炊事作業で頸肩腕障害-サポーター巻けば仕事できる?●東京

記事/お問合せ:東京労働安全衛生センター

Nさんは、(株)M社(劇場経営)のS営業所で料飲事業部に所属し、観劇にやってくる客や法事など注文に応じて高級弁当を作っていた。担当は炊飯で、同時に鮮魚仕込みも兼任した。弁当は鮮魚を扱うため夏期の注文は少いが、それ以外は毎日1,000~2,000食を日常的に取り扱っていた。

炊飯は、3日を1クールにした交替制で、原則一日ひとり作業だ。米袋はひとつ30kg。これを10kgに分けて、3~4回水を換え洗米しざるに上げる。15分間程乾燥させ炊飯する。釜は、4升炊きが基本。水を吸った米は10kg以上の重量になる。定量の水と共に米を釜にセットするど重さは釜5kg+米10kg+水5kgで合計20kg強。炊きあがった釜をガス台か降ろし蒸らしてから、釜をひっくり返して、しゃもじでひつに掻き出し、紙をかけ、ひつのブタを締めて、一行程が終了する。ここまでがほぼ50分である。

使用する釜は9台。朝7時を目処に必要量を炊き、かつ、冷めないうちに納めるのがNさんの役目である。短時間で能率的に炊飯作業を一人でこなすNさんは、その日の注文に応じた炊飯のタイムテーブルを作った。例えば、7時までに9台の釜を炊きあげるには、早朝4時半から、10分から15分の時間差計算の上で確実に炊飯作業を進めていくという具合。「集中した作業で、まさに毎日が戦場のようだった」とNさんは語った。

1999年9月頃から、S営業所は、本社分の炊飯も受け持つことになった。営業所担当分の炊飯を7時半までに終了し、9時半を目処に本社分を炊飯するのである。この業務の増加で、翌年には、春頃Nさんは腕の疲労を自覚し始めていた。

そして10月のある日、Nさんは午前2時過ぎに出勤した。午前6時頃までに、S営業所分の250~300kgの約30回分の炊飯(白米、茶飯、かやく、すし飯用)を、さらに午前11時を目処として、本社分の松茸ご飯270kgーおよそ27回分の炊飯を仕上げるためだった。深夜からおよそ9時間、一人で50数回、緊張した炊飯を反復した最終場面一午前11時10分頃、最後の釜をひっくり返そうとした時、ついに左肘にずきんと激痛が走った。

この日を契機に、Nさんは肘の痛みに苦しめられるようになった。11月半ば、上司に「休ませて欲しい」と話したが、「痛くたって腕にサポーターでも巻けばできる」と怒鳴られた。指示どおり、バンドで腕をきつく締め上げ作業すると、感覚が麻痺して痛みは薄くなるが、手指がひどくむくんだ。

12月には症状はさらに悪化し、痛みで盛りつけ作業時、タッパー、メン器、皿を左手で持てず、ふきんも絞れなくなった。上司は、「なんでいつまでも治らないのか」とNさんを責め続けたが、就労しながらの治療は効果は出なかった。逆に肩・首に痛みが拡大し、めまいなどの自律神経にも影響が出るまでになっていたのである。

Nさんが最終的に会社を休職したのは、翌年の4月末のこと。すでに我慢も限界だった。治療に専念し、亀戸労働基準監督署に頚肩腕障害として労災請求し、2002年2月、業務上と認定された。

安全センター情報2002年8月号