書類の確認処理で頸肩腕障害-郵便・宅急便の仕分け、配送作業●東京
記事/お問合せ:東京労働安全衛生センター
Hさんは、郵便・宅急便の仕分け、配送作業過程で、毎日膨大な書類の確認作業に従事し、頚肩腕障害を発症した。Hさんは、作業の内容と上肢障害の認定要件を検討し、それに則した意見書を作成。2010年の春、三田労働基準監督署より業務上疾患として認定を受けられた。ご本人から疾病発症の経験を寄稿していただいた。
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一昨年秋、満60歳となり、35年勤務した会社を定年退職、同時に嘱託として再雇用された。56歳までは課長職、会社規定による役職定年後は同じ課で外国特許調査業務に従事した。提携している外国特許事務所へ調査依頼(通常英語で)、調査結果を国内顧客へ報告する業務であり、語学ができること、外国特許制度に精通していることが条件の業務であった。
翌年4月、異動でドケッテイング室へ配属された。ドケッテイング室は会社に届く全ての郵便、宅急便等の記録、仕分、担当部署への配送、また社内から発送される全ての発送物の管理を担当する部署である。
初日、大きな箱を積み上げた台車を手渡され、目が点になった。「私の仕事は荷物運びなのか!」私に指示された業務は1日5回社内の各フロアの集荷場所から未封緘の発送書類を運んできて、それらの納品書類の宛名が間違いないか否かをチェックする封緘チェック業務であった。
「特許」という企業の最先端技術に関する情報が、誤送によって競合他社に漏れてしまった場合の損失は計り知れないものがあり、最悪の場合は損害賠償訴訟を起こされる危険性もある。この封緘チェック業務は、スタート時点から複数のスタッフが交代で2人ずつ組になって従事してきた業務であり、定年退職した高齢者が出たので3Kの業務は一人に押し付けてしまおうという意図が明白であった。
作業内容はきわめて単純で、封筒から出した納品書類を右手人差し指でひたすら捲って宛名をチェックする。左手は次の納品書類を見られるように、チェック終了した書類を親指と人差し指で保持する-上肢-両手の指先のみを反復する作業である。1件の封筒の中に平均8~10件程度入っており、分厚い納品書類も多く、両手の肘は大半の場合空中に上げた状態で作業、また書類はA4に規格化されているため大きく姿勢を変えることなく、頸部は前屈みで静止している状態で、1日約6時間作業を続けた。1日平均約400通の発送物を処理、書類の数にすると約3,200~4,000件処理していたことになる。
8月になり、指先に痛みを感じるようになり、両方の肘、上腕、肩にも耐え難い「だるさ」を感じるようになり、専門医を受診、頸肩腕障害と診断された。
早速診断書と「業務軽減願い」を会社総務部へ提出したところ、「あんな軽作業で労働災害になるはずがない。年齢のせいだ。一切の業務軽減は認めない」という回答があり、言外に「不満なら退職しろ」と匂わせる対応であった。労災申請書の事業主の欄の記名捺印も拒否、さらにセカンドオピニオンと称して慶応病院の整形外科を無理に受診させ、整形外科の医師に、「頸肩腕障害は労災ではない」などと恫喝をかけさせるという妨害もしてきた。
このような妨害にも負けずに、東京労働安全衛生センターの皆様のご支援も受けて頑張った結果、労災認定をかちとることができました。丁寧にご指導いただいたセンターの皆様に深く感謝しております。(H)
※問題の封緘チェック作業とは
書類を積み上げ、一件づつ封筒から内容物を出し、全ての書類の宛名を封筒表書きと合っているかを照合。一枚一枚を手めくりする作業では、手の置き場所、指の位置、身体の位置、姿勢は常に静止している。指のみを激しく動かします。
分厚い封筒や宅急便の箱に収納しなければならないような大型納品封筒の場合、肘に支えがなく宙に浮かせて保ち、上記の指の動作を行いました。作業は、午前に比べると、午後に集中。とりわけ午後2~3時の一時間に、1日6時間の就労時間全体の半分以上の作業が集中しました。