新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償⑦(2020年12月17日)/労災認定件数2千件を突破、都道府県別情報も入手

労災保険の状況

労災保険については、12月1日に11月27日現在の状況が公表された後の情報更新が、12月4日現在の12月8日、12月11日現在の12月16日公表となった。今後は毎週を目標とするとのことである。

労災保険請求は、11月12日に2,000件を突破し(2,028件)、12月11日現在2,410件である。前号で紹介した10月23日の1,723件と比較すると、39.9%の増加である。

認定件数のほうは10月23日の857件から、11月13日に1000件を突破し(1,036件)、12月11日1,280件へと、49.4%増加した。

10月20日に初めて「決定件数」と「うち支給決定件数」との間に違いが現われ、11件の不支給件数があったことが明らかになったが、これは12月11日現在31件になっている。医療従事者等が29件とそれ以外が2件(医療業)で、これまでのところ、すべてが新型コロナウイルス感染症ではなかった事例のようである。したがって、新型コロナウイルス感染症で不支給決定された事例はまだないことになる。

請求件数に対する支給決定件数として計算した「認定率」は、全体では10月23日の49.7%から12月11日の53.1%へ、増加した。
別掲表1に、業種ごとの請求・支給決定件数、認定率と不支給決定件数を示した。

医療従事者等の請求件数は10月23日の1,354件から12月11日1,861件と37.4%増加、それ以外の請求件数は10月23日の362件から12月11日540件と49.2%増加した。

支給/請求としての「認定率」は、医療従事者等は54.4%、医療従事者等以外は48.1%、海外出張者は88.9%。農業・林業と教育・学習支援業ではまだ支給決定事例がなく、学術研究・専門・技術サービス、不動産業・物品賃貸業の認定率が10~12%と低いという状況である。

厚生労働省は11月16日に「労働者の方向けQ&A」ウエブサイト上に公表する「労災補償」関係参考資料に「新型コロナウイルス感染症に関する労災請求・決定件数(月別)」を追加した。

地方公務員災害補償の状況

地方公務員災害補償の状況の公表は、前回紹介の10月23日現在(10月27日公表)の状況以降、10月30日、11月6日、11月18日、11月30日、12月11日現在(12月17日公表)の5回あった。

請求件数は各々、109件→117件→120件→137件→145件→171件で、56.9%の増加だった。10月30日に初めて「保健師・助産師」の請求1件が現われた。

こちらは幸いいまだに公務外認定事例は現われておらず、公務上認定件数は各々、71件→76件→77件→80件→92件→98件で、38.0%の増加であった。全体の認定率は65.1%→65.0%→64.2%→58.4%→63.4%→57.3%と増減している。

別掲表2に、請求・支給決定件数と認定率を示した。医療従事者等は4職種合わせても71.7%と高く、各種技師と消防吏員は100.0%、警察官37.3%、その他の職員70.0%となったが、清掃職員と保育士・寄宿舎指導員等、保健師・助産師ではいまだに認定事例がない。

地方公務員災害補償基金は11月19日に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る公務災害認定事例」に、医師、看護師、消防吏員(2020年10月号参照)に追加して、以下の内容を示した。

(事例4)警察官
D警察官は、犯罪の予防と検挙のため、普段から担当地域で警戒・警ら活動を行っていた。
勤務中はもちろん、私生活においても感染防止には十分に気をつけていたが、発熱があり、頭痛や倦怠感、味覚・嗅覚の異常があったためPCR検査を受けたところ陽性であり、『新型コロナウイルス感染症』と診断された。
保健所の調査では感染経路は特定されなかったが、D警察官の発症前の業務内容は、新型コロナウイルスの感染者が出ている区域で不特定多数の者に対する職務質問や各種取り扱いを行うものである一方、私生活における感染のリスクは低いものであった。これらの調査結果を踏まえた医学専門家の意見は、D警察官の感染は、公務により新型コロナウイルスに感染した蓋然性が高いものと認められるとのことであった。
以上のことから、D警察官の感染経路は特定されないが、通知記の2の(1)ウ(イ)にいう住民等との近接や接触の機会が多い環境下での公務に従事したものと認められ、公務により感染した蓋然性が高く、公務に起因したものと判断されることから、公務災害として認定された。」

都道府県別労災保険情報

10月31日付け読売新聞神戸版は「コロナ感染者/26件労災認定 兵庫労働局」と報じた。

11月11日に行われた東京労働安全衛生センターとの交渉の場で東京労働局は、10月末時点の同局管内の請求件数及び支給/不支給決定件数を明らかにしたが、業種別の数字を明らかにすることについては「検討したい」回答とするにとどまった。

11月13日付け北海道新聞は「コロナ感染の労災申請、道内188件 認定112件 医療関係多く」、NHK北海道も「112人がコロナ感染で労災認定」と報じた。

さらに11月17日付け沖縄タイムズが「『申請しない人も多い?』 コロナ感染で県内初の労災認定3件」と報じている。

こうした動きを受けて各地域センター等が都道府県労働局に問い合わせたところ、10月29日に厚生労働本省から都道府県労働局に対して、これまで不公表としていた方針を変更し、各局の判断で公表してよい旨の連絡?(文書を開示請求中)があったとのことであった。メディアで報道された内容を含めた、「判明した都道府県別の労災請求等」は表3のとおりである(12月4日までに入手できた情報を掲載)。

これまでのところ、兵庫労働局のみがウエブサイト上で、厚生労働本省に報告している表1と同じフォーマットでの情報提供を行っている。

累積感染者数自体ももちろんだが、労災請求及び決定状況についてもかなりのばらつきがみられる。

また例えば、8月7日に在福岡ベトナム領事館が、熊本県玉名郡長洲町有明にある造船所で働くベトナム人実習生47人が新型コロナウイルス検査で陽性判定を受けたと明らかにしたことが報じられているが(その後日本人も含めて同造船所の感染者は百人を超えている)が、それらの事例の労災手続は行われていないのではないかなどの疑問が、当然うかびあがってくる。

なお、10月19日付け中日新聞が「新型コロナ 増える労災申請療養費用、休業補償を給付 感染経路不明も認定」(名古屋労災職業病研究会の成田博厚事務局長がコメント)、11月12日付け東京新聞の「こちら特報部」が「感染での労災申請『少なすぎ』 1880件 氷山の一角 国が仕組み周知を」(全国安全センターの古谷杉郎事務局長がコメント)、また、11月13日夜のニュースでNHKが「新型コロナ 労災認定1000人近くに 医療従事者や介護職以外も」(東京労働安全衛生センターの天野理さんがコメント)といった報道が続いていたことも都道府県別情報の提供に影響したかもしれない。

徳島新聞、中日新聞、熊本日日新聞、信濃毎日新聞、沖縄タイムス、産経新聞等が、都道府県レベルの労災保険請求・認定状況を報じることにもつながった。とくに11月29日付けの中日新聞の記事「コロナ労災知って 全国1,133件、地域や業種で偏り」は、初めて地域格差を指摘した。

東京都モニタリング会議資料

東京都の新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料から、7/28~8/3の週以降、週単位の「濃厚接触者における感染経路」別割合がわかるようになった。「濃厚接触者」は「接触歴等判明者」のことで、別の資料から日毎の新規陽性者数、接触歴等判明者数、接触歴等不明者数が得られるので、1週間ごとの接触歴等判明者数に割合を掛けて当該感染経路による感染者数の実数を求め、1週間ごとの新規陽性者数に対する割合を計算することができる。この結果を示したのが図3と表4である。新規陽性者数全体のうち「職場」を感染経路とする者の割合は3.9%~11.3%、7月28日から12月7日までの全期間では6.3%となった。

感染経路が「職場」ではなく、「施設」等他の区分に区分されている中にも、労働者として業務上感染したものが含まれていることは確実である。また、接触歴等不明の中にも、労災保険の支給決定(業務上認定)や公務員災害補償基金の公務上認定の対象になり得る者が含まれていることにも留意する必要がある。

労災請求の実績と比較すると、10月31日現在の東京都の累計感染者数が31,096人であるところ、東京労働局管内の労災請求者数は505人(表3)と、1.6%に相当するにすぎない。

また、12月11日現在の全国の累計感染者数は169,890人であり、前述の労災保険請求件数2,410人と地方公務員災害補償基金の請求件数171人を合わせても2,581人で、169,890人の1.5%に相当するだけなので、本来労災補償を受けられるべき者から請求がなされているとは到底言い難い状況である。

安全センター情報2021年1・2月号

安全センター情報2021年1・2月号 新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償⑦(2020年12月17日)
安全センター情報2020年12月号 新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償⑥(2020年10月23日)
安全セター情報2020年11月号 新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償⑤(2020年9月18日)
安全セター情報2020年10月号 新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償④(2020年8月31日)
安全センター情報2020年8月号 特集/ 新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償③(2020年7月1日)
安全センター情報2020年7月号 特集/ 新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償②(2020年5月27日)
安全センター情報2020年6月号 特集/新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償①(2020年4月27日)
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