約4割の医療機関が「労災隠し」を経験:平成7年2月17日/大阪府医師会労災部会調査

大阪府医師会の労災部会が大阪府下の労災指定医療機関を対象として行った「労災隠しに関するアンケート調査結果」がこのほどまとめられた。医療機関での実態に関する調査は基調であり、問題のいくっかの側面を浮き彫りにしている。

1 調査対象と調査方法

本調査は大阪府下の全労災指定医療機関を対象として、別紙調査票を平成6年12月に直接郵送し、無記名で回収した。

2 対象施設数と回収率

今回調査の回答を依頼したのは1324医療機関で、そのうち811医療機関より回答があり回収率は61.3%であった。そのうち病院は265(66.1%)、診療所は546(59.2%)である。

3 調査結果

(1)平成6年1月~12月までの1年聞に労災患者を診療されましたか。

回答のあった指定医療機関のうちほとんどの医療機関(94.3%)で、過去1年間に労災患者の診療を取り扱っていると回答があった。

(2)明らかに業務上の負傷であるにもかかわらず事業主が5号あるいは16号の3の用紙を患者に交付しないで、貴医療機閲と患者、事業主との間でトラブルが起きた経験はありますか。

上記設問に対しては、「しばしばある」が2.6%、「ときどきある」が35.5%で合わせて38.1%の医療機関において、何らかのトラブルが起きた経験はあると回答があった。
このうち病院においては、「しばしばある」と「ときどきある」で46.1%と半分近くを占めており、診療所の34.2%を大きく上回っている。

また、地域別にみると、トラブルが起きた経験があると回答のあった比率が高かったのは、南河内(51.1%)、北河内(44.2%)、大阪市西部(43.1%)、中河内(43.0%)であり、逆に比率が低かったのは泉州(28.6%)、大阪市北部(30.0%)であった。

(3)患者または事業主が労災での取扱いを拒んだ場合、どう対処されましたか。(重複回答あり)

患者または事業主が労災での取扱いを拒んだ場合の医療機関の対処としては、「患者に説明をし、用紙の提出を求めた」が、トラブルの経験があったとした309医療機関中81.6%を占め最も多く、次いで「患者の判断に任せた」35.3%、「事業主に労災の手続をとるよう連絡した」33.7%の順となっており、「労働基準監督署に連絡した」は、3.9%にすぎなかった。

(4)様式5号、16号の3の提出を患者、あるいは事業主に求めた場合、患者はどう対応しましたか。 (重複回答あり)

様式5号、16号の3の提出を求めた結果、ほとんどの医療機関で「様式を持参した」(91.6%)と回答があり、そのまま「受診しなくなった」は18.8%であった。その他の回答の中には、労災の取扱いをせずに健康保険、あるいは自費扱いとするよう要求されたとするものが含まれている。

(5)患者が労災の取扱いを拒む理由は何だと思われますか。(重複回答あり)

患者が労災の取扱いを拒む理由にっいては、「患者の判断による」と「事業主の指示による」が大半を占めた。

(6)様式5号、16号の3の提出がない場合、医療費の請求はどうされましたか。(重複回答あり)

様式5号、16号の3の提出がない場合の医療費の請求にっいては、やむを得ずに「健康保険で請求した」が74.4%を占め、次いで「自費扱いとし患者または事業主に請求した」が64.7%であった。

(7)下記のケースを経験されたことがありますか。 (重複回答あり)
(8)「労災隠し」への対応策として以下のどれが有効と思われますか。有効と思われる項2つに○印しを記してください。

「労災隠し」への対応策として最も回答が多かったのは「行政庁による正しい労災医療の受け方の普及徹底」であり、回答のあった811医療機関のうち56.5%を占め、次いで「労災医療受診手続の簡素化」が46.9%であった。

(9)「労災隠し」への具体的対応策があればご教示下さい。
  • 元請負に対する配慮から、労災にしにくいケースがある。メリット制は一面でよいものもあるが、「労災隠し」は厳しい罰則を設けて、事業所にとってマイナスとなることを周知させる必要がある。
  • 労災保険のメリット制の導入は、事業主の災害防止面での設備改善等の努力は認められますが、労働者側からみると作業ミス、不注意から誤って負傷することはよくあることで、この場合、下請会社が親会社(特に建設業の場合)に仕事の受注の必要性から労災扱いを拒むケースがある。労働基準監督署による厳しい指導・査察の影響もあるのではないか。
  • 労働者保護のための制度であることの周知を徹底させ、事業所に対する啓発が必要である。また、労災隠しには罰則規定を設けるべきである。
  • 労災に対しては、健康保険の使用は認められないことの周知を徹底させるべきである。医療機関ヘポスターを配布するなど。
  • 労働基準局は、もっと事業主の担当者に労災手続方法を指導するとともに、様式5号、16号の3等の用紙を充分に配布しておくこと。用紙を医療機関に取りに来る場合がある。
  • 特にゼネコンの下請で労災隠しが多く、困ることが多い。労災でやむを得ず健保使用する場合にはレセプトに仕事中の負傷であることを記入する(例えば、(労))ようにしてはどうか。
  • 労災を含めた保険の一本化。
  • 労災指定医療機関が絶対に不明瞭な診療を受付しないことが大前提。甘い病院があれば、どんな規則を作っても無駄である。
  • 健保扱いを求められた場合、即座に組合と直接話をしてもらうよう事業主に説明する。
  • 健保扱いを求められた場合、健保組合等に連絡しておき健保組合等は医療機関から請求のあった医療費を本人または事業主に対し請求するようにしてはどうか。
  • 受傷者に対しては、労災適用の方が有利であること、受傷者を護るための制度であることの周知を徹底すること。
  • 労災保険料の何%かは労働者自身から徴収すべきである。そうすれば労働者自身も労災保険に対して関心を持っようになる。
  • 明らかに労災事故と疑われるものについては、各医療機関からの報告措置をとるなどの対応が必要である。
  • 初診時に「職務上」の疑いがある場合、医療機関は直ちに所轄労働基準監督署に連絡すること。所轄労働基準監督署は、事業主に事情を聴取するなど迅速に対応すべきである。
  • 事業主がどうしても労災扱いを拒むようであれば、未収金として、その分を労基局に請求するようにし、労基局から事業主に請求してもらってはどうか。

安全センター情報1995年4月号