胸膜中皮腫の看護師に労災認定、アスベスト混入タルクで:ゴム手袋の再利用作業。九州で初めて/久留米労基署

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
福岡支部 092-409-1963
2020年6月4日プレスリリースより

打ち粉でタルク利用

前は、医療用のゴム手袋をガス滅菌したうえで再利用している病院が多くありました。ガス滅菌し、再利用を行うための作業工程において、「打ち粉」としてタルクを使用していましたが、タルクにはアスベストが混入しているものもありました。

アスベスト混入タルクで中皮腫労災認定
看護師3例目か

2012年7月、山口県に住む元准看護師のKさんが、医療用手袋を再利用する作業において、使用したタルクに混入したアスベストに曝露し、悪性胸膜中皮腫を発症し、労災認定されました。国内では、手袋に付着したアスベストに曝露し、アスベスト疾患を発症し、労災認定される医療関係者は初めてでした。

そして、翌2013年5月にも、元看護士のTさん(大阪府)が発症した悪性胸膜中皮腫が、労働災害であると認定されました。Tさんも、手術用手袋を再利用するための作業において、タルクに混入していたアスベストに曝露したのでした。

KさんやTさんと同様の作業に従事した医療関係者は多数存在しており、アスベスト関連疾患は潜伏期間が長いことが特徴であり、医療関係者のアスベスト被害が懸念されていました。

九州では初めての認定事例

今回、福岡県に在住のMさん(79歳)が発症した悪性胸膜中皮腫について、久留米労働基準監督署長は本年1月31日付けで業務上の災害であると決定しました。Mさんの元に労災認定の通知が届いたのは、2月中旬でした。
Mさんは元看護師であり、KさんやTさんと同じように、医療用ゴム手袋を再利用するための作業に従事しました。久留米労基署は、その際に使用したタルクに含まれていたアスベストに曝露し、悪性胸膜中皮腫を発症したと認定しました。九州地域において、医療用手袋の再利用作業においてアスベストに曝露し、労働災害と認められた例は、初めてと思われます。

Mさんは、タルクに不純物としてアスベストが含まれていることを知らず、中皮腫発症から約2年間、労災の手続きをされていませんでした。改めて、元医療関係者の方々への注意喚起が必要です。

Mさんの病歴

2017年10月頃より、咳が止まらず、かかりつけ医を受診
2017年11月 S病院を受診
2018年02月 組織診にて悪性胸膜中皮腫と診断、手術を施行
現在、療養中。

Mさんの職歴、作業状況

1956年4月に長崎県で看護助手をはじめ、1961年3月看護学校を卒業以来、福岡県内の病院で2001年まで看護師として勤務しました。

この間、1961年から13年4か月間、手術室の配属となり、ゴム手袋の再利用の為の作業に従事。
1日に約100枚のゴム手袋を再生処理を行いました。また、1974年から1987年までの一部の期間、病棟でゴム製氷嚢に付着を防ぐためタルクを付ける作業を行っていました。

関係者のSさんによれば、次のような作業状況だったということです。

  • 大きなトレーにハンカチサイズのガーゼを3,4枚重ね、ガーゼの中心に打ち粉をすくって置く。
  • ガーゼを四角に持ちゴムか紐で結んで包む。
  • 洗って乾燥させたゴム手袋に、ガーゼでパタパタと粉を付けていく。裏表。
  • 次に、ひっくり返してゴム手袋の口に息を入れて膨らませ、穴が開いていないか確認する。
  • 更に、裏表面に、ガーゼでパタパタと粉を付けていく。
  • 1日約100枚のゴム手袋の処理を、手術の合間の業務として行っていた。

救済給付と労災補償の請求

2018年10月 環境再生保全機構へ救済給付認定申請
2019年1月 環境再生保全機構 認定
2019年10月 久留米労働基準監督署に労災請求
2020年2月 労災認定通知が届く

タルクとアスベスト

タルクとは滑石ともよばれる白い石です。産業用には原石を粉砕して非常に細かい粉にして使用することが多く、ゴム製造、製紙、農薬・医療品製造、化粧品製造など多くの分野で利用されています。また、ベビーパウダーや「おしろい」は、まさにタルクそのものです。白い色をしているので顔料などにも使用されます。

神山宣彦氏によると、1975年に7社のベビーパウダーを分析したところ、5社から最高1.8%のアスベスト(クリソタイル)が検出されたと報告されています。さらに、1986年5月ごろ、ベビーパウダー11社19製品を分析したところ、5製品からアスベストが検出されたと報告されています。

懸念される医療関係者などへのタルク・ベビーパウダーによるアスベスト被害

山口県のKさんは、1981年6月から昭和1985年11月までの約4年5ヶ月間の勤務が石綿ばく露作業期間と認定されました。大阪府のTさんは、1983年2月から1995年までの約12年間における医療用手袋の再利用作業が石綿ばく露作業期間と認定されています。

Mさんの場合も、手術室で勤務した1961年から1974年までの13年4か月と、1974年から1987年までの一部の期間が石綿ばく露作業であると認定されました。Mさんらと同じような作業に従事された医療関係者は、注意が必要です。
また、1986年~1987年頃にかけて、ベビーパウダーや化粧品の原料として使用されていたタルクに不純物としてアスベストが混入していた製品があることが指摘されました。それ以降のベビーパウダーについては、品質が確保されていると思われますが、ベビーパウダーによる健康被害も懸念されます。

私たちは、今後も医療関係者からの相談に対応していきますし、アスベストによる健康被害を受けた方々の支援を続けていきます。

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