【情報公開】行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に基づく遺族等からの開示請求に係る対応の一部改正-建設アスベスト訴訟に対応(2021.12.1)

アスベスト(石綿)労災で亡くなった元労働者の遺族から労災支給決定等に係る情報の開示を求められた場合の厚生労働省の対応で、新通達(令和3(2021)年12月1日付け)基補発1201第1号等)が発出されていることが判明した。情報公開法によって開示された改正通達の本文は、以下のとおりである。

「標記については、令和2年3月26日付け基総発0326第2号、基監発0326第1号、基補発0326第1号、基安安発0326第2号、基安労発0326第4号により指示しているところであるが、令和3年5月17日の建設アスベスト訴訟に係る最高裁判決等を踏まえ、別添のとおり改めることとしたので、その取扱いに遺漏なきを期されたい。」

これは、前回の通達改正(2020年3月26日)で、以下のようにしていた対応を改正したものである。

「なお、建設業に従事する労働者及び一人親方等が建設現場等において石綿粉じんにばく露し、健康被害を被ったとされているいわゆる「建設型訴訟」に係る開示請求については、現在、国家賠償責任の有無について係争中であることから、上記の例とは異なるものであり、当該元労働者及び元特別加入者の遺族であって訴訟提起(予定を含む)している者からの開示請求に係る対応については、従前同様であることに留意されたい。」

新通達の発出日(2021年12月1日)に厚生労働省は、建設アスベスト給付金・追加給付金の請求手続の利便性の向上を図るためとして「労災支給決定等情報提供サービス」を開始しているが、この新通達に関する情報は公表されていない。情報提供サービスで提供される情報はきわめて簡略な内容にとどまっており、①企業相手の損害賠償請求等も検討している場合や、②その情報のみでは建設アスベスト給付金の認定が困難かもしれない場合などは、開示請求によって関係するすべての情報を入手しておくべきである。

新通達によって改正された後の通達の内容は、以下のとおりである。[編注:改正部分に下線]

平成30年6月13日付け基総発0613第1号/基補発0613第1号/基安労発0613第1号
一部改正 令和元年10月7日付け基総発1007第1号/基補発1007第1号/基安労発1007第1号
一部改正 令和2年3月26日付け基総発0326第2号/基監発0326第1号/基補発0326第1号/基安安発0326第2号/基安労発0326第4号
一部改正 令和3年12月1日付け基総発1201第1号/基監発1201第1号/基補発1201第2号/基安安発1201第1号/基安労発1201第9号
都道府県労働局労働基準部長殿
厚生労働省労働基準局総務課長/監督課長/補償課長/安全衛生部安全課長/労働衛生課長

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に基づく遺族等からの開示請求に係る対応について(周知)

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号。以下「行個法」という。)に基づいて遺族又はその法定代理人(以下「遺族等」という。)から死者の情報について開示請求が行われる場合があるが、行個法に基づく開示請求により開示を請求できる情報は、行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報に限られるものであることから、死者の情報が、遺族本人の情報でもあると解される特別な場合を除き、遺族は開示請求権を有しないものとして不開示としているところである。

一方、死者の情報が、遺族本人の情報でもあると解される特別な場合として、平成21年3月12日付けの情報公開・個人情報保護審査会の答申書(平成20年度(行個)答申第221号。別紙1参照)において、「(労災保険給付の)請求権が被災労働者の死亡により特定の者に相続されたことが明らかである場合には、当該相続人の労災保険給付の請求権の行使にかかわる情報にも該当すると解される」とされたことを踏まえ、当該労災保険給付に関わる死者の情報に関して開示しているところである。

また、大阪地裁令和元年6月5日判決(平成30年(行ウ)第75号保有個人情報不開示決定処分取消請求事件。以下「大阪地裁令和元年6月5日判決」という。別紙2参照)において、石綿工場で業務上石綿粉じんにばく露した元労働者について、当該死亡労働者に係るそれぞれの遺族(原告の母)の遺族給付等に関する各調査結果復命書等の情報は、原告が死亡労働者から相続した財産であり、死亡労働者の国に対する石綿による健康被害に係る各損害賠償請求権の発生要件が充足されているか否かを直接的に示す個人情報という性質を有するものであり、原告(原則として法定相続人たる遺族)らの「自己を本人とする個人情報」にあたるとの判断がなされたことを踏まえ、当該労災保険給付に関わる死者の情報に関して開示しているところである。

さらに、令和2年2月5日付けの情報公開・個人情報保護審査会の答申書(令和元年度(行個)答申第124号。別紙3参照)において、遺族は、「被災労働者の遺族として労働者災害補償保険法に基づく遺族補償一時金を請求し」、「その支給決定を受けた」場合であって、当該労働災害に関し、特定事業場に対する損害賠償権を取得し得る場合は、災害調査復命書は、遺族の「損害賠償請求権の存否に密接に関連する」ため、「その遺族である審査請求人を本人とする保有個人情報にも該当すると認められる」とされたことを踏まえ、死者の情報の一部に関して開示しているところである。

今般、建設アスベスト訴訟において、令和3年5月17日に、国の責任を一部認める最高裁判決が言い渡されたこと等を受け、石綿工場で業務上石綿粉じんにばく露した元労働者に加え、建設現場で業務上石綿粉じんにばく露した元労働者及び一人親方等の遺族等から行個法に基づく開示請求がなされた場合についても、下記2(2)のとおり開示することとするので周知する。各局においては、関係職員に対して改めて周知する等、下記に基づく対応を徹底されたい。

1 行個法に基づく遺族の開示請求に関する原則

行個法に基づく開示請求権については、行個法第12条第1項において、「行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる」と規定されており、下記2で述べる場合を除き、死者の情報は、遺族を本人とする保有個人情報とは解されないことから、遺族は死者の情報について行個法に基づく開示請求権を有していない。従って、行個法に基づく遺族等による死者の情報の開示請求については、原則として不開示で対応すること。

2 例外的に開示する場合

(1)遺族が労災保険給付を受給していた場合

平成21年3月12日付けの情報公開・個人情報保護審査会の答申書(平成20年度(行個)答申第221号)の判断を踏まえ、死者が労災保険給付を受けていた疾病等に関して遺族として労災保険給付を請求し、支給を受けている又は過去に受けたことがある場合は、当該労災保険給付に関わる死者の情報に関しては、遺族も開示請求権を有していると解し、開示すること。

また、令和2年2月5日付けの情報公開・個人情報保護審査会の答申書(令和元年度(行個)答申第124号)の判断を踏まえ、労働災害の被災労働者の死亡後、被災労働者の遺族として労働者災害補償保険法に基づく遺族補償を請求し、支給決定を受けている又は過去に受けたことがある場合であって、当該請求人が損害賠償請求権を取得し得る場合は、当該労働災害に関する監督復命書、災害調査復命書、安全衛生指導復命書及び労働者死傷病報告(以下「監督復命書等」という。)に関しては、遺族も死者の情報について開示請求権を有していると解し、開示すること。また、当該労働災害に関するじん肺管理区分の決定、健康管理手帳の交付決定等に係る決裁文書一式及び当該決定等を通知した文書についても、監督復命書等と同様に、遺族の損害賠償請求権の存否に密接に関連するものとして、開示すること。

なお、例外的に遺族が死者の情報について開示請求権を有すると認められる場合であっても、死者の情報全てについて開示請求権があると解されるものではなく、その範囲は、上記の死者の情報に限られることに留意すること。
(※)開示対象文書について判断に迷う場合には、本省担当課に相談すること。

(2)遺族が工場型・建設型アスベスト訴訟を提起(予定を含む)している場合(1)の場合を除く)

大阪地裁令和元年6月5日判決を踏まえ、石綿工場で業務上石綿粉じんにばく露した元労働者並びに建設現場で業務上石綿粉じんにばく露した元労働者及び一人親方等の遺族(原則として法定相続人(※)が和解手続のために国に対して損害賠償請求訴訟を提起している又は予定している場合等には、国に対する石綿による健康被害に係る各損害賠償請求権の発生要件が充足されているか否かを直接的に示す個人情報であり、遺族も開示請求権を有していると解し、開示すること。具体的には、労災保険給付の支給決定のために作成した調査結果復命書及び添付書類並びにじん肺管理区分の決定及び健康管理手帳の交付決定等に係る決裁文書一式及び当該決定等を通知した文書が想定される。

その場合、当該訴訟を提起(予定を含む)しているかを確認するため、和解手続に係る訴状の写し、提訴前予告通知、その他提訴する意向がある旨を書面で提出させることにより、上記の対象者であるか確認すること。

併せて、戸籍謄本等により、当該元労働者及び一人親方等の遺族(法定相続人)であることを確認すること。

なお、石綿工場で石綿粉じんにばく露した元労働者の遺族等から、開示請求手続によらず、当該和解要件を満たすことを証明するために必要と認められる行政文書の提供を求められた場合の対応については、従前の例による(「アスベスト訴訟の和解手続に係る情報の提供について」(平成29年3月31日付け基総発0331第1号、基補発0331第5号、基安労発0331第3号(令和元年10月7日一部改正)参照)。

また、特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(令和3年法律第74号)の規定による給付金の請求のための開示請求の相談があった場合には、開示請求人に対し「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律に係る情報の提供について」(令和3年12月1日付け基管発1201第1号、基補発1201第1号)に基づき、給付金の支給に必要と認められる情報を抽出し、提供する行政サービスにて申請できる旨、教示すること。

(※)損害賠償請求権の遺贈を受けた等、法定相続人と同等の者と解することが可能か否かを判断することが困難な場合には、本省労働基準局総務課石綿対策室に相談すること。

(別紙1)<平成21年3月12日付けの情報公開・個人情報保護審査会の答申書(平成20年度(行個)答申第221号)の概要>

・本件復命書の記載内容は、休業補償給付等を含む被災労働者の労災保険給付の請求権の行使にかかわる情報であると認められるところ、当該請求権が被災労働者の死亡により特定の者に相続されたことが明らかである場合には、当該相続人の労災保険給付の請求権の行使にかかわる情報にも該当すると解される。

・審査請求人は、被災労働者の労災保険給付の一部を自己の名で請求し、支給を受けていると認められることから、被災労働者の労災保険給付の請求権は、その一部が審査請求人に相続されたことが明らかであると認められる。

・審査請求人が自己の名で請求した傷病補償年金は、本件復命書において被災労働者が請求した休業補償給付等とは別のものであるが、これらの給付はいずれも、被災労働者の同一の傷病に起因し、当該傷病が業務上の事由によるとの認定を前提に支給されたものであるから、本件復命書は、審査請求人が相続した労災保険給付の請求権の行使に関わる情報が記載されているものと言うべきである。

・本件復命書に記載された情報は、被災労働者に関する情報であると同時に、相続人である審査請求人を本人とする保有個人情報にも該当すると認められるので、審査請求人は、本件対象保有個人情報に対する開示請求権を有すると認められる。

(別紙2)<大阪地裁令和元年6月5日判決の概要>

・本件の争点は、本件各情報(注:死亡労働者に係るそれぞれの遺族(原告の母)の遺族給付等に関する各調査結果復命書等の情報を指す)が行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)第12条第1項所定の「自己を本人とする保有個人情報」に当たるか否かである。法の趣旨目的に照らせば、ある情報が特定の個人に関するものとして、法12条1項にいう「自己を本人とする保有個人情報」に当たるか否かは、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきもの(個人情報の保護に関する法律2条1項にいう「個人に関する情報」に係る最高裁平成29年(受)第1908号同31年3月18日第一小法廷判決)

・平成26年最判及びこれを受けた石綿工場の元労働者等に対する本件救済枠組みによれば、石綿工場の元労働者やその遺族が、被告に対して訴訟を提起し、一定の具体的で明確な要件を満たすことが確認された場合には、訴訟上の和解に応じて損害賠償金を支払うこととされており、本件救済枠組みでは、石綿工場の元労働者のみならず、その遺族(原則として法定相続人)が石綿による健康被害に係る損害賠償請求権の権利者となることが制度的に予定されている。

・本件各情報は、前記の要件を満たす健康被害を被ったか否かを直接的に示す情報が含まれている。
このことは、厚生労働省が過去に石綿関連疾患による労災保険法に基づく保険給付の支給決定を受けた者及びじん肺管理区分の決定を受けた者のうち、石綿による一定の健康被害を被った可能性があるものに対し、国家賠償請求訴訟を提起すれば賠償金が支払われる可能性があることを通知するリーフレットを個別に周知しており、本件救済枠組みによって損害賠償金が支払われる可能性がある者を特定していたことからも明らかである。

・そうすると、本件各情報は、原告が相続した財産であり、死亡労働者の国に対する石綿による健康被害に係る各損害賠償請求権の発生要件が充足されているか否かを直接的に示す個人情報という性質を有するもので、原告(原則として法定相続人たる遺族)らの「自己を本人とする個人情報」に当たる。

(別紙3)<令和2年2月5日付けの情報公開・個人情報保護審査会の答申書(令和元年度(行個)答申第124号)の概要>

・遺族補償一時金の支給決定を受けた審査請求人は、本件労働災害に関し、被災労働者が勤務していた特定事業場に対する損害賠償請求権を取得し得る立場にあると考えられるところ、本件対象保有個人情報(災害調査復命書及び添付資料)は、本件労働災害の発生状況及び原因並びに本件労働災害が発生したときの状況に関する図等、損害賠償請求権の存否に密接に関連する情報であると認められる。

・本件対象保有個人情報は、死亡した被災労働者についての個人に関する情報であると同時に、その遺族である審査請求人を本人とする保有個人情報にも該当すると認められるので、審査請求人は、本件対象保有個人情報に対する開示請求権を有すると認められる。

(参考様式)

○○労働局長    殿

申立書

国の損害賠償責任が認められた(平成26年10月9日の大阪泉南アスベスト訴訟最高裁判決/令和3年5月17日の建設アスベスト訴訟最高裁判決等)を受け、国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償を求める訴えを提起した(する予定の)ため、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第13条に基づき、「○○(続柄)である被災者(または保険給付受給者)故○○○○氏に係る労災認定決定に関する調査結果復命書及びその添付資料一式」(又は「○○(続柄)である被災者(または保険給付受給者)故○○○○氏に係るじん肺管理区分の決定及び健康管理手帳の交付決定等に係る決裁文書一式及び当該決定等を通知した文書」)の開示を求めます。

  年  月  日
請求人  住所       
氏名       
(署名又は記名押印)

(参考)遺族による被災労働者等に係る監督・安全衛生・労災関係文書の開示請求に対する対応表