」は事前に上司への報告ないし了解もした可能性が高い。半分、出来レース的な一斉報道ということだったようにもみえるが、なぜ、「夕刊」での一斉報道になったのかまではわからない。
分析から公表まで14ヶ月かかったている。この間、関係者は様々に「準備」をしたのだろう。

「二人の研究者」とは、神山宣彦氏(労働省産業医学研究所)と森永謙二氏(大阪府立成人病センター)である。その後、現在まで、石綿問題専門家として行政サイドのブレーンとして様々な場面、役職に登場してくることになる。

ところで、前回引用した1987年2月1日付ニッポン消費者新聞の記事には、次のくだりがあった。

ベビーパウダー中に含まれるアスベストの問題が、日本で初めて指摘されたのは、八年前にさかのぼる。
当時、労働省の研究機関、産業医学総合研究所(所在地・川崎市多摩区)が、ベビーパウダーに含まれる微量アスベストの調査を行いデータをまとめたのだが、長い間日の目をみず、昨年春に公表された。
この調査では、大手以外の中小ベビーパウダーメーカー数社の製品の中に、微量のアスベストが混入していたそうで、厚生省は当時問題の数社に対し改善指導を行った。昨年春に、産医研のデータが公表されたところから、厚生省は再びこの数社に対する調査を行ったところ、「どの製品にも含まれていなかった」(薬事局審査第一課)という。
八年前に関係者の間で極秘裡に問題になった数社の製品は、鉱山産出の段階でアスベストが混在もしくは混入したものと推測されている。

1987年2月1日第307号 ニッポン消費者新聞

「8年前」に調査がおこなわれ、「長い間日の目を見ず」「8年前に極秘裡に問題になった数社の製品」・・・8年前は1979年である。
これから紹介する1987年7月の報道記事には、1986年5月の調査とある。つまり、二つの調査が存在したということなのか?という疑問が生じるのである。(ニッポン消費者新聞が1986年5月の調査結果を知ったことで公開質問状を出しつつ、情報源を隠すためにあえて「8年前」とごまかしを書いた可能性はあるだろうか)

ともあれ、1987年7月2日夕刊の報道記事である。

ベビーパウダーに石綿/労働省研究者らが論文/発がん性対策必要
日本経済新聞 1987年7月2日夕刊

発がん性物質のアスベスト(石綿)がベビーパウダーにも混入していたことが二日、労働省などの研究者の論文で明らかになった。吸い込むと肺がんなどを発生させる有害物質で、最近、学校の防音用に吹き付けたアスベストが天井、壁からこぼれ落ちるなど広範な環境汚染が大きな社会問題になっている折だけに、一部の製品とはいえアスベスト汚染が赤ちゃんの身近に広がっていることに関係者は衝撃を受けている。

ベビーパウダーの調査、分析を行ったのは労働省産業医学総合研究所の神山宣彦博士と大阪府立成人病センターの森永謙二医師で、日本では数少ないアスベスト研究の専門家。
二人の研究者は61年5月、市販されていたメーカー11社の19製品を対象にX線解析(ママ)計を使ってアスベストの主要物質クリソタイル(白石綿)を定量分析した。
その結果、5社5製品に最高4%から0.4%のクリソタイルを検出。検出された者はほとんどが7ミクロン以下の短繊維で、中には数本から数十本の束上のものもあった。

神山博士は米国で問題化して間もない50年に日本では初めて分析をしたが、この時のデータは環境庁大気保全局の内部資料として埋もれ、昨年ようやく厚生省も知ったばかり。50年の分析では、先発メーカー7社7製品のうち5社に1.8-0.3%の混入。今回再び検出されたのは1社だけだが、新たに調査対象に加えた後発メーカーの6社中4社から比較的高い値が出た。

ベビーパウダーの原料はほとんどが外国から輸入されるタルク(滑石)。タルクは鉱物学的にアスベストと非常に近い物質で一緒に採取され、混じり込むのは避けられず、タルク鉱山の採石労働者に肺がん死亡率が高いという疫学調査もある。

ベビーパウダーで肺がんや中皮腫にかかったとのケースはまだないが、神山博士は「吸い込む年齢が若いほどアスベスト特有の中皮腫にかかる危険性は高く、ベビーパウダーへの混入を極力避ける早急な対策が必要だ」と結論付け、さらに「農薬、タイヤ、製紙など広くつかわっる工業用タルクはベビパウダーと比べかなり含有率が高くさらに問題は深刻だ」と訴えている。

ベビパウダーのアスベスト汚染について行政側は、これまでノーマークに近く、厚生省は昨年10月、神山論文を基にひそかに日本化粧品工業連合会(会長・大野良雄資生堂社長)に対応策を求めたほか、アスベストが検出された各社には個別にタルクの分析法や品質管理を改善するよう指導した。
さらに同省は、ことし3月、同省薬務局内に検討委員会を設け近く統一したアスベスト含有量測定の試験方法と規格値を定める予定。

人体への影響大丈夫

牧野利孝厚生省医薬品副作用情報室長の話 環境庁の研究リポートは公表されてないので知らなかった。アスベストの危険性はよく分かっているが、使用量の点では夏の汗をかく短い期間だから人体への影響は大丈夫とみている。まだ厚生省として独自分析をしていないが、検討委で統一した試験方法を定める作業を急いでいる。

対応の遅れ否めない

高野勝弘化粧品工業会技術課長の話 ことし初めからタルク分析ワーキンググループをつくって業界として試験方法の確立を急いでいる。米国の外資系会社はアスベスト規制の対応が早かったが、十数社ある日本の業界全体の足並みがそろっていおらず遅れたことは否めない。

ベビーパウダーに発がん性石綿/5製品に/厚生省、業界指導へ/医学専門誌で指摘
毎日新聞 1987年7月2日夕刊

WHO(世界保健機関)が発がん性物質としてリストアップ、建材などに使われて労働環境上、問題化している鉱物資源の石綿(アスベスト)が、乳幼児のあせも防止などに使われる一部メーカーのベビーパウダーに混入、市販されていることが二日わかった。パウダー材料の鉱物タルクに微量混じっていたもので、乳幼児への影響はそれほど心配することはないが、米国では既にメーカーが超微量に抑えるなど自主規制しており、事態を重視した厚生省はベビーパウダーの品質確保のための専門家会議を設置、安全規格値を定めることにした。

健康に影響ないが

この日発売の医学専門誌「医学のあゆみ」で、石綿濃度分析の専門家、神山宣彦・労働省産業医学総合研究所主任研究官と森永謙二・大阪府立成人病センター医師が「ベビパウダー中のアスベスト」と題する論文の中で指摘した。
論文によると、ベビーパウダーや化粧品のおしろいの主原料は、最もキメが細かく柔らかい鉱物といわれるマグネシウム粘土鉱物の一種のタルク(滑石)が使われている。タルクはわが国では、北海道が主産地。良質なものは少なく、中国などから輸入、塗料や化粧品、医薬品などに利用されている。しかし、質の劣るものには、最初から石綿など他の数種の鉱物が混じっているという。

神山主任研究官らは昨年5月、市販されていた11社19製品のベビーパウダーについて、含有鉱物の定性分析と、石綿の定量分析を実施。その結果、5製品から4-0.4%のクリソタイル(白石綿)を検出した。
12年前の調査でも7製品中5製品から石綿を検出しており、いずれも低品質のタルクを原料に使用したためとみられる。
厚生省薬務局が同研究官らの分析に基づき、調べたところ、石綿混入のメーカーのベビーパウダーのシェアは10%前後。これまでベビーパウダーの吸引による肺がんの報告例はないが、米国では15年前、国立職業安全衛生研究所が石綿を含むベビーパウダーについて、乳幼児の吸引量を人形を使って実験。「石綿作業環境中とほぼ同じ吸引量」と指摘し、メーカー側も品質改善に乗り出している。
今回の調査結果について、石綿関連疾患を30年間診察している横山邦彦・国立近畿中央病院病理学診療科医長は「使用頻度が限られるベビーパウダーはまず安全で、パニックになる必要はないだろうが、石綿は三千種類もの工業製品に使われてている。この際見直しを」と話している。

被害で出ていない メーカー側

石綿混入のベビーパウダーが市販されていることについて、関係メーカーを含む化粧品製造会社約500社が加盟している日本化粧品工業連合会(本部・東京)の高野勝弘技術課長は「我が国でベビーパウダーが使われ始めてから約80年が経過しているが、健康被害が出たという話は聞いていない。しかし、メーカーの間で、タルクから石綿を検出する統一的な方法が確立されていなかったので、現在、検討している段階だ。業界としてはより良質な製品の開発を目指す義務があり、努力を続けたい」と話している。

湧く疑問

1975年の調査結果と、この1986年の調査結果の比較が記事に書かれている。
1975年の石綿混入製品数の割合がより高く、1986年ではぐっと低下していたという。
1975年以降、アスベスト混入情報はどのように流れ、関係者に利用されたのだろうか。
この際、それらの「論文」自体の内容を確認する必要があるだろう。

1975年調査、1986年調査とも、メーカー名や商品名が記事には書かれていない。
そして、公開質問状を出していた日本消費者連盟はこのときどのように対応しただろうか。
何も知らされなかった国民は、知らずにアスベスト混入ベビーパウダーを使い続けてきたはずだし、製品によってはいつからかアスベストの混入がなくなったとしても、そのことすら知らずに使ってきた。
記事のなかには、「肺がん」より「中皮腫」のリスクに注目するべきことがメディアに伝わっていなかったことも窺える箇所もある。

7月2日夕刊の記事はまだ続く。

つづく→ 「アスベスト混入タルク・ベビーパウダー問題の原点1987年そして1975年 その3 メーカー名・製品名は?」