冷凍食品のトラックドライバー、長時間運転労働でうつ病/東京

冷凍食品の運送に従事しているトラックドライパーのAさんが当センターに相談に来られたのは、2019年12月のこと。Aさんは、20年近く運送業のB社でトラックドライバーとして働いてきた。運送の仕事で各地を回り、時には1週間以上も帰社や帰宅できないこともあるという勤務だった。そして、こうした長時間労働に加えて、社内のトラブルにも巻き込まれ、社内の役職をいきなり解任される事態になった。

長時間労働に不当な降格人事などが重なり、Aさんは体重減少や不眠、不安感、焦燥感などを感じるようになった。2019年9月に入って心身の限界を感じたAさんは病院を受診し、うつ病との診断を受け休業することになった。その後、Aさんは労働組合(プレカリアートユニオン)に加入し、B社に対して未払いの残業代の請求や労災申請への協力などを求めて、団体交渉を申し入れた。しかし、B社は団体交渉に誠実に応じなかった上に、未払い残業代の請求から逃れるために破産手続きを開始するという対応に出た。

Aさんの労災申請は、このように会社側が不誠実な対応に終始している中で進められた。、ユニオンが交渉して会社から提出させたタコグラフと業務日報、そして本人の証言をもとに、労働実態と労働時閣を調べていった。

Aさんは、このB社で大型の冷凍車を運転し、関東・北陸・中部地方の取引先の倉庫や工場を回って、冷凍食品などを荷積み・荷下ろしして、配送する業務に従事してきた。会社から電話で指示を受け、各地を回って運転と待機を繰り返しながら、工場の近くや駐車場に止めたトラックの中で仮眠をとる生活だった。

時には20日間におよぶ連続勤務で、2000kmを超える距離を走行し、その間まったく帰社・帰宅できないこともあるほどの状況だった。冷凍車の運転はAさん一人で行い、各工場や倉庫での荷積み、荷下ろし作業も一人で行っていた。また、こうした作業が深夜に及ぶこともしばしばだった。

こうした実態を踏まえて洗い出したAさんの労働時間は、2019年8月の1か月間で300時間以上の時間外労働があるというものだった。また、それ以前の時期も同程度の時間外労働があると算定した。なお、この時間外労働の算定では、荷積み作業と荷下ろし作業にともなう待機時間や仮眠時間も含めている。

荷積みや荷下ろし作業について電話呼び出しのある工場や倉庫では、その敷地内か近くの路上に駐車し、運転席でいつ来るかわからない電話を待ち、呼び出しがあればすぐに動かねばならない。そのため運転席から長時間離れたり、仮眠を取ったりすることはできない。また、電話呼び出しのない配送先では、トラックが列をなして荷下ろし待ちをする。その場合は、前の車が動くのを待つ。前の車の動きを見張っていないといけないため、やはり運転席から長時間離席したり、仮眠を取ったりすることはできない。

長めの待機の際には、駐車場などで仮眠を取ることもあった。しかし、荷積みや荷下ろしの指示を待たねばならならず、冷凍機が故障しないように温度管理などに注意し荷物の管理に気を配らねばならないといった事情があり、ゆっくり休むことなどできない。仮眠する際にも運転席で座ったまま、短時間の仮眠を取ることしかできなかった。Aさんは「仮眠時間は、全部足してもどれくらい仮眠できていたのかどうか。多くても3時間くらいだと思います」と話していた。

労災申請にあたっては、労基署に対してこうした勤務実態を主張し、タコグラフや業務日報なども提出した。とくに、待機時間や仮眠時間を安易に休憩時間として除外せず、労働時間として認定するよう過去の判例なども引用して主張した。一方、B社は破産手続きなどを理由に労基署の調査に協力しなかったようだ。

2020年10月、Aさんは、「うつ病は極度の長時間労働によるもの」として労災認定を受けた。決定内容を見ると、労基署は業務日報の記述を基軸にして労働時間を認定したようだ。そのため、業務日報で「休憩」と記載のあった箇所はそのまま休憩時間とするなど、本人の証言や実態を軽視する形式的な判断もみられた。それでも、待機時間を労働時間として算定した部分もあり、認定された時間外労働は1か月間で190~200時間という、極度の長時間労働を示すものだった。

Aさんは現在、健康を回復し、別の会社で運送の仕事に従事している。運送業の労働者は、現在の新型コロナ感染症の感染拡大の中で、社会活動を支える「エッセンシャルワーカー」であると言われている。しかし、必要不可欠な労働者と言われながら、その安全と健康が守られているとは到底言えない。社会を支える労働者の安全が守られ、その仕事がきちんと報われる社会に、私たちの社会を変えていかねばならないと痛感する。

文・問合せ先:NPO法人東京労働安全衛生センター