暴行に苦しめられる療養保護師を冷遇する『老人長期療養保険法』 2021年6月16日 韓国の労災・安全衛生

全国療養サービス労働組合の療養師が、国会前一帯で行われた3.25療養労働者一日限りの集団行動で、処遇改善と雇用安定の保障を求める記者会見をしている。/資料写真:キム・チョルス記者

療養保護師のAさんは、前立腺の手術をした年配の男性の世話をしに行って、性暴行に遭うところだった。セクハラと卑劣な暴言を日常的に行うその男性は、ある日Aさんと二人きりで家にいることになり、直ぐにAさんに近寄った。驚いたAさんは逃げようとした。逃げ場がなくなったAさんが「録音する」と言ったので、その男性は「エ~イ」と言って部屋に戻った。Aさんは性暴行されそうだった辛い記憶を呼び戻して、「死角地帯で働いている」と吐き出した。

Bさんも自分が世話する年配の方からいつもセクハラに遭っていた。その方は後から腰を抱いたり、チューして欲しいと要求した。これを押し返すと「このようにしてはいけないのか」と問い詰めてきた。

Bさんはこんなセクハラがますます露骨になったのは、自分の雇用が不安定なためだと考えた。Bさんが働いていた療養センターの社会福祉士が、『療養保護師が受給者の気に入らなければ、センターに電話すればいつでも変えられる』と話したのが禍の元だと思った。Bさんは「社会福祉士の一言が、私たちのメシのタネを奪っている。」「私は常に危険に曝されている」と涙を拭いた。

『療養保護師の人権侵害の実態と、政府部署の対策作りのための討論会』に参加した療養保護師が、直接証言した内容だ。

討論会は共に民主党のユン・ミヒャン、イ・スジン、コ・ミンジョン、コ・ヨンイン議員と、全国サービス産業労働組合連盟の全国療養サービス労働組合、全国社会サービス員労働組合の共同主催で、15日に行われた。

女性が殆どの療養保護師がセクハラに遭うなど、人権が侵害される状況が頻繁に発生しているにも拘わらず、法と制度はこれらを保護できていないという指摘がされた。法はあっても、ケア・サービスを受ける『受給者』を中心に作られているためだ。

暴行、暴言、セクハラに苦しめられる療養保護師

全国療養サービス労働組合が3月8日~13日の6日間、全国の療養保護師541人に労働環境評価アンケートを行った結果、勤務中に肉体的、精神的、傷害の経験があるという応答が81.3%に達した。労働組合のチョン事務局長は「10人中8人が肉体的、精神的な傷害を経験しながら働いているということ」で、「極めて深刻なレベル」と話した。

特に、サービス利用者からの肉体的な傷害経験があるかについて複数回答で調査した結果、回答者の92%が殴られたり、噛まれたり、唾を吐かれたり、鍼を打たれたり、つねられたりしたことがあることが判った。この内の13.3%は、無茶な暴行を受けたことがあると答えた。事務局長は「深刻な暴力に該当する」と話した。

精神的な傷害について訊いた結果、悪口を言われた経験が83.7%、セクハラなどが43.3%だった。サービスの利用者だけでなく、保護者からの悪口(20%)やセクハラなど(10.9%)に遭ったケースも少なくなかった。

このせいで療養保護師の健康が悪化した。療養保護師が答えた『仕事による疾病』の内、筋骨格系疾患が81%で、最も高かった。チョン事務局長は「療養保護師の筋骨格系疾患がほとんど業務上疾病と認められていないのは、中年女性が経験する退行性の疾病と認識されているため」と指摘した。

また、精神的憂鬱感を経験したり、現に経験しているという応答が42%に達した。その他、結核(3.9%)、疥癬(19.8%)、インフルエンザと肺炎(5.2%)等、伝染性の疾患に罹ったという応答も相当数出てきた。チョン事務局長は「危険手当が必要な理由」として「コロナ19の問題だけでない」と強調した。

専門家たちは、一人で行動するのが難しく、ケアが必要な人だといっても、療養保護師にセクハラしたり、暴行、暴言などをする行為は明らかな犯罪行為だと指摘した。

民主化のための弁護士会のイ・ジュヒ弁護士は「暴言、暴行、性暴行が続いて発生しているが、これらはすべて刑法上の犯罪」で、「予防がキチンとできていないのも深刻な問題だが、今発生している犯罪さえも正しく措置されていない状況だ」と批判した。

それでも療養保護師はこれに対してキチンと対応できていない。

チョン事務局長は「我慢とか、嫌なら出て行けといった(状況に直面したという)応答の比率は、裁可療養保護師が施設療養保護師に較べて高い」とし、「療養保護師は、訪問サービスが中止されれば解雇といった状況に置かれるので、我慢とか、嫌なら出て行けという機関に対応するのは難しい」と説明した。

15日に行われた療養保護師の人権侵害実態と政府部署対策準備のための討論会で、療養保護師が人権侵害事例を発表している。/映像キャプチャー

法があってもサービスの受給者だけを保護し、療養保護師は後まわし

専門家たちは療養保護師が積極的に対処できるように、法と制度が整備されるべきだと口を揃えた。療養保護師に、『上手く対処しなさい』、『我慢しなさい』といったやり方で、責任を転嫁してはいけないということだ。

チョン事務局長は「すべてのことが療養保護師の責任として押し付けられているのは深刻な問題」とし、「あらゆる悪口をすべて聴き、セクハラに遭っても我慢しなければならないのかと聴きたい。このような状況を訴えて、保護できるマニュアルが準備されなければならない」と強調した。

これに関して、乙支大学校看護学科のチェ・ウンヒ教授は、現行法と制度が存在しない訳ではない。代表的には老人長期療養保険法と産業安全保健法があると指摘した。

老人長期療養保険法第35条によれば、長期療養機関長は、療養保護師が受給者やその家族から、暴言・暴行・傷害・セクハラ・性暴行、そして給付外の行為の提供を要求することによって発生した苦情の解消を要請した場合、業務の転換など、大統領令に定めるところにしたがって適切な措置をしなければならない。

だが、これは現実には正しく適用されておらず、更に、大統領令にも法以上の具体的な措置は規定されていない。『この場合、長期療養機関の長は、該当受給者または受給者の家族と相談を実施しなければならない』を付け加えた程度だ。これについてイ弁護士は「具体的な内容がなく、事実上、上位法の同語反覆のレベル」で、「法の怠慢だ」と批判した。

また、老人長期療養保険法には、長期療養機関長とその従事者は人権に関する教育を受けなければならない、という内容が入れられた一方、療養サービス受給者に対しては、人権教育を『実施できる』とだけになっている。イ弁護士は「受給者に対する人権教育は、機関の裁量と選択事項」だが、「実際の人権侵害は、事実上、受給者またはその家族と療養保護師との関係で発生しているという点で、療養保護師の一方にだけ人権教育を実施するのでは実効性がない」と批判した。

産業安全保健法に第41条には『顧客の暴言などによる健康障害予防措置』が規定されいる。特に事業主は、業務と関連して顧客など第三者の暴言などで労働者に健康障害が発生したり発生する顕著な恐れがある場合は、業務の一時的中止または転換など、大統領令に定める必要な措置を講じなければならない。

また、労働者は事業主に措置を要求でき、事業主はその要求を理由に、解雇またはその他の不利な処遇をしてはならない。しかし、これらもやはり、雇用不安にある療養保護師には、キチンと作動していないのが現実だ。

また、労働者は事業主に措置を要求できて、事業主はその要求を理由に解雇または、その他の不利な処遇をしてはならない。 だが、これらやはり雇用不安を体験している療養保護師にはまともに作動しないでいる現実だ。

イ弁護士は「現在の法は療養保護師の労働条件と人権保護の内容が極めて不十分で、問題状況を予防したり、労働者を保護したり、問題に対する措置を執れる具体的な根拠になっていない。」「一貫した基準さえないという点で、問題が大きい」と指摘した。同時に「法令の制・改定、制度の全面的な再整備が至急に必要だ」と主張した。

イ弁護士は「暴言など人権侵害発生時に療養保護師を保護し、再発を防止するために、老人長期療養保険受給者を管理する健康保険公団に措置義務を科して、責任を強化すべきだ」と提言した。

療養保護師も明らかに労働者

究極的には療養保護師を労働者として明確に認識して、政府と機関が責任を持ってこれらの権利を保護すべきだという指摘が相次いだ。

仕事と健康のハン・インイム事務局長は「現行法上、各療養機関に登録されていて裁可療養活動をしている療養保護師は、労働者として各施設と雇用関係を構築しているので、論議の余地はない」と断言した。

合わせて「勤労基準法、産業安全保健法、最低賃金法、労働組合法など、様々な労働者保護法が作動している。労働者はこの法の保護を受けるべきだ。保護の主体は国と療養機関」と強調した。

更に「しかし、労働者は勤労基準法や産業安全保健法の保護を受けられていないことが明らかだ。代表的な事例が筋骨格系疾患、顧客などによる暴力の経験、内部管理者のいじめ、感染などに曝露していること」で、「これは勤労基準法で規制している職場内いじめ禁止条項、産業安全保健法で規制している保健上の措置の内の筋骨格系疾患、顧客応対勤労者保護条項、感染予防措置条項などを履行していないということだ」と批判した。

彼は「無法天下」だとして「取り敢えず法通りにせよ」と嘆いた。

乙支大学校看護学科のチェ・ウンヒ教授は「顧客と管理者の療養保護師に対する認識の変化が必要だ。管理者が単純に『療養保護師はいつでも換えられる人』と認識したり『無条件に我慢すべき人』と認識せず、責任を持って管理すべきだ」と強調した。続いて「保健福祉部が実質的に療養保護師を保護できる方案を用意すべきだ」とし、「センターや施設を評価する時、保健福祉部がこのような要素を反映すべきだ。そうでなければ、管理者の認識は変わらない」と指摘した。

イ弁護士は「究極的には老人ケアの体系が全面改編されなければならず、療養保護師の労働権の確保に主眼点を置いた法令の制・改定が必要だ。」「たとえば、療養保護師の地位向上のための特別法またはケア労働者に対する基本法などを制定し、国と社会が老人が人間としての尊厳を維持しながら生きていくのに必要なケアを提供する責任を負って、その公共性を保障すべき義務があることを宣言すべきだ」と提言した。

2021年6月16日 民衆の声 チェ・ジヒョン記者

https://www.vop.co.kr/A00001576614.html