岐阜地裁がニチアスを断罪/岐阜●企業側医学専門家証人の主張一蹴

岐阜県笠総町に住む福田文夫さん(80歳)は、岐阜県羽島市にあるニチアス羽島工場で保温材や原材料の混合作業等に従事し、アスベスト粉じんを吸入したことから、じん肺症の一種である石綿肺と合併症の続発性気管支炎に罹患した。岐阜労働局より療養が必要なほどのじん柿であるという正式な認定を受けたのが2017年7月26日で、岐阜労働基準監督署より2018年1月に労災認定された。ニチアスで働いたのは、中学校卒業後の1959年3月から退職する1970年1月までの10年10か月間あまりだった。

ニチアスでの福田さんの仕事は、保温材の成型作業や「別荘」と呼ばれる建屋での原料混合作業だった。成型作業では、混合槽というお湯を張ったタンクにアスベスト等の原料を投入する時に、同じ建屋内で作業をしていた福田さんのうえにアスベストが降りかかった。「別荘」という建屋内でのアスベストと珪藻土等、原料の混合作業では、コンクリートの床にぶちまけた原料をスコップで混ぜ合わせる時に大量の粉じんが発生した。

福田さんはアスベストユニオンに加入し、ニチアスとの団体交渉に臨んだものの解決せず、2018年11月15日にニチアスに対する損害賠総訴訟を岐阜地方裁判所に提起した。

今年1月31日に岐阜地方裁判所は、福田さんに対してニチアスが1,430万円の損害賠償を支払うよう命じる判決を言い渡した。

訴訟のなかでニチアスが、田村猛夏医師や芹澤和人医師を利用して展開した主張は、被災者の石綿肺は労災として認められるほど重症ではない、ということだった。

今回の岐阜地裁の判決は、これら被告の主張を一蹴し、被災者に損害賠償を支払うことを命じたが、これまで多くの石綿関連疾患の病苦に苛まれる元従業員をかかえる事業所の倣慢と鉄面皮に対する断罪である。

田村猛夏医師は、奈良労働局の労災協力医員でじん肺診査医である。また、芦澤和人医師は、国の労災疾病臨床研究事業「じん肺健康診断とじん肺管理区分決定の適切な実施に関する研究」の研究代表者である。両名とも、環境省の石綿健康被害判定小委員会に名を連ね(田村医師は令和6年名簿になし)ているが、このような立場の医師が、国の制度であるじん肺管理区分制度に基づいて判定された決定に疑義を示すことは、制度の根幹にかかわる問題だと強く懸念する。

この問題は、すでに全国安全センターから厚生労働省に申し入れているし、アスベストユニオンからも抗議文を同省に出している。今回、両名の主張は、地方じん肺診査医が管理2として判定したものを覆す意見、すなわち管理2に満たないとの判定だった。詳細にCT上の陰影まで検討した原告に対し、芦澤医師は、「じん肺の診断はレントゲン写真で行うもので…」とCTの活用を否定したが、芦澤医師は、CT画像を用いて粒状影の個数、大きさとCT値、分布系からじん肺の重症度を定量評価し、じん肺の診断を支援するシステムを開発した「じん肺エックス線写真による診断精度向上に関するる研究」の研究代表者でもある。自分たちの開発したものは無用の長物とでも言うのだろうか。次回の会計検査院の実地検査では、この研究で浪費した624万円を返還するよう厳しく審査してもらいたい。

今後も石綿関連疾患については被災者が増加するおそれがあるが、近年は業務上認定を受けた被災者に対し、国からの損害賠償や給付金が支払われる枠組みが整備されつつある。国が積極的に被災者に補償をする姿勢は評価できるが、一義的には事業所が元従業員・労働者に補償するべきである。

今回の判決は、あらためて労災被害に対する企業責任の大きさを明らかにしたものであると考える。

原告の福田さんは、判決後の記者会見で、「中学校を卒業した後、ニチアスでなにも知らずに働いてきてこういうことになってしまいました。裁判は本当に長かったと思います。現在ではちょっとでも歩くと苦しくなりますので、休憩しながら歩いています。ニチアスの同僚たちが早く亡くなっていき、僕だけ皆さんの分だけ生かしてもらっていると思っています」とのコメントを発表した。

後日、ニチアスは岐阜地裁の判決を不服として控訴した。

ニチアス羽島工場では、これまで93件のアスベスト労災が認定されている。2015年9月14日には、岐阜地裁が2人の元従業員に対してニチアスが4,180万円の賠償を支払うよう命じる判決を言い渡しており、一審で確定した。この2人の元従業員は、このたび判決を受けた福田さんの元同僚だった。

名古屋労災職業病研究会関西労働者安全センター

安全センター情報2024年5月号