労災認定された胸膜中皮腫・電気工の給付基礎日額(低額)、自庁取消しで是正、再決定/大阪

17年前の賃金統計もとに日額決定

本誌5月号で伝えた胸膜中皮腫で労災認定された50代男性電気工Kさんが労災認定されたが低い給付基礎日額(平均賃金)にされた問題
労災請求を受け付けたのは、Kさんの最終曝露職場となったK電気商会を管轄する堺労働基準監督署。
この堺署が、Kさんの「K電気商会での仕事で石綿曝露したはず」との陳述をずさんな調査で否定。17年前に離職したG電気工事店を最終職場と判断し、ここを管轄する岸和田署に書類を送って、岸和田署が支給決定、当時の賃金記録がなく賃金統計に基づく給付基礎日額決定となった。

この額が、発症直前にK電気商会で支給された給与に基づく給付基礎日額の半分近かった。
支給決定後、Kさんに同行して岸和田署に「どうしてそのようなことになったのか?」説明を聞いたところ、これはどうも大変おかしいぞ、ということになった。

問題現場の報告書提出
施主・堺市に説明求める

Kさんは詳細な報告書を1月22日に岸和田署に提出し、担当者と労災課長に縷々説明した。
Kさんの報告書は、K電気商会で従事した堺市関係の現場で「石綿がある」と会社から言われた現場で石綿含有箇所と思われるところをドリルで穴をあけるなど作業を行った現場に改めて行き写真を撮り、説明を付したものだった。岸和田署に再調査を求めた。

また、堺市の担当部局に出向き、報告書で説明した工事の一つである大浜高層住宅での工事の説明を求めた。
会社説明の「石綿含有」が本当なら(Tさんはあくまで会社から聞いていただけ)あるはずの石綿分析報告書の開示を申し入れた。

堺市は、すぐに工事資料や石綿分析報告書(石綿含有あり)を提供してくれた。
その足でとなりの合同庁舎3階に入っている堺署労災課を訪ね、労災課長と担当者に入手した資料を示して「あなたたちはこの資料を堺市からもらったのか、当然の調査をしたか?」と聞くと「していない」と答えるではないか。
腹が立ったがその場でコピーをとらせた。労災課長らは謝るでもなく、再調査するというでもなく「岸和田署が決めたことですから」と他人事だと言わんばかりであった。

岸和田署にも行ったところ「堺からコピーを送ってきました」と呑気な様子なので「新たな資料に基づき再調査し堺にもどすように」と強く申し入れた。岸和田署はようやく動きだした。

岸和田署が自庁取り消ししないという最悪の場合を考えて審査請求はした。
ところが請求を受理した審査官から「休業補償支給決定処分の取り消しを求める審査請求をしているが、これはまちがいですよ。平均賃金決定の取り消しを求める審査請求を厚生労働大臣にしなさい」という電話が本人にあった。
審査官に「支給決定処分そのものを取り消すという審査請求でよく、前例もたくさんある。ほかの審査官に訪ねろ!原処分庁にも聞いてみろ!」と言わざる得なかったが、このような経験はこれまでなかった。おかしな人がいるものだと思った。

もう一つの堺市関係工事でも石綿含有ありの報告書

堺市関係ではもうひとつ、大仙公園便所改修工事があったので、これについても大浜高層住宅と同様に堺市から工事資料と石綿分析報告書(石綿含有あり)を入手し岸和田署に提出した。

堺市はこの件については親切だった。その後、岸和田署の労災課員が堺市を訪れたと事情聴取したとのことだったが、ほどなくして岸和田署が自庁取り消し処分をおこない、事案を堺にもどしたという連絡があった。

ようやく適正な最終ばく露職場決定と給付基礎日額による堺署の支給決定が行われると待っていたところろ、堺署の労災課長から「局の方に話があがり、少し時間がかかる」というおかしな話があり、4月にはいってすぐ「局から本省にも協議した結果、やっぱり審査請求でしてもらう、岸和田署の自庁取り消しは、取り消しになる」という、前代未聞の電話連絡があった。

「自庁取消しの自庁取消し」!?

もはや大騒ぎを覚悟して待っていると、数日して堺署労災課長から「やっぱり堺署で決め直すことにしました」との連絡があった。
もはやまったく信用していなかったが、4月15日付けで岸和田署の変更決定(本件保険給付について、いったん当署において支給したが、再調査の結果、最終曝露事業場が堺労働基準監督署管内であると認められたため)、堺署による支給決定がKさんに送付された。

ずさんな「労働者性・ばく露確認調査」も大きな問題だった

この間、岸和田署の支給決定に関する資料が開示され、決定に至った調査復命書を読むことができた。
堺署がこの件を岸和田署に移送した理由が判明した。
「発症時に所属していたS電気商会での石綿曝露は認められず、労働者としての最終曝露は岸和田署管内のN電気工事店であると認められる」ということだった。

堺署は、N電気工事店からS電気商会までの間の本人が職歴申立書で述べた会社に対して、「雇用関係および石綿曝露作業の有無に係る確認調査について(依頼)」と題した簡易な調査回答票を送付し、その回答に基づいて、雇用関係があるかどうか、石綿曝露があるかどうかを判断していた。

事業主の回答によって、労働者性や石綿曝露の有無について本人の申し立てに疑問が生じた場合でも、一切本人には再聴取等は行わないまま決定していたのだ。

雇用関係については、質問項目に「当該労働者の雇用の有無」で有か無を回答させ、無であれば、最後の質問「7 当該労働者について」に飛んで、「雇用関係ではなく請負関係であった」か「まったく知らない」の2択で回答させる、というものだ。

労災保険における労働者性の判断は、形式上や呼称上、一人親方とされたり、請負とされたりしている場合は、実質的に使用従属関係があるかどうかを慎重に判断しなければならない。

しかし、堺労基署の調査票はそうした観点がまったく欠落していた。
結局、堺署の岸和田署への移送判断は、S電気商会における石綿曝露作業を見落とした大きな誤り、という点だけではなく、労働者性判断などおけるきわめてずさん、安易な調査方法という見過ごせない問題点によって構成されていたことがわかったのだった。

記事/問合せ:関西労働者安全センター

安全センター情報2019年12月号記事修正