たびかさなる「労災隠し」ブラジル人労働者の相談事例/広島

ブラジル人労働者Eさんは、2008年に広島県三原市の有限会社に入社し、溶接、仕上げ工として働いていた。わずか2年と9か月の間に、Eさんが外国人であることと日本の法律に疎いことにつけ込み、3回の労災事故に遭遇し、いずれも「労災隠し」にあった。

Eさんとの面談の過程で、次のようなことを聞くことができた。

Eさんは来日して20数年たち、日本語も私たちと変わらないほど会話ができることに驚いた。しかし、本人に言わせれば、「法律や行政用語はいまでも理解するのに苦労している」と言っている。来日した当時、派遣会社を通じて仕事を紹介してもらったが、いまにして思えば、「騙されていた」ことに悔しい思いでいっぱい。
「言葉の障壁と法律への無知」を悪用され、6年間も社会保険を一切利用させてもらえず、多額な自己負担を強いられていたことを聞かされた。

その後、様々な職場を転職しながら現在の会社に至った。し
かし、この会社も同様に、社会保険に加入はしているものの、職場内での労災事故については徹底して「労災隠し」を行っているとのことだった。Eさんはこの数年間で3回の労災事故に遭遇しながらも、3回とも労災扱いされず、会社が治療費を支払っていた。

最初の事故は、人差し指の第2関節から先を潰す事故だったにもかかわらず、会社からは「完治するまでは仕事はしなくていいから出勤すること」を命じられた。その指も完治しておらず後遺症が残ったままである。

第2の事故は、サンダーがはね、脚の膝関節内側を切る事故だった。この2件の外傷事故は同じ外科病院で治療を受けてお
り、会社と病院が裏で通じていることが想像できる。

第3の事故は、鉄の切り屑が眼球に刺さり、近くの病院で治療
を受けた。しかし、帰宅した後も痛みが引かず、翌日休み市内の病院で治療を受けると、切り屑が残っていたことがわかり、切り屑を取り除いた。

3件の事故について会社は、「労災事故」として報告しておら
ず、会社が治療費を立て替えていたことが判明した。このたびの事故は2009年11月頃、船のハッチ・カバーとハッチ・カバーの隙間75cmから飛び降りようとして、ハッチ・カバーの角に両肘をつけて身体を支えて飛び降りた時に、右肩に痛みが走り、右肩を損傷した。階段は10メートル先にあったが、作業を急いでいたので階段を通らずに飛び降りたのだった。

このときのことは責任者にも報告したが、「年のせい」にされて相手にしてもらえなかった。その晩から痛みがひどく、自宅にある湿布薬を貼って治療していたが、痛みはひかず2月にS病院を受診し、M病院を紹介された。M病院の医師は「肩の腱がちぎれかかっている」「手術をしないと肩が動かなくなる」と言った。治療は痛み止め注射でしのいだが、いまは痛み止めも効かなくなってきているとのことだった。

いろいろな人に相談した結果、広島労働安全衛生センターにたどりつき、尾道労働基準監督署に労災申請することになった。労基署の見解は「過去3件の『労災隠し』は実態調査をして判断する。しかし、肩の損傷は事故から受診までの3か月の空白疑問だ」というものだった。安全センターではEさんの置かれた実態を強く主張、結果として労災として認定された。これでEさんも安心して肩の手術をうけることができると喜んでいる。

広島労働安全衛生センター

安全センター情報2011年7月号