頸肩腕症候群と頸肩腕障害~「頸肩腕障害」をようやく公認-作業関連疾患として●日本整形外科学会
頸肩腕症候群と頸肩腕障害
上記のふたつの病名は、日本整形外科学会と日本産業衛生学会とで、その意味するところが異なり、長く混乱を引きずっていたが、作業関連疾患(work related disease)という概念が海外から持ち込まれてきたことから、日本整形外科学会は、「作業との関連についてはふれない」という従来の姿勢を改め、「頸肩腕症候群のうち作業関連の要因が原因と考えられる症例を『頸肩腕障害』とする」と提案した。
これは、これまでの日本産業衛生学会の主張に沿うものであり、歓迎すべきことである。やや旧聞に属すが、日本整形外科学会産業医委員会は、『臨床整形外科』第36巻第11号(2001年11月)で誌上シンポジウム「頸肩腕症候群と肩こり一疾病概念とその病態一」を行い(座長:大井利夫・上都賀総合病院整形外科、菊地臣一・福島県立医科大学整形外科)、6本の論文が掲載された。
- 緒言一「今回の検討を通して、産業医委員会としては頸肩腕症候群の疾患概念に作業関連の要因も含ませることにより、整形外科としての頸肩腕症候群の疾患概念を明確に確立しうるとの結論に達し提言することにした」(大井利夫・菊地臣一)。
- 疾病概念とその問題点一「欧米では頸肩腕障害を出発点として『筋・骨格系の慢性疲労による障害とは何か』という問題に発展させ、これを解いていこうという姿勢がみられる。これに比べて、わが国では『労災認定と補償』などの技術的な面が強調され、疾患の存在を検証し病態を解明するという取り組みが遅れているように思われる」(中村利孝・産業医科大学整形外科)
- 文献的検討(三笠元彦・清瀬病院整形外科)
- 肩こりの病態(矢吹省司・菊地臣一・福島県立医科大学整形外科)
- 職場での実態調査一「上肢を過度に使用する職業に合併する頸肩腕痛については、整形外科学会として十分な取り組みがなされたとはいえない。特に作業形態や作業量、上肢の使用頻度などと障害の範囲・程度に関する研究は、日本整形外科学会で十分に研究されたとは言いにくい」(多田浩一他・関西労災病院整形外科)
- 診療現場での現状一「近年、業務上の病態として、作業関連疾患という概念が一般化してきている。この範疇に頸肩腕症候群も入っている。業務上の場合は、作業遂行のために直接の負荷がかかる手指の過負荷の他に、姿勢の問題、環境の問題、対人関係などの精神的ストレスの問題がからみ、発症は多因子の場合が大部分である。したがって、鑑別を前提とした頸肩腕症候群とは区別するのが望ましく、業務上の頸肩腕症候群とされる病態は、諸家のいう頸肩腕障害として表現することに賛同する」 (伊地知正光・東京労災病院整形外科)
ということである。
これまでキーパンチャー、レジスターの取扱者を始め多くの労働者が泣かされてきた歴史を振り返ると、どのように総括してこのような提言がなされたのか?という疑問が湧き上がる。
また、同じ論文(⑤)の中に、「日本産業衛生学会が注目した事務職における頸肩腕痛をはじめとする症状については一般的な傾向はみられず、治療や対策についても深刻なものではないことがわかる。いわゆる業務上障害としての認定が問題になり、長時間の治療を要するような頸肩腕障害を思わせるアンケート調査は全くみられなかった」という一文もあり、依然として、「労災認定と補償などの技術的な面」にこだわっているところもうかがわれる。
先が長いことを知らしめるものではあるが、ひとつのターニングポイントを回ったことは間違いない。
会員・読者の皆さんが、これらの論文を記憶に止めて、今後の頸肩腕障害の認定、予防に取り組んでいただけると幸いである。
2003年2月14日
安全センター情報2003年3月号