職業がんをなくそう通信16/MOCAによる膀胱がん・京都胆管がん問題その後など

2018年11月26日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

MOCA による膀胱がん被害/静岡労働局要請 : 具体的な進展は見られず

MOCA による職業性膀胱がんが多発している中、労災申請が1件も出されていない点等に関し 9 月 28 日厚労省要請を行ったことは本通信 No.14 にてお知らせしました。その席で発症者自身に対し直接労災申請につい
ての説明をすることを検討すると回答があり、その後厚労省労働基準局安全衛生部労働衛生課長と化学物質対策課長より10 月19 日付けで関係業界に MOCA による健康障害の防止対策を徹底するよう通達及び要請(基安労発 1019、基安化発 1019)が出され、合わせて調査した事業場数538において膀胱がんの病歴があるものが、7事業場 17 名(在職者5名退職者12名)にのぼると報告しています。

「労災申請なしで対策遅延」は許されない

MOCA による膀胱がんは 17 名も発症しているのに労災申請が 1 件も出されていないため、業務上外検討委員会が開催されず新たな労災認定がされていません。従って 35 条専門検討会(通信No.15 に記載)の議題にも上がらず、職業がんとしてのリストアップや健康管理手帳の発行などの手続きが遅れる一方です。また業務上疾病の治療が健康保険扱いで行われているのは所謂「労災隠し」にあたり、まずは早急に労災申請が求められます。

今回は作業の進展を確かめるべく静岡労働局へと要請にいきました。11 月 14 日 14 時よりいのけん静岡センター、静岡県評、東京労働安全衛生センター、名古屋労災職業病研究会、関西労働者安全センター、職業がんをなくす患者と家族の会の6 名で健康安全課が対応しました(調査段階では健康安全課が対応しましたが、現在は労災補償課に実務は移されている)。労働局としては「本人に労災申請の手続きを説明すべく連絡先を知るのに会社に協力を要請している段階。殆どが退職者で住所等連絡先がわからない。労働安全衛生総合研究所の聞き取り調査は会社で実施した。厚労省としては本人に直接伝える考えだと思う。」などの説明で申請手続きに関する具体的な進展は見られませんでした。

会社に対する対応も随分低姿勢な印象を受けました。殆どが退職者ですが在職者もいるので会社がその気になれば労災申請の手続きはすぐにでもできるはずです。参加者から「兎にも角にも1 件でいいから早急に申請をすることが大事だ」「申請しなければ何も始まらない」と追及しましたが「個人的には思うところはあるがお答えできない」とのこと。

本件は労災申請が確実にされるまで追跡して行きますが、次回は年明け東京で再度議員を通じての説明会で進展を確認したいと思います。

第 8 回職業がんをなくそう集会 in 福井/12 月 9 日 13 時より

第 8 回職業がんをなくそう集会は 12 月 9 日(日)13時より 16時半福井県教育センター で開催予定です。記念講演は池田直樹弁護士 (あすなろ法律事務所)が三星化学工業に対する損害賠償裁判の意義について講演されます。基調報告では化学物質の適正な管理の実務について、職場報告は三星化学工業から田中氏以外の新たな発表者が実施予定です。
また、翌日10 日(月)は福井地裁13 時半より三星化学の第 3 回口頭弁論があります。集会後泊まり込みの参加者は福井駅前早朝宣伝行動や地域ビラ入れ等も予定しています。

第 51 回大阪いのけん集会
患者と家族の会と集会の紹介

11 月 17 日(土)10 時より大阪国労会館3 階大会議室にて第 51 回働くもののいのちと健康を守る学習交流集会が開催され(事務局団体:大阪労連、大阪民医連、民主法律協会、大阪労働健康安全センター)、午前中は大阪経済大学伊藤大一先生による記念講演「労働運動を活性化させる新たな潮流 – アメリカにおける最賃 15 ドル運動からの示唆」、訴え:電気情報ユニオンS さん(いじめ・パワハラ訴訟支援)、大阪府立障害児学校教職員組合・樋口さん(新校整備の署名)が、午後からは 3 つの分科会①職場のメンタルヘルス②安全問題③労働安全衛生活動と全体集会がありました。

資料として、当会の紹介と第 8 回職業がんをなくそう集会のチラシを入れさせていただきました。記念講演をされた伊藤先生は徳島県 LED 製造会社で労働組合を結成した非正規労働者の問題に取り組まれた方なので、講演終了後当会に相談が寄せられた非正規労働者や外国人労働者が有害物質の取扱作業に従事させられ健康被害を受けていることをお話しました。非正規労働者が被る化学物質による健康被害という観点からも情報交換していきたいと思いました。

京都胆管がん問題その後・・

本通信No.15にて大日本印刷において印刷業務に従事した元労働者が 40 年もの潜伏期間を経て胆管がんを発症し労災認定された事案に関しご家族・元同僚などが記者会見をし広く報道されたことをお伝えしました。その際、元同僚の方から当時の酷いばく露を受けた作業の様子や黄疸症状が出て健康被害があったことなどを伺いましたが、以来そのことが頭から離れません。

同様な作業を経験された方々が集まり、当時の作業環境や健康被害を掘り起こし記録することが必要ではなかろうか。会を結成して会社への予防(早期発見の体制作り)や補償交渉ができないものか。この事案は、今後も目が離せません。

労働の科学2018.11 巻頭言/職業がんの労災認定と根絶を目指して 堀谷昌彦

大原記念労働科学研究所発行の「労働の科学」第 73 巻第 11 号が「見過ごされる・形を変える職業病」を特集し、巻頭言の執筆依頼がありました。拙文に赤面しながらも職業がんとの出会いや根絶への思いを一生懸命書きました(以下原文とは違いますが)。

入社2年目で労組書記長を仰せつかった時Kさんがビスクロロメチルエーテルによると思われる副鼻腔がんを発症し労災申請して いました。

過去の劣悪な労働環境を訴え労基署に何度も足を運ぶも結論が出ず、後に Kさんが肺がんを原発しそれが決め手となって労災認定がされました。安堵しながらお見舞いに訪問した際「父は元気で入社したはずなのに労働組合は一体何をしていたんですか」とご家族から詰問されやせ細り苦しく息をするだけの K さんを前に涙で何も見えなくなりました。K さんのビスクロばく露は私が入社する 20 年も前のことなのですが本人やご家族の苦しみに対し労働組合が今やらねばならないことは何かを考え続け「労働組合の価値は予防してこそなんぼ」という考え方が固まって行きました。

当時の労組役員特に若い人は殆ど 1 年交代でしたが、それでは運動になりません。職場の環境改善を軸に変異原性物質の取扱いに関する協約や今のGHSに先立ち有害性による化学物質の社内分類制度などを確立していきました。

さてこのような取組みで化学物質による事故や疾病がなくなったかと言うと決してゼロにはなりませんでした。それどころか安全衛生教育やパトロールを疎かにすればすぐに危険な状態が散在し出します。職場では化学物質管理者が厳しく管理をしていくことが重要となりますが、行政も変わらなければなりません。隠れた職業がんや職業病の実態を明らかにしなければ予防活動は強固にはならないのです。被災者やご家族の痛みを知らなければ本気で予防しようとはなりません。長い長い道のりですが多くの仲間と歩んで行きたい。