配管工・胸膜中皮腫に労災認定、30年前の法人登記簿が決め手。トミジ管切断作業などで石綿ばく露/ 東京

本件は、30年間配管工として空調設備、水道設備の工事に従事してアスベストにばく露したために胸膜中皮腫を発症したという典型的なアスベスト労災であったが、最終ばく露職場における認定について、会社の業務内容を記載した登記簿のほかに「同僚証言が必要」だとの労基署の不当な姿勢がみられ難航したが、本来、この場合は同僚証言は必須であるはずはなく、厚生労働省に是正要請ののち、労基署が態度を変え、登記簿のみで最終職場を決定し労災認定した事例である。

配管工事30年

Aさんは、1970年代に集団就職で上京。その後、空調設備や水道設備の工事に関わる配管工としていくつかの会社で働き、1985年に独立して配管工事の会社を立ち上げた。30年聞にわたって配管工事をてがけ、家族のために働き続けてきた。2015年、Aさんは50代半ばで胸膜中皮腫を発症し、数か月後に亡くなられた。その後、お連れ合いのBさんが中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会に相談に来られ、労災申請を行うことになった。

Aさんは生前、仕事のことをあまり家族に話す人ではなかった。しかし、Bさんは、長年共に暮らし、ピルやマンションなどの空調水道設備の配管工として働いてきた夫の姿をそばで見てきた。毎日、作業着で出勤し、帰宅するとその仕事着はいつも汚れていたという。

厚生労働省の「石綿曝露歴把握のための手引き」では、石綿に曝露する作業として、「配管・断熱・保温・ボイラー」に関する作業が挙げられ、空調設備や給排水設備の工事で石綿含有建材を取り扱ったり、吹き付け石綿のある場所で工事したりといった危険性が指摘されている。

年金加入記録ある4社を調査

Aさんも生前にこうした作業をし、石綿に曝露した可能性があった。ただし、本人の証言は残っていない。しかもAさんは、独立後の仕事で労災の特別加入がなかったため、独立前に勤務していた会社での石綿曝露を調べる必要があった。年金加入記録を確認したところ、Aさんは独立する前に4つの会社に勤めていたことがわかった。

調べていくと、Aさんが最初に勤めたN社は現存しており、かつての同僚の方から「石綿吹き付け工事後の現場に入って掃除をし、配管作業を行っていた」との証言を得ることができた。次に務めたS社についても、同様の仕事をしていたとの証言が得られた。三番目のK社はすでに廃業していたが会社の関係者に連絡を取ることができ、「石綿含有の水道管(トミジ管)を切断する作業をしていた」と証言してくれた。

問題は、独立前に最後に勤務したT社。この会社については、年金記録ではカタカナ表記となっており、詳細が不明だった。Bさんが年金事務所に重ねて問い合わせたところ、会社の所在地が判明した。この手がかりから、法務局に問い合わせ、30年前の法人登記簿が見つかった。T社もすでに廃業していたが、関鎖登記簿が残っており、その「法人の目的」欄に、空調設備や給排水設備の設計施工との記載があった。Aさんが、T社で石綿曝露の可能性がある作業に従事していた証拠が見つかった。

登記簿あるのに「同僚証言」を不当に求める労基署

Aさんのように、複数の事業場で石綿に曝露していた場合は、労働者として最後に石綿に曝露した事業場で労災認定される。そのため、Aさんのケースでは、N社・S社・K社・T社すべてで石綿曝露があり、T社での労災として認定されるべきである。しかし、労働基準監督署の労災担当者は、こちらの調査結果に対して、「登記簿の内容のみで、石綿曝露があったと認定することはできない。同僚証言が必要」との発言を繰り返した。つまり、登記簿の記録しかないT社での労災とは認められず、その前の会社での労災だと言うのである。
これは、「夫は一貫して配管工として働いてきた」というBさんの訴えを無視するもの。さらに、より低い賃金の会社での労災と認定されることになり、遺族は不当に低い補償しか受けられないということにもなる。そもそも中皮腫などの石綿被害は、20~40年程度の潜伏期聞を経て発症する。そのため、当時の会社は廃業し同僚も見つからない、というケースが少なくない。そこで、厚生労働省では労災調査の実施要領を作り、石綿被害の労災認定においては、石綿曝露の事実を推認する情報として、法人登記簿の記録や年金記録があると明記している。労基署の担当者の発言は、この調査実施要領に従わず、法人登記簿を証拠として認めないという不当な対応だった。

同僚証言なくても登記簿で認定

私たちは、労基署に対して調査実施要領に沿った対応を取るよう求め、厚生労働省に対しても、現場で調査ルールを無視した対応が行われていることを指摘し、是正を求めた。その結果、労基署はようやく対応を改め、T社での労災として認定した。
クボタショックから10年余りが経ち、労基署の対応は次第に社撰になってきていると感じている。労災認定の現場で、厚生労働省が石綿被害の特殊性を考慮して決めた調査のルールを無視し、「同僚証言がなければ労災認定できない」という誤った対応が広がっているのではないかと懸念される。

記事/問合せ:東京労働安全衛生センター