窓口での差別発言でPTSD(心的外傷後ストレス障害)に公災(労災)認定、事務系職員では初めて/ 兵庫県地公災基金支部

2011年1月11日、地方公務員災害補償基金兵庫県支部は、市役所窓口での差別発言と脅迫によりPTSDを発症したAさんに対し、公務上の災害であると認定したことを通知した。

事務系職員が発症したPTSDを、公務上として認定した例は初めてと思われる。

2008年8月21日、生活保護を打ち切られた市民B夫妻が、国民健康保険の加入手続のため来庁した。窓口の対応に出たAさんが加入手続について説明したところ、必要書類への記入の際に、Bは突然「〇〇部落」と書いて差し出した。

そのためAさんが差別発言について注意すると、Bは怒り出し、Aさんの名札を見て「そんなに反応するんは、あんたも部落やな」。「Aは部落とインターネットに載せたるわ。 死になさい」などとの差別発言と脅迫の言葉を吐きながら帰って行った。

Aさんは、その後数日間は勤務していたが、それ以降はその時の様子がフラッシュバックし、市役所に近づくと恐くなり、胸がどきどきして出勤できなくなった。近医を受診したところ「うつ病」と診断され、さらに受診した別の病院では「外傷後ストレス障害」と診断された。

そのため、Aさんは療養を始めることとなり、合わせて2008年9月2日に公務災害の申請を行った。

Aさんが当時働いていた職場は、恒常的な業務に加え、国保システムの変更や相次ぐ制度変更により職員は心身ともに疲れ切っている状態であった。さらに、後期高齢者医療制度が新設され、給付担当となったことで、質的にも量的にも過重な業務に従事していた。

そのことは、発症前6か月間の Aさんの時間外労働数からも明らかで、1か月に100時間を超える月もあり、いわゆる「過労死」 の認定基準をクリアする労働実態であった。Aさんが精神疾患を発症した原因は、窓口の受付業務において、市民から受けた差別発言と脅迫行為を契機とするものであるが、発症前6か月間においても「通常の日常業務に比較して特に質的にまたは量的に過重な業務に従事した」のであった。

B夫妻は以前からも市役所で差別発言を繰り返していたのだが、注意する人は一部で、市役 所としての対応がとられていなかった。本来なら、行政組織・職場組織として差別を指摘し、対応策(マニュアル)についての研修等が行われるべきであるが、 そうしたことが行われてこなかったため、当日もAさん一人に過重な負担を強いることとなった。

さらに市役所は、事件後も加害者に対して何ら対応を取らな かった。そのためAさんは、「インターネットに書き込みをされたら… 」「また加害者が窓口に現れたら… 」との不安な気持ちが 続いた。

兵庫県支部の相談医は、「単 なる苦情処理ではなく、Bの差別発言により大きなストレスを受け た」とし、「広い意味で外傷後ス トレス障害と言える」と判断。基金本部専門医も「市民からの差別発言、脅迫もどきの言葉を受けたために何らかのストレス反応を起こしたものと考えられる」と判断。

基金支部は、「Bから受けた発言は、単なる暴言というだけでなく、脅迫と捉える内容で、また犯罪に近い」と判断し、本件の出来事は「その他これらに類する異常な状態」に該当する として、公務災害と認定した。

今回の認定は、Aさんがとった差別を許さない行為が、行政職員としての正当な行為であったと認められたわけである。当たり前の行為が、正当に評価されたわけであるが、それだけに今回の認定の意義は大きい。

Aさんの想い

「当時の職場は、保険料の問い合わせ、制度改正による市民からの苦情の電話が鳴り止まず、時間外勤務でやっと自分の 仕事にとりかかれる状態でした。誰もがストレス一杯の状況で、今回のような突発的なことが発生すれば、誰でも私と同じ状況に追い込まれてもおかしくない環境でした。 今回の事件も市民の差別文書を黙っておけば、私が差別発言や脅迫を受けることはなかったのかもしれません。しかし私がとった行動は、行政職員として当然の行動であり、部落差別をはじめ一切の差別を許さず、市 民一人ひとりの人権を守る義務や公務員としての人権意識の向上は当然のこととして課せられており、差別意識や偏見を許さず改めるよう促すことが公務員の職務です。公務員として正当に行った職務で一生忘れることのできない心の傷を私は負わされました。今後現場で働く職 員に二度と私と同じようなことが 起こらないよう、安心して働ける職場環境を作ってほしいですし、また私や私の家族が受けた差別の苦しみを二度と誰にもあじあわせることのないよう差別のないまちや社会になることを心から願っています。」

本件についての神戸新聞報道記事

神戸新聞

記事・問合せ/ひょうご労働安全衛生センター

安全センター情報2011年6月号