新型コロナで傷病補償年金~東京●罹患後症状で著しい呼吸機能障害
2019年全世界に拡大した新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック。2020年から、わが国でも新型コロナウイルス感染症が急拡大した。
当センターは、これまで業務や職場環境に起因して新型コロナ感染症にり患した被災者の労災補償問題に取り組んできている。
厚生労働省は2020年2月、労働基準局補償課長の通達「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点」(基補発0203第1号)、同年12月には「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取り扱いについて」(改正基補発1201第l号)を発出し、新型コロナ感染症の特性を踏まえて、労災認定業務において適切な対応をするよう指示してきた。また、労働者や事業主向けに新型コロナウイルスに関するQ&A等の情報を発信し、職場でクラスターが発生したり、業務で感染した場合に、労働者、企業に労災請求の勧奨を行ってきた。
さらに2022年5月、「新型コロナウイルス感染症による罹患後症状の労災補償の取り扱い等について」(基補発0512第1号)で、罹患後症状が続く場合の労災補償の取り扱いを示してきた。
現在、わが国の新型コロナウイルス感染症による労災請求件数は214.046件(死亡220件)、支給件数は203.145件(同221件)となっている(厚生労働省公表2023年8月31日現在)。
Aさんは、都内の有料老人ホームの事務職として働いていたが、2021年1月、施設内でクラスターが発生し、新型コロナウイルス感染症にり患した。急性症状の治療のため入院。同年3月に退続後も呼吸機能の症状が改善せず、酸素吸入を要する状態が続いていた。5月に青梅労働基準監督署に労災請求をし、同年7月に認定を受けたものの、その後も呼吸困難の症状は改善せず、在宅酸素療法を続ける生活を送ってきた。
新型コロナウイルス感染症をめぐっては、罹患後症状(いわゆる後遺症)に苦しんでいる患者さんが少なくない。Aさんの罹患後症状は、すでに著しい呼吸機能障害に相当する状態になっていた。
2022年7月、私たちは青梅労基署に出向き、傷病補償年金に移行するよう要請した。
2022年10月、Aさんは呼吸器の専門医の病院に転医し、傷病の状態に関する診断書を作成してもらい、青梅労基署に提出した。
そして今年5月、青梅労基署は、Aさんの症状を傷病等級3級に認定し、傷病補償年金を支給する決定を行った。新型コロナウイルス感染から2年4か月が経過していた。
新型コロナウイルス感染症による労災療養中の被災者で、罹患後症状が続くなか、厚生労働省が傷病補償年金に移行させたのは、おそらくAさんが初めての事例ではないかと思われる。
Aさんのように罹患後症状による療養が長期化しても、傷病補償年金への移行は労働基準監督署長が決定する。これまで傷病補償年金に移行した被災者の多くは重度のじん肺や脊髄損傷など傷病が限られていた。
Aさんの事例は、新型コロナ感染症の罹患後症状にも傷病補償年金が支給された初めてとして、大きな意義があるのではないかと思われる。
2023年9月21日午後、厚生労働省の記者会で、Aさんに出席してもらい、記者会見を行った。当日の民放テレビ、翌日のNHKが会見の模様を報道し、また朝日、毎日両紙が朝刊でAさんの羅患後症状による傷病補償年金の決定を報じた。
新型コロナウイルス感染症は5類になったとはいえ、依然として感染状況は続いている。
(1) 国は引き続き、新型コロナウイルス感染症の労災保険の請求勧奨に取り組むこと。
(2) 国は罹患後症状が長く続く場合にも労災を打ち切ることなく、安心してできるように補償給付を継絞して行うこと。
(3) 国は罹患後症状によっては傷病補償年金に移行させること。
以上の点を、厚生労働省にも求めていきたいと思う。
(文・お問い合わせ)NPO法人東京労働安全衛生センター