ガラス製品製造会社で中皮腫労災認定、審査請求で会社のウソ=労災隠し覆す/大阪

退職後、胸膜中皮腫で死亡

中皮腫を発症し労災申請を行ったが不支給となる案件が増えている。センターに寄せられた相談のうち、長崎労働基準監督署が不支給とした案件は審査請求において逆転認定となり(安全センター情報1・2月号)、今回、大阪・淀川労基署が不支給とした案件が審査請求で逆転認定となった。中皮腫の労災申請における問題点を報告したい。
宮崎県にお住いのAさんのご家族に最初にお会いしたのは、2012年7月、鹿児島市で開催した「アスベスト患者と家族の集い」だった。Aさんは、高校を卒業したあと大阪にあるBガラス製品製造会社に勤務し、その後は営業の仕事を転々とされ、退職後は実家の宮崎で過ごされていた。2011年7月の健康診断で肺の異常を指摘され、宮崎大学病院で悪性胸膜中皮腫と診断され、治療を続けていたが、2012年6月に亡くなられた。

補償に関しては息子さんが手続きを行い、環境再生保全機構からは認定決定されたが、淀川労基署は2011年10月末に業務外として不支給処分を決定した。その理由は、「被災者が発症した傷病は悪性胸膜中皮腫であることが認められるが、職歴において石綿に曝露したことが認められない」であった。そのため、患者と家族の会の古川和子さんと当センターで支援することになった。

「石綿ばく露職歴確認できず」で不支給

Aさんは、1962年3月から1970年9月までB会社に勤務し、そのうち1962年から13か月間はガラス製造の現場作業に従事した。炉などに使用されている断熱材に含まれていた石綿粉じんを吸ったと申請したが、淀川労基署の担当者がB社に問い合わせたところ、「石綿は使用していない」との回答だった。

B社の石綿対策担当者やOB等からの、「Aさんが入社当時現場作業に携わったことについては、数名の申述から確認できるが、その従事期間については、各々の記憶に相違があり確定できない」「被災者が携わっていたBS炉では、隙間を埋める断熱材には石綿を使っていない。Aさんが出入りしたと考えられる場所にある電気炉やその周辺に石綿は使われていなかった」「普通の軍手をし、服も作業着があったような気がしますが、私服で作業していたような気もします。とくに、断熱服や耐火手袋等は使用していませんでした」という情報をもとに淀川労基署は「石綿曝露作業に従事したという事実は確認できない」と判断したのだった。

また、B社から提出された「石綿にかかる健康障害についての報告書」には、「Aさんの基本は営業担当で、現場に配属されたことはない」「金物を持って現場へ行ったりしていたが、手伝うことはあってもまれ。当社ではじん肺対象作業者も、じん肺の判定を受けたことはない」と記載されていた。会社は「石綿対策担当者」が設けているのに、石綿の使用がなかったと言い張った。

労働組合の協力で元同僚が証言

会社側が石綿の使用を認めないため、Aさんのご家族と一緒にB社の同僚を探したが、協力を得る方を探し出すことができずにいた。そうしたなか、審査官がこの案件を参与会にかける直前に、日本板硝子の川崎工場が、B社と同じガラス製品を製造し同じ作業環境であることが判明した。しかも、日本板硝子共闘労働組合の皆さんが、B社の労働組合と親交があることがわかった。
さっそく、日本板硝子共闘労働組合川崎支部の書記長に、製造工程におけるアスベストの使用実態と作業環境に関する陳述書を作成していただいた。また、B社の労働組合で長年にわたり役員をされていたCさんからも協力を得ることができることとなった。
Cさんは陳述書で、「Aさんは営業の仕事をされていましたが、時には製造に夜遅くまで立ち会われていたこともありました」「炉の内外・周辺にアスベストが断熱材として使われていました」「私が委員長当時、会社とアスベスト問題を交渉しました。40歳以上の社員と退職者への年1回の健康診断を行うことで労使合意しました」とB社の状況を証言してくれた。また、昔の組合ニュースを審査官に提供し、会社が石綿の使用を認めていることを明らかにしてくれた。

BS炉の内部に大量の石綿が確認できる: 日本板硝子共闘労組提供

不支給の原因は「労災隠し」判明

2014年1月16日付けの決定書が送付されてきた。主文は、「支給しない旨の処分は、これを取り消す」であった。
決定書を読んで驚いたのは、審査官の問合せに対してB社が、炉の内外及び周辺でのアスベスト使用状況に関して全て「不明」と回答していたこと。しかも、B社が審査官に元従業員を紹介し、その元従業員が「石綿は使用されていなかった」と繰り返し意見を述べていた。会社のこうした行為は、労災隠しといえる。

請求者本人に証明求める労基署調査に根本問題

今回は労働組合の協力を得ることができ、石綿の使用状況に関する実態を明らかにすることができたが、会社側が「使用していない」と言い張れば、労基署はその意見に引っ張られ、今回のように不幸な経過をたどることになる。会社側が「不明」「使用していない」と主張するなら、断熱対策として何を使用していたのかを調査する力が、監督署に求められている。

中皮腫の労災請求に関して、2012年度は労災保険で40件、石綿救済法による時効救済で39件が業務外と判断されている。病気が中皮腫でなく違う病名であったケースも含まれているが、「職歴において石綿に曝露したことが認められない」との理由で業務外になるケースが増えている。アスベスト疾患は曝露から発症までの潜伏期間が長いため、調査に困難を伴うこともあるが、被災者の救済を最優先に調査・決定を行うべきである。

お問合せは、ひょうご労働安全衛生センター

安全センター情報2014年8月号

前頁の