アスベスト肺がん、クリーニング業で最終ばく露職場として労災認定。審査請求不支給処分取消しで。労基署調査不足など原因/神奈川
概要・解説
本件は、左官、石綿製品製造工場での従事歴があり、胸膜プラーク有所見として石綿健康管理手帳を取得し、定期健診を受ける中で肺がんがみつかり、労災申請したところ、石綿ばく露作業従事期間不足として不支給とされ、審査請求において、その後のクリーニング店勤務における石綿ばく露が認められ不支給処分取消しとなり、労災認定された事案である。その間の不支給処分を行った労基署には明らかな調査不足がみられ、また不可解な対応もあった事案であった。
記事/問合せ 神奈川労災職業病センター
大阪パッキング製造所(現日本インシュレーション)で石綿ばく露作業に従事も期間不足で不支給
昨年11月、神奈川県内でクリーニング店を営むIさんが、お連れ合いと共に神奈川労災職業病センター大和支所(十条通り医院)に相談に来られた。
新潟県出身のIさんは、中学卒業後、左官の仕事をしていたが、冬場は仕事ができないため、関西方面に出稼ぎに行った。大阪パッキング製造所の労働者として、発電所の壁や工場のパイプに珪藻土にアスベストを混合して塗っていたという。作業時にマスクなどはなく、眉毛が真っ白になった。
その後、神奈川県に転居。クリーニング店やクリーニング協同組合で働いた後、クリーニング店を開業して現在に至る。5年ほど前、かかりつけ医から、レントゲンで肺の異常を指摘され、医師の勧めで石綿健康管理手帳を取得。2010年2月に健康診断で精密検査を指示され、4月に肺がんと診断され、療養中である。
大阪パッキング製造所を所轄する大阪南労働基準監督署は、2010年10月に不支給決定をした。胸膜プラークはあるが、曝露歴が10年未満なので労災に該当しないという。(注:この場合は、本省協議に付する必要があった。)
ところが監督署は同じ文書の中で、クリーニング業務でのアスベスト曝露の可能性を指摘し、監督署に相談するよう勧めている。ご丁寧に、本省が作成した曝露例を示した資料まで同封されていた。以下はその一部。
労基署の調査ミス発覚で原処分取消
これを見たIさんはすぐに、クリーニング協同組合時代に度々、アイロン修理作業に従事したことを思い出した。審査請求すると同時に横浜の監督署にも相談した。病院の主治医からは、「労災になったでしょ。えっ、なってない?そんなことないでしょ。この間、意見書も書いたよ」とまで言われ、混乱状態に。
相談を受けたセンターは、さっそく大阪南労基署に電話した。担当者は、「聴取の際、クリーニング協同組合のことを確認したが、Iさんは曝露はなかったと答えた」と言う。Iさんは、「絶対にそんな質問はされてない。聞かれれば思い出すに決まっている」と言う。
いずれにせよ、労基署は不支給決定前に電話や手紙を出せば良かったはずだ。私たちは、労基署自らが決定を取り消すよう求め、労災保険審査官には、一日も早く取り消すよう求めた。審査官はさっそく神奈川に来て、Iさんや、クリーニング店の元同僚から聴き取りを行い、2011年2月、原処分を取り消し、業務上と認定した。
クリーニング業における石綿ばく露に注意
Iさんの場合は、たまたま保温工として働いていたから健康管理手帳を取得していたし、労災請求に至った。また、大阪南労基署が、対処は不可解で不十分だったが、クリーニング業とアスベスト曝露の関係に気付いただけ「まし」だった。
いまだ、肺がん患者の多くが、アスベスト曝露との因果関係がはっきりしないまま埋もれている。行政や医療機関に対しても、石綿問題はまだ終わっていないことを注意喚起していきたい。
安全センター情報2011年6月号