特集/新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償④-2020年8月31日 労災請求間もなく千件突破/認定率も50.8%まで上昇-労災・公災ともに具体的認定事例も紹介

認定労災504件、地公災46件

4月27日の全国安全センターの緊急要請の後、厚生労働省は新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数等の公表を行ったが、その後も情報の更新を継続している。

労災請求件数は、4月30日現在の4件から、5月27日に50件を超え(52件)、6月5日に100件(105件)、6月11日に200件(229件)、6月15日に300件(300件)、6月26日に400件(421件)、7月9日に500件(501件)、7月13日に600件(610件)、7月16日に700件(710件)、8月3日に800件(803件)、8月17日に900件(922件)を超えた。本稿執筆時点の最新情報は8月31日18時現在での状況で993件である(最後の公表日は7月1日)。間もなく千件を突破する。ただし、8月21日以降伸び方が鈍くなっている。

認定(=支給)件数のほうは、5月14日に初めて2件(医療従事者等とそれ以外が1件ずつ)あり、6月30日に50件を超え(54件)、7月10日に100件(111件)、7月22日に200件(227件)、8月11日に300件(300件)、8月21日に400件(410件)、8月31日に500件を超えて504件となった。

なお、5月12日現在分の公表以降、「請求件数」、「決定件数」に加えて、「うち支給件数」が示されているが、まだ不支給決定は出されていない。

請求件数に対する認定件数の割合として計算した認定率は、5月14日の5.1%から、8月7日の40.1%までおおむね増加傾向を続け、8月19日から24日までは伸び悩んだものの、その後再び増加して、8月31日現在で50.8%と、50%を超えた。
以上の推移は図1で確認することができる。

図1には、①医療従事者等、②医療従事者等以外、③海外出張者別の認定件数も示してある。医療従事者等が圧倒的に多く、8月以降おおむね認定件数の86%前後を占めている状況である。医療従事者等以外ははるかに少ない。海外出張者は、当初は脚注で示され、5月19日現在分から区分が設けられようになったものだが、数はわずかである。
認定率では、8月31日現在で、全体で50.8%であるのに対して、医療従事者等で53.3%、医療従事者等以外で37.1%、海外出張者で85.7%(認定6件/請求7件)、という状況である。

表1に、8月31日現在の労災請求件数等を示している。「医療従事者等」とは、患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務に従事する者をいい、また、( )内は死亡に係る件数で、内数である。
医療従事者等以外の業種区分の数は、5月8日4、5月12日5、5月19日6、5月20日7、5月22日8、5月26日9、6月2日11、6月18日12、8月19日13、8月20日14業種に増えていったという経過である。

公災-医療関係以外に問題

地方公務員災害補償基金も6月1日になって初めて5月29日17時現在の「新型コロナウイルス感染症に関する認定請求件数、認定件数について」公表し、その後、6月10日現在、6月23日現在、6月30日現在、7月15日現在、7月31日現在、8月7日現在、8月14日現在、8月21日現在、8月31日現在と、情報を更新している (最後の公表日は9月4日) 。

6月10日現在分の公表以降、認定件数として「公務上」と「公務外」の欄を設けているが、これまでのところ公務外認定件数はゼロである。

請求件数、認定件数、認定率の推移を、図2に示している。

全体的状況としては、請求件数(72件)は100件にも、認定件数(46件)は50件にも至っていない。

認定件数については、医師・歯科医師、看護師、その他の医療技術者の合計としての医療従事者等と医療従事者等以外別の推移も示しているが、医療従事者等以外は少ないし、増えていない。

全体の認定率は、8月31日現在で63.9%で労災の場合よりも高いが、医療従事者等では95.1%、医療従事者等以外では22.6%と格差が大きい。医療従事者等以外で公務災害認定が遅れているということである。

表2に、8月21現在の公務災害認定請求件数等を示している。医療従事者では看護師がもっとも多く、医療従事者等以外は警察官、消防吏員、清掃職員、その他の職員となっている。清掃職員とその他の職員では、まだ公務上認定がない。

具体的事例の紹介

また、これも4月27日の全国安全センターの緊急要請事項のひとつだったが、厚生労働省は7月10日に、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例」を公表して7つの事例を紹介し、7月29日までに1事例を追加した。

さらに、全国安全センターは、7月13日に地方公務員災害補償基金、7月17日に総務省自治行政局公務員部安全厚生推進室と公務災害補償全般についての交渉を行った際に、厚生労働省と同じように具体的な認定事例の紹介を行うよう要請した。8月4日になって地方公務員災害補償基金は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る公務災害認定事例」を公表した。
それらの内容を紹介する。

労災認定事例

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災請求のご参考となるよう、労災認定の具体的な事例について概要をご紹介します。

なお、同感染症の労災認定の考え方について示した令和2年4月28日付け基補発0428第1号「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱い」(以下「通知」といいます。)に記載している事項に沿って、職種に着目して事例をご紹介します。

1 医療従事者等の事例(通知記の2の(1)のア)
【考え方:医師、看護師、介護従事者等の医療従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合は、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として労災保険給付の対象となる】

(事例1) 医師
A医師が診察した患者に発熱等の症状がみられ、その患者は後日新型コロナウイルスに感染していたことが判明した。その後、A医師は発熱等の症状が出現し、濃厚接触者としてPCR検査を行ったところ、新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署における調査の結果、A医師は、業務外で感染したことが明らかではなかったことから、支給決定された。

(事例2) 看護師
B看護師は、日々多数の患者に対し、問診、採血等の看護業務に従事していたところ、頭痛、発熱等の症状が続き、PCR検査で新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署における調査の結果、B看護師は、業務外で感染したことが明らかではなかったことから、支給決定された。

(事例3) 介護職員
介護職員のCさんは、訪問介護利用者宅で介護業務に従事していたところ、利用者に新型コロナウイルス感染が確認されたため、濃厚接触者としてPCR検査を受けた結果、新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署における調査の結果、Cさんは、業務外で感染したことが明らかではなかったことから、支給決定された。

(事例4) 理学療法士
D理学療法士は、病院のリハビリテーション科で業務に従事していたところ、院内で新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生し、複数の医師の感染が確認された。それらの医師と接触歴があったD理学療法士にも、咳、発熱等の症状が出現し、PCR検査で新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署における調査の結果、D理学療法士は、業務外で感染したことが明らかではなかったことから、支給決定された。

2 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定された場合の事例(通知記の2の(1)のイ)
【考え方:感染源が業務に内在していることが明らかな場合は、労災保険給付の対象となる】

(事例5) 飲食店店員
飲食店店員のEさんは、店内での業務に従事していたが、新型コロナウイルス感染者が店舗に来店していたことが確認されたことから、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
また、労働基準監督署における調査の結果、Eさん以外にも同時期に複数の同僚労働者の感染が確認され、クラスターが発生したと認められた。
以上の経過から、Eさんは新型コロナウイルスに感染しており、感染経路が特定され、感染源が業務に内在していたことが明らかであると判断されたことから、支給決定された。

(事例6) 建設作業員
建設作業員のFさんは、勤務中、同僚労働者と作業車に同乗していたところ、後日、作業車に同乗した同僚が新型コロナウイルスに感染していることが確認された。
Fさんはその後体調不良となり、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
また、労働基準監督署における調査の結果、Fさんについては当該同僚以外の感染者との接触は確認されなかった。
以上の経過から、Fさんは新型コロナウイルスに感染しており、感染経路が特定され、感染源が業務に内在していたことが明らかであると判断されたことから、支給決定された。

3 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されない場合の事例(通知記の2の(1)のウ)
【考え方:感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務(複数の感染者が確認された労働環境下での業務や顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務など)に従事し、業務により感染した蓋然性が高いものと認められる場合は、労災保険給付の対象となる】

(事例7) 小売店販売員
小売店販売員のGさんは、店頭での接客業務等に従事していたが、発熱、咳等の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署において調査したところ、Gさんの感染経路は特定されなかったが、発症前の14日間の業務内容については、日々数十人と接客し商品説明等を行っていたことが認められ、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。
一方、発症前14日間の私生活での外出については、日用品の買い物や散歩などで、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、接客中の飛沫感染や接触感染が考えられるなど、当該販売員の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。
以上の経過から、Gさんは、新型コロナウイルスに感染しており、感染経路は特定されないが、従事した業務は、顧客との近接や接触が多い労働環境下での業務と認められ、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと判断されることから、支給決定された。

(事例8) タクシー乗務員
タクシー乗務員のHさんは、乗客輸送の業務に従事していたが、発熱の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署において調査したところ、Hさんの感染経路は特定されなかったが、発症前の14日間の業務内容については、日々数十人の乗客(海外や県外からの乗客を含む)を輸送する業務を行っていたことが認められ、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。
一方、発症前14日間の私生活での外出については、日用品の買い物などで、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、飛沫感染が考えられるなど、当該乗務員の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。
以上の経過から、Hさんは、新型コロナウイルスに感染しており、感染経路は特定されないが、従事した業務は、顧客との近接や接触が多い労働環境下での業務と認められ、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと判断されることから、支給決定された。

公務災害認定事例

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る補償の請求の参考となるよう、地方公務員災害補償基金(以下「基金」といいます。)において公務上の災害(以下「公務災害」といいます。)と認定された事例の概要についてご紹介します。
なお、公務災害の認定は、令和2年5月1日付け地基補第145号「新型コロナウイルス感染症の公務災害認定における取扱いについて」(以下「通知」といいます。)で示した取扱いにより行っています。

(事例1) 医師
A医師は、病院で外来診療や日直業務に当たっており、診療等の際にはマスクを装着し、処置の度にアルコールによる手指消毒を行っていたが、日直業務終了後に帰宅した際に体調不良を感じたため検温したところ発熱していた。数日間自宅待機したが解熱しなかったため新型コロナウイルス感染症に係るPCR検査を受けたところ、陽性であり、「新型コロナウイルス感染症」と診断された。
基金における調査の結果、A医師は、通知記の2の(1)アにいう医療従事者等であり、公務外で感染したことが明らかではなかったことから、公務災害として認定された。

(事例2) 看護師
B看護師は、新型コロナウイルスの感染者が療養している病棟において看護を行っていたが、のどに痛みを感じたため自宅療養していた。その後、発熱したため、新型コロナウイルス感染症に係るPCR検査を受けたところ陰性であった。以降も発熱が続き、呼吸状態も悪化したため、再度PCR検査を受けたところ、陽性となり、「新型コロナ肺炎」と診断された。
基金における調査の結果、B看護師は、通知記の2の(1)アにいう医療従事者等であり、公務外で感染したことが明らかではなかったことから、公務災害として認定された。

(事例3) 消防吏員
C救急隊員は、救急出動で、傷病者の観察と処置を行い、病院に搬送した。この時の傷病者の主訴は頭痛のみであったことから、サージカルマスク、手袋等の着衣による通常の感染予防策で対応した。その後、当該傷病者が新型コロナウイルス感染症の陽性者と判明したことから、自宅待機となり、発熱、頭痛及びのどの痛みが出現したためPCR検査を受けたところ、陽性であり、「新型コロナウイルス感染症」と診断された。
基金における調査の結果、C救急隊員は、通知記の2の(1)アにいう医療従事者等であり、公務外で感染したことが明らかではなかったことから、公務災害として認定された。

まだまだやれることがある

全国安全センターの緊急要請前と比べれば、労災・公災請求・認定の状況及び情報の公開は飛躍的に改善されてきている。しかし、新型コロナウイルス感染症患者の発生状況からすれば、労災・公災であるにもかかわらず請求すらされていない事例が膨大に残されていることは明らかである。

国家公務員の状況はいまだに公表もされていない。労災で言えば職種情報を追加することを含め、請求・認定状況の公表内容も改善の余地があるし、具体的な認定事例の紹介も一層の充実が求められる。また、労働者死傷病報告の提出促進と合わせて、「労災隠しは犯罪」というメッセージをひろめるべきである。そのことが、現在進行形の安全衛生対策及び将来の事態における安全衛生対策の確保・強化にとっても重要だということを強調しておきたい。

感染予防強化へ再度の協力要請

なお、厚生労働省は8月7日に労使団体に宛てて「職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について」協力要請を行った。同じタイトルでの5月14日の要請から3か月弱ぶりの再度の協力要請である。

内容としては、「なお、テレワークを行う場合は、メンタルヘルスの問題が顕在化しやすいという指摘があることにも留意いただきたい」、また、「マスクで口が覆われることにより、のどの渇きを感じにくくなることがあるため、のどの渇きに関する自覚症状の有無にかかわらず、労働者に水分・塩分を摂取するよう周知し、徹底を求める等、熱中症防止対策についても着実に実施いただきたい」という指摘が追加される一方で、「感染した労働者が自ら労災請求の手続きを行うことが困難である場合には、事業者はその手続きを行うことができるように助力しなければならない(労働者災害補償保険法施行規則第23条)とされていることに御留意いただきたい」という言及がなくなった。「新型コロナウイルス感染症の陽性者について、労働安全衛生法に基づく労働者死傷病報告の提出」は維持されている。

また、「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」が改訂されるとともに(感染予防のための体制、配慮が必要な労働者への対応等(風症状が出た場合等の対応から変更)、熱中症の予防の項目が追加され、感染防止に向けた行動変容がなくなった)、「新型コロナウイルス感染症に係る職場における集団感染事例」、「新型コロナウイルス感染症に係る労災認定事例」が追加されている。

安全センター情報2020年10月号

安全センター情報2020年8月号 特集/ 新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償③(2020年7月1日)
安全センター情報2020年7月号 特集/ 新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償②(2020年5月27日)
安全センター情報2020年6月号 特集/新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償①(2020年4月27日)
当ウエブサイト上にある関連情報の要約

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