手話通訳による頸肩腕障害の予防と治療「ケイワンを知って生涯手話人生を送ろう!」宇土博著
的確・平易な最良の頸肩腕障害解説書
友和クリニック院長の宇土博医師による手話通訳者の頸肩腕障害の予防と治療に関する解説書が出版された。この本は、手話通訳の頸肩腕障害の治療と予防の解説書であるとともに、頸肩腕障害という病気と治療・予防についての的確・平易な最良の解説書となっており、安全衛生や職業病にかかわりのある多くの方の参考になる。宇土医師が取り組んでいる「新経絡治療」についても説明されている。
宇土医師は広島市内で長年にわたって労災・職業病の治療と予防、労災認定支援活動を続けているエキスパートであり、広島労働安全衛生センターの発足時から中心的役割を果たしてこられ、常に、被災労働者とともに歩んでこられた方である。
頸肩腕障害は宇土医師の仕事の中心の一つであり、近年、取り組んで来られた手話通訳者の頸肩腕障害についての一つの集大成がこの本である。現場の手話通訳者の方々との協同の成果であり、本の出版にあたっては、その方々を中心とするクラウドファンディングによって達成されたことも特筆に値する。
宇土医師と頸肩腕障害、手話との出会い
宇土医師と頸肩腕障害や手話とのかかわりが本の前書きに書かれている。なぜ、この本が書かれたかがわかるので、以下に引用させていただく。
頸肩腕障害、手話との出会い
私は、1974年に広島大学医学部を卒業し、大学院で公衆衛生学教室に入り、研究テーマに、職業性頸肩腕障害を選びました。「公衆衛生学」の公衆は、町や会社(コミュニティ)で生活し、働く人の集団を指し、衛生とは、命と健康を守ることを意味します。公衆衛生は、コミュニティ(共同体)の集団の病気を予防し、命と健康を守る学問です。そして、その時代に多発する疾患の原因を研究し、予防対策を講じます。その当時は、多発する職業病-頸肩腕障害の研究も公衆衛生の大きな課題となっていました。
大学院では、ダイエーやイズミというスーパーの従業員のレジや電話交換手の頸肩腕障害の健診に取り組みました。当時は、スーパーの全盛時代で、地下の食品売り場では、レジの前に何十人も買い物客が並んでいました。そして、高校を卒業したばかりの若い女子社員が必死でレジをさばいていました。当時はバーコードもなく、全て手作業で、左手で野菜を掴み、右手でレジを早いスピードで打ちこんでいました。当時のレジのキーは、間違わないように硬いキーで、手指に大きな負担がかかりました。1日7時間もレジを打つ過酷な作業でした。そのため、2~3年すると、3割ぐらいの人が頸肩腕障害を発症し、治療を要する状態になりました。
当時、中国地方には、職業病を治療する医療機関がなく、レジで発症した患者の治療をするために、1975年10月、広島市内の的場町で開業していた先輩の広瀬脩二先生の診療所の一室を借りて、職業病相談窓口を開設しました。腱鞘炎のような慢性の痛みを伴う疾患の治療には、鎮痛剤の効果がなく、先輩から学んだ針治療を行っていました。これが、友和クリニックで行っている、ツボを押す新経絡治療(しんけいらくちりょう)の源流になりました。
その後、大学院卒業を機に、1979年12月に現在の稲荷町に友和クリニックを開設し、以後40年間にわたって、頸肩腕障害等の予防・治療を行ってきました。
そして1992年に、手話通訳で頸肩腕障害を発症したろう学校の先生を診察したのが、手話通訳との出会いでした(※下の本サイト記事参照)。中国地方で初めて公務災害申請を行い、認定されました。それを契機に、手話通訳の方の健診や治療を行うことになりました。
2019年2月の山口県山口市と同年3月の鳥取県倉吉市での講演の時に、手話通訳の頸肩腕障害の本を出版する話が持ち上がりました。この本が、手話通訳に携わるひとの頸肩腕障害の予防と治療に少しでも役立てれば幸いです。
「ケイワンを知って生涯手話人生を送ろう!」宇土博 著
2020年2月吉日
ケイワンを知って生涯手話人生を送ろう!手話通訳による頸肩腕障害の予防と治療-目次紹介ー
頸肩腕障害、手話との出会い
今日からやってみよう!(ケイワン対策バイブル)~長く読むのが苦手なあなたに~
1 簡単健康チェック
2 自分でできるツボの刺激
3 身体改善アクションプログラム
第1章 頸肩腕障害とは
1 我が国の頸肩腕障害の歴史
2 手話通訳による頸肩腕障害
第2章 頸肩腕障害の特徴的な症状と症度の進行
1 頸肩腕障害の特徴的な症状
2 症度の進行
第3章 頚肩腕の負担と軽減対策
1 手話通訳
2 要約筆記
3 触手話
4 盲ろう者への手話
第4章 手話通訳の頸肩腕障害の発症例
1 ろう学校の先生
2 ろう学校幼稚部の先生
3 市役所職員(手話通訳者)
4 障害者福祉センター職員(手話通訳者)
第5章
1 頸肩腕障害予防の一般原則
2 パソコンの対策ー上肢保持と頸部前屈の対策
3 パソコンの対策ー静止姿勢をなくし姿勢を変換する対策
4 パソコンの作業量、作業時間の規制
5 パソコン音声入力による作業負担の軽減対策
6 適切な作業環境(室温、騒音制御、照明)
7 全身運動による筋緊張の緩和と血流促進
第6章 人間工学に基づく手話通訳に関する提案
第7章 頸肩腕障害の治療
1 ツボ(経穴)と経絡
2 欧米でも注目されている「経絡治療」
3 新経絡治療の仕組み
4 新経絡治療の治療例
第8章 今日からできる自己管理
1 健康管理チェックリスト
2 今日から始める生活改善
3 自分でできるツボの刺激
第9章 お知らせ
1 日本新経絡医学会について
2 新経絡治療セミナーの紹介
Special Thanks(クラウドファンディングでご支援いただいたみなさま)
編集後記
2020年3月6日
株式会社パレード発行