アスベスト+タール様物質:肺がん労災認定。複合ばく露でリスク2倍・コークス炉周辺作業/兵庫

概要・解説

本件は、製鉄用コークス炉周辺作業に1年6ヶ月従事し、離職24年後に肺がんを発症し、開胸生検で胸膜プラークを現認され、アスベストばく露コークス炉周辺作業が原因とみられたために労災請求したところ、アスベストばく露、コークス炉周辺作業における肺がんとしてはただちには労災認定基準を満たさなかったため、厚生労働省本省りん伺となり、結果、複合ばく露による業務上の肺がんとして労災認定されたものである。同時に、職業病リスト分類上は、コークス炉周辺作業における肺がんとして処理する指示がされている。

記事/問合せ:ひょうご労働安全衛生センター

コークス炉周辺作業1年6ヶ月

コークス炉の周辺において、1年6か月間だけ機械の保守・点検等の作業に従事した労働者が発症した肺がんについて、尼崎労働基準監督署は業務上との決定を行った。作業において「タール様物質」と「粉じん」と「石綿」の曝露が認められ、それぞれへの「曝露が相まって肺がん発症リスク2倍に達していたものと考える」との判断がなされた。

A化学は、大手製鋼会社の下請けで、製鉄用コークスとガスの製造と配給を行っていた。高校を卒業したBさんは、1986年4月からA化学で働きはじめ、設備部保全課に配属され、工場内の電気設備の保全・修理、機械の点検等を行う作業に従事することとなった。

Bさんが主に従事した業務は、コークス製造時に発生するガス・タール・軽油などを送る配管を保温するための石綿テープを巻き替える作業であった。また毎日、コークス炉のまわりの機器を点検し、設備の保全作業を行うために、作業場所はコークス炉の上部や炉周りであった。

「1日の作業が終わると、マスクや作業着で保護されていない体の部分は真っ黒となり、鼻の中まで真っ黒になっていた」という作業環境であった。しかも、コークス炉上部での作業は特に高温であるため、健康に不安を覚え、1987年9月にA社を退職された。(在職1年6ヶ月)

その後、部品の検査業務の仕事や食品製造会社等に勤務し働いていたのであるが、2011年の春先から微熱と咳が出現し、病院を受診したところ肺がんと診断された。発症時は44歳であった。

開胸生検で胸膜プラーク、主治医が労災申請勧める

そして主治医から「石綿による肺がんの可能性が高い」と言われ、労災申請を勧められた。実は、開胸生検の際に主治医が、肺内から数か所で胸膜プラークを認めていたのだった。
Bさんが労災申請したところ、「粉じん」「石綿」「タール様物質」それぞれからの曝露が認められるため、監督署は各認定基準に沿って調査を行った。

BさんがA社で従事した「炭素製品を製造する場所における作業」は、粉じん作業と認められる。じん肺作業に従事した労働者が発症した肺がんは、合併症として取り扱われる。ただし、じん肺管理区分が管理2以上の所見が認められることが必要である。

監督暑が調査したところ、地方労災医員から「明らかな粒状影・網状影を認めず、じん肺所見はない」との意見があり、石綿確定診断委員会からも「第1型以上の石綿肺の所見を認めない」との意見があり、粉じんを飛散する場所における業務による疾病とは認められないと判断された。

次に、「石綿にさらされる業務による肺がん」としての調査が行われた。
その場合、①石綿肺の所見、②胸膜プラークが認められる、③石綿小体又は石綿繊維が認められる、④びまん性胸膜肥厚を発症している者に併発したもの、のいずれかの医学的所見が必要である。
石綿肺に関しては、地方労災医員と石綿確定診断委員会の意見から、「石綿肺(じん肺)の所見がない」と判断された。胸膜プラークに関しては、主治医が「開胸生検の際に認めた」と意見したものの、石綿確定診断委員会は「胸部エックス線、胸部CT画像からは胸膜プラークは認められない」と意見がわかれた。

そして、「タール様物質による疾病の認定基準について」の検討が行われた。「コークス又は発生炉ガスを製造する工程における業務による肺がん」については、①肺がんが原発性のものであること、②コークス炉上若しくはコークス炉側又はガス発生炉上において行う業務に5年以上従事した労働者に発症したものであること、が認定要件である。また、業務の従事歴が5年未満の労働者については、本省にりん伺(協議)となっている。

Bさんの場合、1年6か月間従事したコークス製造に関係する業務は、コークス炉上部及びコークス炉側で配管施設の保温のために石綿テープを巻く作業であり、認定基準上の作業の要件を満たしている。ただし、同作業従事歴が1年6か月であり、認定要件の5年に達していない。そのため、本省りん伺の扱いとなったのであった。

本省りん伺結果

調査結果復命書によると、本省りん伺(協議)の結果は、以下のように書かれている。
「被災労働者は、石綿含有保温材を取り扱う作業に従事し、開胸生検時胸腔内に胸膜プラークが認められており、石綿への相応の曝露があったものと考える。他方、被災労働者はコークス炉上及び炉側の作業時にタール様物質にも曝露していたことが認められる。このため、被災労働者は、石綿への曝露とタール様物質への曝露が相まって肺がん発症リスクが2倍に達していたものと考えるのが妥当である」。「したがって業務上の疾病に該当するものとして取り扱われたい」。

「なお、本件は石綿への曝露とタール様物質への曝露が相まって肺がんを発症したものであるが、曝露の状況等からタール様物質が主たる要因となっていると考えられる。そのため、タール様物質への曝露によって発症した肺がんとして事務処理を行うこと」。

監督署の調査結果からも、慎重に調査が行われたことがうかがわれる。
わずか1年6か月の作業で肺がんを発症する作業環境は、異常である。だがA社は、監督署が業務上との決定を行った後でも、「安全教育を行い、防じんマスクの着用を義務付けていた」。「石綿テープの巻く作業は年に数回であり、石綿にもタールにも曝露した可能性は低い」と豪語する。被害の実態から目を背ける会社に、安全を語る資格はない。

安全センター情報2014年12月号