【石綿健康被害補償・救済状況の検証(2020年度確定値)】中皮腫死亡者数増加に転じるも、コロナ影響で環境省救済減少-請求期限切れへの対処は待ったなし(2021年12月15日)

※【石綿健康被害補償・救済状況の検証(2021年度確定値)】環境省コロナ禍影響挽回/救済法請求期限さらに延長-建設アスベスト給付金2022年2,524件認定(2023年1月12日)

救済法施行15年の補償・救済状況

2005年夏のクボタ・ショックに対応するためのアスベスト問題に関する関係閣僚会合は、同年12月27日の第5回会合でまとめた「総合対策」で、「石綿による健康被害者の間に隙間を生じないよう迅速かつ安定した救済制度を実現」するとした。このために翌2006年2月3日に成立、同年3月27日に施行されたのが、石綿健康被害救済法である。

「隙間ない救済」の実現状況の検証は、救済法が施行された当初からその必要性が指摘されてきたにもかかわらず、政府・関係機関による努力はなかなかなされてこなかった。

検証作業に使うことのできる死亡年別の補償・救済データについて、環境再生保全機構は当初から公表したものの、厚生労働省がデータを公表するようになったのは、労災認定等事業場名一覧表の公表を再開した2008年度以降のことである。

代わって全国労働安全衛生センター連絡会議が独自に検証を行ってきた(安全センター情報2008年12月号、2010年1・2月号、2010年11月号、2012~2021年の1・2月号参照-今回が14回目となる)。

なお、2011年6月2日に環境大臣に答申された中央環境審議会の建議「今後の石綿健康被害救済の在り方について」は、「労災保険制度との連携強化」として「労災保険制度との連携強化に関しては、石綿健康被害救済制度、労災保険制度等における認定者と中皮腫死亡者との関係等の情報についても、認定状況とともに、定期的に公表していくことが重要である」と指摘した。

これを受けて、環境再生保全機構が毎年度公表している「石綿健康被害救済制度運用に係る統計資料」の平成25年度版から、「各制度における中皮腫の認定等の状況(死亡年別)」という表が一枚追加された。これは、本誌が表8として示しているものと同様の作業を行ったものであり、それが本誌による検証から半年以上遅れて公表されるというかたちになったわけである。

また、「隙間ない救済」に加えて、「公正な(格差のない)救済」も、重要な検証課題である。

隙間なく救済されるべき対象

まず本誌が検証に用いたデータを確認しておく。

① 死亡者数-検証作業における分母にあたる補償・救済されるべき被害者数については、中皮腫はすべてが「隙間なく」補償・救済されるものであるが、罹患者数のデータは得られないため、死亡者数を用いる。具体的には、2021年9月9日に厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室が公表した、「都道府県(特別区-指定都市再掲)別にみた中皮腫による死亡数の年次推移(平成7年~令和2年) 人口動態統計(確定数)より」、及び、平成6(1994)年以前については、環境省が救済制度発足時に行った推計方法(表1参照-これは、2010年5月21日の第7回石綿健康被害救済小委員会ではじめて公表された資料である)にしたがった。

石綿による肺がん死亡者数については、表1では、中皮腫の「1.0倍」とされているが、後述するようにこれは少なすぎる。前回までは、一昔前に国際的な科学的コンセンサスとされていた中皮腫の「2.0倍」との仮定を使用してきたが、それでもなお著しく低い「救済率」しか達成できていないこともあり、今回は、中皮腫の「1.0倍」という仮定を使って「救済率」を検証することにした。

表1に記載されているように、環境省は「患者数将来推計は改めて行う」としながら、行われていない。表2に示すような国際的努力も踏まえ、中皮腫・肺がん以外のアスベスト関連疾患も含めた、被害の(将来)推計と「隙間ない救済」実現状況の検証は、車の両輪としてともに努力を継続する必要があることを強く指摘しておきたい。

検証に使った補償・救済データ

② 労災保険・労災時効救済-厚生労働省はクボタ・ショックの後2006年から、毎年6・7月頃に「石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況まとめ(速報値)」を公表するようになっている(2021年は6月25日)。これは、請求・支給決定年度別データであり、「など」とされているのは、労災保険給付のほか、厚生労働省所管救済法に基づく特別遺族給付金(労災時効救済)、船員保険給付のデータも含んでいるからである。

一方、年末に上記の「確定値」及び「石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表」を公表することも、被害者・家族らの強い働きかけの結果、継続されている(2021年は12月15日)。「確定値」には、死亡年別データが含まれている。

労災保険については、2008年度版から(2004年度分にまで遡及して)びまん性胸膜肥厚と良性石綿胸水に関するデータが追加され、2011年度分から石綿肺の支給決定件数のみが追加されたが、それ以前のデータは公表されていない。中皮腫と肺がんについては、本誌が過去情報公開等を通じて入手した過去分のデータも使用した。

必要に応じて、労災保険と労災時効救済を合わせて「労災・時効救済」とよぶ。

③ 環境省所管救済法による救済-石綿健康被害救済法による療養者に対する救済(医療費・療養費手当等=生存中救済)、同法による法施行前死亡者及び未申請死亡者に対する救済(特別遺族弔慰金・特別葬祭料)。環境再生保全機構が毎年公表している「石綿健康被害救済制度運用に係る統計資料」の令和2年度版によった(2021年9月22日公表)。

未申請死亡者に対する救済は、2008年度になってから創設された。石綿肺とびまん性胸膜肥厚が対象疾病とされたのは、2010年度からであり、良性石綿胸水はいまも対象にされていない。

必要に応じて、環境省所管救済法による救済=生存中救済+施行前死亡救済+未申請死亡救済を「環境省救済」とよぶことにする。

「統計資料」には、平成21年度版から、「労災等」認定との重複分を含めたものと除いたものの二つのデータが示されるようになった。「労災等」とは、労働者災害補償保険制度、国家公務員災害補償制度、地方公務員災害補償制度、旧3公社(日本国有鉄道、日本専売公社、日本電信電話公社)の災害補償制度、船員保険制度等の「業務に関連して石綿により健康被害を受けた方に対する補償制度」及び救済法に基づく労災時効救済制度(特別遺族給付金)のことである。本来は、これらの制度も検証作業に含めたいのだが、必要なデータが系統的に提供されないため、断念せざるを得ない状況が続いている。

また、曝露分類や産業別分類について、環境再生保全機構が2021年3月26日に公表した「石綿健康被害救済制度における平成18~令和元年度被認定者に関するばく露状況調査報告書」も利用している。

他の関係制度によるデータ

他の制度のなかで、船員保険については、厚生労働省が前述の速報値及び確定値の公表に含めており、前回までの検証ではそのデータも使ってきた。しかし、件数が少ないことと、認定率や都道府県別データが得られないことから、今回は除外した。2020年度までの累計補償件数は、中皮腫93件、肺がん88件、石綿肺10件、合計191件である。

地方公務員災害補償基金は「石綿関連疾病に係る公務災害の申請・認定件数」、また、人事院は「石綿関連疾病の公務災害認定状況」について、公表・更新しているが、いずれも死亡年別データ等が含まれていない。前者の2019年度までの累計補償件数は、中皮腫81件、肺がん14件、石綿肺3件、その他5件、合計103件。後者の2012~2020年度累計補償件数は、中皮腫8件だけである。

鉄道・運輸機構は「元国鉄職員に対する石綿(アスベスト)を起因とする業務災害補償等認定実績」を公表・更新しているが、死亡年別データ等が含まれていないだけでなく、そもそも年度別に整理されていない。2021年9月30日現在の累計補償件数は、中皮腫251件、肺がん177件、石綿肺52件びまん性胸膜肥厚36件、良性石綿胸水2件、合計518件と少なくない。

以上に掲げた累計補償件数を合わせると、中皮腫433件、肺がん279件、石綿肺65件、その他41件、合計818件となる。これらを含めて、関係するすべての制度が、「隙間ない救済」の実現状況の検証に必要なデータを、系統的に公表すべきである。

救済対象に関する国際的知見

わが国の中皮腫による死亡者数は、人口動態統計で把握できるようになった1995年の500人から増加している。2014年にわずかに減少したが、本誌は「増加が止まったとみることはできない」と指摘した。そのとおりに、2015年1,504人、2016年1,550人、2017年1,555人と増加した。2018年は1,512人、2019年は1,466人と減少したが、2020年は1,605人と再び増加に転じた。1995~2020年の26年間の累計は28,213人になっている(表8参照)。

中皮腫以外のアスベスト関連疾患の規模を予測する努力が積み重ねられている。世界疾病負荷(GBD)推計は、国際的にもっともよく引用されるもので、各国別の推計結果も入手できる。2020年10月17日に更新された最新のGBD2019による日本についての推計結果は表2に示すとおりである。2019年の石綿による死亡が初めて2万人超になった。

2021年9月17日には、「傷病の労働関連負荷に関するWHO/ILO共同推計 2000~2016年 世界監視報告書」が発表された。各国別データも入手することが可能であり、同じく表2に示した。

いずれも中皮腫死亡者数は人口動態統計データとほぼ同じであり、中皮腫以外のアスベスト関連疾患の規模感を想像することができる。

肺がん/中皮腫の比率について、WHOは2014年発行の「クリソタイル・アスベスト」で「6:1」とし、ILOが2021年に発行した「労働における有害化学物質への曝露と結果としての健康影響:グローバル・レビュー」も、アスベストに関する最新の知見の概要のなかで引用している、しかし、この比率は、GBD2019の世界推計で「7.4:1」、WHO/ILO2021の世界推計では「7.7:1」となっており、また、表2のように、日本については「10」を超えるものと推計されているのである。

さらに、卵巣がん、喉頭がんをアスベスト関連がんに加えることは世界常識となっており、国際機関は他にも関連性が観察されている疾病があることも認めている。補償・救済の対象とされるべきアスベスト関連疾患について、あらためて最新の知見に基づいた検討が必要である。

2020年度は環境省救済が減少

まず、図1と表3に、制度別疾病別補償・救済状況、図2と表4に、疾病別疾病別補償・救済状況の推移を示す。これ以降、推移を示す図では、環境省救済については、労災等との重複分を含んだ各年度の救済件数を示していることに留意されたい。

補償・救済合計件数は、労災保険制度しかなかった2005年度以前と比較して、救済制度が創設された2006年度に大幅に増加したことが一目瞭然である。2006年度は、労災保険1,858件、施行前死亡救済1,590件、労災時効救済886件、生存中救済799件の順に件数が多かった(合計5,133件)。

2007年度以降は、2000件前後で推移しているが、労災保険はおおむね1,000~1,100件で横ばい状態であり、労災時効救済と環境省救済の増減が合計件数の増減につながってきたように思われる。疾病別では、中皮腫の増減が、合計件数の変化の主な原因になってきたと言える。

2008年度に未申請死亡救済制度が追加されたが、以降、一定の存在感を維持している。

2009年度と2012年度に二つの小さな山がみられるが、これは、2008年度に環境省主導、2011年度に厚生労働省によって、地方自治体の保管する死亡小票を活用して中皮腫で死亡された方を抽出し、労災または救済給付を受けていないものに対して補償・救済制度を周知する「個別周知事業」が実施されたことによるものである。実際に、疾病別で中皮腫が増加の原因であったことを確認できる。

この「個別周知」は、中皮腫に限定され、また、「闘病中の本人に対して」ではなく「死亡後に遺族に対して」になってしまうわけではあるが、二度の実施によって効果のあることは実証されていると言ってよい。しかし、再度、また継続的に実施していく方針は、どちらの省からも示されていない。

2010年度には石綿肺とびまん性胸膜肥厚が、環境省救済の対象疾病に追加されたが、合計件数の推移に反映されるような影響は与えていない。びまん性胸膜肥厚は毎年2桁の実績があるものの、石綿肺は1桁にとどまっている。

2020年度は、労災・時効救済が前年度の1,168件から1,080件へ88件減少、環境省救済が967件から686件へと281件もの大幅減少して過去最低、合計件数が2,135件から1,766件へ369件減少して、2006年度以降最低になった。コロナ禍によって環境省救済の認定作業が大幅に遅れたことが伝えられており、それが原因だろう。コロナ禍がなければ、2020年度も合計2,000件を超えていたものと考えたい。

全体で労災56.0%、中皮腫65.3%

図3と表5に、2020年度末までの累計について、制度別・疾病別補償・救済状況の概要を示した。ここでは、環境省救済の重複分は除かれている。

累計補償・救済件数は32,876件。環境省救済の重複分は2,825件で、8.6%に相当する。

制度別では、労災保険56.0%、労災時効救済5.0%(労災・時効救済計61.0%)、生存中救済24.5%、施行前死亡救済10.3%、未申請死亡救済4.2%(環境省救済計31.0%)、となっている。

疾病別では、中皮腫65.3%、肺がん28.3%、石綿肺2.4%、びまん性胸膜肥厚2.5%、良性石綿胸水1.4%、となっている。良性石綿胸水は、環境省救済の対象疾病になっていない。

再々度の請求期限切れ問題

石綿健康被害救済法は、患者・家族らの提起を受けた議員立法というかたちで、法制定時には3年間の時限措置とされていた、法施行前に死亡または労災時効成立していた事例に対する救済(労災時効救済及び施行前死亡救済)の請求期限を延長するという改正が、2008年と2011年の二度にわたって行われた。

しかし、労災時効救済は、2016年3月27日以降に死亡した事例には適用されないために、死亡から5年経過すると労災保険も労災時効救済も請求できなくなる。2021年3月27日以降、そうした事例が発生しているはずである。環境省所管の未申請死亡救済のほうは死亡から15年以内なら請求することができるが、給付の水準に著しい差がある。

さらに、2016年3月26日以前に死亡した中皮腫・肺がん事例の施行前死亡救済の請求権が、2022年3月27日までで期限切れとなるのを皮切りに、施行前死亡救済の請求期限切れ問題もはじまる。

2020年度にも、労災時効救済は20件、施行前死亡救済も8件(それ以前は2桁)の実績があり、救済を必要としているものがまだいる。請求期限の再々度の延長は待ったなしの課題である。

かたや中皮腫中心で変動幅大

図4-1~3と表6-1・2に、労災・時効救済と環境省救済の各々についての、疾病別補償・救済状況を示す。図4-1と図4-2は、縦軸の最大値を3,000件でそろえてあるので、直観的に棒グラフの長さで相互に比較することが可能である。

両者の推移をみると、環境省救済のほうが変動が大きく、また、2020年度の減少も大きくめだっている。労災・時効救済については、労災保険はほぼ横ばい状態で、労災時効救済のほうに変動があることは、前述したとおりである。

2020年度末までの累計補償・救済件数は、労災・時効救済が20,055件(全体に占める割合61.0%)。

環境省救済は12,821件(同じく39.0%)。重複分は2,825件で、22.0%に相当する。換言すると、累計認定件数の18.1%が重複認定であったことになる。

2020年度末までの累計の内訳についてみると、労災・時効救済では、中皮腫52.8%、肺がん38.0%、石綿肺3.6%、びまん性胸膜肥厚3.3%、良性石綿胸水2.3%。環境省救済(重複分を除く)では、中皮腫85.0%、肺がん13.0%、石綿肺0.6%、びまん性胸膜肥厚1.4%、となっている。

環境省救済のほうは、ほとんど中皮腫だけしか救済できておらず(85.0%)、かつ、年度ごとの救済件数の変動の幅が大きいと言えそうである。

後にみるように、環境省救済と労災・時効救済の疾病別の認定率の比較(図9-1~4参照)では、中皮腫については大きな差がないのに、中皮腫以外の疾病については、環境省救済の認定率のほうが著しく低いことが確認できる。認定基準の内容とその運用に問題がありそうである。

中皮腫:2020年度の減少一時的?

図5-1~4と表7-1~2に、各々の疾病について、制度別の補償・救済状況を示した。

中皮腫(図5-1と表7-1)は、おおむね全疾病(図2)と同様の推移を示しており、換言すれば、中皮腫の推移が全体の推移を左右している(累計で全疾病の65.3%を占めている)。ただし、図2と比較すれば、労災保険の比率が相対的に低いこともわかる。

図5-1で、救済法が施行された2006年度の大きな峯以外に、2009年度と2012年度に二つの小さな山ができているのは、前述のとおり「個別周知事業」の結果であり、2020年度の大きな減少は、コロナ禍による環境省救済認定の遅れが原因である。

中皮腫は、労災認定第1号が1978年で、以降クボタ・ショック前-2004年度までの27年間の累計労災認定件数が502件であったものが、2005年度は(事実上クボタ・ショック後の半年間で)502件、2006年度は1年間で1,001件と、1年半で実に4倍に激増した。以降、2007~2018年度は500件台、2019年度641件、2020年度607件と推移してきている(表7-1)。

労災時効救済は、2006年度に570件で、その後2011年度まで2桁台。2011年度の厚生労働省主導の「個別周知事業」の結果と思われる2012年度の増加の後、件数は少ないものの毎年救済件数があり、2020年度も8件あった。

施行前死亡救済は、2006年度に1,538件と制度別でもっとも多かったが、2008年度の環境省主導の「個別周知事業」の結果と思われる2009年度の増加が確認でき、2012年度も増加している。その後減少しているものの毎年救済件数があり、2020年度も8件あった。

生存中救済は、2006年度に627件の後、486~749件の間で変動している。2016~2019年度の間、生存中救済が600件台(2018年度は749件)、未申請死亡救済が100件台を持続していたが、2020年度はいずれも大きく減少してしまった。

結果的に、2020年度末までの補償・救済累計は、環境省救済の重複分を除いて21,482件になっている。環境省救済の重複分は2,280件で、10.6%に相当する。推計を含めた2020年度までの累計中皮腫死亡者数31,898人に対する比率を「救済率」と呼べば、67.3%となる。ちなみに、既出の他の関係制度による累計補償件数433件を加えると、補償・救済累計は21,915件で、「救済率」は68.7%となる。

内訳は図5-4左上のように、労災保険44.9%、労災時効救済4.4%(労災・時効救済49.3%)、生存中救済30.7%、施行前死亡救済15.0%、未申請死亡救済5.1%(環境省救済50.7%)、となっている。未申請死亡救済が占める割合は、中皮腫がもっとも多い。

しかし、中皮腫の80%が職業曝露によるものというのが国際的な科学的コンセンサスであり、職業曝露によるもの以外の中皮腫の救済・補償制度を実施している他の諸国の状況からも妥当と考えられている。したがって、以上のような「分担率」の状況は大いに問題がある。

肺がん:長期的減少に懸念

肺がん(図5-2と表7-1)は、労災認定第1号が1973年とされ、以降クボタショック前-2004年度までの32年間の累計労災認定件数が354件であったものが、2005年度は213件、2006年度は783件と、中皮腫同様に激増した。しかし、2007年度502件から2020年度337件へと、長期的に減少傾向がみられるのではないかと懸念される。

2006年度の峰も中皮腫と比較すれば低く、労災時効救済272件、生存中救済172件、施行前死亡救済52件で、合計1,279件だった。

労災時効救済件数は減少しながらも、2013年度以降も10件台を維持している(2020年度も10件)。

生存中救済は、2013年度以降3桁を保ってきたが、2020年度は75件に減少。施行前救済は、0件の年も出ている。未申請死亡救済は、変動がみられるものの2009年度以降2桁を保ちつつ増加しているようにみえたが、2020年度は大きく減少した。

全体では、中皮腫のような「個別周知事業」による小さな山もみられない。2020年度は環境省救済の大きな減少によって減少してしまった。2018・19年度にやや持ち直しているので、長期的に減少傾向がみられると断言はできないが、懸念は残る。

2020年度までの補償・救済累計は、環境省救済の重複分を除いて9,292件となった。環境省救済の重複分は510件で、5.5%に相当する。推計を含めた2020年度までの累計中皮腫死亡者数31,898人を補償・救済すべき石綿肺がん死亡者数と仮定して(著しい過少評価であり、本来は10倍以上にすべきであるかもしれないのであるが)、それに対する比率を「救済率」と呼べば、29.1%となる。ちなみに、既出の他の関係制度による累計補償件数279件を加えると、補償・救済累計は9,571件で、「救済率」は30.0%となる。

内訳は図5-4右上のように、労災保険75.4%、労災時効救済6.6%(労災・時効救済82.0%)、生存中救済13.8%、施行前死亡救済1.3%、未申請死亡救済2.9%(環境省救済18.0%)、となっている。中皮腫の場合と比較しても、環境省救済が肺がんを救済できていないことが、最大の問題であろう。

何よりも「中皮腫と比較しても肺がんの補償・救済が不十分」という認識を持って、認定基準の内容と運用や、医療現場の認識と対応の大幅な改善を含めた抜本的・包括的アプローチが必要である。

良性疾患:石綿関連の認識を反映?

図5-3と表7-2に、石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水の決定年度別の補償・救済状況を示す。
石綿肺とびまん性胸膜肥厚が環境省救済の対象になったのは2010年度以降であり、良性石綿胸水はいまも対象とされていない。

石綿肺(表7-2)の労災認定件数は、2010年度以前のデータが公表されておらず、2011年度以降は45~78件の範囲で推移している。労災時効救済と施行前死亡救済は、制度創設の年に2桁を記録した後は、1桁または0件。未申請死亡救済も0~2件にとどまっている。全体でも、2011年度以降、49~89件の範囲であり、2020年度までの補償・救済累計は、環境省救済の重複分を除いて802件となった。環境省救済の重複分は6件で、0.7%に相当する。

内訳は図5-4左下のように、労災保険80.5%、労災時効救済10.1%(労災・時効救済計90.6%)、生存中救済4.0%、施行前死亡救済4.6%、未申請死亡救済0.7%(環境省救済計9.4%)、となっている。

びまん性胸膜肥厚(表7-2)の労災認定件数は、2006年度以降増加して、31~53件の範囲で推移している。労災時効救済はこれまでに3件しかない。生存中救済は6~26件、施行前死亡救済は0~7件、未申請死亡救済は0~8件の範囲で推移。全体では、2010年度以降、51~87件の範囲で推移しており、2020年度までの補償・救済累計は、環境省救済の重複分を除いて831件となった。環境省救済の重複分は29件で、3.5%に相当する。

内訳は図5-4右下のように、労災保険78.7%、労災時効救済0.4%(労災・時効救済計79.1%)、生存中救済16.7%、施行前死亡救済1.2%、未申請死亡救済3.0%(環境省救済20.9%計)、となっている。

良性石綿胸水(表7-2)は、環境省救済の対象になっておらず、また、労災時効救済は実績がない。したがって、労災保険のみのデータとなるが、2006年度に2桁50件未満台、2010年度に2桁50件以上台への飛躍がみられるものの、2010年度以降では51~87件の範囲で変動している状況で、2020年度までの累計で469件となった。

図5-3は、石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水の合計の推移を示しているが、2006年度以降に労災認定件数の飛躍がみられるとともに、2011年度以降にさらなる飛躍がみられる。これに、2006年度以降は労災時効救済、2010年度以降は環境省救済が追加されている状況である。症例が増えたというよりも、アスベスト関連疾患としての認識の高まりを反映したものではないだろうか。

中皮腫救済率65.6%(32.6~91.9%)

次に、「隙間ない救済」の検証である死亡年(年度ではなく暦年)別の補償・救済状況をみよう。図5と表7は、2020年度末時点における中皮腫の死亡年別の補償・救済状況である。この補償・救済件数には、環境省救済の重複分は含まれていない。

前述のとおり、補償・救済の対象(分母)となる死亡者数は、1995年以降は人口動態統計により、1968~1994年以前は推計値。1929年以前のアスベスト輸入量のデータがないために、(その38年後の)1967年以前の死亡者数は推計されていない。

もっとも古い認定事例は、施行前死亡救済の1973年死亡事例である。次が労災時効救済による1974年死亡事例だったが、2019年度の認定事例として、1973年死亡事例が1件現われている。

しかし、1981年までは補償・救済合計で1桁、1994年までは(1桁だった1983年を除き)2桁台で、死亡者数に対する補償・救済合計件数の比率=救済率は、1994年以前の小計では14.6%(=538/3,685件)にとどまっている。繰り返しになるが、労災時効救済措置は存続する必要がある。

中皮腫死亡者数が推計ではなく人口動態統計により確認できる1995年以降(今回は2020年度までの26年間)についてみると、死亡者小計28,213件のうち、2020年度末までに労災保険給付・労災時効救済を受けたものが8,952件、生存中救済5,546件、施行前死亡救済2,930件、未申請死亡救済1,091件(環境省救済計9,567件)-合計18,519件で、救済率は18,519/28,213=65.6%という結果になった。

もっとも救済率が高いのは、2005年の91.9%で、最低は1995年の32.6%と、死亡年別の救済率のばらつきは非常に大きい。

死亡者数が推計値である1994年以前も含めた全期間合計(2020年まで)でみると、救済率は59.7%という状況である。検証可能な全期間について救済率の一貫増加を継続できていることを確認できるのは幸いではある。

しかし、死亡年別の救済率が2005年の91.9%をピークに、より最近の死亡年について減少傾向が出はじめていないか、強く懸念されるところである。

いずれにせよ、「隙間ない救済」の実現からは遠いと言わざるを得ない。

2005年死亡について91.9%という達成済みの救済率を具体的目標に掲げて、他の死亡年について実現できていない理由を分析しながら、具体的かつ多面的な対策を講じていくこと。また、死亡年が古い事例の救済は増加しにくくなってきているものの、労災時効救済と死亡後救済(未申請)の役割はなお大きいことを確認して、救済期限切れという事態が生じないようにすることが重要である。

なお、表8の「合計」が表7-1の「死亡年判明2020年以前」欄の数字であり、表7-1において「合計」と「2020年以前死亡」の差を「死亡年不明+生存等」欄に記載している(2021年死亡も含む)。

また、労災・時効救済関係では、の分についてしか男女別データが示されていないため、表8・9に、「女性」の比率を示しておく(中皮腫死亡者の女性の割合は1995~2020年合計)。

肺がん救済率22.2%(5.8~32.8%)

肺がんの死亡年別の補償・救済状況は表8のとおりであり、グラフ化したものが図4である。

既述のとおり、救済の対象(分母)となるべき死亡者数は、今回は中皮腫死亡者数と同数と仮定して計算した。

アスベスト輸入量のデータがないために推計していない1967年以前の死亡事例でも認定されているものがあり、もっとも古い認定事例は、労災時効救済の1963年死亡事例で、施行前死亡救済では1974年死亡事例がみられる。

しかし、救済率は、中皮腫の場合と比較しても、悲惨としかいいようのない実績である。

救済率は、1994年以前の小計では(261/3,685=)7.1%である。

1995~2020年の26年間についてみると、死亡者小計28,213件のうち、2020年度末までに労災保険・労災時効救済を受けたものが4,993件、生存中救済893件、施行前死亡救済105件、未申請死亡救済270件(環境省救済計1,268件)-合計6,261件で救済率は6,261/28,213=22.2%という結果になった。

最も救済率の高いのは2006年の32.8%で、最低は1995年の5.8%、2007年以降についてもおおむね減少傾向が見受けられる(2019年は増加)。

1994年以前も含めた2020年までの全期間合計でみると、救済率は20.4%という状況である。

肺がん/中皮腫の比率低いまま

以上の状況は、中皮腫と比較しても、肺がんが著しく補償・救済できておらず、各制度間の相対的な比較においては、労災・時効救済のほうがいくらかましに救済できているということを示している。このことを、別のデータからもみてみよう。

図8に、「決定年度別」の中皮腫に対する石綿肺がんの比率を示す(データは表6-1・2参照)。

決定年度別でみると、労災・時効救済では、肺がん補償件数の中皮腫補償件数に対する比率は、全期間の平均では72.0%だが、2002~2005年度に40%前後だったものが、2007年度以降減少傾向がみられ、2020年度は56.9%となっている。

これに対して、環境省救済では、図8に示された重複分を含めた各年度の比率が、10.3~23.8%の範囲で推移しており、全期間の平均で16.6%(重複分を除くと21.3%)にとどまっている。

認定:環境省救済の低さ

認定率についてもみてみよう。図9-1に中皮腫、表9-2に肺がん、図9-3に石綿肺と良性石綿胸水、図9-4にびまん性胸膜肥厚、各々の制度別の認定率を示す。請求件数を分母とすることも可能であるが、より正確に、当該年度における総決定件数に対する補償・救済件数を用いた。具体的には、労災・時効救済では、支給決定件数/(支給決定件数+不支給決定件数)、環境省救済では、認定件数/(認定件数+不認定件数+取下げ件数)を計算した。環境省救済については、グラフは重複分を含めたデータ、平均は除いたデータである。

環境省救済の「取下げ」は、「主な理由:労災等支給、医学的資料が整わない」と注記されているが、挙げられた二つの理由はまったく性質の異なるものであり、各々の理由ごとのデータを示すべきである。「労災等支給」が理由であれば結構なことだが、「(求められた)医学的資料が整わない」場合、それでも処分を求めていれば、「不認定」とされたと考えられる。不認定件数を減らす目的であろうが、自主的な「取下げ」を誘導させられ、事実上断念させられている可能性を排除できないため、総決定件数として分母に含めたものである。「労災等支給」を理由した「取下げ」を除外することができれば、認定率はその分高くなる。

中皮腫の認定率は、2006~2020年度平均で、労災保険が93.8%でもっとも高く、施行前死亡救済92.2%、労災時効救済85.9%、生存中救済86.2%、未申請死亡救済78.1%と続いている。労災・時効救済93.0%、環境省救済86.8%、全体では93.0%である。

肺がんの認定率は、2006~2020年度平均で、労災保険の84.0%がもっとも高く、生存中救済59.8%、未申請死亡救済56.9%、労災時効救済53.8%、施行前死亡救済21.8%という順で、かなりの差がついている。また、環境省救済では取下げ件数もかなりの比率ある。労災・時効救済80.1%、環境省救済53.0%、全体では71.5%である。

石綿肺の認定率は、2006~2020年度平均で、労災時効救済100%でもっとも高く、施行前死亡救済63.5%、生存中救済11.4%、未申請死亡救済6.5%と続く。環境省救済16.0%、全体では19.4%である。

びまん性胸膜肥厚の認定率は、2006~2020年度平均で、労災時効救済100%でもっとも高く(ただし3件のみ)、労災保険が85.4%、施行前死亡救済55.0%、生存中救済36.7%、未申請死亡救済32.9%と続く。労災・時効救済79.5%、環境省救済36.1%、全体では60.2%である。

良性石綿胸水は、2006~2020年度平均で、労災保険が97.7%。労災時効救済は実績がなく、環境省救済の対象にはなっていない。

中皮腫の認定率は、環境省救済も労災・時効救済に比較的近いのに対して、他の疾病の認定率では、環境省救済が著しく低いことが明らかである。

労災の環境省救済への紛れ込み

環境再生保全機構の「石綿健康被害救済制度における平成18~令和元年度被認定者に関するばく露状況調査報告書」には、曝露分類別の被認定者の状況が示されており、これは、アンケート回答の内容から、①職業曝露、②家庭内曝露、③施設立入等曝露、の順で優先してひとつに分類し、いずれにも該当しないものを、④環境曝露・不明に分類したと説明されている。2006~2019年度(2020年度ではないことに注意)の(重複分を含む)累計被認定者14,981人のうち、他法令でも認定された2,765人を除いた12,216人が調査対象で、アンケートに回答した10,486人についての状況である。

表10のとおり、曝露歴が「職業曝露」に分類されるものが、中皮腫の場合で53.6%にものぼることが明らかになっている。石綿肺がんの場合では90.8%、石綿肺とびまん性胸膜肥厚も含めた4疾病合計では59.1%である。このなかには労災補償等を受給する資格のあるものが環境省救済に「紛れ込んでいる」ことが強く疑われる。しかし、そのような事例の有無やどれくらいあるのか等が調査されたことはない。

そのような事例は、すでに救済給付を受けていたとしても、労災補償等の請求をすることが可能である。これまで「労災認定等との重複分」と言ってきたのは、まさにそのような事例のことである。この問題を放置しておくことはできないと訴えてきたが、2011年6月の中央環境審議会答申「今後の石綿健康被害救済の在り方について」は、「労災保険制度との連携強化」で、次のように指摘している。

「現在、石綿健康被害救済制度と労災保険制度間では、制度対象者が適切に申請を行えるよう、環境再生保全機構及び労働基準監督署相互の窓口に、両制度のパンフレットを置く等制度の周知に努めている。しかしながら、本来労災保険制度に申請すべき者が、労災保険制度の存在や自分が労災保険制度に申請できることを知らない、あるいは知ってはいるが労災保険窓口への申請を躊躇し、機構の方に申請する事案がいまだあることから、作業従事歴のある申請者等については、申請者本人に労災保険制度について説明し申請を促すのみならず、個人情報の取扱いに留意しつつ、機構から労災保険窓口へ直接連絡することを検討するべきである」。
2012年12月5日に開催された同審議会の第11回石綿健康被害救済小委員会に参考資料として提出された「二次答申の対応状況」では、以下のように書かれている。「救済制度の申請時に実施しているアンケート調査をもとに、申請者が作業従事歴を有している可能性がある場合、環境再生保全機構から申請者本人に労災保険制度について説明し、申請を勧奨している。また、制度の円滑な案内に資するよう、厚生労働省、環境再生保全機構で合同のリーフレット、ポスターを作成、配布済み」。請求人の同意が得られたものに限られるが、「機構から労災窓口への直接連絡」が行われている。

なお、表11に、健康リスク調査(当時の名称)関連地域の曝露分類別状況を示している。

都道府県格差

「救済率」を都道府県別についてもみておこう。

分子については、都道府県別の死亡年別の補償・救済件数が公表されていないため、労災補償件数は都道府県別データが入手可能な2003~2020年度の労災保険認定件数、2006~2020年度の労災時効救済、生存中救済、施行前死亡救済、及び、2008~2020年度の未申請死亡救済件数の合計を用いた。環境省所管救済では、各年度の「労災等認定との重複分」も含めた認定件数を合算したうえで、当該期間の累計の重複件数を減じて、「機構のみ認定」件数を求めている。

1995~2002年度の労災保険認定件数については、都道府県別データが入手できないため含められていない分過少評価になるが、その数は全国合計で、中皮腫206件、石綿肺がん138件である。一方で、時効救済・施行前死亡救済には、1995~2002年死亡事例も多数含まれているため、都道府県別データが入手可能な1995~2020年の中皮腫死亡者数すべてを分母とすることが適当であると判断した。

したがって、1995~2020年の中皮腫死亡者数に対する、2003~2020年度に各制度から補償・救済を受けた者の割合として「救済率」を示したものである(表12-1・2及び表17-1・2)。

中皮腫・石綿肺がんについて、全国平均とベスト5及びワースト5の都道府県の状況は、表12-1・2のとおりである。

中皮腫の「救済率」は、全国平均は75.1%であるが、最高の東京都89.4%から最低の沖縄県51.6%まで、1.7倍のばらつきがみられる。

石綿肺がんの「救済率」は、全国平均は32.0%であるが、最高の岡山県72.2%から最低の鹿児島県8.0%までの、中皮腫の場合よりもさらに大きな9.0倍ものばらつきがみられる。

この格差は、あまりにも大きすぎるだろう。これは、アスベスト被害とその補償・救済制度に対する周知・認識や、地方自治体をはじめとした関係者の取り組みのレベル等のばらつきを反映しているものと考えられるが、いまのうちに実効性のある対策を講じておかないと、自治体別格差がますます拡大していくことが懸念される。

なお、表12-1・2の「労災等」欄に示したのは、補償・救済合計に対する労災・時効救済の割合である。これもかなりのばらつきがみられる。

業種別では建設業が約半数

労災保険と労災時効救済の合計に係る業種別内訳として、表13に、2020年度分及び2007~2020年度累計の詳細な業種別の石綿関連疾患支給決定状況、また、表14-1に、建設業、製造業、その他の3分類で2006~2020年度の累計支給決定状況を示す(2006年度分については6つの業種別データしか示されていないためである)。表13-1の脚注に記したように、支給決定件数が判明しているのに業種別内訳が示されていない部分、支給決定件数そのものが公表されていない部分があることに留意されたい。

表14-1によれば、2006~2020年度の累計18,292件のうち、建設業が9,258件で50.6%、製造業が7,369件で40.3%、その他が1,663件で9.1%である。

表には示していないが、年度ごとの業種別内訳をみると、建設業が2007年度の47.2%から2019年度の58.5%へと増加し続けていることが顕著で(2020年度54.4%、2021年度52.0%とやや減少)、製造業は2007年度の42.7%から2021年度35.6%へ、その他は10.1%から10.0%へという状況である。

他方、環境再生保全機構の「石綿健康被害救済制度における平成18~令和元年度被認定者に関するばく露状況調査報告書」に、産業分類別状況も示されている。申請または死亡前の10年以前に所属した事業所(企業)を回答しており、複数回答可で、他法令でも認定された重複分を含む2006~2019年度累計被認定者14,981人のうち、回答者数9,035人、回答数17,101であった(1人平均1.9回答)。詳しい産業分類別で示されているが、表14-2に、建設業、製造業、その他の3分類で示した。

建設業が累計3,687で、回答数17,101に対する割合は21.6%である。しかし、建設業に従事していたことのある場合、その期間中にアスベストに曝露した蓋然性が他の産業に比べて高いと考えてよいと思われる。したがって、回答者数9,035人に対する割合を計算すれば、40.8%となる。

2006~2020年度の重複分を除く環境省所管救済被認定者累計12,821人の40.8%は5,232人になる。これに前述の労災保険・労災時効救済を合わせると、2006~2020年度の補償・救済総累計認定者31,113人のうち14,490人(46.6%)が建設業従事経験ありという推計結果になった(表14-3)。

建設アスベスト訴訟に対する最高裁の判断を踏まえて「建設アスベスト被害給付金」制度が設立され、運用がはじまろうとしているなかで、建設労働者の被害実態に関する重要な基礎的情報であろう。

なお、「ばく露状況調査報告書」は、「建設業における特定の職歴がある者」についての状況も示しているので、参考にしていただきたい。

「隙間ない/迅速な救済」実現いまだ

「迅速な救済」に関しては、環境再生保全機構が公表しているデータ(表15)しかないが、「迅速な救済」が実現できているとは言えない。厚生労働省は速やかに情報を公表すべきである。

「隙間ない救済」も「迅速な救済」もいまだ実現されているというにはほど遠いと言わざるを得ないうえに、給付水準・内容の格差をはじめ、他にも様々な課題が山積みという状況が続いている。

あらためて「隙間ない/迅速な救済」目標の再確認と実現に向けた実効性のある諸施策の確立が求められていることを強調しておきたい。

補償・救済給付の著しい「格差」

労災保険では、療養補償給付によって自己負担なく治療が受けられ、また、療養のために労働することができず賃金が受けられなければ、特別支給金と合わせて平均賃金の80%の休業補償給付が、必要な期間だけ支給される。さらに、死亡した場合には、遺族に対して遺族補償給付も支給される。データは公表されていないが、平均で、1年と少しの休業で休業補償給付は300万円を超えるだろう。

療養者が当該業務上疾病により死亡したときには、死亡の当時生計を同じくしていた遺族がいる場合には遺族の人数等に応じて平均賃金の175~245日分の遺族補償年金等、または、生計を同じくしていた遺族がいない場合には1,000日分の遺族補償一時金等が支給される。

労災時効救済(特別遺族給付金)では、遺族の人数等に応じて240~330万円の特別遺族年金、または、年金受給権者がいない場合には1,200万円の特別遺族一時金が支給される。

労災保険給付も、若年時にアスベストに曝露した場合や特別加入者等で非常に低額になっている場合があるなど、改善の課題があるが、もっとも重要な問題は、環境省救済給付の「格差」である。

環境再生保全機構が毎年公表している「石綿健康被害救済制度運用に係る統計資料」は、「救済給付支給状況」に関するデータも含まれている。最新の令和2年版を使って、2006~2020年度の救済給付の支給実績について検討してみた。

具体的には、救済給付の種類-医療費(A)、療養手当(B)、葬祭料(C)、特別遺族給付金・特別葬祭料(D)、救済給付金(E)-別の件数と金額が、年度別に示されている。このうち、C、D、Eについては、件数を受給者数と考えてよいだろう。この数字には、労災認定等との重複分も含まれている。
死亡後救済で支給されるのは、特別遺族給付金・特別葬祭料(D=299.9万円)だけである。

特別遺族給付金・特別葬祭料(D)の累計支給実績は、5,127件、153.6億円とされ、1件当たり平均支給額を計算すると299.6万円である。299.9万円よりも少ないのは、特別葬祭料を受給しなかった事例があるのかもしれない。一方、施行前死亡救済3,638件と未申請死亡救済1,553件の合計は5,191件なので、5,191-5,127=64件は、理由はわからないが、救済給付を受給しなかったものと思われる。仮に、153.6億円が死亡後救済事例5,191件(累計15,646件の33.2%-①)に対して支給されたものとして、1件当たり平均支給額を計算すると合計295.5万円となる。

生存中救済では、医療費(A)、療養手当(B)、葬祭料(C)、救済給付調整金(F)が支給される可能性がある。救済給付調整金は、療養者が死亡し、支給された医療費及び療養手当の合計額が特別遺族弔慰金の額(すなわち280万円)に満たない場合に、特別遺族弔慰金の額から当該合計額を控除した額が支給されるものである。すなわち、救済給付調整金が支給された場合には、A+B+Eを合わせて280万円が支給され、C(19.9万円)も支給されれば、合計299.9万円になるということである。

救済給付調整金(E)の支給実績は、4,085件、65.0億円とされている。1件当たり平均支給額を計算すると159.2万円である。この4,085件は、A+B+Eを合わせて280万円受給しているはずである。逆算して、(280-159.2=120.8万円)×4,085=49.4億円が、救済給付調整金支給事例に対して支給された医療費(A)と療養手当(B)の合計金額と推計できる。さらに、全事例に葬祭料(C)も支給されたとすれば、その合計金額は、19.9万円×4,085=8.1億円。救済給付調整金支給事例4,085件(累計15,646件の26.1%-②)に対する合計支給金額は、65.0億円(E)+49.4億円(A+B)+8.1億円(C)=122.5億円と推計され、1件当たり平均支給額は当然合計299.9万円である。

他方、医療費(A)の支給実績は63.7億円、療養手当(B)は246.5億円、A+Bで310.1億円とされているので、救済給付調整金支給事例に支給した49.4億円を差し引いた残額は260.8億円。この金額が、生存中救済10,455件から救済給付調整金支給事例4,085件を差し引いた6,370件(累計15,646件の40.7%-③)に対して支給されたものと推計することができる。1件当たり平均支給額を計算すると合計409.4万円となる。

「統計資料」の「療養者に係る死亡年別・認定疾病別・性別認定状況」から、生存中救済のうち、2020年度末時点までに死亡したものが累計7,982人であったことがわかる。救済給付調整金支給事例4,085件は「死亡事例」であるので、7,982-4,085=3,897件(累計15,646件の24.9%-③A)が、救済給付調整金支給対象以外の「死亡事例」となり、また、両者を生存中救済累計10,455件から差し引いた2,473件(累計15,646件の15.8%-③B)が「生存事例」ということになる。

葬祭料(C)の支給実績は、6,591件、13.1億円とされているので、救済給付調整金支給事例に支給されたものと仮定した4,085件(推計)、8.1億円を差し引くと、6,591-4,085=2,506件に13.1-8.1=5.0億円が支給されたことになる。1件当たり平均支給額は19.9万円である。生存中救済で救済給付調整金支給対象以外の「死亡事例」3,897件のうち、葬祭料が支給されたのは2,506件のみで、3,897-2,506=1,391件には支給されなかったということになる。

③に支給された金額の内訳についてそれ以上の分析はできないので、医療費+療養手当(A+B)409.4億円と葬祭料(C)5.0億円を合わせた417.2億円を3,897+2,506=6,370件で単純に割ると、1件当たり平均支給額は合計417.2万円という計算になる。

①と②を合わせた59.3%が総額で300万円弱しか支給されず、残る③40.7%に対する総支給額が単純平均で合計417.2万円という結果である。

以上を要約して示したのが表16で、ゴチック体の部分が「統計資料」に記載されている件数と金額、その他は推計結果ということである。

労災・時効救済との「格差」を埋めることは、すべての被害者・家族の切実な要望である。

認定事業場データベース

なお、厚生労働省は例年どおり2021年12月15日に、「令和2年度石綿ばく露作業による労災認定等事業場」も公表した。今回は、910事業場(うち新規公表668事業場)が対象となり、クボタショック以降、延べ13,108事業場(建設業以外5,299事業場、建設業8,051事業場、初めて13,000件を突破!)が公表されたことになる。

全国安全センターでは、これらのデータを事業場名、作業内容、所在地などのキーワードで検索できるデータベースにして提供してきた。今回公表の最新データも含めて更新する予定でいるので、活用していただきたい(https://joshrc.net/)。

安全センター情報2022年1・2月号掲載