特集/新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償①-2020年4月27日

安全と健康の確保は急務、労災請求わずかで改善必要

労働におけるパンデミック阻止!

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、労働問題に限っても多くの側面に様々な影響を及ぼしている。すでに地域安全センターの関係でも、例えば、ひょうご労働安全衛生センターが3月6日にひょうごユニオン等とともに労働・雇用ホットラインを実施したり、東京労働安全衛生センターも参加する外国人支援ネットワークKAMEIDOが「新型コロナウイルス感染症Q&A」リーフレットを多言語で作成するなどの取り組みがはじまっている。
しかし、COVID-19がきわめて重要な労働安全衛生問題であることも疑いのない事実である。
今年の労災職業病被災者を追悼する4.28-国際ワーカーズ・メモリアルデー(imd20)のテーマは「労働におけるパンデミックを止めよう」(Stop the pandemic at work)とされ、国際労働組合総連合(ITUC)とハザーズ・マガジン誌は共同で「コロナウイルス・リソースハブ」を開設して、世界における産業別や各国の労働組合、安全衛生団体等による情報を提供している。
ILO(国際労働機関)は4.28を「国際労働安全衛生の日」としているが、今年の4.28に向けた報告書「パンデミックに直面して:労働安全衛生の確保」を4月22日に発行した。また、これに先立ち4月16日には、「職場におけるCOVID-19の予防・緩和-アクションチェックリスト」(英語版)(日本語版)も公表している。これは、国際的な労働安全衛生対策の基本的考え方を確認するのに役に立つ。
簡潔なものだが、使用者の義務・責任と労働者の権利を踏まえたうえで、OSH-MS・リスクマネジメント・アプローチを核とした労働安全衛生対策の基本原則に則って取り組むべきことが明確に示されている。また、ウイルスに曝露する(感染)リスクだけでなく、(ストレスや暴力・ハラスメント等も含めた)「何らかの新たな心理社会的リスク」や「新たなかたちの労働の手配」、「健康的なライフスタイル、運動や友人・家族との社会的接触」等にも対処する必要があることも盛り込まれている。
先回りして日本の対策と比較して言ってしまうと、後述する厚生労働省が示してきた文書は、それらの基本的なところがきちんと押さえられていないという感が否めない、ということになる。

厚生労働省の安全衛生対策

厚生労働省は2月21日に、経済団体に対して「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取り組みについて」要請を行った。この時点では、労働者の休みやすい環境の整備とテレワークや時差通勤の積極的な活用のみにふれ、「パートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者など、多様な働き方で働く方も含めて

  • 労働者が発熱等の風邪症状が見られる際に、休みやすい環境の整備
  • 労働者が安心して休むことができるよう収入に配慮した病気休暇制度の整備
  • 感染リスクを減らす観点からのテレワークや時差通勤の積極的な活用の促進

などの取組への御協力」を要請した。
同時に、ホームページに「新型コロナウイルス感染症に関する企業の方向けQ&A」を開設した。
厚生労働省は、その後3月23日にも経済団体に対して同じ表題の要請を行い、また、ホームページには「労働者の方向けQ&A」も開設された。
続いて3月31日に、日本経済団体連合会、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会、全国商工会連合会、日本労働組合総連合会に対して、「新型コロナウイルス感染症の大規模な感染拡大防止に向けた職場における対応」について要請した。
ここでは、「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」も示し、それを「参考として、事業場の実態に即した、実行可能な感染拡大防止対策を検討いただきたい」、「その際、事業場に、労働安全衛生法により、安全衛生委員会、衛生委員会、産業医、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者等が設置・選任されている場合、衛生管理の知見を持つこうした労使関係者により構成する組織を有効活用するとともに、労働衛生の担当者に対策の検討や実施への関与を求めていただきたい」としている。
まず、ここにいたる文書まで、またそれ以降も、使用者の義務・責任についてまったく明示も喚起もしていないことが最大の問題である。
一方で、厚生労働省が作成した「新型コロナウイルスに関するQ&A-企業(労務)の方向け」(4月24日時点版)では、「6. 安全衛生」として以下の問を掲げている。
問1 労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置を講ずる必要はありますか。
問2 新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、労働安全衛生法に基づく健康診断の実施を延期するといった対応は可能でしょうか。
問3 新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、従業員が集まる会議等を中止していますが、労働安全衛生法に基づく安全委員会等の開催については、どのように対応すればよいでしょうか。
問3に対する答えは、「新型コロナウイルス感染症の拡大を防止する観点から、安全委員会等を開催するに際してはテレビ電話による会議方式にすることや、開催を延期することなど、令和2年6月末までの間、弾力的な運用を図ることとして差し支えありません」である。
一方で、安全衛生委員会等の有効活用と対策の検討・実施への関与を「要請」しておきながら、「延期しても差し支えありません」ですませてしまうのはいかがなものだろうか。少なくとも、仮に延期せざるを得なかったとしても、安全委員会メンバーとの緊密なコミュニケーションを維持するように促すべきだろう。
また、「Q&A-労働者の方向け」(4月17日時点版)には、「安全衛生」に関する項目自体がない。この間の他の文書も含めて、労働者の権利という視点はまったく欠落している。
さらに厚生労働省は4月17日になって、前日に改正された「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」で、在宅勤務(テレワーク)の強力な推進、職場での感染防止の取り組み、「三つの密」を避ける行動の徹底などを促すこととされたことを受けて、あらためてより幅広い労使団体等(ただし労働組合は2団体のみ)に対して、「緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業で働く方々等の感染予防、健康管理の強化について」協力依頼を行った。これは、3月31日の要請の改訂拡張版である。
今回は、テレワークの実施が困難な業種・職種のうち、①医療関係者等、②旅客・貨物運送事業の運転者等、③介護・福祉労働者、④保育所等の労働者、⑤宿泊施設の労働者及び⑥学校の教職員等について留意事項が示されるとともに、「新型コロナウイルス感染症に対する正しい情報の収集等」として「心の健康相談などのメンタルヘルスに関する相談やDVや児童虐待に関する相談などの窓口についても、必要に応じ、労働者に周知いただきたいこと」という文言が新たに追加された。
また、「新型コロナウイルス感染症の陽性者等が発生した場合の対応について」が、「(1)衛生上の職場の対応ルールについて」と「(2)労災保険制度について」に区分されて、(1)のなかに「新型コロナウイルス感染症の陽性者について、労働安全衛生法に基づく労働者死傷病報告の提出に留意すること」という文言が追加されるととともに、「新型コロナウイルス感染症の陽性者等が発生した場合における衛生上の職場の対応ルール」の例が示された。「(2)労災保険制度について」の内容も新たに追加されたもので、「労働者が新型コロナウイルス感染症に罹患し、業務又は通勤に起因して発症したものと認められる場合には、労災保険給付の対象となることから、労災保険制度について周知していただいた上、適切に請求を勧奨していただきたい」とした。
いずれにせよ現場では、多くの関係者により様々な努力がなされている一方で、使用者の義務・責任の放棄と労働者の権利無視が横行していると言わざるを得ない状況が問題である。

職業病リストの感染症の規定

次に、「労災保険」の取り扱いである。
わが国の「職業病リスト」である労働基準法施行規則別表第1の2は、第6号「細菌、ウイルス等の病原体による次に掲げる疾病」として、以下を掲げている。

  1. 患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務による伝染性疾患
  2. 動物若しくはその死体、獣毛、革その他動物性の物又はぼろ等の古物を取り扱う業務によるブルセラ症、炭疽(そ)病等の伝染性疾患
  3. 湿潤地における業務によるワイル病等のレプトスピラ症
  4. 屋外における業務による恙(つつが)虫病
  5. 1から4までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に起因することの明らかな疾病

COVID-19が関係してくるのは第6号1及び第6号5であるが、現在のかたちになった職業病リストの解説通達(1978(昭和52)年3月30日付け基発第186号「労働基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について」)は、以下のように解説している(第6号2~4関係は省略)。

【第6号1】

「(イ) 『患者の診療若しくは看護の業務』とは、病院又は診療所において医師の行う患者の診断、検査若しくは治療又は看護婦等の行う看護の業務をいう。
(ロ) 『研究その他の目的で病原体を取り扱う業務』とは、病院又は診療所において診療放射線技師、診療X線技師、臨床検査技師、衛生検査技師等の行う上記(イ)に掲げる業務以外の業務であって、細菌、ウイルス等の病原体によって汚染のおそれのある業務並びに病院又は診療所以外の衛生試験所、医学研究所、保健所等において医師、研究者又はこれらの助手等の行う研究、検査及びこれらの業務に付随する業務であって、病原体によって汚染のおそれのある業務をいう。
(ハ) 『伝染性疾患』としては、コレラ、赤痢、腸チフス、発疹チフス等の法定伝染病のほか、結核、らい、ウイルス性肝炎等がある。
(ニ)なお、病院又は診療所において患者の分泌物又は排泄物等を介して感染したウイルス性肝炎等の伝染性疾患あるいは伝染性疾患ではなくても病原菌にさらされる業務(炊事婦、介助人等)に従事したことにより起きた細菌性中毒等の疾病に対しては、第6号5の規定が適用される。」

【第6号5】

「本規定は、第6号1から4までに掲げる疾病以外に、①これらの疾病に付随する疾病、②第6号1から4までに掲げる疾病発生の原因因子によるその他の疾病又は③第6号1から4までに掲げる疾病発生の原因因子以外で細菌、ウイルス等の病原体にさらされる作業環境下において業務に従事した結果、発生したものと認められる疾病に対して適用される趣旨で設けられたものである。」

感染症の労災認定の考え方

第6号関係では、いわゆる「労災認定基準」は策定されていないのだが、「労災保険 業務災害及び通勤災害認定の理論と実際」(労働基準局編・労働法令協会発行)では、以下のように解説されている(1985年版に拠っている)。

【第6号1】

「ウイルス性肝炎等は患者の看護又は診療等に当たる者にとって罹患危険の高いと思われる疾病であるが、前にも述べたように、これらの伝染性疾患は、特定の地域あるいは職業又は性別を限定して発生するものではなく、単に感染源があれば一般社会人があらゆる機会にひろく感染する危険をもつから、病原体によって汚染のおそれのある業務に従事していたからといって必ずしも発病した疾病がその業務に従事していたために罹患したとは断定できない。しかし、その労働者が働く特定の職場に当該病原体の存在することが明白であり、かつ、それに直接又は間接に接触する機会があると考えられる場合には、同種の病原体によって起きた伝染性疾患については、一般的には業務以外の原因により罹患したことのない反証がない限り業務に起因する疾病として取り扱われる。

  1. 一般的認定要件
    (1)当該業務の内容から、病原体の汚染を受けることが明らかに認められるものであること。
    (2)当該疾病に特有の症状を呈していること。
    (3)病原体に感染したと推定される時期から発病までの時間的間隔が、医学上、業務との因果関係の存在を認め得る(それぞれの疾病の潜伏期間におおむね一致する)ものであること。
    (4)発生した伝染病の病原体の種類(赤痢、パラチフス等の場合菌型)が、業務上で取扱い、又は接触した病原体の種類と同一であること。
    (5)業務以外の原因によるものでないこと。
    例えば、家族中の感染者、住居地及び勤務地区における伝染性疾患流行の有無等の状況からみて業務以外の他の原因により感染したものでないかどうかについて調査を要する。
  2. 医学的診断要件
    (1)伝染性疾患に罹患するおそれある業務に従事した期間及びその態様の把握
    (2)業務と感染の因果関係の検討(感染源、感染経路、侵入門戸、感染部位、感染より発病までの潜伏期間等)
    (3)臨床検査項目
      イ 血液検査等の臨床的検査
      ロ 病原体抗原、抗体の検出
      ハ 免疫反応検査
    (4)他の疾病との鑑別診断
      病原体(菌)に汚染される業務と発病までの期間がそれぞれの疾病の潜伏期におおむね一致するか否かを調査すること。
    なお、病院又は診療所において患者の分泌物、排泄物等を介して感染したウイルス性肝炎等の伝染性疾患あるいは伝染性疾患ではなくても病原菌にさらされる業務(炊事婦、介助人等)に従事したことにより起きた細菌性中毒等の疾病に対しては、第6号の5の規定が適用される。」

【第6号5】

第6号1から4までに掲げる疾病以外に「①これらの疾病に付随する疾病、②同第6号1から4までに掲げる疾病発生の原因因子によるその他の疾病又は、③同第6号1から4までに掲げる疾病発生の原因因子以外の細菌、ウイルス等の病原体にさらされる作業環境下において業務に従事した結果発生したものと認められる疾病に対して適用される趣旨で設けられたものである。」
③に該当するものとしては、イ 【第6号1】の解説末尾のなお書きの場合、ロ 出張先(海外を含む)又は海外派遣先(海外派遣者特別加入対象者に限る)において感染した伝染性疾患(いわゆる「風土病」を含む)、ハ 事業主が供した食物(給食、間食等)による食中毒、が示されている。
また、ロに関連して、1988(昭和63)年2月1日付けで基発第57号「海外における業務による感染症の取扱いについて」が示されている。

これまでの感染症に対する対応

以上に加えて、古いものでは、1982(昭和57)年2月18日付けで、一般に呼称されるようになっていた「非A非B型ウイルス性肝炎」も前出基発第186号に示すウイルス性肝炎に含まれるとした、基収第121号の2「非A非B型ウイルス性肝炎の業務上外の取扱いについて」が示されていた。
しかし、「非A非B型ウイルス性肝炎」という呼称も用いられなくなる一方、「医療従事者等のC型肝炎や我が国において感染者が増加している後天性免疫不全症候群(エイズ)、さらにはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症など、細菌、ウイルス等の病原体による感染症について社会的関心が高まっていることから」、1993(平成5)年10月29日付けで基発第619号「C型肝炎、エイズ及びMRSA感染症に係る労災保険における取扱いについて」が発出された(1994年4月号)。このときはめずらしくメディアでも大きく取り上げられた。
1996(平成8)年8月9日付け基発第511号「腸管出血性大腸菌感染症[O-157]に係る対応について」では、「労災補償の基本的な考え方について」として、「労働者が事業場に附属する食堂等における食事又は事業主の提供に係る食事を感染源として腸管出血性大腸菌による食中毒にり患した場合には、当該食事に起因してり患したという事実が存在すれば、特段の反証事由が認められない限り業務起因性を認めており業務上の疾病として取り扱われるものであること」とした(1996年10月号)。このときには労災保険上の取り扱いに特化した題名の文書は確認できていない。
全国安全センターは、2000年以降は厚生労働省労働基準局及びその下にある部課室の発議文書台帳(のち施行簿)を情報公開法に基づき開示させているので、台帳に掲載されている限り発送された文書の名称はすべて把握できている。
2004(平成16)3月11日付け基安労発第0311001号「養鶏に従事する労働者の高病原性鳥インフルエンザ感染防御について」は、「鳥の異常死が認められた養鶏農場の労働者については、直ちに全員の健康状態の確認等を実施すること」としているものの、労災保険上の取り扱いについての言及はなく、言及した文書は把握できていない。
2006(平成18)年12月18日付けで基安労発第1218001号「介護保険施設等におけるノロウイルスによる感染症胃腸炎の発生・まん延防止について」は、厚生労働省のホームページ開設された(その後も改定され継続されている)「『ノロウイルスに関するQ&A』を参考に関係事業者等に対する周知・指導」を指示しているが、このQ&Aには労災保険上の取り扱いについての言及はない。
2009(平成21)年4月30日付け基安計・基安労発第0403001号「新型インフルエンザに関する問い合わせへの対応について」も、厚生労働省が作成しホームページ上にも開設した「『新型インフルエンザに関するQ&A』を参考に対応する」ことを指示した。この段階では労災保険上の取り扱いに関する言及はなかったのだが、同じ標題の同年10月30日付け基安計・基安労発1030第1号等で「Q&A」が改訂され (新型インフルエンザ(A_H1N1)に関する事業者・職場のQ&A(平成21年10月30日)) 、以下が新たに追加された。
Q10 新型インフルエンザ発生時において、職場又は通勤途上で新型インフルエンザに感染(死亡)したことが明らかとなった場合、労災保険給付の対象となりますか。
A10 一般に、細菌、ウイルス等の病原体の感染によって起きた疾患については、感染機会が明確に特定され、それが業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、保険給付の対象となります。
この間に、同年5月1日付けで厚生労働省労働基準局補償部の補償課長補佐(業務担当)、補償課長補佐(医療福祉担当)、職業病認定対策室長補佐連名の事務連絡として「インフルエンザA(H1N1)ウイルスに係る労災補償業務における留意点について」が出されていた。前出の最初のQ&Aに労災保険上の取り扱いに関する言及がなかったのは、発出日の1日の差によるものか、基安計・基安労通達を発出した安全衛生部と事務連絡の補償部との連携の悪さによるものかはわからない。事務連絡は、冒頭以下のように言っている。
「既に新聞等により報道されているとおり、今般、メキシコにおいて、インフルエンザ様の症状を示す比較的重い呼吸器疾患が流行しているとの情報が、また、米国においては、ヒトの間でインフルエンザA(H1N1)ウイルスが発生している等の情報があったところである。これに伴い、今後、海外出張中に被災する等により、インフルエンザA(H1N1)ウイルスに係る労災保険給付の請求がなされることが予想されることから、各局においてインフルエンザA(H1N1)ウイルスに係る労災保険給付の請求や相談があった場合には、下記に留意のうえ対応されるようお願いする。」
そのうえで、(1)国内の場合-ア 医療従事者、イ 医療従事者以外の労働者、(2)国外の場合-ア 海外出張労働者、イ 海外派遣特別加入労働者に区分しつつ、(1)アについては、「医師、看護師等が患者の診断若しくは看護の業務等により、インフルエンザA(H1N1) ウイルスに感染し発症した場合には、原則として職業病リストの第6号の1に基づき保険給付の対象となる」、それ以外は、「感染源が業務に内在していたことが明らかに求められる場合」((1)イ及び(2)イについて)、「海外出張労働者の出張先国が多数のインフルエンザA(H1N1) ウイルスの発生国であるとして、明らかに高い感染リスクを有すると客観的に認められる場合には、出張業務に内在する危険が具現化したものか否か個々の事案に即して判断」((2)アについて))し、第6号の5に基づき保険給付の対象となり得ることを明らかにしている。また、「労災保険給付の請求又は相談があった場合には、直ちに補504により本省補償課業務係に報告するとともに、当該請求に対して支給・不支給の決定を行う際には、事前に本省補償課職業病認定対策室に協議すること」等を指示している。
なお、同年5月11日には、「インフルエンザA(H1N1) ウイルス」を「新型インフルエンザ」に変えて、同じ内容の事務連絡が重ねて出されている。さらに同年12月16日付けで基労発1216第1号「新型インフルエンザの予防接種により医療従事者に生じた健康被害の取扱いについて」で、第6号の5に基づき保険給付の対象となり得ることも示された。
その後も、2012(平成24)年2月2日付け基労補発0202第1号「潜在性結核感染症の取扱いについて」は、「労災保険においても…医療従事者等が業務により結核菌に感染し、潜在性結核感染症の診断がなされ、医師が治療等を必要と判断した場合には、結核の症状が現れていなくとも、労働基準法施行規則別表第1の2第6号の1の疾病として当該治療等について保険給付の対象となるので留意されたい」と示した。
以上のように、これまでの感染症の社会問題化に対する厚生労働省の対応は、労災保険上の取り扱いについては示されなかったり、示されたとしても、「保険給付の対象となり得る」とだけ伝えるホームページ上に開設されたQ&Aの記載を除けば、一般に公表・周知されたものではなかった。言わば、手の内は明かさないまま、請求があれば対応はします、という姿勢である。

感染症等の労災補償の実績

そこで、感染症等の労災補償の実績を見ておきたい。

一般的に入手できるのは、「業務上疾病発生状況等調査」であるが、明記されてはいないものの、これは労災補償(業務上認定)件数ではなく、主として労働安全衛生法に基づき事業者が提出した労働者死傷病報告に基づいたものと考えられている(表1「公表」欄の数字)。
これとは別に、全国安全センターでは毎年、情報公開法を活用して労災補償状況に関する統計資料を開示させており、これには職業病リストの下位分類別の労災認定件数が含まれる(表1「補償」欄の数字及び表2の上半分、第6号1~5の区分別、2011年度以降については第6号1について業務の種類別内訳もわかるようになった)。これは公表されていない。
また、第6号5の海外出張等、給食等、その他の内訳が、「労働基準法施行規則第35条専門検討会」に報告されている(表2の下半分)。
ここからは、ここにみてきたようなC型肝炎、エイズ、MRSA感染症、腸管出血性大腸菌感染症[O-157]、高病原性鳥インフルエンザ感染症、ノロウイルスによる感染症、新型インフルエンザ感染症、潜在性結核感染症に係る労災補償の実績はわからない。また、「労災保険給付の請求又は相談」件数も明らかにされていない。
今回のCOVID-19への対応を考えるうえで過去の経験から学ぶことが重要であると考えられるが、残念ながらわが国では関連する情報がわからないということである。

ただし、いくつかの通達で「保険給付の対象となり得る」旨が示された場合であっても、労災請求・認定は促進されなかったのではないかと考えている(2009年新型インフルエンザで補償件数が増えた気配もなし)。それがなぜなのかを検討できれば、COVID-19で対応を改善することは可能である。

COVID-19労災補償の留意点

今回、厚生労働省は2020年2月21日に開設した時点では、「新型コロナウイルス感染症に関する企業の方向けQ&A」に労災補償上の取り扱いに関する言及はなかったが、遅くとも3月19日時点版には、以下のような「労災補償」の項目が追加されていた。この内容は4月27日時点でも変更なく、「労働者の方向けQ&A」にもまったく同じ内容が掲載されている。
問1 労働者が新型コロナウイルス感染症を発症した場合、労災保険給付の対象となりますか。
答1 業務又は通勤に起因して感染したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。詳しくは、事業場を管轄する労働基準監督署にご相談ください。

参議院厚生労働委員会で福島みずほ議員が質したところ、労災保険(民間労働者)の請求が3月18日時点で1件(3月19日の答弁)、地方公務員災害補償基金の関係では3月23日時点で請求なし(3月24日の答弁)ということであった。この過程で、2月3日付け基補発0203第1号「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について」が示されていることがわかり、東京労働安全衛生センターが入手して全国安全センターのネットワークで共有するとともに、流布に努めている。
これは、Q&Aをつけて、①海外出張、②国内(医療関係者等とそれ以外に区別されていない)、③海外出向(海外派遣特別加入労働者の場合のみ)に区分し、「業務上と考えられる例」、「業務外と考えられる例」が示されているが、いずれにしろ「個別の事案」ごとに判断されることになる。
国内の場合(海外出向も同様とされる)で言えば、「①業務又は通勤における感染機会や感染経路が明確に特定され、②感染から発症までの潜伏期間や症状等に医学的な矛盾がなく、③業務以外の感染源や感染機会が認められない場合に該当するか否か等」が検討され、海外出張の場合は、「出張行程全般にわたり事業主の支配下にあり、業務遂行性があることも勘案し、感染経路、業務との関連性等」等が検討されるものとしている。
前出2009年5月の「新型インフルエンザに係る労災補償業務における留意点」と比較すると、「医師、看護師等が患者の診断若しくは看護の業務等により、感染し発症した場合には、原則として職業病リストの第6号の1に基づき保険給付の対象となる」という文言がなく、また、業務に内在する感染源(危険の具現化)という考え方も示されていない。当時の取り扱いで示された内容よりもさらに限定的な取り扱いになるのではないかと危惧される。
また何より、この通達はいまだに一般に示されても、ホームページ

上で公表されてもいない。

対照的な韓国の対応

4月11日(土)になって、昨日韓国でCOVID-19発の労災認定が大きくテレビで報じられたという知らせが入った。調べてみると、以下のような報道記事がみつかった-例えば、
「繰り返し飛沫にさらされた」…コールセンター従業員に初めて「新型コロナ労災」認定
ハンギョレ新聞日本語版 2020年4月11日

その後、韓国勤労福祉公団の4月10日付けの報道発表資料も入手できたので、ソウル在住の鈴木明さんに翻訳していただいた。

「コロナ19確定診断者」、国内初の労災認定
ソウル九老コールセンター感染労働者
手続簡素化で迅速に決定(韓国勤労福祉公団2010/4/10発表)

勤労福祉公団は、勤務中にコロナ19に確定診断されたA氏の労災申請を業務上疾病判定委員会の審議を経て10日、業務上疾病として承認し、これはコロナ19に対する初の労災認定事例だと発表した。
判定委員会は、A氏の場合、コールセンター相談業務を行った労働者で、密集しているスペースで勤務する業務の特性上、繰り返し飛沫などの感染危険にさらされた点を考慮し、業務と申請疾病との間に相当因果関係があると判断した。
※労災認定によりA氏にはコロナ19の治療で働けない期間中、平均賃金の70%に相当する休業給与が支給され、もし休業給与額が1日分の最低賃金額6万8,720ウォン(8,590ウォン×8時間)より少なければ最低賃金金額基準で支給される。
コロナ19のような感染性の疾病については、疫学調査を経て正確な感染経路を確認しなければならず、長期間の時間を要すが、今回のコロナ19感染の件については、自治体HP等の関係機関の情報を活用し、明確な発症経路を確認し、疫学調査の省略等により速やかに労災承認を決定した。
また、公団は、被災労働者が労災申請を容易に行えるよう事業主確認制度を廃止し、書式を簡素化したほか、やむを得ない場合、病院診断書の添付だけでも労災申請が可能となるよう、制度を改善したところである。
これにより、仕事でコロナ19に感染した場合でも、たやすく労災申請が可能になり、療養中の労災保険医療機関を通じても申請代行が可能になる。
一方、公団はコロナ19による「社会的距離置き」に積極的に参加し、利用者の不便が最小限となるよう、災害調査及び判定審議を効率的に運営、労災補償に支障がないよう業務を行っている。
勤労福祉公団のカン・スンヒ理事長は、「今後も公団はコロナ19労災申請を含め、業務上災害を受けた被災労働者が適時に適切な災害補償を受けられるよう、便利に労災申請できるよう支援し、速やかに補償できるよう最善を尽くす」と述べた。

コロナ19関連業務上疾病判断基準(主要内容)

□業務上疾病判断基準
・保健医療及び集団収容施設従事者が業務遂行過程で新型コロナウイルス感染症感染者と接触して感染する場合には、業務と疾病との間の相当因果関係が明確に分かる場合とみなし、業務上疾病の認定可能
・その他の労働者は、個別事案により業務と疾病発生との間の相当因果関係(曝露期間、強度、範囲、発症時期)がある場合、業務上の災害として認定
〇(保健医療及び集団収容施設従事者)患者を収容し、又は診療する保健医療従事者の場合、業務遂行過程で当該ウイルス感染者とは接触が確認され、感染による発病が認められる場合、業務上疾病として認定
〇(非保健医療従事者)ウイルス性疾病のように飛沫をとおして感染する疾病は、その発病の原因を正確に知ることはできないが、
- 業務の特性上、不特定多数や顧客応対業務など感染リスクのある職業群や、業務遂行過程で感染源との曝露が不可避の点が認められ、曝露後発症までの潜伏期間が確認され、
- 生活空間(家族、親戚)及び地域社会において感染者との接触などがなかった場合、業務上疾病として認定可能
[非保健医療従事者の業務上疾病調査対象]
・ 当該ウイルス感染源を検査する空港・港湾等の検疫官
・ 中国等、ハイリスク国(地域)の海外出張者
・ 出張等の業務上の事由により感染者と一緒に同便に搭乗した者
・ 業務遂行過程で感染した同僚労働者との接触があった者
・ その他、業務遂行過程で避けられず感染患者と接触した者
※現地法人勤務者の場合、労災適用可否を調査後、労災療養可否を判断
[業務上疾病の認定要件]
・ 上記調査対象に該当する労働者で、下記のいずれにも該当すれば業務上疾病の認定可能
① 業務活動の範囲とウイルスの伝染経路が一致すること
② 業務遂行中にウイルスに感染するに足る状況を認られること
③ ウイルスに曝露したと認められること
④ 家族や親族など業務外の日常生活で感染していないこと
実は、労災・公害被害者の権利のためのアジア・ネットワークのメンバーの間で、各国におけるCOVID-19の労災補償上の取り扱いに関する情報交換が行われていた。マレーシアでは、在野の要望を受けて社会保障機関(SOCSO)が職業病として認定され得ることを発表し、香港、バングラデシュ、ネパール等で政府に要求する行動がはじまっている。そのような中での韓国からの知らせだった。

日本での対応の改善が急務

全国安全センターは4月13日(月)を待って厚生労働省労働基準局補償課職業病認定対策室に電話して、日本の現状を確認しようとした。1係の担当者が対応したが、つまるところ「請求事例があることは認めるものの、業務上認定事例があったかどうか、何件あったか、どのような事例か等については話せない、いつどのような情報を公表するかどうかは厚生労働省が決める」ということであった。
韓国のことも知らせ、すでに業務上認定事例があるのであれば、COVID-19が労災認定され得ることを社会に伝えるためにも、その事実を公表したほうがよいと強く勧め、また、日本ではクラスター分析の努力がなされているのでそれらの情報を活用し
て迅速に認定できる例も多いはずだ等と話したのだが、提案に耳を貸そうという姿勢ではなかった。
4月24日に毎日新聞が以下の記事を掲載した。

 

「コロナ労災」幅広く 厚労省
感染認定 柔軟に解釈(毎日新聞2020/4/24)

厚生労働省は、新型コロウイルスの感染者かち労災認定の請求があった場合、感染ルートを厳格に特定できなくても業務中に感染したとみられる事例を含めて認める方針を固めた。
すでに業務中に感策したと訴える人かち3件の請求があり、同省によると、請求は今後も増える見込みだ。
保険給付を受けるには通勤を含む仕事中にけがや病気をしたととと、仕事が原因という2点を満たすことが必要。感染症の場合、対人業務で感染者と接していることや、仕事以外の感染機会がないと判断されたケースなどが該当する。
しかし、新型コロナは国内完全が広がり、無症状の人から感染したケースもある。従来通りの認定基準を適用することは「ハードルが高いのではないか」と懸念の声が上がっていた。
厚労省は、こうした声を踏まえ、「感染ルートが厳格に特定できなくても幅広く認める」(幹部)という方針を固めた。保健所の疫学調査も参考にする。
関係者によると、3~4月までに中国人観光客を案内したツアー関係者や陽性患者を看病していた看護師らからの労災請求が3件あった。

毎日新聞 2020年4月24日

この段階では、業務上と認定決定がなされた事例はまだないようであった。
同じく4月24日に明らかになった、全国の労働局等に設置されている「特別労働相談窓口」に寄せられた相談状況(4月14日時点)では、全体で186,939人から相談を受け付けているなかで、労災補償に関する相談が521件であったという。
様々な団体が行っている労働相談等に寄せられた内容を聞いてもたしかにまだ労災補償関係の相談は多くないようで、労災請求がなされてくるのはこれからかもしれない。しかし、この間の厚生労働省の対応では、労災請求が促進されないばかりでなく、たとえ請求したとしても業務上と認定されないことを含めて様々な問題が生じる恐れが大きい。
そこで全国安全センターは、4月27日に緊急要請を行った。今後、具体的な相談に対応するとともに、フォローアップを続けていきたい。

古谷杉郎
全国労働安全衛生センター連絡会議 事務局長

安全センター情報2020年6月号

続報-安全センター情報2020年7月号 特集/ 新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償②(2020年5月27日)

続報-特集/新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償③-2020年7月1日

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