職業がんをなくそう通信20/第10回なくそう集会・三星化学裁判・繊維産業の膀胱がん労災支援

2019年12月28日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

新年のご挨拶
患者と家族の会代表 田中康弘

昨年 12 月7 日~8 日、全労連東海・北陸ブロック総会に参加し、提訴に至るまでの経過と三星裁判の持つ意義と進行状況および今後の見通しなどをお話し裁判へのご支援をお願い申し上げました。

お話しするにあたりどのように申せばこの思いが伝わるのか一週間ほど悩みました。考えて考えているときにあらためて大切なことに気づきました。

職業がんの認定や化学物質の規制にあたっては、第一に化学物質が原因でがんになってもなかなか簡単には労災認定されません。第二に多くの犠牲者が出るとやっと労災認定がされ化学物質が規制されますが、その規制はごく限られた原因化学物質しか対象にならないという現状があります。

こういう現状の中で不幸にも職業がんになってしまったらどうなってしまうのだろう?まじめに働いて来た人はどこに救いを求めれば良いのでしょうか?

三星化学工業のような経営者は規制されていなかった化学物質だから会社には責任はないんですと労働者を突き放します。国は業務との因果関係が定かではないからとなかなか労災を認めません。職業がんになってしまった当事者は結局救われない。こんな怖い現実をどうすれば良いのでしょうか。

私はあらためて思いました。とにかく働く人々を職業がんにさせないことが大切であると。そのためにできる限りの取り組みを行っていくことが重要であると。三星化学工業裁判は誰をも職業がんにさせないため労働衛生において安全配慮義務を徹底させ予防線をしっかり築く、そのための闘いであると。

今年もよろしくお願いいたします。

第 10 回職業がんをなくそう集会 in 大阪

12 月 1 日大阪天満 PLP 会館中会議室にて第10 回職業がんをなくそう集会が開催され、参加者は13 名(団体1、家族1、専門家1)でした。

基調報告は三星裁判の意義と現状および今後の見通しについて田中代表の報告に基づき化学一般関西地方本部海老原書記長が発表されました。続いて化学物質の適正な取り扱いについて堀谷より働く者のいのちと健康を守る全国センター化学物質研究会でまとめた学校教育現場における労働安全衛生テキストに基づき紹介をしました。総会では経過報告・決算報告ならびに会計監査報告を行い新年度の活動方針・予算および新役員の提案がされ拍手で承認されました。

基調報告を行う海老原書記長

会場発言では、内容は良かったが参加者が少ない、参加者を増やすため努力したい、少しでも多くの職業がんを発掘したいなどの意見がでました。本年後半より諸事重なり通信発行や集会準備ができず患者さんの支援で手一杯の状況であったため集会の開催が大幅に遅れ準備期間も短く課題を残したものとなりました。

三星化学裁判第7回口頭弁論
12月24日13時半より福井地裁2号法廷

裁判傍聴は原告4名支援者24名記者4名と被告2名、報告集会は福井駅前あおっさ602号室で14時半から行われ弁護団より当日の裁判の解説がされました。

原告より三星化学工業の衛生管理の杜撰さを示すものとして新たに過去における有機溶剤の環境測定結果を示し(環境測定結果は労働基準監督署に届け閲覧が可能)、区分1、2、3(数字が大きいほど環境が悪い)の分布について通常環境が悪いとされる事業場でも区分3が1%程度であるところ三星化学では区分3が9%もあり極めて劣悪な労働環境であることがわかり、その状態に顕著な改善が見られないことから杜撰な衛生管理であったことがわかります。

また三星化学工業は有害物質が防護手袋を浸透し皮膚吸収され発がんすることを知らなかったとも主張していますが、オルト-トルイジンの皮膚吸収は以前から知られておりそ もそも夏場半袖Tシャツで作業をさせていたのですから手袋云々言う以前の問題であること、使用していたゴム手袋は当該有機溶剤やオルトートルイジンには適合しておらず更にすぐに交換をさせずバケツに入れた有機溶剤の中にゴム手袋をしたまま両手で洗浄し穴が開いてようやく交換していたのですから浸透だけでなく直接接触するまで使用をさせていたことなどを反論しました。

次回第8回口頭弁論は来年3月27日13時半より福井地裁2号法廷で報告集会はあおっさ601A号室14時半(裁判後の進行協議終了時刻次第で若干ずれ込む可能性あり)です。また報告集会と同じ部屋で当日18時より第11回職業がんをなくそう集会を開催予定です。

繊維産業にて発生した膀胱がん
労災認定に向け支援の輪拡がる

これまでも何回かお伝えしてきましたが中国の繊維産業現場において品質管理作業に従事した労働者が帰国後膀胱がんを発症し、当時の主治医も40代前半という若年発症であること、喫煙歴がないこと、品質検査作業で特定芳香族アミン(膀胱がんを発症させる)に接触したことなどから職業がんの可能性を指摘していました。

労災申請をしたものの、会社は残された記録を正確に監督署に提出せず、当時の上司も「臭いに注意してとは言ったが臭いを嗅げとは言っていない」など矛盾した証言をしたこと、審査官が会社や上司の証言のみを採用し本人が提出した当時の作業や曝露の様子を示した証拠を十分検討しなかったなどの理由で決定書では曝露に該当する作業自体がなかったというべきであるなどど事実と全く違う見解が示されています。

本年5月15日再審査請求の公開審理にてこれらの矛盾を指摘し日本泌尿器科学会が編集した「膀胱癌診療ガイドライン」に示された危険因子の第一は喫煙(当人は喫煙歴なし)、第二が職業性発癌物質への曝露(海外で品質検査中に接触)であり、さらに職業性膀胱癌の臨床病理学的特徴として①若年発生の傾向②high grade,high stageの筋層浸潤性癌が多い③上部尿路再発リスクが高いなど該当することが多いとも指摘しましたが、本年9月28日棄却が決定されました。

これを受け11月7日本人と専門家・ジャーナリスト・民主団体・労働組合など支援者7名が集まり、今後の方向について検討しました。

行政訴訟では原告側に証明責任があるため厳しい闘いが予想されますが本人が行政訴訟の意思を明確にされたため弁護士選任の検討にかかり、12月12日再度弁護士を入れての打ち合わせを行い行政訴訟へと踏み出すことが決定されました。

今後現地中国での調査活動等を経て訴状をまとめ来年3月を目途に提訴の予定です。資金調達についてはクラウドファンディングに取り組むことになり正式に決定したら皆さまにもお願いすることになると思います。

「まじめに働いてがんになる。こんなことが許されていいのか」三星化学工業労組田中康弘書記長の言葉が重なります。本件の場合はまじめに働いてがんになり、がんになったら会社や上司にうそをつかれ一所懸命に働いた仕事自体がなかったことにされています。
無念は如何ばかりかと察します。
今後にご注目をお願いいたします。