労災・職業病の申請・認定のための手引き/労災隠し(かくし)への対処

はじめに

  • 労災にあったのに、会社が労災をいやがり、労災請求に協力してくれない。
  • 仕事での怪我なので労災にしてくれと会社に言ったら「うちは労災は認めていない。いやならやめろ」と言われた。
  • 「自分のミスで怪我をしたのだから、労災にはならない」と会社に言われた。
  • 事故の現場とは違って、事務所でころんだことにして労災請求する(しろ)と会社に言われて困惑している。
  • はじめ健康保険で治療を受けていたけど、病気が仕事が原因とわかったので、主治医に相談したら、最初は「仕事をやめないと治らない」と言っていた主治医が「原因はわからない、協力できない」と言い出して、労災請求に協力してくれない。

こういったことを「労災隠し」といいます。

ちなみに、役所(厚生労働省)の定義では、「労災かくし」(なぜか、ひらがなで「かくし」)とは、労働安全衛生規則第97条の「労働者死傷病報告」の未提出ならびに虚偽報告のことだとしています。

【労働安全衛生法】
第100条(報告等)労働大臣、都道府県労働基準局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
第120条(罰則)次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する
1~4(略)
5 第100条第1項又は第3項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかった者

【労働安全衛生規則】
第97条(労働者死傷病報告)事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により、死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第23号による報告書を所轄労働基準監督暑長に提出しなければならない。
2 前項の場合において、休業の日数が4日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、1月から3月まで、4月から6月まで、7月から9月まで及び10月から12月までの期間における当該事実について、様式第24号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

労災隠しに関わる法令

労働者死傷病報告は事故、怪我だけではなく、病気についても同様で、たとえば、新型コロナウィルス感染症の場合でも、厚生労働省は労働者死傷病報告の提出を呼びかけています。

「そうすると、はっきりした法違反がなければ、労働基準監督署に相談してもだめなんじゃないだろうか」ということではありません。
「労災隠し」を見て見ぬ振りをすればおのずと「労災かくし」になっていくわけですから、労働基準監督署は重要な相談先です。

さらに、明確に労働者の立場から相談に乗るのが、全国安全センターと各地域安全センターや労働組合です。
自分一人で考えたり、動くのがなかなかできない、心配だというときはぜひ相談してみてください。

  • 全国安全センター・各地域安全センターの連絡先はこちら
  • 全国の労働基準監督署はこちら

※一般的には「労災申請」といいますが「労災請求」という言葉を役所は使います。労災申請は、法的には労災保険給付を「請求する」行為だからです。どちらでも同じ意味です。

労災隠しに対処するための労災保険適用Q&A

●仕事上のけが、自己負担なし

Q 仕事中の事故でけがをしました。労災として認められ、治療費や休業の補償を受けるにはどのような手続きが必要ですか?

A 労災用の所定の用紙を入手しましょう。最寄りの労働基準監督署や労働局に常備してあります。会社に置いてあることもあります。
インターネットを利用する方は厚生労働省サイトからダウンロードできますから、ダウンロードしてプリントアウトして使います。

労災保険給付関係請求書等ダウンロード(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihoken06/index.html

用紙に、会社の証明と署名を記入し、医師の診察時に病院に出します。これで自己負担なしで済みます。
たとえば、治療には、
労災指定病院の場合は、療養補償給付たる療養の給付請求書_業務災害用(様式第5号)
非指定の場合は、療養補償給付たる療養の費用請求書_業務災害用(様式第7号)
を使います。

休業時に賃金補償には、
休業補償給付支給請求書(様式第8号)
を使います。

作成はむずかしくはありませんが、厚生労働省が用意しているパンフレットがありますので参考にできます。労働基準監督署・労働局に常備されています。インターネットからも閲覧、ダウンロードできます。

労災補償関係リーフレット等一覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyousei/rousai/index.html

●会社の協力がないときもOK

Q 労災申請の書類作成や証明に会社の協力が得られないのですが、どうしたらよいでしょうか?

A 最寄りの労働基準監督署に相談してください。労働基準監督署がアドバイスしたり、会社を調査、指導するはずです。労災請求することで不利益や嫌がらせもありますので、地域の安全センターや労働組合にも相談して、アドバイスを受けることをお勧めします。

●過去の負担分も戻る

Q 労災保険の制度を知らなくてとりあえず、健康保険証を使って治療をしてもらいましたが、労災への切り替えはできますか?

A できます。原則的に最初から労災申請する時に同様に所定の用紙を病院に提出すれば、過去の自己負担分も戻ってきます。労災保険を請求する権利は時効があり、治療費や休業補償は個々の治療や休業をした日から2年間です。たとえば、5年前に事故が発生した場合でも、ずっと治療と休業が続いている時は2年前から今日までの分の治療費や休業補償が支払われます。

ただし、これは原則であって、手続きや時効の取扱いが違うことがあり、さらにさかのぼって返してもらうことができる場合があります。詳しくは各安全センターや労働基準監督署に相談してください。なお、ご本人が労災で死亡した場合の遺族補償の時効は、死亡日の翌日から5年ですので、特に注意が必要です。

ただし、石綿疾病によって死亡した場合で遺族補償が時効になってしまった場合のみ、特別遺族給付金が給付される制度がアスベストショック後にできています。

会社が労災保険に未加入でもOK

Q 私の会社は零細企業で「労災保険に入っていないから、労災は使えない」と言われましたが、労災保険の適用はあきらめるしかないのでしょうか?

A 労災保険は事業を開始したら、自動的に保険関係が成立する強制保険です。労災になれば、会社が加入手続きをしているのか、いないのかは無関係に適用されますので、労働基準監督署で申請手続きをしてください。そうしたら会社は未加入が発覚することになり、2年間さかのぼって保険料を徴収されるだけです。

●仕事中なら自分のミスでも適用

Q 仕事中、私の不注意で怪我をしてしまいました。労災保険は適用されるのでしょうか。

A 適用されます。労災保険の補償給付は労働者の過失の有無とは関係なく支給されます。わざと事故を起こさない限り問題ありません。

休業による解雇は禁止

Q 仕事中に怪我をして入院していたところ、社長から「働けないので辞めてもらう」と解雇を通告されました。

A 労災であれば、入院など休業中とその後の30日間は解雇が法律で禁止されています(労働基準法第19条)。従わないと社長は刑罰を受けます。その期間を過ぎても理由のない解雇はできません。ただし、労災をめぐる解雇がらみのトラブルは多いですから、困ったら各安全センターや労働基準監督署に相談してください。

●休業時には平均賃金の8割給付、後遺症に年金や一時金

Q 労災保険が適用されると、本人の負担や補償はどのようになるのでしょうか。

A 毎月の賃金25万円の人が仕事中に怪我をして、治療費に100万円かかり、4ヶ月仕事を休んだ場合、健康保険の扱いにすると治療費の3割にあたる30万円は本人負担になりますが、労災が適用されると本人負担はゼロです。休業に関しては、健康保険では平均賃金の60%にあたる約60万円が支払われますが、労災保険では80万円が支払われます。また、休業期間が治療の開始から1年半を超えた分は、健康保険では一切支払われませんが、労災保険ではそれ以降の分も支払われ、後遺症(障害)が残ると、労災では年金又は一時金が出ます。

●労災隠しの事例や取り組み

Q 労災隠しの実例を知りたいのですが。

A このホームページ上の、メニューの「特集のページ」ー「なくせ!労災かくし」を参考にしてください。

(参考)労働基準法、労災保険法、労働安全衛生法