【建設アスベスト訴訟】一人親方含め国の責任確定、大臣が謝罪と協議の場約束-建材メーカーの連帯責任も確定(2021年2月1日)

国の上告不受理で責任確定

2008年5月に初めて東京地裁と神奈川地裁に建設アスベスト訴訟が提起されてから12年半が経過して、ようやく国の責任が確定した。

既報のとおり、最高裁は2020年10月22日に初めて神奈川第1陣訴訟について弁論を開いたが、判決日は「おつて指定」とされたまま、いまだ指定されていない。

2018年11月号にその時点までに出された建設アスベスト訴訟に対する地裁・高裁判決の内容の比較表を示したが、その後に出されたものを含めて15の判決の内容には、様々な相違点がある。とりわけ、神奈川第1陣に対する2017年10月27日の東京高裁判決は、一人親方に対する国の責任を認めなかったことが、それ以降に出された7判決(高裁5、地裁2)と比較して、大きな違いだった。最高裁は原告・被告の多くの論点について上告を受理し、高裁判決の内容に変更が加えられることは予想されるものの、その内容や確定に至るプロセスは、判決が出されないとわからない状態であった。

2020年12月14日付けで最高裁から、東京第1陣訴訟原告・被告に対する上告受理・不受理通知が届けられた。そこで最高裁は、被告・国の上告を受理しない決定を下したのである。これによって、2018年3月14日の東京高裁判決の国の責任に関する判断が確定することになった。

原告と被告・建材メーカーらによる上告の受理された内容に関しては、2021年2月25日に弁論が開かれることになった。

確定した国の責任の内容

大阪アスベスト弁護団がウエブサイトで解説している内容に拠りながら(2021年1月17日時点)、12月14日の最高裁決定で確定した国の責任に関する主な判断内容を確認しておきたい。

① 昭和50(1975)年10月1日以降、平成16(2004)年9月30日までの間に、
② 屋内での建築作業現場で働いていた方(一人親方・中小事業主等を含む)で、
③ 石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水に罹患し、労災認定または石綿救済法認定を受けた被害者につき、
④ 国の賠償責任を認める。国の賠償額は後記の「基準慰謝料額」の3分の1である。

◎国の責任が認められた主な職種は、以下のとおりである。
大工、内装工、電工、吹付工、左官工、塗装工、タイル工、配管工、ダクト工、空調設備工、鉄骨工、溶接工、ブロック工、保温工、鳶工、墨出し工、型枠大工、解体工、はつり工、築炉工、エレベーター工、サッシ工、シャッター工、電気保安工、現場監督

とりわけ最高裁で一人親方等も含めた国の責任が確定したことはきわめて画期的で、被害者救済を大きく前進させるものである。

国の責任について再び確定

続いて2021年1月29日に、最高裁の京都第1陣訴訟の原告・被告に対する決定が通知された。今回は、原告1名についての被告国及び建材メーカー2社の上告が受理されただけで、原告からのものを含め他の上告は受理されなかった。

上告が受理された原告は屋外作業に従事していた方(屋根工)で、国・メーカーの責任を認めた京都第1陣大阪高裁判決の判断に関して、3月22日に最高裁で弁論が開かれることになった(東京第1陣東京高裁判決は、屋外作業者についての国・メーカーの責任を認めていない)。

上記以外の、一人親方等も含めた国の責任を認めた2018年8月31日の大阪高裁判決は確定した。新たに吹き付け作業者との関係では昭和47(1972)年1月1日から、国の責任が確定している。

国の賠償額が「基準慰謝料額」の3分の1という割合は同じであるが、東京第1陣東京高裁判決(下記の前者)と京都第1陣大阪高裁判決(後者)が示した「基準慰謝料額」は以下のように異なっていた。異なる額のまま各々確定させて、最高裁がそれ以上の判断をしないとしたら、今後の事例の取り扱いも含めて何らかの調整が不可欠だろう。

<基準慰謝料額>【※1】
石綿肺(管理区分2・合併症あり):1300万円/-
石綿肺(管理区分3・合併症あり):1800万円/-
石綿肺(管理区分4)、良性石綿胸水:2200万円/-
肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水:2200万円/2,300万円
上記による死亡:2500万円/2,600万円

建材メーカーの連帯責任も確定

さらに、1月29日の最高裁の決定によって初めて、用途を同じくする建材で一定のシェアがあった建材メーカーの連帯責任(共同不法行為責任)も確定した。今回責任が確定した建材メーカーは、吹き付け材、ボード等の石綿含有建材を製造・販売していたエーアンドエーマテリアル、太平洋セメント、ニチアス、日鉄ケミカル&マテリアル、大建工業、ノザワ、エム・エム・ケイ、バルカー、の8社である。

今後、2018年9月20日の大阪第1陣訴訟に対する大阪高裁判決についての最高裁の同様の決定も遠からず示されると思われる。この判決は、「基準慰謝料額」もまた少し異なり、国の責任割合も3分の1ではなく2分の1としている。国の責任については製造等禁止に関しても認め、また、建材メーカーの責任を認める要件についても違いがある。これらに対する判断が示されることによって、最高裁の考える国と建材メーカーの責任の枠組みがさらに明らかになるだろう。そして、いずれかの時点で最高裁の判決も示される。建設アスベスト訴訟は正真正銘の山場を迎えている。

原告団・弁護団らは、2月25日と3月22日の最高裁弁論に向けて準備を進める一方で、建設アスベスト訴訟全国連絡会として「建設工事従事者に対する石綿被害補償基金制度」を提案してその実現をめざしており、私たちも支援している。

東京原告団・弁護団らの声明

12月14日の最高裁の新たな決定に至る前後の動きを、簡単に紹介しておきたい。

2020年11月27日には、全国の建設アスベスト訴訟の原告団・弁護団・支援者が、すでに弁論が行われた神奈川1陣訴訟の早期判決をはじめ、最高裁第一小法廷に係属中のすべての事件(神奈川、東京、京都、大阪の各1陣訴訟)の早期の審理と判決を求め、最高裁に要請を行った。

12月17日、首都圏建設アスベスト訴訟の原告団、弁護団、統一本部は、最高裁が国の上告受理申立を退け、国の賠償責任が確定させた決定を受けて、記者会見を開いた。以下は発表された「最高裁決定を受けた原告団・弁護団の声明」の内容である。

「1 2020年12月14日、最高裁判所第1小法廷(深山卓也裁判長)は、首都圏建設アスベスト(東京)第1陣訴訟(一審原告359名)において、一審被告国が申し立てた上告を不受理とするとともに、一審原告らの上告受理申立のうち、一審被告国に対する関係については、一人の原告を除き上告不受理とし、一審被告建材メーカーらに対する関係では、334名の原告(被災者数308名)の上告を受理した(一審被告メーカー12社)。
これにより、一審被告国との関係では、原審の東京高等裁判所第10民事部(大段享裁判長)判決(認容額22億8147万6351円)が確定し、建材メーカーとの関係では、その賠償責任を全否定した同判決が見直されることとなった。

2 国の責任について
これにより、1975(昭和50)年10月1日(改正特化則施行日)以降2004(平成16)年9月30日(改正安衛令施行日前日)までの間、事業主に対し、吹付け工を含む屋内作業者が石綿粉じん作業に従事するに際し防じんマスクを着用させければならない義務を罰則をもって課すとともに、これを実効あらしめるため、石綿含有量重量比5%以下のものを含め建材への適切な警告表示(現場掲示を含む。)を義務付けるべきであったにもかかわらず、これを怠った国の責任が確定した。
また、労働者とともに建設現場において、石綿粉じん作業に従事する一人親方及び中小事業主で労災保険特別加入制度の加入資格を有する者(解体作業に従事する者を含む)に対する国の責任も確定した。
なお、一審被告国に対する一審原告の上告が受理された一審原告1名(原判決で敗訴した者)についても対建材メーカーとともに2021年2月25日に弁論が開かれることになっているため、国の責任を否定した原判決が見直されることは間違いない。

3 建材メーカーらの責任について
原判決は、国交省データベースや一審原告らが提出したシェア資料の信用性を否定し、また建材使用の偶然性をも否定する判断をすることで、建材メーカーらの共同不法行為の成立を否定した。
一審原告らは、原判決の上記の判断は誤りであり、建材メーカーらは加害者不明の共同不法行為(民法第719条1項後段の類推適用)の責任を負うべきであるとして上告受理申立をした。最高裁はこの一審原告らの上告を受理し、弁論期日を2021年2月25日午後2時に指定した。
したがって、最高裁が、上記の共同不法行為を否定した原判決を変更し、一審原告ら(被災者)が石綿関連疾患に罹患した主な原因である主要曝露建材について高いシェアを有する建材メーカーらの共同不法行為責任を認める判決を言い渡す可能性が十分にあると考えられる。

4 国は建設アスベスト被害者に謝罪し、全ての建設アスベスト訴訟を早期に解決するとともに、建設アスベスト被害者補償基金を創設せよ
原判決は2018年3月14日に言い渡されたが、この時点で国は8連敗しており、国の責任は不動のものとなっていた。そこで、一審原告らは、原判決直後に、国に対し、原判決を真摯に受け止め、無用な上告をせずに本件を早期全面解決をするよう申し入れたが、国は、不当にも上告受理申立を行った。その結果、判決の確定が2年半以上も延び、その間に19名もの原告が、解決を見ることなく亡くなった。
国の連敗により原判決の結論が覆る可能性がほとんどないにもかかわらず、一審原告らの切実な訴えにも耳を貸さず、不当な上告受理申立を行って解決の引き延ばしを図った国の責任はきわめて重く、厳しく批判されなければならない。
今回、最高裁の決定により建設アスベスト訴訟における国の責任が初めて確定した。しかも、一人親方及び中小事業主に対する国の責任も確定した意義はきわめて大きい。現在、本件を含め6件の同種事件が最高裁に係属するほか、3高裁、9地裁にも事件が係属しており(被災者原告数は933名(2020年8月31日現在))、今回の最高裁の決定は、本事件だけでなく、これらすべての事件における国の責任を確定させる意義を有している。
2008年5月16日に本件が東京地裁に提訴されてからすでに12年半が経過した。現在までの間に国は14件連続で敗訴判決を受けている。全国の原告弁護団は、判決が出るたびに国に対し、早期全面解決を求めてきたが、国は、これを拒否し続けてきた。
本最高裁決定により国の法的責任が確定した以上、解決の引き延ばしは許されない。すでに7割以上の被災者原告が死亡している現状を踏まえ、国は、直ちに原告ら被害者に真摯に謝罪するとともに全ての建設アスベスト訴訟を早期に全面解決すべきである。
また、アスベスト関連疾患による労災認定者は毎年1000名を超え、建設業が過半数を占めている。これらの被害者についても国は同様に救済すべき義務を負っており、早期救済を実現するためには、『建設アスベスト被害者補償基金』を創設することが求められている。そのために国は速やかに原告らとの協議のテーブルに着くことを決断すべきである。
そして、建材メーカーらも、早期全面解決の立場に立ち、速やかに基金制度創設に同意するとともに国に積極的に働きかけるべきである。
今回の最高裁決定は、すべての建設アスベスト被害者の救済とアスベスト対策の礎となるものである。私たちは、建設アスベスト被害者の完全救済とアスベスト被害の根絶のため、全国の被災者、労働者、市民と連帯して、新たな一歩を踏み出す決意である。」

厚生労働大臣の謝罪表明

12月18日、建設アスベスト訴訟で国の責任を認める司法判断が最高裁で確定したことを受け、田村憲久厚生労働大臣が記者会見で「原告の方々に対しては、責任を感じ、深くお詫び申し上げたい」と謝罪した。以下は、厚生労働省ウエブサイトから。

「大臣:まず私から1点目ですが、建設アスベスト訴訟についてです。12月14日に最高裁は、東京1陣建設アスベスト訴訟に係る国の上告受理申し立てを受理しないということを決定いたしました。
一部原告の方を除いて、本訴訟において国の責任を一部認めた東京高裁判決が確定いたしました。国の責任が認められたということでございまして、国の責任が認められた原告の方々に対しては、責任を感じ深くお詫び申し上げたいと思います。
同高裁判決を踏まえて、適切に対応していきたいと思っております。

記者:建設アスベスト訴訟の件で伺います。昨日原告側が記者会見を開かれまして、原告の一人がこの最高裁までの12年半の間に198人の原告の方が亡くなられたということをご指摘されました。まず、この原告の方が裁判の間に亡くなられているということについての受け止めと、国の責任が最高裁で確定した以上、早期救済を求めるということで、政治解決、被害者補償基金の創設を求められましたが、そのことについてのご所見をお願いします。
大臣:本当に国の責任が認められた皆さま方に関しては、本当に申し訳ないという思いでいっぱいです。こういう形で年月をかけて最終的に判決が出たわけで、国としてこの判決自体を重く受け止めなければならないと思っています。
今基金の話等ございましたが、具体的にまだ直接お話をお聞きしているわけではありませんし、それぞれ与党には与党で議員連盟等もありますので、いろいろなお話をされているのかも分かりません。
私も真摯にお話をお伺いさせていただく中で、どのような対応があるのかということは検討していきたいと思います。
記者:重ねて、他にも同種訴訟が全国の裁判所で継続中ですが、今後そういった他の訴訟へのご対応についてはどのようにお考えでしょうか。
大臣:今回の判決の内容を精査した上でどうしていくべきかということを考えていかなければならないと考えております。」

原告代表ら直接大臣に解決要求

12月23日には、首都圏建設アスベスト訴訟の原告団、弁護団、統一本部の代表が、厚生労働省で田村厚生労働大臣と面会し、国の責任が確定したことを受けて、原告らの解決要求書を手渡した。
田村大臣は、「防じんマスクの着用の義務づけなど、国に規制権限がありながら適切に実行してこなかったことは、大変重く受け止めている。深くおわびを申し上げる」と述べた。また、原告らが建設石綿被害者救済基金の創設を求めていることを踏まえ、新たに協議の場を設けて被害者の救済のあり方を検討していく考えも示した。

以下は、「建設アスベスト東京第1陣訴訟勝訴判決確定による国に対する原告らの解決要求書」の内容である。

「1 要求の趣旨
(1)謝罪
国は、石綿含有建材使用により建設作業従事者が重篤な石綿関連疾患に罹患する被害の発生と拡大を防止せず、また解決を長引かせた責任を認め、上記訴訟原告らを含むすべての建設アスベスト被害者に対し、真摯に謝罪すること。
(2)賠償金の支払い
国は、最高裁判所の決定により責任が確定した建設アスベスト被害者原告らに対し、東京高裁判決に基づき賠償を行うこと。また、現在係属している建設アスベスト訴訟を早期に和解解決し賠償金を支払うこと。
(3)建設アスベスト被害補償基金制度の創設
国は、建設アスベスト被害補償基金制度を創設すること。そのために原告団、弁護団及び統一本部の代表らとの協議の場を設けること。
(4)建設現場での石綿粉じん曝露防止対策の強化
国は、今後の建築物の改修、補修及び解体等の作業から建築作業従事者並びに近隣住民等に石綿粉じんによる健康被害が発生しないように、最新の科学的知見・技術進歩を踏まえて万全の石綿粉じん曝露防止対策措置をとること。
(5)石綿関連疾患医療体制の整備・治療法の研究開発
国は、石綿関連疾患治療の医療体制を十分に整備し、その治療法の研究開発のための十分な予算措置をとること。

2 要求の理由
最高裁判所は、本年12月14日、東京第1陣訴訟について、一審被告国が申し立てた上告を不受理としました。また、一審原告らの上告受理申立のうち、一審被告国に原判決で敗訴した一審原告のうち1名の上告を受理しました。この1名については、2021年2月25日に弁論が開かれることになっているため、この1名を敗訴させた原判決が見直されることは間違いありません。
この最高裁決定により、一審被告国との関係では、上記1名の一審原告を除き、原審の東京高等裁判所第10民事部(大段享裁判長)の勝訴判決(認容額22億8147万6351円)が確定しました。すなわち、国が建築作業従事者の石綿粉じん曝露を防止するために、建築作業従事者(労働者のみならず一人親方及び中小事業主を含む)を使用する事業者及び石綿含有建材製造業者に対して、安衛法等の労働保護法令に基づく規制権限を適時にかつ適切に行使すべきであったにもかかわらず、これを怠ったとして、国賠法1条1項に基づき、国に対して損害賠償の支払いを命じた判決が確定したものです。
建設アスベスト被害者は、厚生労働省が公表している統計によれば、労災及び石綿救済法に基づく認定者が8700名近くに及び、今後も毎年600名前後が20年以上にわたり新たに認定されることが見込まれ、その数は2万名を上回るとも予想されています。
また、国は、2012年12月5日の東京第1陣東京地裁判決から2020年9月の東京第2陣東京地裁判決まで、5つの高裁判決を含め、14回にわたり賠償責任が認められたにもかかわらず、徒に上訴して争い続け、解決を引き延ばしてきました。その結果、全国の訴訟原告のうち7割以上の被害者が解決を見ずに亡くなっています。
このように国の責任はきわめて重大であり、国は東京第1陣訴訟原告らを含む全ての建設アスベスト被害者に対し、加害者として深甚なる反省に基づき真摯な謝罪がなされて然るべきです。
また、上記最高裁決定により国の賠償責任が確定したので、同事件の原告らに対して速やかに賠償すべきは当然です。また、これにとどまらず、国の法的な責任内容が確定したのですから、これまで全国で起こされている全ての建設アスベスト訴訟の原告らについても早期に和解解決を図るべきです。
私たちは、国に対し、8000名近くに及ぶ未提訴の認定者及び今後発症する建設アスベスト被害者全員を救済するための方策を確立すべきことを求め、『建設工事従事者に対する石綿被害補償基金制度』の創設を求めます。国は、私たちが求める石綿被害補償基金制度の創設に向けて、私たちとの協議の場を直ちに設けることを要求するものです。
今後も、石綿含有建材の建築物の改修、補修及び解体等の作業は不可避です。この改修、補修及び解体等の作業によって、建築作業従事者及び近隣住民等が石綿粉じんに曝露させる危険性がきわめて高い。その石綿粉じんの発生、飛散を防止するために、最新の科学的知見・技術進歩を踏まえて、万全の石綿粉じん曝露防止対策措置をとるよう対策の強化を求めます。
最後に、石綿関連疾患に苦しむ被害者にとって、全国どこでも、十分な石綿疾患の治療を受けられる医療体制の提供と整備、不治とされる石綿関連疾患の治療法の研究・開発は何よりもの喫緊の要求です。そのための医療体制の整備と予算措置をとることを求めます。」

京都原告団・弁護団らの声明

1月29日には、関西建設アスベスト訴訟の原告団、弁護団、統一本部、全京都建築労働組合連名で、以下の内容の「声明」を発表した。

「1 2021年1月28日、最高裁判所第1小法廷(深山卓也裁判長)は、関西建設アスベスト京都1陣訴訟(被災者25名、一審原告27名)において、一審被告国の上告受理申立について、被災者1名(屋外工)に対する関係を除いて不受理とするとともに、一審被告企業のうち原審で責任が認められた10社の上告及び上告受理申立については、2社(クボタ、ケイミュー)を除き、8社(A&A、太平洋セメント、ニチアス、日鉄ケミカル、大建、ノザワ、MMK、日本バルカー)につき上告棄却・不受理と決定した。
これにより、一審被告国の責任について、原審の大阪高等裁判所第4民事部(田川直之裁判長)判決が、被災者25名中24名に対する関係で確定した(国の確定賠償額は総額1億7933万円余り)。また建材企業の責任については、被災者25名中21名との関係で、8社の責任が確定した(確定賠償額は総額1億0360万円余り)。
今後、上告が受理された点に関して、本年3月22日午後1時30分から上告審の弁論が行われる予定である。

2 国の責任について
首都圏建設アスベスト東京1陣訴訟における最高裁の2020年12月14日付上告不受理決定により、本件における国の規制権限不行使の責任が確定したが、それに続く本決定により、そのことはより一層明確となった。また建築労働者と等しく現場で働き,等しく被害を受けた一人親方や零細事業主に対する関係でも、国の規制権限不行使の責任がより明確となった。さらに京都1陣訴訟の被災者25名中ほぼ全員の24名の救済を認めたことも積極的に評価できる。
違法期間や違法事由の範囲等に関する最高裁の具体的判断は、現時点では不明であるが、最高裁には救済範囲をできる限り拡大する方向での積極的判断を求めたい。

3 建材メーカーらの責任について
本決定により、主要なアスベスト建材企業である8社について、石綿の危険性を知りながら利益のために適切な警告を尽くさずに、製造・販売を続けたことの共同不法行為責任を認めた大阪高裁判決が確定した。責任が確定した8社は、シェア上位企業であり、その責任が確定したことは、今後の被害者救済にとって大きな意義がある。上告が受理された2社はいずれも高裁判決において、屋外工に対する賠償責任が認められた企業であり、その意味では、屋外工に対する関係を除いて、建材企業の警告義務違反に基づく共同不法行為責任はこれで決着した。建材企業の共同不法行為責任が最高裁で確定したのは初めてであり、今後の被害救済につながる大きな成果と言える。

4 屋外作業について
最高裁は、屋外工(屋根工)1名との関係で、平成14年1月1日以降の国と企業の責任を認めた大阪高裁判決を見直す可能性がある。しかし建設現場における石綿粉じん曝露の危険性は屋内外で本質的に異なるところはない。その点は海外の規制を見ても明らかであり、屋外作業を規制対象から除外することはできない。この点は、今後上告審において最高裁に強く訴えていきたい。

5 全ての被害者への謝罪と償い、早期解決を
2008年5月16日に首都圏建設アスベスト訴訟が東京地裁に提訴されてからすでに12年8か月、2011年6月3日に京都1陣訴訟が京都地裁に提訴されてから9年7か月が経過した。その間に、多くの被害者が解決を見ることなく亡くなっている。国も企業も責任が確定した今、これ以上の解決の引き延ばしは許されない。早期全面解決に踏み出すべきである。
私たちは、国と企業に対し、第1に京都訴訟の原告ら被害者に真摯に謝罪するよう求める。第2に全ての建設アスベスト訴訟の早期全面解決と被害者への公正な償いを求める。第3に、建設アスベスト被害者補償基金の創設等の抜本対策を講ずるよう強く求める。
私たちは、建設アスベスト被害者の完全救済とアスベスト被害の根絶のため、全国の被災者、労働者、市民と連帯して、引き続き奮闘する決意である。」

安全センター情報2021年3月号

【建設アスベスト訴訟の新展開】謝罪・統一基準による和解から、未提訴者救済金制度創設へ-建材メーカーの責任追及継続は課題(2021.5.25)

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