アマゾン配達員が労災認定/神奈川●「個人事業主」を「労働者」に転換させる取り組みを進めたい

東京ユニオン副執行委員長 関口達矢

●こんな働かされ方は個人事業主じゃない!

-アマゾンの配達員が相談にきている。組合結成の相談をしたい。

菅俊治弁護士から、このような連絡を受けたのは2021年12月25日でした。

世界中で事業を展開するネット通販の巨人・アマゾン。その日本法人であるアマゾンジャパン合同会社(以下、アマゾン)の荷物を軽ワゴン車で最終消費者である個人宅やオフィスに届ける、いわゆる「ラストワンマイル」のドライバーから相談です。

その後、年明けに2人のドライバーに会って話を聴く機会を得ます。アマゾンから委託された運送会社、さらにその運送会社が委託したいわゆる2次下請けと個人事業主として契約を結んで配達をしているドライバーで、配達エリアは神奈川県横須賀市です。

「AIが導入されれば配達効率もあがる。今より多く配達することもあるが、少なくなることもある、日当に切り替えたほうが得だ」

このような説明をされ、報酬をそれまで配達個数1個160円という「個建」から、1日1万8000円の「日当」に切り替えました。

しかし、その後は徐々に配達する荷物の量が増加。AI導入前の個建のときは1日120個前後でしたが、気がつくと1日200個を超えることが日常化し、個建のときの倍になることもありました。目の前の荷物を運ぶことに追われ、食事はもとより、トイレに行く時間もままならなくなりました。

ふたりのドライバーは「とにかく荷物が多すぎる!」「今の働かされ方は労働者だ。個人事業主じゃない!」などと憤っていたのが印象的でした。

●アマゾン下請と契約をするドライバーで組合結成

アマゾンで、いわゆるラストワンマイルの配達をするドライバーは、主に2種類に分けられます。

ひとつはアマゾンのアプリを介して、自分が希望するときに、直接、仕事を受注する「アマゾンフレックス」と呼ばれるドライバー。個人業主として業務委託契約を締結して働いています。しかし、アプリで時間や配達中の管理をされていて、報酬は「〇時~○時まで○円」となっており、配達の数やエリアに関わらず、時間が延びるとその分プラスになるいわば時給換算です。

もうひとつは、アマゾンが契約をしたデリバリープロバイダーと呼ばれる会社、あるいはその会社がさらに契約をした会社と業務委託契約を結んで配達をするドライバーです。報酬は、日当で勤務はシフト制です。

デリバリープロバイダーと契約をしているドライバーもアマゾンフレックスと同じアプリで時間管理をされ、さらには配達中の位置情報、どのドライバーがいつ・どこの配達を完了したか、まで確認できるシステムになっています。

前述した2次請けの企業と契約をするドライバー2人が中心となって2022年6月に「東京ユニオンアマゾン配達員横須賀支部」を結成。結成した時点で10人が組合名簿に名前を連ねました。

組合員は、アマゾンから配送の委託を受けた1次下請の「若葉ネットワーク」、さらに2次下請の「141コーポレーション」または「横浜商工ロジスティックス」と契約を結んでいます(図参照)。


大まかな仕事の流れとしては、倉庫に到着したら、アプリをインストールしたスマホを専用の機械にかざします。すると、その日に配達するエリアと配達する荷物を乗せたカートの番号が示されます。対応する番号のカートに入っているのが、その日に配達する荷物です。

配達エリアも数も日によってバラバラ。しかも、ときには2人が荷物を持つイラストが描かれた重量の重い荷物まで含まれますが、みんな自分の荷物の積み込みで忙しく、手伝える状況にありません。結局、一人で積み込み、配達先でも一人で届けるしかないのが実態です。加えて、配達効率を向上させると言われていたアマゾンのアプリは、線路や川、中央分離帯などを無視して直線距離で配達の順番を指定するというお粗末さです。

その日の荷物の量にも寄りますが、午前中8時から9時ごろに出発、12時から15時ごろにいったん倉庫に戻り、再度、荷物を積み込んで2度目の配達に出発します。配達は年中無休のため、1年中誰かが配達をしています。配達の終了時刻も8時過ぎ。遅いときには10時を回ることもありました。

アマゾンと直接契約をしているアマゾンフレックスの場合は、午前、午後、夜に分けてアプリ上に掲載された仕事を自分で応募していきます。いわゆる早い者勝ちなので「午前と午後に働きたかったけど、午後しか仕事が取れなかった」といったことが発生します。働き始めた当初は、1週間先の仕事しか応募できませんが、順調に配達ができていると1カ月先の仕事の応募ができるようになります。

また、日当で報酬が支払われるデリバリープロバイダーと契約しているドライバーは「すべての荷物を配り終えるまで帰ってくるな」などといわれることがあります。一方、時給換算で報酬が払われるアマゾンフレックスの場合は、配り終えなくても時間内に倉庫に戻ってくることが求められますが、荷物の持ち戻りが多いと何の説明もないままアプリのアカウントが使えなくなり、事実上の解雇に相当する通称「アカバン」になることもあります。

組合の結成が報じられると、各地から「組合を結成したい」という相談が寄せられるようになりました。その相談のひとつが長崎県。配達エリアは長崎市内。荷物の数は横須賀ほど多くはありませんが、なんといって長崎市内は「坂の町」です。クルマを止めて、階段を何度も往復するような配達が多くあります。にもかかわらず、日当は横須賀の18000円に対して14500円。他の地域に比べても低額であることが長崎のドライバーの最大の不満でした。

当初、長崎から相談を受けたときは、地元の労働組合で対応をしてもらうことも考えましたが、偶然にも1次下請けは横須賀と同じ若葉ネットワーク。配達員は全員2次請けの埼玉県川口市の本社を置く株式会社Trumpと契約をしていたこともあり、「東京ユニオンアマゾン配達員長崎支部」を結成し、9月5日に長崎市内で記者会見を行いました。

その記者会見から4日ほど経った9月9日、横須賀の配達員が仕事中にケガをしたという連絡を受けました。

●仕事中階段から転落し第1腰椎圧迫骨折と診断

ケガをしたのは、横須賀支部の支部長を務めるAさん(男性・64歳)です。

事故が発生したのは昨年9月9日19時45分ごろ。届出宅の門扉付近にあるポストに商品を投函しようとしたときに、足を滑らせて階段から転落。左頭頂部や右後頭部及び腰などを強打しました(写真)。5分ほど気を失い、気が付いてから起き上がるまでに、さらに5分ほどかかったと言います。

Aさんは勤務先の倉庫に電話、救急搬送を要請しました。しかし、会社の管理者はクルマで現場まで来てAさんを乗せ、自らの運転で病院まで搬送します。

搬送先の病院で、第1腰椎圧迫骨折と診断。2か月ほど仕事ができませんでした。個人事業主として契約しているため、労災保険には未加入、特別加入もしていません。この間は、収入がなくなり、健康保険を使って治療することになりました。

組合は当初から「配達員の働き方は実態として個人事業主ではなく労働者だ」として、改善を求めていました。このため、事故の保障だけでなく「労働者」としての処遇を獲得するため、復職し休業期間が確定したところでAさんの労災保険の申請手続きに入ります。

組合結成のきっかけとなった菅弁護士を中心に、日本労働弁護団の弁護士が集まって結成した「アマゾン労働者弁護団」が、手分けをしてAさん以外の組合員からも話を聴き、たくさんの陳述書や意見書を作成、管轄である横須賀労働基準監督署に提出します。なかなか判断が出されず、気をもんでいた矢先の9月下旬、横須賀労働基準監督署から本人に決定の連絡が入りました。

大きな成果ではありますが、これは終わりではなく、むしろスタートと考えています。アマゾンの下請である運送会社と個人事業主として契約をしているドライバーからこの間、多くの仕事中の事故の相談を受けてきました。いずれも契約している会社や働く場所は違ってもAさんと同じ働き方をしています。

10月30日現在で、まだ復命書が届いていないため、労災保険が認定されたポイントなどは分かっていません。今後、分析を進め、Aさんだけではなくその他の組合員、さらにはアマゾンフレックスを含むすべての配達ドライバーの契約を労働契約に変更させていくよう取り組んでいきます。

安全センター情報2023年12月号