救済法見直しに向けて研究会が新提言/建設アスベスト給付金法施行準備進む-救済法施行15年の補償・救済状況検証可能に(2021年12月15日)

二つの研究会提言に学ぶ学習会

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会建設アスベスト訴訟全国連絡会石綿対策全国連絡会議の三団体は、2021年12月12日(日)、東京・水道橋の全水道会館大会議室で「アスベスト被害の完全救済に向けて 石綿被害救済制度研究会の2つの提言を学ぶ学習講演会-①新たな石綿被害補償制度に向けた新たな提言発表/②『建設アスベスト給付金』に係る緊急提言のフォローアップを開催した。以下は案内文の内容である。

「アスベスト被害の全面救済に向けて大きな動きのあった今年、関心をもつ研究者、医師、弁護士、その他の関係者により石綿被害救済制度研究会(共同代表:吉村良一・立命館大学名誉教授、下山憲治・一橋大学教授、村山武彦・東京工業大学教授、森裕之・立命館大学教授、名取雄司・中皮腫・じん肺・アスベストセンター所長)から、2つの重要な提言が行われています。

まず、2008年5月に最初の裁判が提起されてから13年目の2021年5月17日に、建設アスベスト訴訟に対して初めて最高裁判所の判決が示され、与党建設アスベスト対策プロジェクトチームが統一基準による和解と未提訴者に対する給付金制度の創設等による和解を提案、国と原告らとの間で基本合意がなされ、厚生労働大臣及び首相が原告代表らへに会って直接謝罪、全会派の賛成により6月9日に『建設アスベスト被害給付金法』が成立するという大きな動きがありました。

研究会は6月16日に、緊急提言『アスベスト被害の完全救済に向けて~2021年5月17日の最高裁判決と「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」の制定を受けて』を発表。『アスベスト被害救済の新しいステージ』を迎えたことを踏まえ、給付金制度の運営上の留意点を指摘するとともに、①建材メーカーによる公平・公正な資金拠出、②屋外作業者等への救済対象者の拡大、などを求めました。

一方で、『建設アスベスト被害給付金』の対象者の大部分は労災保険法または石綿健康被害救済法による給付の受給者であり、新たな給付金はそれらの給付に上乗せされる慰謝料としての損害賠償と理解されます。そして、労災保険法または石綿健康被害救済法による給付には大きな格差が指摘されているなかで、救済法は施行から15年目-3度目の見直し作業が、中央環境審議会に石綿健康被害救済小委員会を設けて近く開始される予定です。

研究会はこれに向けて新たな提言-『石綿(アスベスト)被害救済のための「新たな」制度に向けての提言』をまとめました。これは、今回の学習講演会の場で初めて発表されるものです。

私たちは、石綿被害救済研究会の2つの提言を学び、来年の給付金制度の運用開始と救済法見直し作業のなかでそれらの実現をめざしていきたいと考えています。」

会場参加とYouTube配信

12月12日の学習講演会は、「第1部:新たな石綿被害補償制度に向けた新たな提言発表」、「第2部:『建設アスベスト給付金』に係る緊急提言のフォローアップ」の二部構成。第1部では、研究会共同代表の吉村良一・立命館大学名誉教授から新たな提言の内容が紹介された後、他の共同代表-森裕之・立命館大学教授、名取雄司・中皮腫・じん肺・アスベストセンター所長、村山武彦・東京工業大学教授からも各々コメントがあった。第2部では、建設首都圏アスベスト訴訟弁護団の井上聡弁護士から、建設アスベスト給付金法成立後の状況と取り組みについて報告の後、吉村良一・立命館大学名誉教授からの緊急提言との関連で補足発言を受けた。また、最後に、中皮腫・アスベスト疾患患者と家族の会の小菅千恵子会長、建設アスベスト訴訟全国連絡会の清水謙一事務局長、石綿対策全国連絡会議の古谷杉郎事務局長から、それぞれ各団体の当面の取り組みの内容を中心にして決意表明がなされた。

久しぶりの顔を合わせた集まりではあったが、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からたくさん人を集める働きかけは行わず、会場には約40名が参加。YouTubeによるライブ配信も手配し、現在も視聴できるようになっている。
https://www.youtube.com/watch?v=D6vWo-yBlek

三回目の救済法見直し作業

石綿健康被害救済法は、2006年3月の施行から5年ごとに、中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会において、施行状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な見直しが検討されることになっている。同法施行後では、2009年11月に開始された石綿健康被害救済小委員会には石綿対策全国連絡会議の古谷杉郎事務局長が、また、2016年4月に開始された石綿健康被害救済小委員会には中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会の古川和子会長(当時)が、委員に加わっている。

この間も患者と家族の会らは環境省環境保健部石綿健康被害対策室と連絡をとってきており、同室は、2021年度に見直し検討作業を行う予定ではいるものの、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより石綿健康被害救済法の認定作業に大きな影響が生じてしまっており、全力で対応してきたものの、滞りは解消しきれておらず、この対策を最優先にしたい。また、小委員会の会議の招集に対する影響も考慮しなければならない等の理由で、本稿執筆の時点でもまだ開催の予定がたっていないということである。

患者と家族の会は、2021年度に以下のように、この見直し作業に向けた準備を進めてきた。

・6月18日-「希望という名の明日へつなぐ。中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 省庁交渉2021へZOOOOM イン!」(https://www.chuuhishu-family.net/w/archives/2669

・10月7日-「石綿健康被害救済法の改正を求めるオンライン院内集会~求められる治療環境の改善と患者・家族の救済格差~」(https://www.chuuhishu-family.net/w/archives/2700

・10月26日結果公表-「石綿(アスベスト)健康被害救済法に関する政党アンケート」(https://www.chuuhishu-family.net/w/archives/2719

・11月10日公表-「石綿(アスベスト)健康被害救済法改正への3つの緊急要求」(https://www.chuuhishu-family.net/w/archives/2738

現在、別掲のようなリーフレットを作成して、国会議員に対して精力的に、①「格差」のない療養手当と「すき間」をなくす認定基準の見直し、②治療研究促進のための「石綿健康被害救済基金」の活用、③待ったなしの時効救済制度の延長への賛同と、法改正に向けての尽力を求めている。

石綿被害救済研究会の新たな提言は、患者・家族らに新たな武器-要求の根拠と目標を提供してくれるものとして、歓迎されている。

建設アスベスト給付金法施行に向けた準備

給付金法は二段階の施行を予定

特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」は、全会一致で2021年6月9日に成立し、6月16日に公布された。厚生労働省は、「建設アスベスト給付金制度について」のウエブサイトを開設。令和3年6月16日付け基発0616第1号都道府県労働局長宛て厚生労働省労働基準局長通達「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律の公布について」も示されている)。

この段階では、「これまでの経緯」と法律に基づく「給付金等の仕組みの概要」を解説するだけで、「よくあるお問い合わせ」では、Q1-給付金等の請求手続の詳細についてはお知らせをお待ちください、Q2-労災認定等を受けていることは要件とはされていない、の2点を示すだけだった(Q&Aの内容は2021年12月3日現在、変更なし)。

同法附則第1条(施行期日)は、この法律は、公布の日から起算して1年を経過しない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第3章[特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会(以下「認定審査会」)]、第18条から第20条まで[独立行政法人労働者健康安全機構への事務の委託/特定石綿被害建設業務労働者等給付金等支払基金(以下「基金」)/交付金]並びに附則第5条から第7条まで[関係法律の整備]の規定は、令和4年3月31日までの間において政令で定める日から施行する、と規定している。

認定審査会・基金設置関係12月1日施行

厚生労働省は2021年9月3日~10月4日、法において厚生労働省令に委任されている給付金等の対象となる者及びその額に関して以下の事項を定めるという、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律施行規則[以下「施行規則」]案(仮称)に関する御意見の募集[パブリックコメント]」を実施した。

施行期日は、この段階では10月中旬の予定とされていたが、後述のとおり、12月1日となっている。

・ 「特定石綿ばく露建設業務」の定義の、「屋内作業であって厚生労働省令で定めるもの」(法第2条第1項第2号)を、「屋根を有し、側面の面積の半分以上が外壁その他の遮蔽物に囲まれ、外気の流入が妨げられることにより、石綿の粉じんが滞留するおそれがあるもの」とする。

・ 「特定石綿被害建設業務労働者等」の中小事業主の定義の「厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業の事業主」(法第2条第3項第2号)を、「300人」とする。

・ 給付金の支給対象となるじん肺症の合併症(法第4条第1項第1号ロ)を、じん肺法施行規則第1条第1号から第5号までに掲げる疾病(肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸)とする。

・ 「損害倍書との調整」対象となる額(法第12条第2項)を、「給付金または追加給付金から遅延損害金に相当する額を控除した額」とする。

政府は11月26日、「特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会令」と「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律の一部の施行期日を定める政令」を閣議決定。後者の施行期日は2021年12月1日とされ、同日、両政令(政令第318号と第319号)及び前述の案と同じ内容の施行規則(第187号)が公布及び施行された。
「法律の一部」とは、同法附則第1条のただし書きに関する部分で、これによって認定審査会関係及び基金の設置関係の規定が施行されたわけである。

労災支給等情報提供サービス

また、厚生労働省は同じに、「『労災支給決定等情報提供サービス』を実施します」とも発表している。被災者やその遺族、代理人からの申請に基づいて、無料で厚生労働省が、労働基準監督署が行った労災等決定の調査資料から、事業場名、所在地、雇用等の形態、事業概要、職種、作業の種類、在籍期間、石綿ばく露作業従事期間、作業の状況といった情報を提供するというサービスである。

建設アスベスト給付金の請求書の記載に使用することができ、また、給付金の請求に、あらかじめこの情報提供を受けることは必ずしも必要ではないものの、給付金請求書の添付資料の省略も可能になる予定(後述のパブリックコメント)とされている。

労災支給決定等情報通知書の見本には、給付金の支給要件である「吹付/屋内作業への該当・非該当(※)」記載欄があり、「(※)吹付作業、屋内作業に該当するかの判断は、被災者の職歴、労災等決定の調査資料から厚生労働省が行ったものであり、最終的には、特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会の判断によることとなります。」と注記されている。実際に、この情報が誤っていたり、不十分である可能性はあり得ることであり、「非該当」の記載=請求不可能または請求しても不認定、ではないことをしっかりと周知することも必要である。

このサービスに関するパンフレット、申請書、Q&A(FAQ)が、厚生労働省「建設アスベスト給付金制度について」ウエブサイトで提供されている。

Q&A(FAQ)では、請求書類等の公表や給付金の受付開始はいつからですかとの問いに、法律が「施行され次第…受付を開始する予定です。…施行日が決まりましたら、厚生労働省ホームページ上等でお知らせします」としている。

個別周知にも着手

また、厚生労働省は、労災認定等を受けた者に対する建設アスベスト給付金制度の個別周知にも着手している。

「建設現場で石綿にばく露し、石綿関連疾患を発症された労働者、一人親方やそのご家族の皆さまへ~建設アスベスト給付金制度に関するお知らせです~」という見出しで、「今回このお知らせを受けられた建設現場で石綿にばく露し、石綿関連疾患を発症された労働者、一人親方やそのご遺族の方々は、この給付金制度の対象になる可能性がありますので、同封のリーフレットをご一読いただければ幸いです」として、「建設アスベスト給付金制度が創設されます」と「労災支給決定等情報提供サービスをご利用ください」というリーフレット、後者の申請書が同封されている。

個別周知の対象は明らかにされていないが、「可能性があります」という「お知らせ」を受けて、情報提供サービスを利用したところ、情報通知書に「非該当」と記載されていたら混乱してしまうことも予想される。「お知らせ」を受けていなくても、給付金の請求ができることは言うまでもない。きめ細かいアドバイスが必要だろう。

環境省所管の石綿健康被害救済法を担当する独立行政法人環境再生保全機構等によって、同様のサービス等が実施されることも期待されているが、まだ具体的な動きはない。

請求事項等に関するパブリックコメント

法律の残りの部分の施行に関しては、厚生労働省が2021年12月1日~12月15日、法において厚生労働省令に委任されている給付金等の請求事項及び請求に際して必要な添付書類等に関して以下の事項を定めるという、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律施行規則の一部を改正する省令案に関する御意見の募集[パブリックコメント]」を実施している。

・ 請求にあたっては、氏名、生年月日、住所、連絡先、請求に係る疾病にかかった旨の医師の診断の日、請求に係る疾病の名称等を記載した請求書を厚生労働大臣に提出すること。

・ 請求にあたっては、住民票の写し、特定石綿ばく露建設業務に係る事業の名称及び事業場の所在地並びに当該事業場ごとの石綿にさらされる業務に従事した期間及びその内容を証明することができる書類、請求に係る疾病にかかったことを証明することができる医師の診断書、法第2条第3項各号のいずれかに該当することを明らかにする書類等を請求書に添えること。

・ 請求人が遺族の場合にあっては、上記の書類等に加えて、請求に係る死亡した者に係る死亡診断書、当該請求人と当該請求に係る死亡した者との身分関係を証明することができる戸籍の謄本等を請求書に添えること。

・ 厚生労働大臣は、給付金等の請求に係る利便の向上を図るため、請求をしようとする者に対し、その求めに応じ、給付金等の請求に必要な情報を提供できること。

・ 厚生労働大臣は、特に必要がないと認めるときは、請求書に添付することとされている書類の添付を省略させることができること。

施行期日は、2022年1月上旬の予定とされている。

2022年4月より前に請求受け付け開始

法律の残りの部分も、同じく2022年1月上旬ころに施行されるのではないかと見込まれる。

厚生労働省は、前述の関係政令閣議決定の発表のなかで、「この政令の施行後、認定審査会の設置や基金の設立のために必要な手続きを進めていきます。なお、給付金、追加給付金の請求開始時期や手続きなどについては、今後、別途定める予定です」としている。詳しい内容は、決まり次第、厚生労働省「建設アスベスト給付金制度について」ウエブサイトで紹介されることになるだろう。

統一基準による国との和解

一方で、国による建設アスベスト訴訟の原告らとの統一基準に基づく和解も進められている。例えば、

・【建設アスベスト訴訟】大阪2陣・3陣で屋外作業も国と和解成立、全国初!(https://asbestos-osaka.jp/all/kensetsu/3821/

・【建設アスベスト訴訟】大阪2陣訴訟(大阪地裁)でも国と和解成立!(https://asbestos-osaka.jp/all/kensetsu/3556/

・北海道建設アスベスト訴訟(第3陣)国との和解成立!(https://onl.tw/Mx1GttQ

とくに注目されているのは、大阪アスベスト弁護団が担当する建設アスベスト大阪訴訟において、一見、「屋外作業」とみられる原告について、国が和解に応じたという事案である。大阪アスベスト弁護団はサイト記事において次のように述べている。

「今回の和解対象には、スレート屋根工、防水工、水道管配管工など、一見すると屋外作業と分類されそうな被害者が含まれています。
屋根や外壁に使用するスレート波板は、大きくて重いので地上で切断・加工することが一般的です。また、ほこりや騒音で近所迷惑にならないよう、工場や車庫など屋内で作業することも良くあります。屋根工だからといって、屋外だけで作業するわけではありません。また、防水工は、屋上などの防水工事自体からではなく、屋上等に行き来する際に吹付作業の現場を通ったり、漏水調査をする際に吹付材から石綿粉じんにばく露しました。

さらに、今回、(『建築』工事ではなく)『土木』工事である水道管配管工についても和解が成立しました(大阪2陣訴訟では、すでに温泉管配管工についても和解が成立しています)。

最高裁は、『屋根があり半分以上が外壁で囲まれた』場所を屋内作業場と定義し、屋外作業については予見可能性がなかったとして、屋根工に対する国の責任を否定しました。この点、道路を掘削して水道管や温泉管を配管する工事現場に屋根はありませんが、狭い穴の中はものすごい粉じんがこもります。国は、『屋外作業』を形式的に見るのではなく、救済を図る立場から、作業実態に即して柔軟な判断をしていると考えられます。」(https://asbestos-osaka.jp/all/kensetsu/3821/

このような「最高裁判決」そのものには含まれない作業形態の被害者についても、今後、救済対象が拡大される余地が十分あるとみられる。

建材メーカー相手の裁判は続く

学習講演会では、国の責任分の補償だけにとどまる現在の給付金制度から、建材メーカーにもその責任に基づいた負担をさせる制度にしていくことの重要性が強調された。差し戻し審、地裁、高裁で現在も継続中の建材メーカーとの訴訟に加えた、新たな訴訟の提起も含め、「世論の構築とこのまま裁判で争い続けると建材メーカーの存亡にかかわるという状況を作り出すことが重要」と指摘された。

また、国との関係でも、給付金制度の対象から外されている屋外作業者の救済や責任期間による制限を打ち破るための、裁判を含めた取り組みも進めていく決意が表明された。

「国との和解救済の拡大をとことん追求する」「建材メーカーとの闘いをおろそかにしない」立場を明確にする、すなわち「アスベスト正義」の実現をめざす弁護団や被害者・支援団体の今後の活躍が大いに期待されるところだ。

救済法施行15年の状況の検証

2021年12月15日に厚生労働省は、「令和2年度 石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況まとめ(確定値)」を公表した。これによって、石綿健康被害救済法が施行されてから15年間(2020年度末時点で)の補償・救済状況の検証に必要なデータがそろった。「石綿健康被害補償・救済状況の検証(2020年度)」に詳しい検証結果できるだけ早く反映させる予定でいる。

労災保険と石綿健康被害救済法による補償・救済の累計件数は、2019年度末に3万件を突破し、2020年度末で32,876件である(重複分除く)。

制度別では、労災保険56.0%、労災時効救済5.0%(労災・時効救済61.0%)、生存中救済24.5%、施行前死亡救済10.3%、未申請死亡救済4.2%(環境省救済31.0%)。疾病別では、中皮腫65.3%、肺がん28.3%、石綿肺2.4%、びまん性胸膜肥厚2.5%、良性石綿胸水1.4%、となっている(良性石綿胸水は、環境省救済の対象疾病ではない)。

年度別では、救済法制定による2006年度の爆発的増加のほか、中皮腫については、環境省・厚生労働省による個別周知事業の成果として、2009年と2012年に小さな山がみられる。前述のとおり、コロナ禍の影響による2020年度の環境省救済の大幅減少がめだち、中皮腫死亡者数は増加しているのに、補償・救済の鈍化ないし減少が懸念される。

労災・時効救済累計20,055件と環境省救済累計12.821件に分けて疾病別状況をみると、前者では、中皮腫52.8%、肺がん38.0%、その他19.2%。後者では、中皮腫85.0%、肺がん13.0%、その他2.0%。環境省救済では、中皮腫以外が救済されていない。

死亡年別の補償・救済状況では、1995~2020年の中皮腫腫死亡者数31,898人に対して、2020年度末時点で、中皮腫の救済率が65.6%(32.6~91.9%)、肺がんの救済率が22.2%(5.8~32.8%)である。石綿肺がん死亡者数は中皮腫死亡の10倍とも推計されるなかで、肺がんの救済状況は悲惨なまでに低いと言わざるを得ない。中皮腫も経年的に鈍化ないし減少しつつはないかが懸念される。

認定率でみても、中皮腫と比較して肺がんの低さ、労災・時効救済と比較して環境省救済の低さがめだつ。都道府県別救済率の格差も著しい。

結論として、「隙間ない救済」が実現しているとは到底言えない。加えて、「補償・救済の格差」が環境省救済の給付データからも検証できる。

石綿被害救済制度研究会の2つの提言にも学びながら、いまこそ「隙間」も「格差」もない補償・救済の実現に真剣に取り組むべきである。

なお、石綿健康被害救済法の請求期限を延長するという改正が、2008年と2011年の二度にわたって行われている。しかし、労災時効救済は、2016年3月27日以降に死亡した事例には適用されないために、死亡から5年経過すると労災保険も労災時効救済も請求できなくなっている。2021年3月27日以降、そうした事例が発生しているはずである。さらに、2016年3月26日以前に死亡した中皮腫・肺がん事例の施行前死亡救済の請求権が、2022年3月27日までで期限切れとなるのを皮切りに、施行前死亡救済の請求期限切れ問題もはじまる。請求期限の再々度の延長は待ったなしの課題である。

全国一斉ホットラインも実施

12月15日に厚生労働省は、「令和2年度石綿ばく露作業による労災認定等事業場」も公表。私たちもデータベースを更新した。例年どおり、患者と家族の会は、12月16-17日10~19時に「全国一斉アスベスト被害ホットライン」(全国共通フリーダイヤル 0120-117-554)を実施する。

安全センター情報2022年1・2月号


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