【建設アスベスト訴訟の新展開】最高裁判決、謝罪・統一基準による和解から、未提訴者救済金制度創設へ-建材メーカーの責任追及継続は課題(2021.5.25)

2008年5月16日に首都圏建設アスベスト訴訟東京一陣・神奈川一陣訴訟の原告が東京・横浜地裁に提訴してから13年と1日目の2021年5月17日、最高裁判所第一小法廷(深山卓也裁判長)は初めての判決を下した。今回の判決は、東京一陣・神奈川一陣・京都一陣・大阪一陣の4つの訴訟について、2017年10月から2018年9月にかけて東京・大阪高裁が下した判決に対するものである。

各事件については各々、以下の日付けで、最高裁による上告受理・不受理等の決定が示され、また続いて、口頭弁論が開かれていた。

神奈川一陣2020年8月6日2020年10月22日
東京一陣2020年12月14日2021年2月25日
京都一陣2021年1月29日2021年3月22日
大阪一陣2021年2月24日2021年4月19日

上告が不受理とされた内容はその時点で高裁判決が確定し、最高裁判決で示されたのは、上告が受理された争点についてのみということになる。
別途、4つの事件について別々に示された最高裁第一小法廷判決の主文と最高裁自身の判断に係る部分のみを掲載した。各高裁判決と最高裁判決の概要の比較を、以下頁の表に示した。(これまでに出された建設アスベスト訴訟に係る裁判所判決の要旨等を、https://asbestos-osaka.jp/kensetsu_asbestos/#anc5 で確認できる。)

判決前に国の責任確定

4つの高裁判決はいずれも国の責任を認めていたが、判決ごとに微妙に内容に差があり、とりわけ神奈川一陣東京高裁判決は、違法期間が他と比べてとくに短いうえに、一人親方・中小事業主(一人親方等)に対する国の責任を認めていなかった。これに対して最高裁は、被告・国と原告双方の上告を受理したものの、この段階ではどちらの方向に見直されるのかは明らかではなかった。

その後、東京一陣東京高裁判決に対する国の上告を不受理としたことによって、労働者だけでなく一人親方等も含めた、国の責任を認める最高裁の立場が明らかになり、メディアで大きく報じられた。大阪一陣・京都一陣大阪高裁判決に対する国の上告も不受理としたことで、さらに確認された。

また、解体工の一人親方に対する国の責任を認めなかった大阪高裁判決に対する原告の上告を受理したことで、これも認められるものと予測された。

一方で、屋外作業建設従事者についての国の責任を唯一認めた京都一陣大阪高裁判決に対する国の上告が受理されたことで、国の責任対象の範囲から外されるおそれが高まった。

企業の連帯責任も確定

企業(建材メーカー)の責任については、2つの大阪高裁判決が一部原告との関係で共同不法行為による連帯責任(民法719条1項)を認めた一方で、東京一陣東京高裁判決は一切責任を認めなかった。対して神奈川一陣東京高裁判決は、共同不法行為による連帯責任は成立しないとしたが、一部原告との関係で、個別事情に基づいて複数企業の分割責任(民法709条)を認めた。

神奈川一陣東京高裁判決に対する上告に対して最高裁は、原告と国・企業による上告を取捨選択して受理した。分割責任に基づいて企業責任を認められた勝訴原告の一部について高裁判決が確定した一方で、そのことと矛盾することなく、他の原告との関係で企業の共同不法行為による連帯責任が認められるのではないかと期待された。

続いて唯一企業責任を認めなかった東京一陣東京高裁判決に対する上告に対して、最高裁が原告の上告を受理して、国だけでなく企業の上告も受理しなかったことから、期待は高まった。

さらに京都一陣・大阪一陣大阪高裁判決に対する企業の上告がほとんど受理されなかったことによって、主要曝露建材について高いシェアをもつ企業の共同不法行為による連帯責任も確定した。

他方で、屋外作業との関係で企業責任が認められた京都一陣(クボタ、ケイミュー)と大阪一陣(積水化学工業)の原告について企業の上告が受理されたことから、責任が否認されるおそれが出てきた。

最高裁は損害論判断せず

4つの高裁判決は、基準慰謝料額と国の責任割合について、異なる判断を示していた。例えば、被害者が死亡した場合の基準慰謝料額で、2つの東京高裁判決が2,500万円で、他は2,600万円(京都一陣)と2,700万円(大阪一陣)が1判決ずつ。国の責任割合は基準慰謝料額の3分の1とするものが3判決、大阪一陣大阪高裁判決のみが2分の1とした。
国が支払うべき損害賠償(慰謝料)がもっとも高いのは、大阪一陣大阪高裁判決で、死亡の場合では1,350万円であった。

最高裁は上告不受理決定によって、それらの損害論については判断しない立場を明らかにし、異なる高裁判決の内容が各々確定した。この点は、まだ高裁判決が示されていない後続事案の今後の取り扱いがどうなるかということが問題になった。

国の責任1975.10.1~2004.9.30

判決全文は、最高裁ホームページの最高裁判所判例集で入手することができる(https://asbestos-osaka.jp/all/kensetsu/3331/が便利)。上告を受理した内容との関係で、神奈川一陣に対する判決がもっとも長く(56頁、他は8~10頁)、最高裁自身の判断をもっとも示したものとなっている。

国の責任の内容と違法期間の始期と終期について、神奈川一陣最高裁判決は次のように言う。

労働大臣は、石綿に係る規制を強化する昭和50年の改正後の特化則が一部を除き施行された同年10月1日には、安衛法に基づく規制権限を行使して、通達を発出するなどして、石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として、石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺、肺がん、中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること並びに石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督するとともに、安衛法に基づく省令制定権限を行使して、事業者に対し、屋内建設現場において上記各作業に労働者を従事させる場合に呼吸用保護具を使用させることを義務付けるべきであった」。(下線は最高裁による。)

「平成7年の特化則の改正により、同年4月1日以降、事業者が石綿等の切断等の作業に従事する労働者に呼吸用保護具を使用させることの義務付けがされたものの、上記作業の周囲で作業する労働者に呼吸用保護具を使用させることの義務付けはされていなかった。また、石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示に係る指導監督については従前と変わりがなく…適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すことについての指導監督はされていなかった。そうすると、同日以降も、規制権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法である状態は、継続していたものと解するのが相当である」。

「内閣は、平成15年10月16日、安衛令を一部改正し、石綿を含有する石綿セメント円筒、押出成形セメント板、住宅屋根用化粧スレート、繊維強化セメント板、窯業系サイディング等の製品で、その含有する石綿の重量が当該製品の重量の1%を超えるものを、安衛法55条により製造等が禁止される有害物等に定め、この改正政令は平成16年10月1日から施行された。そして、同年には8186tであった石綿の輸入量は、平成17年には110t、平成18年以降はゼロとなっており、上記の改正により、石綿含有建材の流通はほぼ阻止されたものと評価することができる。そうすると、規制権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法である状態は、昭和50[1975]年10月1日から平成16[2004]年9月30日まで継続し、同年10月1日以降は解消されたものと解するのが相当である」。

製造等の禁止が施行されるまで違法状態が続いていたという判断は、禁止が建設作業従事者のみではなく、あらゆる者の健康を保護するためのものであることから、他の者に対する国の責任を考えるうえでも重要ではないだろうか。国の全面禁止措置の導入が遅れたことについての国の責任を認めた大阪一陣大阪高裁判決の内容が確定していることと合わせて、今後に生かしていきたい。

なお、最高裁判決はふれていないものの、吹付工に対する昭和47[1972]年10月1日から昭和50[1975]年9月30日の間の国の責任を認めた京都一陣大阪高裁判決も確定しており、後述する「基本合意」にも反映されている。

物の危険性一人親方等も対象

また、神奈川一陣最高裁判決は、一人親方等に対する国の責任も明確に認めただけでなく、根拠を以下のように説明していることが注目される。

「[安衛法57]条は、健康障害を生ずるおそれのある物についてこれらを表示することを義務付けることによって、その物を取り扱う者に健康障害が生ずることを防止しようとする趣旨のものと解されるのであって、上記の物を取り扱う者に健康障害を生ずるおそれがあることは、当該者が安衛法2条2号において定義された労働者に該当するか否かによって変わるものではない。また、安衛法57条は、これを取り扱う者に健康障害を生ずるおそれがあるという物の危険性に着目した規制であり、その物を取り扱うことにより危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮すると、所定事項の表示を義務付けることにより、その物を取り扱う者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である」。

掲示の義務付けについても同様の判断を示したうえで、「特別管理物質を取り扱う作業場における掲示を義務付けることにより、その場所で作業する者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である」。

なお、大阪一陣最高裁判決は、解体工の一人親方についても、「労働大臣が上記の規制権限を行使しなかったことは、屋根を有し周囲の半分以上が外壁に囲まれ屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者のうち、安衛法2条2号において定義された労働者に該当しない者との関係においても、安衛法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法であるというべきである」等として、大阪高裁に差し戻した。

屋外作業に対する責任は否定

一方、京都一陣最高裁判決は、「平成13年から平成16年9月30日までの期間に、屋外建設作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたということはできない」として、原判決を破棄、屋外建設作業従事者に対する国の責任を否定した。

同様に、京都一陣最高裁判決は、「上告人建材メーカー[クボタ、ケイミュー]らにおいて、…自らの製造販売する石綿含有建材を使用する屋外建設作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたということはできない」、大阪一陣最高裁判決も、「被告積水化学工業が…認識することができたということはできない」として、原判決を破棄、屋外建設作業従事者に対する企業の責任も否定してしまった。

いずれも、まったく受け入れ難い判断である。

建材メーカーの責任範囲を拡大

上以外の、企業の責任についての最高裁の判断は、結論としては、「被告エーアンドエーマテリアルらは、民法719条1項後段の類推適用により…連帯して損害賠償責任を負うと解するのが相当である」というものである(神奈川一陣最高裁判決)。

そのうえで最高裁は、東京高裁判決が個別事情に基づいて企業の分割責任(民法709条)を認められた神奈川一陣勝訴原告の一部につき自ら判断し、連帯責任に変えて認容額を増加させるとともに、神奈川一陣の他の原告、東京一陣の原告について原判決を一部破棄して東京高裁に差し戻した。

神奈川一陣最高裁判決には以下の判示もあり、企業責任の範囲が拡大されることが予想される。

「石綿含有建材の製造販売をする者が、建物の工事において、当該建材を建物に取り付ける作業等のような当該建材を最初に使用する際の作業に従事する者に対する義務として、当該建材が石綿を含有しており、当該建材から生ずる粉じんを吸入すると…重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を当該建材に表示する義務を負う場合、当該義務は、上記の者に対する関係においてのみ負担するものではなく、当該建材が一旦使用された後に当該工事において当該建材に配線や配管のため穴を開ける作業等をする者に対する関係においても負担するものと解するのが相当である。なぜなら、建物の工事の現場において、上記の危険があることは、石綿含有建材に付された上記の表示を契機として、当該工事を監督する立場にある者等を通じて、一旦使用された石綿含有建材に後から作業をする者にも伝達されるべきものであるところ、そもそも、上記の表示がされていなければ、当該工事を監督する立場にある者等が当該建材に石綿が含有されていること等を知る契機がなく、上記の危険があることを伝達することができないからである」。

「被告太平洋セメントが販売先を系列化して石綿を含有する吹付け材の施工の安全性を確保する態勢を採っていたことから、直ちに元請建設業者の側に安全配慮義務の履行の契機となる情報が伝達されていたと評価することはできないし、仮に、安全配慮義務の履行の契機となる情報が伝達されることがあったとしても、そのことをもって、明確に上記の情報提供がされたということはできない」。

「ノザワ技研報告書から、上記の本件被災者らがテーリングを使用する際に生じた石綿粉じんが、ごく僅かなものであったと認めることはできないというべきである」。

与党PTによる早期解決提案

最高裁判決を受けて、各事件の原告団・弁護団、首都圏・関西の統一本部と建設アスベスト訴訟全国連絡会は、「声明」を発表して、「国は本最高裁判決を真摯に受け止め、全国の建設アスベスト訴訟を速やかに和解によって解決すべきである」、「建材メーカーらも徒に訴訟を引き延ばすことなく、早期解決のため、和解のテーブルに着くべきである」、「現在、与党建設アスベスト対策PTにおいて協議が進められているが、国及び建材メーカーは、与党PTと連携し、基金創設に向け最大限の努力をすべきである」と訴えた。

これに対して与党建設アスベスト対策プロジェクトチームは同日、「建設アスベスト訴訟の早期解決に向けて」を取りまとめ、政府と原告らに提案するとともに、公表した。内容は、以下のとおりである。

「建設アスベスト訴訟については、令和3年5月17日の最高裁判決で、国の労働安全衛生法令の規制権限の不行使に関する国家賠償法上の責任が断ぜられた。この問題による被害者ご本人やご遺族の長期間にわたるお苦しみやご苦労、さらには、最愛のご家族を亡くされた深い悲しみは察するに余りある。与党建設アスベスト対策プロジェクトチームは、これまで『建設アスベスト訴訟全国連絡会』からヒアリング等を行いながら検討を進めてきたところであり、お伺いしたその強い思いを踏まえ、建設アスベスト訴訟の早期解決のために、以下のとおり取りまとめる。

1. 継続中の訴訟の統一和解
原告の皆様の苦しみは、工場型*でも建設型でも同じであるとの考え方に立てば、基準慰謝料額や国の責任割合について、工場型の和解基準と同様との考えもあるが、一方で、建設アスベスト訴訟における既存の判決を見ると、基準慰謝料額は統一されておらず、また、国の責任割合は1/3とする判決が大半である。
こうした状況を踏まえ、国からの支払額については、遅延損害金の在り方なども含めて支払額全体のなかで考慮すべきである。具体的には、病態に応じて、以下に示す和解金[後掲の「基本合意書」記載と同内容]を支払うとともに、弁護士費用に加え、原告の皆様方の長期間の訴訟対応の負担等に応える『解決金』(仮称)の支払を行うこととする。

2. 建設アスベスト給付金制度(仮称)の創設
建設アスベスト訴訟における未提訴の被害者に対し、その苦しみを慰謝するための給付金を支給するため、与党において、その具体化等のための法案化作業を進め、建設アスベスト給付金制度(仮称)を創設する。
(1)支給スキーム:行政認定方式とする。国(厚生労働省)に対し、所定の手続により給付金の請求を行い、審査・認定の上で、給付を行うものとする。
(2)対象者:最高裁判決等をもとに設定する。
(3)給付金額:給付金は、上記1の表に記載の病態に応じた金額とする(弁護士費用及び『解決金』は支払わない)。

3. その他
最高裁判決や確定した高裁判決は、建材メーカーの責任を明示していることから、建材メーカーや業界等の動きを踏まえつつ、引き続き、本プロジェクトチームにおいて、建材メーカーの対応の在り方について、検討する。
このほか、建設業に従事する者の更なる被害の防止対策の徹底に費えも、必要に応じ、引き続き、本プロジェクトチームにおいて確認、検討を行う。」

* 編注:工場型の「アスベスト訴訟の和解手続について」参照。和解金額は同じだが、行政認定方式ではない。

首相が面会して謝罪

政府・原告ともこの提案に応じ、翌18日午前、急きょ菅義偉首相が官邸で原告代表らに直接謝罪する運びになった。以下は、首相官邸ホームページ総理の一日に掲載された挨拶の内容である。

「皆様におかれましては、大変お忙しい中、遠くからお越しいただきまして誠にありがとうございます。
昨日、最高裁判所において建設アスベスト訴訟に関して、国敗訴の判決が確定しました。国の違法性の判決が出たということを重く受け止め、そしてこの間、建設の石綿によって健康被害を受けられた方々の長きにわたる御負担や苦しみ、そして最愛の御家族を失った悲しみについて、察するに余りあり、言葉もありません。内閣総理大臣として責任を痛感し、そして真摯に反省して、政府を代表して皆さんに心よりおわびを申し上げます。
また、与党建設アスベスト対策プロジェクトチームの皆さんにおかれましては、被害者御本人や御遺族の方々の切実な思いを伺いながら、この問題の解決に向けて協議を重ね、昨日、取りまとめがされたと承知いたしております。
政府としては、最高裁判所の判決や与党の取りまとめを踏まえ、皆さんの考えを十分に尊重させていただいて、早急に和解に向けた基本合意を締結したい、このように思っております。
また、現在提訴されている方々以外にも、健康被害に苦しまれ、今後発症される方もいらっしゃると思います。政府としても、与党と一体となって、こうした皆さんへの給付金制度の実現に取り組んでまいります。あらためて、皆さんの長きにわたる御労苦に心からおわびを申し上げ、そして二度と再びこうしたことが起こることがないように、全力で取り組んでまいりますことをお誓いいたします。」

厚生労働大臣と「基本合意書」締結

さらに同日午後、田村憲久厚生労働大臣と原告らの間で「基本合意書」が調停され、夜には厚生労働省ホームページにその内容と調印式における大臣の談話が公表された。

「建設アスベト訴訟については、これまで『「与党建設アスベスト対策プロジェクチーム』において、原告団・弁護団の方々のお話しを伺いながら、解決に向けて協議が重ねられ、昨日、取りまとめが行われました。また、菅総理から和解に向け基本合意を、早急に締結する方針が示されました。こうした中、本日、建設アスベト訴訟原告団及び弁護団の方々との間で、『基本合意書』締結をいたしました。
国が規制権限を適切に行使しなかったことにより、建設業に従事していた方々が石綿による健康被害を被ったことについて、被害者の方々やご遺族の方々の、長期間にわたるご負担や苦しみ、悲しみに思いをたし、厚生労働大臣の職務を担う者として、心からお詫びを申し上げます。
今後は、この基本合意書を踏まえ、係属中の建設アスベト訴訟の原告方々と、和解を進めてまいりす。また、既に石綿関連疾患を発症し、あるいは将来発症する方々も、多数いらっしゃるものと認識しております。こうした方々に対する給付制度の実現のため、与党における法案化に、最大限協力してまいりす。あらためて、長期間にわたり、様々なご苦労を抱えこられた被害者の方々とご遺族の方々にお詫びを申し上げるとともに、『基本合意書』の誠実な実施をお約束いたします。」

企業責任の追及等の努力を継続

こうした急展開がみられたのはもちろん、原告らによる13年間の取り組みの積み重ねがあったからであり、心から敬意を表するとともに、原告らの声を紹介できなかったことをお詫びしたい。

今通常国会に提案される予定の救済金制度の創設と実施に注目していくことはもちろん、原告団・弁護団と統一本部も強調しているように建材メーカーにも同様に責任を果たさせていく努力の強化ととりわけ石綿健康被害救済制度の抜本的見直し、アスベストのない社会の実現のために、取り組みを継続していきたい。

(2021年5月25日)

※5月28日現在、与党のプロジェクトチームが「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律案(仮称)」をまとめ、翌週にも国会に提出して、いま通常国会での成立がめざされている。成立すれば、給付金の支給は2022年春になる見込みである。

※【建設アスベスト訴訟】特定石綿被害建設業務労働者等給付金等の支給に関する法律が成立-附則で「国以外の者による損害賠償」等検討求める(2021年6月13日)
※【緊急提言】2021年5月17日の最高裁判決と特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法」の制定を受けて-(2021年6月16日 石綿被害救済制度研究会)
※本ウエブサイト上の「建設アスベスト」関連情報

※建設アスベスト訴訟を含め日本におけるアスベスト問題の経過を熟知し、多くの相談実績のある地域安全センターがアスベスト被害者・家族からの相談に応じています。このページのお問い合わせフォームもご利用できます。

国(厚生労働大臣)と建設アスベスト訴訟原告団・弁護団との間で締結された建設アスベスト訴訟に係る「基本合意書」

2021年5月18日 厚生労働省公表

建設アスベスト訴訟に関し、別紙訴訟事件目録記載の各訴訟事件に係る原告団・弁護団により組織されている建設アスベスト訴訟原告団、建設アスベスト訴訟全国弁護団会議及び建設アスベスト訴訟全国連絡会並びに国(厚生労働大臣)は、以下のとおり、基本的事項について、合意する。

第1 謝罪
国は、令和3年5月17日の建設アスベスト訴訟の最高裁判決において、労働安全衛生法に基づく規制権限行使が不十分であったことが、国家賠償法の適用上違法と判断されたことを厳粛に受け止め、被害者及びその遺族の方々に深くお詫びする。

第2 令和3年5月17日以前に提訴された係属中の訴訟の和解
別紙訴訟事件目録記載の各訴訟事件については、以下のとおりとする。
1 資料等の提出
別紙訴訟事件目録記載の各訴訟事件における原告ら(以下「原告ら」という。)は、既に各訴訟において書証として提出してある場合を除き、国の責任期間における建設作業現場における就労の確認、石綿関連疾患の罹患の確認、相続分の確認等のため、国から資料等を求められた場合は、速やかにそれを提出する。
国は、原告らから提出のあった資料等を踏まえ、2に記載の要件の充足性を確認し、和解提案が可能である場合は、速やかに和解提案を行う。

2 和解の手続
両当事者は、原告らにつき、以下の(1)から(4)までの事由の全てに該当する場合には、特段の事情がない限り、3に記載の内容で、裁判上の和解をするものとする。
(1)各原告(石綿関連疾患に罹患した当事者。石綿関連疾患に罹患後に死亡した者の相続人を当事者とする事案にあっては、その死亡者。以下同じ。)(労働者並びに一人親方及び労災特別加入制度の加入資格を有する中小事業主)が、以下に記載する作業(最高裁判決及び確定した高裁判決で認められた作業とする。)及び国の責任期間において、石綿粉じんに曝露したこと
ア 屋内建設作業(屋内吹付作業も含む)に従事した者にあっては、昭和50年10月1日から平成16年9月30日までの間
イ 吹付作業に従事した者にあっては、昭和47年10月1日から昭和50年9月30日までの間
(2)各原告が、(1)によって、3(1)アに記載の表に列挙された石綿関連疾患に罹患したこと
(3)民法第724条所定の期間制限を経過していないこと
(4)石綿関連疾患に罹患後に死亡した者の遺族を当事者とする事案にあっては、当該遺族が、当該死亡者の相続人であること

3 和解の内容
(1)病態等の区分に応じた和解金の支払
ア国は、石綿関連疾患の病態に応じて、以下の和解金(石綿関連疾患に罹患後に死亡した者の相続人を原告らとする事案にあっては、当該死亡者に係る和解金を原告らの相続分により按分した金額。以下同じ。)を支払う。ただし、イ及びウに規定する減額要素がある場合には、同項に従って減額した金額を支払う。なお、本基準はあくまで各原告にかかる和解が成立する場合の金額であり、和解成立に至らなかった場合に、国は、本基準による賠償を認めるものではない。
1 石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のない者 550万円
2 石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のある者 700万円
3 石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のない者 800万円
4 石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のある者 950万円
5 石綿肺管理4、中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水のある者 1,150万円
6 上記1及び3により死亡した者1,200万円
7 上記2、4及び5により死亡した者1,300万円

イ 肺がん罹患又は肺がんによる死亡を損害とする各原告について、喫煙歴が認められた場合は、10%減額する。
ウ 2(1)に定める国の責任期間内において、各原告らが2(1)に定める作業に従事し石綿粉じんに曝露した期間が以下の期間に満たない場合には、10%減額する。
石綿肺及び肺がん:10年
中皮腫及び良性石綿胸水:1年
びまん性胸膜肥厚:3年
エ イ及びウの両方の減額要素が認められる場合には、まず10%減額した後、その残金について10%減額する。
オ アによる金額は、和解成立時点に各原告に生じている病態等に応じて、最も高い基準のものとする。
カ 各原告に対し、同一の事由について、国が支払うべき部分を超えて損害の塡補がされた場合においては、国はその価額の限度において、和解金を支払う義務を免れる。

(2)弁護士費用相当額の支払
国は、原告らに対し、弁護士費用相当額として、3(1)で算出した和解金に対する10%の割合の金員を支払うものとする。

(3)解決金の支払
国は、長期間の訴訟対応の負担等を考慮し、30億円の解決金を、建設アスベスト訴訟全国弁護団会議に支払う。

(4)訴訟費用
令和3年5月17日以前に判決を受けている原告に対しては、国は各判決(上級審の判決がある場合には上級審によるものとする。)で判示されたところに従い訴訟費用を負担し、その余については、国は負担割合を5分の1として訴訟費用を負担する。

(5)債権債務関係
和解にあたって、原告らは、国に対するその余の請求を放棄し、原告らと国は、これらの間には、本基本合意書に沿った和解条項に定めるほか、何ら債権債務がないことを相互に確認する。ただし、(6)に定める症状が進展した場合の給付金は除く。

(6)症状が進展した場合の取り扱い
和解金の支給を受けた者が、症状の進展により3(1)アに記載する表の上位の病態等の区分に新たに該当することとなった場合において、第3に規定する未提訴の被害者に対する補償に係る制度における給付金の請求を行ったときには、国は、既に支払った和解金の価額の限度で、給付金の支払を免れる。

第3 令和3年5月17日時点で未提訴の被害者に対する補償
国は、1から4までの内容を踏まえ、与党における法案化作業に積極的に協力する。

1 令和3年5月17日時点で未提訴の被害者に対する補償に係る制度における給付金(仮称)の額は、第2の3(1)アに記載する表の額と同様とする。
また、給付金の支給を受けた者が、症状の進展により同表の上位の病態等の区分に新たに該当することとなった場合には、追加給付金として、支払済の給付金の額との差額を支払うものとする。
なお、同イ及びウに規定する減額要素がある場合についても同様とする。

2 同制度の対象は、第2の2(1)から(3)までと同様とする。なお、被害者の死亡に係る給付金の請求をすることができる遺族の範囲は、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹とする。

3 同制度においては、第2の3(2)及び(3)の支払に相当する給付は行わない。

4 国は、同制度について、広く周知するものとする。

第4 継続協議
国は、建設業に従事する者について、石綿被害を発生させないための対策、石綿関連疾患の治療・医療体制の確保、被害者に対する補償に関する事項について、建設アスベスト訴訟全国連絡会と継続的に協議を行う。

令和3年5月18日
建設アスベスト訴訟原告団
建設アスベスト訴訟全国弁護団会議
建設アスベスト訴訟全国連絡会
厚生労働大臣
立会人 与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム座長
立会人 与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム座長代理