近鉄高架下文具店長中皮腫損害賠償事件、大阪高裁差し戻し審も全面勝訴確定/大阪

1988年以降は吹付アスベスト管理責任

大阪府内の近鉄線高架下に入居していた文具店の店長Aさんが胸膜中皮腫を2001年に発症し、2004年に死亡した件について、「原因は、建物所有者の近鉄が、文具店2階倉庫の壁面に吹き付けられていた石綿(青石綿=クロシドライト)を放置していたためにAさんが石綿を長年にわたって吸い込んだことにある」として、遺族が近鉄を相手取り約7,300万円の損害賠償を求めた裁判の差し戻し控訴審判決が2月27日、大阪高裁であった。

山下郁夫裁判長は、差し戻し前の2審大阪高裁判決と同じ約6,000万円の支払いを近鉄に命じるAさん側全面勝訴の判決を言い渡した。

判決日にあたった2月27日の8日後、被告・近鉄の「あべのハルカス」が全面開業。世間体をはばかったのか、近鉄は上告期限の3月13日までに上告せず判決は確定した。

闘病中だったAさんの娘さんから関西労働者安全センターに相談があって、現場の倉庫で試料を採取して青石綿(クロシドライト)であることを確認したのが2003年4月、亡くなったAさんの遺志を継ぎ、誠意のない近鉄相手の損害賠償裁判を大阪地裁に提訴したのが2006年6月20日。それから約6年半、ようやく勝利的解決をみた。

建物の吹き付け石綿について、所有者の管理責任を初めて認めた今回の判決は、今後のアスベスト対策に、間違いなく大きな影響を与えるものになった。

Aさん、Aさんご家族、アスベスト訴訟弁護団、中皮腫・じん肺・アスベストセンターはじめ支援の方々の努力が大きな実を結んだ。

この裁判は、大阪地裁、大阪高裁で原告勝訴となり、近鉄が最高裁に上告したところ、大方の予想に反して、最高裁が審理を差し戻したものだった。
差し戻しとなった理由は「当該の建物が安全性を欠くと認識されたのはいつの時点からかを確定すべき」ということだった。この点について差し戻し判決は、1988年に国が吹き付け石綿の飛散対策を自治体に文書で通知した点を挙げて、この通知によって(吹き付け石綿の)危険性が一般に認識され、これ以降、店舗が安全性を欠いたと評価されるようになった、との判断を示した。

またAさんは、1970年から2002年まで店舗で働き、2001年に発症していた。上を通る電車の振動で壁面の劣化は年を追うごとに激しくなっていた。
被告の近鉄はこれらの点をとらえて、中皮腫の長い潜伏期間から考えて1988年頃より前の石綿ばく露が原因だから、たとえ1988年以降に安全性を欠くと評価されるとしても責任はない、と主張していた。これに対して判決は、1988年以降の石綿ばく露も原因でないとはいえないとして近鉄の主張を斥けた。

そのうえで、損害賠償認容額は元の大阪高裁控訴審判決からは減額しなかった。

つまりは、Aさん遺族の完全勝訴だった。ご遺族は勝訴後記者会見で以下のコメントを出した。

アスベスト訴訟弁護団視察(2004年7月)

近鉄に一矢報いる。決して後には引かない

本日の差し戻し審の判決を受けて、遺族の心情を述べさせていただきます。
悪性胸膜中皮腫による胸の激痛と呼吸困難の苦しみの中、亡き父が日記に残した、「近鉄に一矢報いる。決して後には引かない」という言葉。私たちは、その言葉を胸に今日まで裁判を闘いました。

8年前の平成18年6月、私たちはふたつの目的を持って、この訴えを起こしました。ひとつは、悪性胸膜中皮腫で亡くなった父の死に対する責任の所在を明らかにすること。もうひとつは、吹き付けアスベストの危険性を広く社会に訴えることです。

父の死に対する責任の所在は、この判決をもって、明らかとなりました。父は、危険なアスベストを吹き付けていた建物で32年間働き、アスベストが原因である悪性胸膜中皮腫で亡くなりました。その建物の所有者であり、賃貸人である近鉄に責任があると認められたのです。

父は真面目で誠実な人間でした。家族を愛し、自分の仕事に誇りを持っていました。しかし、最も愛着を持っていたその職場に、皮肉にも命を脅かすアスベストが存在していたのです。その無念さははかり知れません。

しかし、本日、吹き付けアスベストが露出した状態の建物には「瑕疵」があると判断され、近鉄の責任が認められたこと、また、そのような建物の所有者に対して安全管理と危機管理責任の重要性を訴えられたこと、そして、この8年間に及ぶ裁判を通じて、アスベストの危険性が広く社会に浸透したことは天国の父に報告できるのではないかと思います。

アスベストは、未来への大きな負の遺産です。身近に存在するアスベストを見のがさないで、今後も社会全体でアスベストに対する危機意識を共有し続けていくことこそが、父の願いです。

最後になりましたが、長きに渡り、この闘いを支えて下さった全ての皆様方に、心より感謝し御礼申し上げます。(家族一同)

記事/問合せ:関西労働者安全センター

安全センター情報2014年7月号