定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定に関する取扱い~基補発0329第2号令和5年3月29日/事務連絡令和5年3月29日

基補発0329第2号
令和5年3月29日

都道府県労働局長労働基準部長殿

厚生労働省労働基準局補償課長

定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定に関する取扱いについて

標記については、平成29年6月26日付け基補発0626第1号に基づき、当分の間、検討の対象となる事例について本省に報告することとしていたところであるが、これまでの各局における事例の蓄積等の状況を踏まえ、適正性を確保しつつ処理の一層の迅速化を図る観点から、今後は、下記によることとしたので、その取扱いに遺漏なきを期されたい。

なお、平成29年6月26日付け基補発0626第1号は、本通知の発出をもって廃止する。

1 基本的な考え方

労働者災害補償保険法第8条に基づく給付基礎日額のうち、業務上疾病に係る給付基礎日額の算定に当たっては、昭和50年9月23日付け基発第556号「業務上疾病にかかった労働者に係る平均賃金の算定について」等により指示されているところであり、労働者がその疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場(以下「最終ばく露事業場」という。)を離職している場合には、労働者がその疾病の発生のおそれがある作業に従事した最後の事業場を離職した日(賃金の締切日がある場合は直前の賃金締切日)以前3か月間に支払われた賃金により算定した金額を基礎とし、算定事由発生日までの賃金水準の上昇を考慮して当該労働者の平均賃金を算定することとされている。

このうち、定年退職後同一企業に再雇用された後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定に当たっては、被災労働者の稼得能力を填補するなど、労働者災害補償保険の目的に従い、これを適切に算定することが重要となっている。

このため、定年退職後同一企業に再雇用された後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定に当たっては、最終ばく露事業場を離職した日をいずれの時点とするかについて、個々の事案に即して適切に判断することとする。

2 具体的な取扱い

定年退職後同一企業に再雇用された労働者に係る給付基礎日額の算定に関しては、これまで、平均賃金の算定に関し、昭和45年1月22日付基収第4464号に基づき、「当該労働者の勤務の実態に即し、実質的に判断することとし、形式的には定年の前後によって別個の契約が存在しているが、定年退職後も引き続いて嘱託として同一業務に再雇用される場合には、実質的には一つの継続した労働関係であると考えられる」として、「算定事由発生日以前3か月間を算定期間として平均賃金を算定する」とされてきたところであるが、平成28年7月20日付け労働保険審査会の裁決で示された下記の判断要素等を踏まえて、最終ばく露事業場を離職した日について、就労実態に即して、適切に判断すること。

その際、定年退職後締結された再雇用契約が、定年退職を契機として、新たに従前とは異なる内容の労働契約を締結したものであると認められるか否かを、当該契約内容のほか、雇用の実態等を踏まえて判断すること。

ア 雇用形態、役職等

雇用形態、役職の変更の有無等について、雇用契約書や就業規則等により確認すること。

イ 賃金、勤務時間、出勤日数等

基本給や手当の変更による賃金水準の変動の状況、勤務時間の変更、出勤日数の変化等について、上記アの資料や賃金台帳、出勤簿等により確認すること。

ウ 退職金、社会保険等

退職金の有無、社会保険の取扱いの変更の有無等について確認すること。

エ 作業内容等

定年前とは異なる部署への異動や、定年退職後も遅発性疾病の発生のおそれのある作業に労働者が従事していたか否か等を確認すること。

3 その他

給付基礎日額の算定について疑義のある場合や各局における過去の事例等から適切に判断し難い場合は、適宜、本省に相談すること。


事務連絡
令和5年3月29日

都道府県労働局労働基準部労災補償課長殿

厚生労働省労働基準局補償課長補佐(業務担当)

定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定の事例について

発性疾病の給付基礎日額の算定に関し、令和5年3月29日付け基補発0329第2号「定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場.の給付基礎日額の算定に関する取扱いについて」により、就労実態に即して、労働基準監督署において適切に判断するよう指示されたところです。

ついては、今後の判断に資するものと考えられる、本省に報告のあった事案のうち典型的な事例や、労働保険審査会の裁決例を別添のとおり示すので、適切に事務処理を行われるようお願いします。

別添

【事例1】(定年退職時において最終ばく露事業場を離職したものとして取り扱う事例)

被災者は、入社後、石綿ばく露作業に従事していたが、定年退職の翌月から同一企業に再雇用され、再雇用後の在職中に悪性胸膜中皮腫と診断された。
被災者は定年退職後に嘱託社員となり、役職を解かれた。被災者の定年退職後の作業内容や1日の勤務時間に大きな変化はなかったものの、休日は週休2日から週休3日に変更された。また、給与面では、各種手当の支給がなくなったほか、基本給が月給制から日給制に変更され、定年退職前の約5割程度となった。さらに、被災者は、嘱託社員となってからは石綿ばく露作業に従事していなかった。
これらのことを検討すると、正社員であった時と嘱託社員であった時とでは、就労実態が大きく異なっており、定年退職を契機として一旦会社を離職し、その後、新たに会社と従前とは異なった内容の労働契約を締結して、会社に再雇用されたものとして取り扱うべきものと判断される。したがって、被災者は、定年退職時において最終ばく露事業場を離職したものとして取り扱うことが相当と認められる。

【事例2】(定年退職時において最終ばく露事業場を離職したものとして取り扱う事例)

被災者は、石綿ばく露作業に従事していたが、定年退職の翌日から同一企業に再雇用され、再雇用の退職後から3年後悪性胸膜中皮腫と診断された。

被災者は定年退職後に契約社員となり、役職を解かれた。被災者の定年退職後の作業内容や出勤日数に大きな変化はなかったものの、時間外労働に従事することがなくなった。また、基本給は定年退職前の約7割程度となった。さらに、被災者は、契約社員となってからは石綿ばく露作業に従事していなかった。

これらのことを検討すると、正社員であった時と契約社員であった時とでは、就労実態が大きく異なっており、定年退職を契機として一旦会社を離職し、その後、新たに会社と従前とは異なった内容の労働契約を締結して、会社に再雇用されたものとして取り扱うべきものと判断される。したがって、被災者は、定年退職時において最終ばく露事業場を離職したものとして取り扱うことが相当と認められる。

【事例3】(石綿ばく露作業に定年再雇用後も従事していた事例)

被災者は、入社後、石綿ばく露作業に従事していたが、定年退職の翌月から同一企業に再雇用され、再雇用も退職した後に石綿肺(管理4)と診断された。

被災者は定年退職後に嘱託社員となり、一定程度賃金が減少したものの、作業内容等に変更は認められなかった。また、被災者は、正社員時だけでなく、嘱託社員へと変更された以降も、石綿ばく露作業に従事していたことが認められた。

これらのことを検討すると、正社員時に引き続き、石綿ばく露作業にも従事していたものであり、被災者は、定年再雇用後の退職時において最終ばく露事業場を離職したものとして取り扱うことが相当と認められる。

<参考資料>労働保険審査会裁決 平成27年労第430号

主文

労働基準監督署長が平成○年○月○日付けで再審査請求人に対してした労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による休業補償給付の支給に関する処分は、これを取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨及び経過

1 趣旨

再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文同旨の裁決を求めるというにある。

2 経過

請求人は、昭和○年○月○日、A所在のB会社(以下「会社」という。)に組立工として雇用され、アスベストパッキンの加工作業等に従事し、平成○年○月○日に定年退職したが、翌○月○日から平成○年○月○日まで契約社員として会社に勤務した。

請求人は、同年○月頃から息切れがするようになり、同月○日、C診療所に受診したところ「熱中症の疑い」と診断された。しかし、翌朝体調がすぐれなかったことから、D病院に転医し検査したところ、肺に水が溜まっていたため○日間の入院加療を受けた。その後、同年○月○日、E病院に受診し、同月○日に胸腔鏡下悪性腫瘍手術を受けた結果、「悪性胸膜中皮腫」(以下「本件疾病」という。)と診断された。

請求人は、本件疾病は業務上の事由によるものであるとして、労働基準監督署長(以下「監督署長」という。)に休業補償給付を請求したところ、監督署長は、本件疾病は業務上の事由によるものであると認め、給付基礎日額を○円として、これを支給する旨の処分をした。

請求人は、この処分の給付基礎日額を不服として、労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)に審査請求をしたが、審査官は、平成○年○月○日付けでこれを棄却したので、請求人は、更にこの決定を不服として、本件再審請求に及んだものである。

第2 再審査請求の理由(略)

第3 原処分庁の意見(略)

第4 争点

本件の争点は、休業補償給付に関する処分における給付基礎日額が監督署長において算出した○円を超えるか否かにある。

第5 審査資料(略)

第6 事実の認定及び判断

1 当審査会の事実の認定(略)

2  審査会の判断

(1) 請求人の本件疾病が確認された日(以下「診断確定日」という。)については、F医師が、平成○年○月○日労働基準監督署受付の意見書において、「C診療所初診日の平成○年○月○日とするのが適切である。」旨の意見を述べていることから、当審査会としても、診断確定日は、平成○年○月○日とすることが相当であると判断する。

(2) ところで、労働者災害補償保険法第8条によると、給付基礎日額は労働基準法(昭和22年法律第49号)第12条の平均賃金に相当する額とすることとされ、当該平均賃金を算定すべき事由の発生した日(以下「算定事由発生日」という。)については、「疾病の発生が確定した日」すなわち診断確定日とする旨定められている。そして、労働者が診断確定日においてすでに疾病発生のおそれのある作業に従事した事業場を離職している場合には、行政実務上、労働者がその疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場を離職した日(賃金の締切日がある場合は直前の賃金締切日。以下同じ。)以前3か月間に支払われた賃金により算定した金額を基礎とし、算定事由発生日までの賃金水準の上昇を考慮して当該労働者の平均賃金を算定することとされており(昭和50年9月23日付け基発第556号及び昭和53年2月2日付け基発第57号。以下「通達」という。)、当審査会においても、その取扱いは妥当なものと判断する。

(3) そこで、請求人が本件疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場(以下「最終ばく露事業場」という。)を離職した日について検討すると、以下のとおりである。

ア 本件疾病の診断確定日は平成○年○月○日であるところ、請求人は、平成○年○月○日に会社を定年退職し、その翌日である同年○月○日から平成○年○月○日まで契約社員として会社に雇用されていることから、監督署長は、定年退職後も雇用の継続性が認められるとし、契約社員を退職した平成○年○月○日をもって最終ばく露事業場を離職した日として給付基礎日額を算定している。

イ しかしながら、定年退職後、請求人は、正社員から契約社員へと変更されるとともに、班長の役職も解かれている。また、請求人の給与明細書などに記入された同人の就労実態をみると、1日の労働時間に変更は認められないものの、1か月当たりの勤務日数は正社員当時○日前後であったものが、契約社員となってからは○日となり、時間外労働や休日労働にも従事していない。さらに、給与面においては、正社員当時は基本給のほか資格手当等多くの手当が支給されていたが、契約社員になると、基本給と通勤手当が支給されているにすぎず、基本給についても○円から○円へと大幅に変更されている。
なお、請求人は、契約社員となってからは、石綿にばく露される作業には従事していない。

ウ このように、正社員であった時と契約社員であった時とでは、就労実態が大きく異なっていることからすると、請求人は、定年退職を契機として、一旦会社を離職し、その後、新たに会社と従前とは異なった内容の労働契約を締結して、会社に改めて再雇用されたものとみるのが相当である。
エ そうすると、当審査会としては、本件における上記通達の適用に関しては、請求人は、定年退職時において、最終ばく露事業場を離職したものとするのが相当であると判断する。

(4) 以上からすると、請求人の休業補償給付に係る給付基礎日額については、正社員であった平成○年○月○日以前3か月間に支払われた賃金により算定した金額を基礎とし、算定事由発生日までの賃金水準の上昇を考慮して算定することとなるから、監督署長が算定した給付基礎日額を上回ることは明らかである。

なお、再審査請求代理人(以下「請求代理人」という。)は、職業がんなどの遅発性疾病を発症した労働者に係る給付基礎日額について、整合性のある算定の仕方を検討及び整理するよう関係部署に対して勧告してほしい旨主張し、本件公開審理においても同旨を述べているが、当審査会は、労働者災害補償保険の給付に関し、労働基準監督署長がした処分の適否を審査する機関であり、請求代理人の主張を採用することはできない。

3 以上のとおりであるから、監督署長が給付基礎日額を○円として算定した額による休業補償給付の支給に関する処分は妥当ではなく、取消しを免れない。

よって主文のとおり裁決する

<参考資料>労働保険審査会裁決 平成30年労第196号

主文

本件再審査請求を棄却する。

事実及び理由

第1 再審査請求の趣旨

再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、労働基準監督署長(以下「監督署長」という。)が平成○年○月○日けで請求人に対してした労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)による休業補償給付、遺族補償給付及び葬祭料(これらを併せ、以下「休業補償給付等」という。)の支給に関する処分を取り消すとの裁決を求めることにある。

第2 事案の概要

1 請求人の亡夫(以下「被災者」という。)は、平成○年○月○日、A所在のB会社(以下「会社」という。)に雇用され、電工として電気配線パトロール、施設の電気配線工事に従事していた。

2 被災者は、石綿ばく露作業により悪性胸膜中皮腫(以下「本件疾病」という。)を発症したとして療養補償給付を請求したところ、平成○年○月○日に被災者が死亡した後、監督署長は本件疾病を業務上の事由によるものと認め、同給付を支給した。

3 被災者の死亡後、請求人が休業補償給付等を請求したところ、監督署長は、請求人を受給権者と認め、給付基礎日額を○円としてこれらを支給する旨の処分をした(以下「本件処分」という。)。

本件は、請求人が、本件処分の給付基礎日額を不服として、同処分の取消しを求める事案である。

4 請求人は、労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)に対し審査請求をしたところ、審査官が平成○年○月○日付けでこれを棄却する旨の決定をしたことから、更にこの決定を不服として再審査請求をした。

第3 当事者の主張の要旨

1 請求人(略)

2 原処分庁(略)

第4 争点

本件処分における給付基礎日額が、監督署長において算出した○円を超えるか。

第5 審査資料(略)

第6 理由

1 当審査会の事実認定(略)

2 当審査会の判断

(1) 被災者の本件疾病の発症日は、被災者が病理組織診断により本件疾病の確定診断を受けたC病院の初診日である平成○年○月○日であると判断される。

(2) ところで、労災保険法第8条によると、給付基礎日額は労働基準法(昭和22年法律第49号)第12条の平均賃金に相当する額とすることとされ、当該平均賃金を算定すべき事由の発生した日(以下「算定事由発生日」という。)については、「疾病の発生が確定した日」すなわち診断確定日とする旨定められている。そして、労働者が診断確定日において既に疾病発生のおそれのある作業に従事した事業場を離職している場合には、行政実務上、労働者がその疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場を離職した日(賃金の締切日がある場合は直前の賃金締切日。以下同じ。)以前3か月間に支払われた賃金により算定した金額を基礎とし、算定事由発生日までの賃金水準の上昇を考慮して当該労働者の平均賃金を算定することとされており(昭和50年9月23日付け基発第556号及び昭和53年2月2日付け基発第57号)、当審査会においても、その取扱いは妥当なものと判断する。

(3) 請求人は、被災者は平成○年○月に会社に再雇用されたものであり、平成○年○月○日の当審査会裁決に準じて、再雇用前の賃金額で平均賃金を算定すべきである旨主張するので、以下検討する。

ア 被災者が、会社を退職した後に再雇用されたものであるか否かについて、D部長代理は、平成○年○月○日作成の電話聴取書において、被災者は特殊技能者であり、65歳を超えても継続雇用しており、再雇用ではなかった旨述べている。

イ 当審査会では、被災者の実態として、一旦会社を離職した後の再雇用であったと判断し得るか否かについて精査する必要があると判断し、被災者が会社の定年年齢とされる60歳に到達した時期に適用されていた就業規則の提出を会社に求め、検討した。

同就業規則第○条ただし書には、定年後の勤務について、「勤務延長するか嘱託として再雇用することがある。」と規定されており、会社には、定年後の勤務形態として勤務延長と再雇用の2つの制度があったことを確認した。

ウ そこで、被災者がいずれの形態にて勤務を続けていたものであるかについて検討すると、まず、賃金については、定年の前後においては変動していないものの、平成○年○月から、基本給の額が○円低くなっていることが認められる。

この点、D部長代理は、作業内容において、年齢が進むにつれ、高所での作業をさせない等の制限があり、継続雇用者も作業内容の変化に伴って賃金額が変動する可能性があるとしている。当審査会では、当該被災者の業務内容の変化が賃金額の変動につながったものであるか否かについて精査したところ、年齢とともに、明らかに電気工事業務に従事する日数は減少しており、63歳である平成○年○月○日には0日となっていることを確認した。この点、D部長代理は、被災者の賃金減額の理由について、被災者の担当業務が電気工事よりも市電の巡回が増えたためと述べており、平成○年○月時点での賃金額の変化は、被災者の業務内容の変化に伴うものであったと判断することが相当であるとの結論に達した。

エ 次に、退職金についてみると、退職金規定において、従業員が退職した場合は退職金を支給するとされているところ、被災者の死亡時まで、会社から被災者へ退職金が支払われたとの記録は確認できない。

オ さらに、社会保険の取扱いについて、再雇用時には、被保険者資格喪失届及び被保険者資格取得届を同時に届け出ることとされているところ、基本給額が減額となった平成○年○月分とその前月分の健康保険料及び厚生年金保険料についてみると、両者の保険料に変動はなく、平成○年○月時点においては上記の手続は行われていないものと認められる。

カ 以上のことから、当審査会においても、決定書理由に説示するとおり、被災者は、定年後勤務延長により勤務を継続していたものとみることが相当であり、離職後新たな雇用契約を締結したものと判断し得た前記平成○年○月○日裁決とは明らかに事実関係が異なるものといわざるを得ないものである。

(4) したがって、当審査会は、被災者は会社を離職しておらず、監督署長が算定した休業補償給付等に係る給付基礎日額については誤りがなく、妥当なものであると判断する。

3 結論

以上のとおり、本件処分は妥当であって、これを取り消すべき理由はないから、請求人の本件再審査請求を棄却することとして、主文のとおり裁決する。

参考:平成29年6月26日付け基補発0626第1号「定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定について」

労働者災害補償保険法第8条に基づく給付基礎日額のうち、業務上疾病に係る給付基礎日額の算定に当たっては、昭和50年9月23日付け基発第556号「業務上疾病にかかった労働者に係る平均賃金の算定について」等により指示されているところであり、労働者がその疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場(以下「最終ばく露事業場」という。)を離職している場合には、労働者がその疾病の発生のおそれがある作業に従事した最後の事業場を離職した日(賃金の締切日がある場合は直前の賃金締切日)以前3か月間に支払われた賃金により算定した金額を基礎とし、算定事由発生日までの賃金水準の上昇を考慮して当該労働者の平均賃金を算定することとされている。

このうち、定年退職後同一企業に再雇用された後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定に当たっては、最終ばく露事業場を離職した日がどの時点か、個々の事案に即して判断しているところである。これに関し、平成28年7月20日労働保険審査会裁決において、定年退職後再雇用されているものの、役職や勤務日数、賃金額、業務内容等の変更により、定年退職を契機として、一旦会社を離職し、その後、新たな会社と従前とは異なった内容の労働契約を締結して、会社に改めて再雇用されたものとみるのが相当として、定年退職時を最終ばく露事業場を離職した日と判断されたところである。

このため、労働保険審査会の裁決で示された、定年退職後同一企業に再雇用された後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の決定については、当面の間、本省で個別に判断することとするので、現在調査中のものも含め、該当事案を把握次第、本省に報告すること。

(参考)平成28年7月20日労働保険審査会裁決(定年退職後に契約社員として再雇用された労働者の給付基礎日額)について[編注:「平成27年第430号」の事案・裁決の概要であり、前出の<参考資料>の方が詳しいので省略]

安全センター情報2023年12月号

20230329 基補発0329第2号 定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定に関する取扱いについて(PDF)

20230329 補償課事務連絡 定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定の事例について(PDF)

20170626 基補発0626第1号 定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定について(PDF)

安全センター情報2023年12月号