首都圏建設アスベスト訴訟東京1・2陣に東京高裁が和解案を提示/原告団らが声明

2024年12月26日、首都圏建設アスベスト東京1陣訴訟の差戻審において、東京高裁第24民事部(増田稔裁判長)は、原告被告双方に具体的な和解案を提示し、建材メーカーにも早期全面解決に向けた努力をするよう要望した。
2021年5月17日の最高裁判決及び判決前の上告不受理決定を通じて建材メーカー10社の賠償責任が確定した後も、別表のとおり建材メーカーの責任を認める判決・決定が相次いでいる。
これに対して、建材メーカー側は基本的に、賠償が確定した場合にのみ支払い、謝罪の姿勢も示していない。和解解決は、大阪2陣の保温工原告1人と日本インシュレーション及び神奈川1陣の4人の左官工原告4人とノザワでの間のものしかない。
東京1陣訴訟差戻審は東京高裁で2023年10月10日に結審したが、増田稔裁判長は「和解解決が望ましい」として、和解を試みることを明らかにした。以降、九州2陣福岡地裁(2023年10月5日結審)、神奈川2陣差戻審東京高裁(2024年1月24日結審)、東京2陣東京高裁(2024年3月1日結審)、北海道2陣札幌高裁(2024年3月21日結審)等で結審時またはその後に和解勧試がなされているが、これまでのところ建材メーカーは和解に応じていない。
東京1陣訴訟は、原告数が300名を超える最大の訴訟で、和解勧告は、建材メーカー7社に対して282名の原告に総額40億円を超える和解金を支払えという内容である。その与える影響が大きいとともに、2008年5月の提訴から16年が経過するなかですでに9割以上の原告が亡くなっている現状がある。
年が明けて1月15日付けで最高裁は、神奈川1陣差戻審について、原告被告双方の上告を退ける決定を行った。これによって、建材メーカー4社に対し22人の原告の合計1億円強の支払いを命じた、2023年5月31日の神奈川1陣差戻審東京高裁判決が確定した。
さらに1月31日、東京高裁第17民事部(吉田徹裁判長)は、東京2陣についても具体的な和解案を提示した。和解勧告は、建材メーカー5社に対して93名の原告に総額11億円を超える和解金を支払えという内容である。
吉田裁判長は、冒頭で「被災者の高齢化が著しく心身の負担が大きく、亡くなられる方も多くなっており、一刻も早い被害回復が求められている。後続訴訟を含めて早期解決が図られることを期待しつつ、東京1陣訴訟とほぼ同一内容の和解案を示したものである」と踏み込んだ見解を述べたという。
建材メーカーは、和解案の重みを自覚して、これを受け入れるだけでなく、早期全面解決に踏み出すべきであり、国も建設アスベスト給付金法改正に向けて主導権を発揮しなければならない。
建設アスベスト訴訟全国連絡会は2024年に入ってから、「建設アスベスト給付金法改正提案」を公表して(2024年4月号参照、https://kenasu.jp/news/20240201-1405/)、国会等に対しても精力的に働きかけを続けており、政治的な動きにも注目していきたい。
以下に、原告団らによる「声明」を掲載する。

声明(東京1陣訴訟差戻審の「和解案」提示にあたって)

1 本日、建設アスベスト東京1陣訴訟の差戻審(東京高等裁判所第24民事部)は具体的な和解案を当事者に示した。本差戻審は、昨年2023年10月10日に結審したが、同日、増田稔裁判長は「本件事案は和解での解決が望ましい」と表明していた。本日和解期日が法廷にて開かれて、裁判所は別紙含めて1100ページにわたる書面をもって、個々の一審原告ごとに具体的な和解金額を示した和解案を提示した。

2 一審原告らは、2008(平成20)年5月16日に、国及び建材メーカーらを被告として東京地裁に提訴して以降13年の審理を経て、2021(令和3)年5月17日に最高裁判決を得た(東京1陣、神奈川1陣、京都1陣、大阪1陣の各訴訟判決)。
この最高裁判決は、国の国家賠償責任を肯定するとともに、建材メーカーらに対しても、石綿建材を製造販売する際に当該建材が石綿を含有しており当該建材から生ずる粉じんを吸入すると肺ガン・中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を表示する義務を負っていたにもかかわらず、その義務を履行しなかった過失があること、民法719条1項後段が類推適用されて建材メーカーらには共同不法行為責任が成立する場合があると判断した。

3 差戻前の東京高裁判決が、建材メーカーらの製造販売した石綿建材が本件被災者の作業する現場に相当回数到達していたとの事実(建材現場到達事実)が立証されていないとした判断を、東京1陣最高裁判決は、経験則又は採証法則に反する違法があるとした。そして、同最高裁判決は一審原告らの本件立証手法により石綿建材について建材現場に到達したことを立証し得るとして破棄し、東京高裁に差戻した。
この差戻審は、2年半にわたる審理を経て結審し、本日、具体的な和解案を提示した。裁判長は、和解案の説明の冒頭に、「被災者の多数がお亡くなりになっており、本和解案は早期全面解決を願って提案したものである。最終の事実審裁判所による和解案であるということを踏まえて被控訴人らも早期解決に向けて努力されるよう要望する。」旨を述べた。
4 本和解案の対象は、一審原告347名(被災者285名。()内は以下同じ。)のうち解体工等を除く306名(253名)である。そして、和解案の具体的な内容は、建材メーカー12社のうち7社(エーアンドエーマテリアル、太平洋セメント、ナイガイ、ニチアス、日東紡績、ノザワ、エム・エム・ケイ)に対して一審原告ら282名(233名)に総額金40億2956万円の和解金を支払えというものであった。
本和解案の特徴は、全ての建材メーカーらに警告義務違反を認めたこと、概ね10%のシェアを有する建材メーカーについては建材が現場に到達した事実を認めたこと、建材メーカーの基本寄与度を40%から50%と認めたこと、基本慰謝料額を建設アスベスト給付金と同一額を認めたことであり、この点は評価できる。
なお、改修・解体作業での石綿粉じん曝露を中心とする解体工等の一審原告41名(32名)については、2022(令和4)年6月3日の神奈川2陣最高裁判決が解体作業従事者に対する建材メーカーらの警告表示義務を否定するという誤った判断をしたが、これを是正するには差戻審をはじめとする同種訴訟で適正な判決を得る必要があることから、本和解案の対象にはされておらず、今後、差戻審において判決が言い渡される予定である。

5 提訴から最高裁判決まで約13年、差戻審の本和解所見(提案)に至るまでに約16年経過し、一審原告らのうち既に9割以上が亡くなっている。これ以上の解決の先延ばしは非人道的であり許されない。
また、本和解案は、差戻審での2年半にわたる審理と結審から本日の和解所見提示まで1年を要して出されたものであることから、われわれは判決と同等の重みをもつものとしてその重大性を真摯に受け止め、可能な限り早期に和解案に対するわれわれの態度を表明する所存である。

6 建材メーカーらに対しては、最高裁判決後の差戻審の和解案であるという重みを踏まえて本和案を検討することを求める。一審被告メーカーらがいたずらに本和解所見を拒否し判決を選択すれば、さらに解決が引き延ばされる事態となる。このような事態は、非人道的であり、企業の社会的責任を放棄するもので到底許されるべきではない。

7 国との関係では、いわゆる建設アスベスト給付金法が成立し、これまで7794名(2024年12月18日現在)を超える被害者が認定され、建設アスベスト基金から給付金が支給されているが、建材メーカーは同基金に拠出していない。他方、同法附則2条では、国以外の者による被害者への損害賠償のその他の補償の在り方について国は検討のうえ所要の必要な措置をとると明記されている。全国の同種訴訟のなかでも被災者数が最大規模であり、建設作業の職種も多岐にわたる東京1陣訴訟において、建材メーカーらとの和解が成立すれば、建材メーカーらも参加する建設アスベスト補償基金制度創設への大きな前進となることが期待できる。
8 建材メーカーらに対して、裁判所が早期全面解決を呼びかけて出した本和解案の重みを自覚し、これを受け入れることを強く求める。国民の皆さまに和解成立に向けての支援と協力を呼びかけるものである。

2024年12月26日

首都圏建設アスベスト東京1陣訴訟原告団
首都圏建設アスベスト東京1陣訴訟弁護団
首都圏建設アスベスト訴訟統一本部

声明(東京2陣訴訟の控訴審裁判所の「和解案」提示にあたって)

1 本日、東京高等裁判所第17民事部(吉田徹裁判長)は、建設アスベスト東京2陣訴訟の控訴審において具体的な和解案を当事者に示した。本控訴審は、昨年2024年3月1日に結審したが、同日、早期解決を求める一審原告らの意見等を踏まえ、和解勧告を検討すると表明しており、本日の和解期日において、個々の一審原告ごとに具体的な和解金額を示した和解案を提示したものである。
昨年12月26日に、建設アスベスト東京1陣訴訟の差戻審において、東京高等裁判所第24民事部が和解案を示したのに続き、1か月の間に連弾で和解案が示された。

2 一審原告らは、2008(平成20)年5月16日に提訴された東京1陣訴訟に続き、2014(平成26)年5月15日に、国及び建材メーカーらを被告として東京地裁に提訴し、2020(令和2)年9月4日、原告らの請求を一部認容し国及び建材メーカーらの責任を認める第1審判決が出されたが、一審原告、一審被告双方が控訴して、東京高等裁判所で審理が行われてきたものである。
この間、東京1陣訴訟等に関し、2021(令和3)年5月17日に最高裁判決が出され、国の国家賠償責任を肯定するとともに、建材メーカーらに対しても、石綿建材を製造販売する際に当該建材が石綿を含有しており当該建材から生ずる粉じんを吸入すると肺ガン・中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を表示する義務を負っていたにもかかわらず、その義務を履行しなかった過失があり、民法719条1項後段が類推適用されて建材メーカーらに共同不法行為責任が成立する場合があるとの判断が示された。

3 本控訴審は、この最高裁判決も踏まえ、約2年半にわたる審理を経て結審し、本日、具体的な和解案を提示した。裁判長は、和解案の説明の冒頭に、「全国で1100名を超える原告について各地で同種訴訟の審理が行われてきたが、これらの判決で、どのメーカーに責任が認められるかや損害額について、ほぼ同一の内容に収れんされつつある。300人の原告を抱える東京1陣訴訟の和解案も概ね同様の判断傾向に沿うものであった。被災者の高齢化が著しく心身の負担が大きく、亡くなられる方も多くなっており、一刻も早い被害回復が求められている。後続訴訟を含めて早期解決が図られることを期待しつつ、東京1陣訴訟とほぼ同一内容の和解案を示したものである。」旨を述べた。

4 本和解案の対象は、一審原告126名(被災者112名。()内は以下同じ。)のうち解体工等を除く109名(98名)である。そして、和解案の具体的な内容は、建材メーカー18社のうち5社(エーアンドエーマテリアル、太平洋セメント、ニチアス、ノザワ、エム・エム・ケイ)に対して、一審原告ら93名(82名)に総額金11億3158万円の和解金を支払えというものであった。
なお、改修・解体作業及び屋外作業での石綿粉じん曝露を中心とする解体工、板金工等の一審原告17名(14名)については、2021(令和3)年5月17日の上記最高裁判決が屋外作業者に対する建材メーカーらの責任を否定し、さらに、2022(令和4)年6月3日の神奈川2陣最高裁判決が解体作業従事者に対する建材メーカーらの警告表示義務を否定するという誤った判断をしたが、これを是正するには適正な判決を得る必要があることから、本和解案の対象にはされておらず、今後、判決が言い渡される予定である。

5 われわれは、先に示された東京1陣和解案は、一部一審原告らの請求を認容しないなどの問題点がありつつも、最終の事実審裁判所による和解案であって判決と同等の重みをもつことを真摯に受け止め、何よりも早期解決を目指すため、これを受け入れることを決定した。そして、本和解案もまた、上記最高裁判決を踏まえ、2年半にわたる審理と結審から本日の和解所見提示まで約11カ月を要して出されたものであることから、その重大性を真摯に受け止め、可能な限り早期に本和解案に対するわれわれの態度を表明する所存である。

6 提訴から本日の本和解案の提示に至るまでに約10年8か月が経過し、一審原告らのうち既に8割以上が亡くなっている。これ以上の解決の先延ばしは許されない。
東京1陣訴訟差戻審に続き、約1カ月の間に連弾で本和解案が示されたことは、早期解決を求める一審原告らの要求が正当なものであることを裁判所が表明していると言えるのであって、建材メーカーらは、このことの重みを十分に踏まえて本和解案を受け入れることを求める。建材メーカーらがいたずらに本和解案を拒否し判決を選択することは、解決の引き延ばしにほかならず、このような事態は、非人道的であり、企業の社会的責任を放棄するもので到底許されるものではない。

7 国との関係では、いわゆる建設アスベスト給付金法が成立し、これまで7,918名(2025年1月22日現在)の被害者が認定され、建設アスベスト基金から給付金が支給されているが、建材メーカーは同基金に拠出していない。他方、同法附則2条では、国以外の者による被害者への損害賠償のその他の補償の在り方について国は検討のうえ所要の必要な措置をとると明記されている。全国の同種訴訟のなかでも被災者数が最大規模である東京1陣訴訟と、これに準ずる規模である東京2陣訴訟を合わせれば全国の原告数の約3分の1に及ぶのであって、建材メーカーらとの和解が成立すれば、建材メーカーらも参加する建設アスベスト補償基金制度創設への大きな前進となることが期待できる。

8 われわれは、今回の2つの和解案提示をてこにして、建設アスベスト訴訟の早期全面解決と給付金法改正を求める取組を一層強化していく。国民の皆さまには、和解成立と給付金法改正によるアスベスト被害者の早期全面救済に向けての支援と協力を呼びかけるものである。

2025年1月31日

首都圏建設アスベスト東京2陣訴訟原告団
首都圏建設アスベスト東京2陣訴訟弁護団
首都圏建設アスベスト訴訟統一本部

安全センター情報2025年3月号