中皮腫と非職業アスベストばくろ露に関する最新の論文:メタアナリシスとそこに含まれない諸研究

中皮腫と非職業アスベスト曝露との関連性

Rengyi Xu, et.al., Environmental Health (2018) 17:90

背景:中皮腫のリスクはアスベスト繊維への曝露と関連していることを示してきた。ほとんどの既存文献は職業曝露に焦点を当てているが、非職業アスベスト曝露も重要なリスクファクターのひとつとして確認されてきた。

目的:中皮腫と非職業アスベスト曝露の間の関連性を推計するとともに、対照群の採用及び曝露の測定の方法を評価する。

方法:中皮腫と近隣、家族及び家庭曝露を含めた非職業アスベスト曝露の関連性を検討した症例対照(CC)及びコホート研究を確認するために系統的な文献レビューを実施した。ランダム効果モデルを用いて要約相対リスク推計(SRRE)及び95%信頼区間を推計するためにメタアナリシスを行った。曝露の種類、性、地域、及び繊維の種類別にサブグループ分析も行った。

結果:22のCC及び7つのコホート研究を選んだ。CC研究における対照群は一般人口(55%)、病院記録(18%)、がん登録(23%)及び人口と病院記録の組み合わせ(5%)から選ばれていた。近隣曝露(例えばアスベスト工場からの直線距離や居住方向)、家族(例えばアスベスト労働者と住んでいたかどうか)及び家庭曝露(例えばアスベストを含有した家の修繕作業に加わっていたか)の測定には多様な方法が用いられていた。予備的なメタアナリシスの結果は、中皮腫のSRREは近隣曝露により5.33(95%CI 25.3, 11.23)、家族曝露により4.31(95%CI 2.58, 7.20)、及び家庭曝露により2.41(95%CI, 1.30, 4.48)を示唆し、I2統計量は大きかった。

結論:非職業アスベスト曝露は中皮腫のリスクの上昇と大いに関連している。ファンネルプロットは出版バイアスの可能性を示した。研究間の不均質が高いことからいくつかのSRREについては慎重に解釈すべきである。

※「メタアナリシスに含めた研究及び対応する相対リスク推計(95%CI)の要約」を下に掲載。
以下に本論文後に発表された、表に含まれない研究のいくつかを紹介するが、それ以前発表分を含め関連する全論文を網羅するものではない。

202007p54

全文(英語) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6300000/

●パキスタン北西部における環境アスベストと胸膜中皮腫:潜在的に致死的影響のある深刻な健康ハザード

Mohammad Yousaf Khan et.al., MOJ Curr Res & Rev.2018;1(3)

背景:中皮腫は1990年代にカイバル・パクトゥンクワ(KP)で初めて報告された。診断は組織病理学を基礎になされたが、いかなる免疫組織化学(IHC)マーカーも適用されなかった。そのため環境アスベスト曝露と中皮腫との間の因果関係を確立するために、より信頼できる研究が必要と感じられた。

目的:本研究の目的は、組織病理学とIHCマーカーをともに用いて、より信頼できる診断をもって中皮腫の存在を確認するとともに、滲出性胸水の原因としての中皮腫の全体的負荷を知ることである。

材料と方法:それは前向き研究であり、パキスタン、KP、ペシャワールのLady Reading病院医学教育研究所呼吸器学部において実施された。同病院はKP、連邦直轄部族地域(FATA)及びアフガニスタン全域からコンサルテーションと入院のために患者を受け入れている。研究期間は2015年1月から2017年12月の3年間だった。滲出性[胸]水のあるすべての患者が口頭と書面によるインフォームドコンセントの後に生検を受けた。Abrams胸膜生検針を使い平均して3または4片の胸膜生検がとられた。相対的に小さく及び/または小房化された滲出性[胸]水の場合には生検箇所選択のために超音波誘導が用いられた。局所麻酔薬としては2%リンドカイン注射が用いられた。過度に不安な場合には静脈内投与及び/またはトラマド-ルが用いられた。

結果:同学部は3年間に合計11,056人を受け入れ、6,274人(56.75%)が男性、4,782人(43.25%)が女性だった。それらのうち1.667人(15.07%)の患者に滲出性胸水があり、生検された。胸膜生検を受けた全例のうち合計136人(08.15%)が悪性であることが判明し、そのうちの33人(24.30%)が中皮腫だった。中皮腫についての男女比は2(65.20%):1(34.80%)だった。年齢分布では20歳未満の例はなく、症例の18.20%は21~40歳、及び症例の81.80%は40歳以上であった。すべての中皮腫症例が組織学的に証明され、胸膜中皮についてポジティブIHCマーカー及び他の悪性腫瘍についてネガティブIHCマーカーによって支持された。

結論:パキスタンの北西部、FATA及びKP州隣接地域は病理組織学的及び免疫組織化学的に胸膜中皮腫の症例を証明した。中皮腫の負荷はきわめて高く、すべての滲出性胸水及び悪性胸膜中皮腫の各々2%及び4分の1を占めた。

https://www.researchgate.net/publication/331871077_Environmental_asbestos_and_pleural_mesothelioma_in_the_north-west_of_Pakistan_a_serious_health_hazard_with_potentially_fatal_outcome

●子どものときの環境アスベスト曝露と後の人生における中皮腫のリスク:長期間フォローアップした登録ベースのコホート研究

Sofie Bunemann Dalsgaard et.al., Occup Environ Med 2019; 0

目的:アスベストセメント工場近くの小学校に通った元生徒における悪性中皮腫(MM)のリスクを検討する。

方法:デンマーク・オールボーで1928年から1984年まで操業したあるアスベスト・セメント工場からもっとも多い風向きで100~750mの距離に所在していた4つの小学校の個々の歴史記録から1940~1970年に生まれた12,111人の元生徒のコホートを確立した。デンマークがん登録におけるMMについて、この学校コホートとジェンダー・5歳年齢区分頻度をマッチさせた対象者108,987人からなる比較コホートをフォローアップした(2015年)。Cox回帰を用いて、MMの罹患率についてHR[ハザード比]を計算した。職務-曝露マトリックスにより職業・家族曝露について調整を行った。比較コホートを参照率として、がん罹患率を検査する潜伏期間を含めSIR分析を行った。

結果:フォローアップの平均期間は学校コホートで62.5年、比較コホートで62.2年だった。フォローアップ期間中にMMを発症した元生徒が男性で32人、女性で6人あり、HR男性7.01(95%CI 4.24-11.57)、HR女性7.43(95%CI 2.50-22.13)だった。工場から北へ250mの学校に通った者がMMについてもっとも高いHRをもち、10.65(95%CI 5.82-19.48)だった。[工場からの]学校の距離とMMのリスクの間に有意な傾向は確立されなかった(p=0.35)。

結論:われわれの結果は、アスベスト・セメント工場近隣の学校に通い、近隣に住んだ少年少女が後の人生で著しく増加したMMのリスクをもつことを示唆している。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30804166

●日本におけるアスベスト曝露の健康影響に関するポピュレーションベースド・コホート研究

Ling Zha, et.al., Cancer Science. 2019; 110

職業アスベスト曝露は多くの職場で生じており、また中皮腫・肺がんを引き起こすよく知られた原因である。しかし、非職業アスベスト曝露とそれらの疾病との関連性は明確に記述されていない。本研究の目的は、多数のアスベスト工場のあった日本・尼崎市の住民における死因別死亡率を調べるとともに、確立された及び疑われるアスベスト関連疾患による過剰の可能性を評価することである。本研究のポピュレーションは、2002年1月1日時点で40歳以上の年齢の1975年前から2002年までの尼崎市の143,929人の住民で構成される。フォローアップは2002年から2015年まで行われた。参照として日本の人口の死亡率を使って、性別に標準化死亡比(SMR)と95%信頼区間(CI)を計算した。(中皮腫による303件と肺がんによる2,683件を含めて)合計38,456件の死亡が観察された。長期居住者コホートにおけるSMRsは以下のとおりだった。全原因による死亡、男性で1.12(95%CI, 1.10-1.13)、女性で1.07(95%CI, 1.06-10.9)、肺がん、男性で1.28(95%CI, 1.23-1.34)、女性で1.23(95%CI, 1.14-1.32)、及び中皮腫、男性で6.75(95%CI, 5.83-7.78)、女性で14.99(95%CI, 12.34-18.06)。これらのSMRは期待されたよりも著しく高かった。中皮腫のSMRの増加は、長期間居住者コホートにおける男性における職業アスベスト曝露、女性における非職業アスベスト曝露の影響を示唆している。また、30から40年間もはやクロシドライトとクリソタイルの組み合わせが使用されていないにもかかわらず、中皮腫による高いレベルの死亡率の過剰が持続している。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30618090

●非職業曝露はデンマーク・北ユラン地域の女性における悪性中皮腫の主要な原因である

Panou V, et.al., Scand J Work Environ Health 2019; 45(1)

目的:びまん性胸膜中皮腫(MM)は主としてアスベストの吸入によって引き起こされる。この悪性腫瘍は女性ではまれであり、有病率と女性における非職業アスベスト曝露とMMとの因果関係の研究も少ない。この観察研究はMMをもつ女性におけるアスベスト曝露パターンを解明することだった。

方法:デンマークのオールボー大学病院病理学研究所で1974~2015年の間にMMを診断された女性のすべての組織学的・細胞学的標本を再評価した。独自の個人IDを介した記録の連携に基づいてデンマークの諸登録及び医学雑誌から職業及び居住情報を入手した。女性におけるMMの空間的相対リスク(RR)を計算するために、北ユラン地域の各教会教区におけるMMの症例数を使った。

結果:91人の女性でMMの診断が確認された。曝露の種類は職業(9%)、家庭内(10%)、環境(22%)、家庭内と環境の組み合わせ(34%)、不詳(25%)と分類された。オールボー市のアスベスト消費産業の周辺でつながりあった22の教区が「ホットスポット」を形成していた。それらのうちアスベスト工場のあった教区で最大のRRが確認された(RR10.5、95%信頼区間(CI)5.5-19.4、とりわけ環境曝露のRR2.9、95%CI 0.7-6.1)。
結論:デンマーク北ユラン地域の女性においては、非職業曝露がMMの主要原因であり、MM事例の66%を占めるかもしれない。 ※https://www.researchgate.net/publication/326495804_Non-occupational_exposure_to_asbestos_is_the_main_cause_of_malignant_mesothelioma_in_women_in_North_Jutland_Denmark

●アスベスト・セメント工場周辺のアスベストに汚染された町:コロンビア・シバテのケーススタディ

Juan Pablo Ramos-Bonila, et.al., Environmental Research, Vol.176, September 2019

はじめに:コロンビアでは1942年にアスベスト産業が操業を開始し、シバテ自治体にひとつのアスベスト・セメント工場があった。近年シバテの住民が、この町でアスベスト関連疾患を診断される者の数が異常に多いと考えていることに苦情を申し立てはじめた。診断されるアスベスト関連疾患の数が予測されるよりも多いかどうか検証するとともに、この町における潜在的アスベスト曝露源を確認するために、シバテの状況を分析する研究が2015年に開始された。

方法:潜在的アスベスト関連疾患を確認するために、健康・社会経済調査を戸別に実施した。いくらかの自己報告された中皮腫症例が確認され、コミュニケーションの目的で、病理組織報告を含めた医療記録のコピーを入手した。6人の医師からなるパネルが医療記録を分析した。シバテについて男女別年齢調整罹患率を推計するために、有効な症例の情報を使用した。アスベストに汚染されたごみ処分場が存在している可能性があるという報告に基づいて、潜在的ごみ処分地域を確認するために、地理情報システムを用いて、地形図、数値標高モデル、及び現在の衛星写真を重ね合わせ、そうした地域のいくつかで土壌サンプルを採取した。

結果:合計355件の調査が実施され、29件の自己報告中皮腫症例が確認された。それらのうちの25件が人生のある期間にシバテで暮らしたことのある者だった。17件の症例について医療記録のコピーの入手が可能だった。それらのうち医師のパネルは15件の症例を確実な胸膜中皮腫、1件をおそらく、及び1件を中皮腫ではないと分類した。この情報に基づき、シバテにおける中皮腫の推計年齢調整罹患率は男性について3.1×105人-年、女性について1.6×105人-年だった。これらの率は世界の他の都市、地域及び国で報告されたものと比較して高かった。地理情報システムを用いてシバテの市街地にごみ処分場ゾーンが確認され、その上に1つの学校と様々なスポーツ施設が立てられていた。ごみ処分場ゾーンで収集された4件の土壌サンプルの分析結果は、地下に飛散性及び非飛散性アスベストの層の存在を確認した。

結論:収集された証拠はシバテにおける悪性胸膜中皮腫のクラスターの存在を示唆している。

●アスベスト消費の長い歴史をもつブラジルのある都市における肺がん死亡率の傾向

Gisele Aparecida Fernandes, et.al., Int. J. Environ. Res. Public Health 2019, 16

開発途上国のアスベスト曝露地域における肺がん死亡率に関する疫学調査は少ない。われわれは、アスベストを大量に使用した自治体であるオザスコにおける1980年から2016年の肺がんによる死亡率と傾向を、アスベスト曝露が低い参照自治体の率と、またサンパウロ州の率と比較した。年齢60歳以上の男性における1980年から2016年の肺がん症例(ICD-9 C162)(ICD-10 C33 C34)についての死亡記録を回収した。ジョイントポイント回帰及び年齢-時代-コホート・モデルがフィットした。男性においては、ソロカバの-1.5%(CI:-2.4, -0.6)の平均年間減少及びサンパウロの-01%(CI:-0.3, 0.1)の安定した平均傾向と対照的に、オザスコでは肺がん死亡率に0.7%(CI:0.1, 1.3)の増加傾向があった。同様の増加傾向が女性においても見られた。年齢-時代-コホート・モデルは同じ期間に、オザスコにおける死亡リスクの増加とソロカバ・サンパウロ州について減少を示した。われわれの結果は、相対的に高いアスベスト曝露をもつ地域における肺がん罹患率及び死亡率に関する特別の監視の必要性を指摘している。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31319477

安全センター情報2020年7月号(最後の二本はウエブ版でのみ掲載)

(翻訳:全国安全センター)
安全センター情報2020年7月号