首都圏建設アスベスト訴訟神奈川一陣差戻審東京高裁判決2023年5月31日

判決要旨

東京高裁第2民事部-裁判長・渡部勇次、(代読・谷口園恵)、湯川克彦、津田久文

控訴人(一審原告)-Aほか27名

被控訴人(一審被告)-株式会社エーアンドエーマテリアル、ニチアス株式会社、株式会社エム・エム・ケイ、大建工業株式会社、太平洋セメント株式会社、株式会社ノザワ

第1 主文要旨

1 被控訴人エーアンドエーマテリアル、被控訴人ニチアス及び被控訴人エム・エム・ケイは、控訴人3名(被災者単位で1名)に対し、連帯して、合計759万円及びこれに対する遅延損害金を支払え。
2 被控訴人太平洋セメントは、控訴人19名(被災者単位で12名)に対し、総額9608万8664円及びこれに対する遅延損害金を支払え。
3 控訴人らの被控訴人らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

第2 事案の概要

主に神奈川県内の建設作業従事者である被災者又はその遺族である控訴人ら28名(被災者単位で18名)が、建材メーカーである被控訴人ら6社に対し、石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示することなく石綿含有建材を製造販売したことにより、被災者が石綿肺、肺がん、中皮腫等の石綿関連疾患にり患したと主張して、総額6億9300万円(被災者1人当たり一律に慰謝料3500万円、弁護士費用350万円の合計3850万円)の損害賠償を請求した事案。
本判決の対象となった被災者(上告審で確定した大工以外の電工、塗装工、配管工、板金工など)の請求は、一審判決及び差戻前控訴審判決で請求が棄却されたが、上告審判決(令和3年5月17日)において、当審に審理を差し戻されたものである(なお、当審において、①国との訴訟上の和解が成立し、②口頭弁論終結後に控訴人4名と被控訴人ノザワとの間で和解が成立した。)。

第3 当裁判所の判断

1 建材メーカーの注意義務違反(表示義務違反)【差戻前控訴審判決と同旨】

石綿含有建材は、石綿が有する不燃性、耐熱性、断熱性、防音性、絶縁性などの数々の特性を備え、建築物の安全性及び居住性等を高める有用性が認められる一方、建設作業従事者がこれを取り扱う際に石綿粉じんを飛散させ、人体に有害な影響を及ぼすおそれがあることから、石綿含有建材を製造販売する者は、製品の安全性確保義務の一態様として、製品に内在する危険の内容及び回避手段を当該建材に表示する義務を負うと解される。
昭和47年頃には石綿粉じんのばく露と肺がん及び中皮腫の発症との因果関係について医学的知見が確立したと認められること、昭和50年4月1日に石綿等が労働安全衛生法57条に基づく表示義務の対象となるなど、石綿の発がん性に着目した規制がされたこと等に鑑みると、建材メーカーは、吹付け材については昭和48年以降、吹付け材以外の屋内で使用される石綿含有建材については昭和50年4月1日以降、使用者が当該石綿含有建材を適切に使用してその危険を回避することができるよう、製品に必要かつ適切な表示を行う義務を負っていたというべきである(ただし、当該建材が使用される建物の改修工事や解体工事において、当該建材の撤去、廃棄作業に従事する者に対してまで表示義務を負うということはできない。)。
被控訴人らは、屋内で使用される石綿含有建材を製造販売する際に上記の表示をしていなかったから、表示義務違反があると認められる。

2 建材メーカーの共同不法行為責任の成否

(1) 本件被災者らの石綿粉じんぱく露の主要な原因となった石綿含有建材のうち特定の被控訴人が製造販売したものが、当該被災者が稼働する建設現場に相当回数にわたり到達して用いられていると推認できる場合には、当該被災者が上記石綿含有建材を直接取り扱ったことによる石綿粉じんぱく露量は、各自の石綿粉じんばく露量全体の一部であり、また、当該被控訴人が個別に本件被災者らの石綿関連疾患の発症にどの程度の影響を与えたのかは明らかでないなどの諸事情があることに鑑み、被害者保護の見地から、民法719条1項後段の類推適用により、当該被控訴人は、こうした事情等を考慮して定まるその行為の損害の発生に対する寄与度に応じた範囲で損害賠償責任を負うというべきである【上告審判決同旨】。

(2) 本件被災者らは、長期間にわたり多数の建設現場において建設作業に従事しており、建設現場では様々な種類の石綿含有建材が使用され、石綿関連疾患は、石綿粉じんぱく露の累積により長期間の潜伏期間を経て発症することなどの事情があることから、本件被災者らが実際に取り扱った石綿含有建材を具体的に特定して立証することは現実的には困難である。このような事案の特質に鑑みると、控訴人らが主要ばく露建材として特定した建材が、各被災者の職種、作業内容、作業歴、建材の製造期間などからみて、現場において通常使用される建材であることの裏付けがあり、特定された建材メーカーの製品のシェアに相応の根拠が認められ、当該被災者がその建材の製造期間において作業に従事した現場数が多数であるときは、これらに基づく確率計算に依拠して建材の到達とその頻度を推定することも、これを否定すべき特段の事情がない限り、合理性があるというべきである。
特定の建材メーカーの製造販売する製品のシェアが大きくなるほど、また被災者の稼働した現場数が多くなるほど、当該製品が被災者の稼働した現場に到達する頻度及びその蓋然性は高くなるということができ、概ね10%のシェアを継続的に有すると認められる建材メーカーの製品については、被災者が従事した現場数によっては、現場到達事実を推認することができる場合があるというべきである。

3 電工を主たる職種とする被災者について

(1) 被災者B、C、Dについて(被控訴人太平洋セメントに対する請求)
上記被災者3名については、建設工事での耐火被覆を用途とする石綿含有吹付け材(吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウール、湿式石綿含有吹付け材)が主要ばく露建材になるものと認められる。
被控訴人太平洋セメントは、石綿含有吹付けロックウールを製造販売しており、昭和50年から昭和53年までの間、吹付けロックウール(乾式、湿式)全体の15%余り、耐火被覆用に限定すれば25%程度のシェアを有していたものと推認することができ、その製造販売した製品が、相当回数にわたり上記被災者3名の稼働する建設現場に到達したものと推認することができる。
したがって、上記被災者3名との関係で、被控訴人太平洋セメントは、その行為の損害の発生に対する寄与度に応じた範囲で損害賠償責任を負うというべきである。

(2) 被災者Eについて(被控訴人エーアンドエーマテリアル、被控訴人ニチアス、被控訴人エム・エム・ケイ、被控訴人大建工業及び被控訴人ノザワに対する請求)
上記被災者については、本件ボード三種(石綿含有スレートボード・フレキシブル板、石綿含有スレートボード・平板、石綿含有けい酸カルシウム板第1種)が主要ばく露建材になるものと認められる。
本件ボード三種について、昭和50年4月から平成4年まで、被控訴人エーアンドエーマテリアルは約30%、被控訴人ニチアス及び被控訴人エム・エム・ケイはそれぞれ10%程度のシェアを有していたものと推認することができるが、被控訴人ノザワ及び被控訴人大建工業は、表示義務を負う昭和50年4月以降まとまったシェアを有し続けたと推認することはできない。
そうすると、被控訴人エーアンドエーマテリアル、被控訴人エム・エム・ケイ及び被控訴人ニチアスの製造販売した製品が、上記被災者の稼働する建設現場に相当回数にわたって到達した事実を推認することができる。他方で、被控訴人ノザワ及び被控訴人大建工業の製造販売した製品が到達した事実を推認することはできない。
したがって、上記被災者との関係で、被控訴人エーアンドエーマテリアル、被控訴人ニチアス及び被控訴人エム・エム・ケイは、その行為の損害の発生に対する寄与度に応じた範囲で連帯して損害賠償責任を負うというべきである。他方で、被控訴人大建工業及び被控訴人ノザワが共同不法行為責任を負うとする控訴人らの主張は理由がない。

4 塗装工を主たる職種とする被災者について

(1) 被災者F、G、Hについて(被控訴人太平洋セメント及び被控訴人ノザワに対する請求)
ア 上記被災者3名については、建設工事での石綿含有吹付け材が主要ばく露建材になるものと認められる。
前記3(1)と同様、被控訴人太平洋セメントの製造販売した製品が、相当回数にわたり上記被災者3名の稼働する建設現場に到達じたものと推認することができる。他方で、被控訴人ノザワについては、表示義務を負う昭和48年以降、石綿含有吹付け材について概ね10%のシェアを継続的に有していたと認めるに足りる証拠はなく、到達の事実を推認することはできない。
イ 控訴人らは、混和材も上記被災者3名の主要ばく露建材になると主張する。
しかし、塗装工はモルタルを作る作業に携わるものではなく、モルタルを作る際に原料と混和材を混練したとしても、これを塗ったモルタル壁の表面を平滑にする作業で、混和材に由来する石綿粉じんがどの程度発生するのかを認めるに足りる的確な証拠はないことから、塗装工について一般的に混和材からの石綿粉じんばく露量が大きいものと認めるのは困難である。
ウ したがって、上記被災者3名との関係で、被控訴人太平洋セメントは、その行為の損害の発生に対する寄与度に応じた範囲で損害賠償責任を負うというべきである。他方で、被控訴人ノザワが共同不法行為責任を負うとする控訴人らの主張は理由がない。

(2) 被災者Iについて(被控訴人エーアンドエーマテリアル、被控訴人ニチアス、被控訴人エム・エム・ケイ、被控訴人大建工業及び被控訴人ノザワに対する請求)
控訴人らは、混和材及び本件ボード三種が上記被災者の主要ばく露建材になると主張する。
しかし、混和材については前記(1)イのとおりであり、ボード類についても、塗装の下地調整作業でボード自体から発生する粉じん量はそれほど大きくないことがうかがわれ、塗装工について一般的に本件ボード三種からの石綿粉じんぱく露量が大きいものと認めるのは困難である。
したがって、混和材及び本件ボード三種が上記被災者の主要ばく露建材になるとは認められず、上記被災者との関係で、被控訴人エーアンドエーマテリアル、被控訴人ニチアス、被控訴人エム・エム・ケイ、被控訴人大建工業及び被控訴人ノザワが共同不法行為責任を負うとする控訴人らの主張は理由がない。

5 配管工を主たる職種とする被災者について(被控訴人太平洋セメントに対する請求)

(1) 被災者J、K、L、M、Nの5名については、建設工事での石綿含有吹付け材が主要ばく露建材になるものと認められる。
前記3(1)と同様、被控訴人太平洋セメントの製造販売した製品が、相当回一数にわたり上記被災者5名の稼働する建設現場に到達したものと推認することができる。
したがって、上記被災者5名との関係で、被控訴人太平洋セメントは、その行為の損害の発生に対する寄与度に応じた範囲で損害賠償責任を負うというべきである。

(2) 他方で、被災者O、P、Qの3名については、その稼働状況に照らせば、被控訴人太平洋セメントの責任期間である昭和50年から昭和53年までの聞に、吹付け材が使用されている鉄骨造建物及び鉄筋コンクリート建物の建設工事に相当数従事した事実を認めることはできず、被控訴人太平洋セメントの製造販売した製品が、相当回数にわたりその稼働する建設現場に到達したものと推認することは困難である。
したがって、上記被災者3名との関係で、被控訴人太平洋セメントが共同不法行為責任を負うとする控訴人らの主張は理由がない。

6 板金工(空調用ダクト専門)を主たる職種とする被災者Rについて(被控訴人太平洋セメントに対する請求)

上記被災者については、建設工事での石綿含有吹付け材が主要ばく露建材になるものと認められる。
前記3(1)と同様、被控訴人太平洋セメントの製造販売した製品が、相当回数にわたり上記被災者の稼働する建設現場に到達したものと推認することができる。
したがって、上記被災者との関係で、被控訴人太平洋セメントは、その行為の損害の発生に対する寄与度に応じた範囲で損害賠償責任を負うというべきである。

7 鉄骨工を主たる職種とする被災者Sについて(被控訴人太平洋セメントに対する請求)

鉄骨工は、一般的に、建設工事において吹付け材による石綿粉じんにばく露する。しかし、上記被災者については、被控訴人太平洋セメントの責任期間である昭和50年から昭和53年までの間に従事した建設現場の数や、新築工事と改修・解体工事の割合を認めるに足りる的確な証拠はなく、鉄骨工の作業内容に照らすと、建材メーカーが表示義務を負わない改修・解体工事における鉄骨の切断等の作業による石綿粉じんぱく露の機会が多いとみられることに照らせば、相当回数の現場到達を推認することができると認めることは困難である。
したがって、上記被災者との関係で、被控訴人太平洋セメントが共同不法行為責任を負うとする控訴人らの主張は理由がない。

8 控訴人らの損害額

(1) 本件被災者について慰謝料の基準となる額は、労災認定疾患名の区分に応じて、次のとおりとするのが相当である。
ア 石綿肺(管理区分2、合併症あり) 1400万円
イ 石綿肺(管理区分3、合併症あり) 1900万円
ウ 石綿姉(管理区分4)、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚 2300万円
エ 石綿関連疾患による死亡 2600万円

(2) 前記3ないし6のとおり、被災者12名との関係で被控訴人太平洋セメントが、被災者1名との関係、で被控訴人エーアンドエーマテリアル、被控訴人ニチアス及び被控訴人エム・エム・ケイが、それぞれその行為の損害の発生に対する寄与度に応じた範囲で損害賠償責任を負うところ、上記各被災者の石綿粉じんばく露量全体のうち、自ら石綿含有建材を直接取り扱ったことによるばく露量の割合は2分の1程度であり、その中で主要ばく露建材によるばく露量の割合は3分の2程度であると認められる。
そうすると、上記各被災者が主要ばく露建材を直接取り扱ったことによる石綿粉じんばく露量は、各自の石綿粉じんばく露量全体の3分の1程度であるから、被控訴人らの行為の損害の発生に対する基本的な寄与度は3分の1とするのが相当である。

(3) 石綿肺又は肺がんにり患した被災者については、被控訴人らの責任期間が10年に満たないときは、責任期間以外の期間における石綿粉じんばく露も一定の限度で石綿肺又は肺がんの発症に寄与したとみるべきであるから、前記(2)の基本的な寄与度に応じた慰謝料の額を1割減額するのが相当である。

(4) 肺がんにり患した被災者のうち喫煙歴を有する者については、喫煙歴が石綿による肺がんのリスクを相乗的に高め、肺がん発症に一定の影響を与えていることは否定し難いことから、民法722条2項を類推適用して、慰謝料額の1割を減額するのが相当である。

(5) 以上の判断を踏まえ、被災者ごとの損害額は、①各被災者の労災認定疾患名の区分に応じて基準慰謝料額を定め、②被控訴人らの基本的な寄与度3分の1を乗じ、③被控訴人らの責任期間に応じた修正(1割減額)又は被災者の喫煙歴による修正(1割減額)があるときには、その修正をし(なお、両方の修正があるときは、まず1割減額した後、その残額について更に1割減額する。)、④以上により算定した慰謝料額に対して弁護士費用1割を加算することにより算定する。

差戻審和解に際しての声明

2023年5月19日
首都圏建設アスベスト訴訟原告団/弁護団/統一本部/建設アスベスト訴訟全国連絡会

1 一昨年5月17日、最高裁判所は、首都圏建設アスベスト神奈川第1陣訴訟(以下「神奈川1陣訴訟」という)をはじめとした4訴訟につき、国、建材メーカーらの責任を認める判決を言い渡した。
これをふまえて国は、判決の翌日、菅首相自ら、原告団の代表らと直接面談の上、原告らに謝罪し、同日の夕刻厚労大臣が、基本合意書に調印した。
そして、現在までに、全国で大半の原告との和解が成立する一方、同年6月には、未提訴被災者に対して国の責任部分についての補償を行政手続によって行う建設アスベスト給付金法が成立し、本年4月時点で既に3900名余の救済が実現するに至っている。

2 これに対して建材メーカーらは、最高裁で責任が確定した原告に対して、三下り半の謝罪文を送付するのみで、原告らの直接の面会の上で謝罪を求める要請も一切拒否している。
のみならず、裁判で賠償金の支払いが確定した原告に対しては、確定判決に従い賠償金を支払うものの、訴訟や判決が確定しない限り係争中の事件に関しては、一切和解に応じることなく、全面的に訴訟上争う対応を続けており、早期迅速な解決に応じようとしない。
さらに、原告らが求めている、国が創設した給付金制度に建材メーカーらも参加して、給付金制度を拡充することの検討すらしようとしていない。

3 建設アスベスト訴訟は間もなく提訴から15年を迎え、神奈川1陣訴訟にあっては、当初の被災原告中、生存原告はわずか4名となってしまっている。
このことに象徴されるように、本件の解決は、一刻の猶予も許されない、喫緊の課題となっている。

4 こうした中、昨年11月22日、東京高裁第2民事部(渡部勇次裁判長:当時)において、最高裁から差戻しとなっていた神奈川1陣訴訟が結審するにあたり、渡部裁判長から、本件は和解による早期解決が望ましいとして、和解勧告があり、その後の和解協議の結果、本日、ノザワと左官工として建築作業に従事した者を被災者とする控訴人ら4名との間で和解が成立した。
その内容は、被告ノザワが、前記最高裁判決において、建材メーカーが製造販売した石綿含有建材が個別の被災者に相当回数にわたり到達したと認められるなどの要件の下で、建材メーカーが石綿含有建材への警告表示義務の懈怠につき民法719条1項後段の類推適用により損害賠償義務を負うと判断されたことを厳粛に受け止め、同最高裁判決等を踏まえ、控訴人らに深くお詫びし、控訴人らに対し、解決金を支払うというものである。

5 建設アスベスト訴訟において、建材メーカーとの間で和解解決をみたのは、専属下請け関係にあった原告1名との間で成立した和解を除くと、今回が全国で初めてのケースである。
今回のノザワとの和解は、ノザワが製造・販売した建材が原告ら4名の作業場に到達したことを認め、原告4名との間で不法行為責任を認めて和解したものである。他の建材メーカー5社(ニチアス、A&AM、MMK、太平洋セメント、大建工業)が和解を拒否したところ、ノザワが上記の不法行為責任を認めて和解する決断をしたことは、遅きに失したとはいえ、大いに評価できるところである。
これまで解決に背を向け続けてきた建材メーカーらの1社が和解解決に舵を切ったことは、他の建材メーカーも含めて早期和解、全面解決に向けて足を踏み出す大きな転機になるものとして歓迎するものである。

6 今後に向けて、本件訴訟で裁判所の和解勧告を無視して和解解決を拒否した上記5社をはじめとした建材メーカーらが、今回の和解解決を真摯に受け止め、早期解決のため、首都圏建設アスベスト東京訴訟をはじめとした、係属中の全ての訴訟において和解協議に誠実に応じ、給付金制度への参加と財源負担を決断することを、強く求めるものである。

差戻審判決に関する声明

2023年5月31日
首都圏建設アスベスト訴訟原告団/弁護団/統一本部/建設アスベスト訴訟全国連絡会

1 (判決の結論)

東京高等裁判所第2民事部(渡部勇次裁判長)は、本日、建設アスベスト神奈川第1陣訴訟(以下、「神奈川1陣訴訟」という。)の差戻審判決の言渡を行った。
判決は、原告28名(被災者単位18名)の内、原告22名(被災者単位13名)の請求を認容し、ニチアス、A&A、MMK、太平洋セメントに対し、総額1億367万8664円の損害賠償の支払を命じた。
ただし、判決は、原告6名(被災者単位5名)について、建材メーカーが製造、販売した建材の到達が認められないこと等を理由として、原告らの請求を棄却している。
この点、事実としては、請求が棄却された被災者らについても、他の被災者らと同じく石綿含有建材を建設現場で使用し、石綿粉じんに曝露したことは疑う余地のないことである。しかしながら、何十年も前の過去の事実の立証という、個々の被災者の努力だけでは如何ともし難い大きな壁が、被災者らの前には立ち塞がっている。
そのため、裁判所には、被災者本人には何ら責任のない大きな壁を越え、個々の被災者を救済しようとする真摯な姿勢が求められるところであるが、今回の判決には、そのような姿勢が必ずしも十分でなかったことについては、遺憾の意を表明せざるを得ない。

2 (本判決の意義)

建設アスベスト訴訟では、最高裁判所第一小法廷が、令和3年5月17日に判決を言い渡し、国及び建材メーカーに損害賠償責任が認められることを明確に示している。
その後、昨年4月28日に北海道2陣訴訟札幌地裁判決、5月30日に北海道1陣訴訟札幌高裁判決、本年3月23日に京都2陣訴訟京都地裁判決が言い渡されているが、いずれも上記最高裁判決を踏まえ、ニチアス、A&A、MMK、ノザワなどの主要な建材メーカーに損害賠償責任を認めており、このような司法判断は、完全に定着するに至っている。
その中で、東京高等裁判所第2民事部が上記最高裁判決の差戻審として、ニチアス、A&A、MMK、太平洋セメントの損害賠償責任を明確に認めたことは、これらの主要な建材メーカーの損害賠償責任を牢固たるものとするものである。
なお、ノザワとの間では、去る5月19日、左官工として建築作業に従事した者を被災者とする原告4名(被災者単位4名)について、ノザワが上記最高裁判決の判断を厳粛に受け止め、原告らに対する謝罪を行った上で、相当額を支払う内容での和解が成立しているところである。

3 (最後に)

本年6月30日をもって、神奈川第1陣訴訟の提起から満15年が経過することになる。
国との関係では、一昨年に「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が制定され、訴訟を行わずに被害者を救済する制度が創設されたことで、確実に救済の実を挙げている状況にある。
他方、建材メーカーとの関係では、先に和解に応じたノザワを別とすれば、建材メーカーらはいずれも和解協議に応じることすら行っておらず、給付金制度への参加については検討すら行っていない。
今回の判決によって損害賠償を命じられた、ニチアス、A&A、MMK、太平洋セメントは言うまでもなく、これまで石綿含有建材を製造、販売し、建築作業従事者に深刻な石綿関連疾患発症の被害を生じさせてきた建材メーカーらは、今一度、自らの責任を真正面から受け止め、完全な被害救済のために決断することを強く求めるものである。

安全センター情報2023年8月号