「いわゆる労災かくしの排除について」通達(基発第687号、基監発第52号平成3年12月5日):建設業は元請圧力等、製造業では外国人
労働省は、1991年12月5日付けで、「いわゆる労災かくしの排除について」という労働省労働基準局長通達及び関係課長通達を発した。
今回は、この全文を紹介する。課長通達には、「職員による労災かくしの把握事例」が10例、付されている。
なお、労働者死傷病報告書の虚偽報告や未報告等で労働安全衛生法第100条違反で書類送検を行った件数は、全国で、平成元年度15件、2年度37件になっているという。
目次
局長通達
基発第687号
平成3年12月5日
都道府県労働基準局長殿
労働省労働基準局長
いわゆる労災かくしの排除について
標記については、平成3年2月「平成3年度労働基準行政の運営について」の第3の2をもって厳格に対処するよう指示したところであるが、これが具体的な実施にっいては、下記によることとしたので、その的確な処理を図り、いわゆる労災かくしの排除に徹底を期されたい。
記
1 基本的な考え方
労働安全衛生法が労働者の業務上の負傷等について事業者に対して所轄労働基準監督署長への報告を義務付けているのは、労働基準行政として災害発生原因等を把握し、当該事業場に対し同種災害の再発防止策を確立させることはもとより、以後における的確な行政推進に資するためであり、労働災害の発生状況を正確に把握することは労働災害防止対策の推進にとって重要なことである。
最近、労働災害の発生に関し、その発生事実を隠蔽するため故意に労働者死傷病報告書を提出しないもの及び虚偽の内容を記載して提出するもの似下r労災かくし」という。)がみられるが、このような労災かくしが横行することとなれば、労働災害防止対策を重点とする労働基準行政の的確な推進をゆるがすこととなりかねず、かかる事案の排除に徹底を期する必要がある。
このため、臨検監督、集団指導等あらゆる機会を通じ、事業者等に対し、労働者死傷病報告書の提出を適正に行うよう指導を徹底するとともに、関係部署間で十分な連携を図り、労災かくしの把握に努め、万一、労災かくしの存在が明らかとなった場合には、その事案の軽重等を的確に判断しつつ、再発防止の徹底を図るため厳正な措置を講ずるものとする。
2 事案の把握及び調査
労災かくしは、事業者が故意に労災事故を隠蔽する意志のもとに行われるため、その事案の発見には困難を伴うものが多いが、疑いのある事案の把握及び調査に当たっては、特に次の事項に留意し、関係部署間で組織的な連携を図り、的確な処理を行うこと。
(1)労働者死傷病報告書、休業補償給付支給請求書等関係書類の提出がなされた場合には、当該報告書の内容を点検し、必要に応じ関係書類相互間の突合を行い、災害発生状況等の記載が不自然と思われる事案の把握を行うこと。
(2)被災労働者からの申告、情報の提供がなされた場合には、その情報に基づき、改めて労働者死傷病報告書、休業補償給付支給請求書等関係書類の提出の有無を確認し、また、その相互間の突合を行い事案の内容の把握を行うこと。
(3)監督指導時に、出勤簿、作業日誌等関係書類の記載内容を点検し、その内容が不自然と思われる事案の把握を行うこと。
(4)上記(1)から(3)により把握した事案については、実地調査等必要な調査を実施し、労災かくしの発見に徹底を期すること。
3 事案を発見した場合の措置
労災かくしを行った事業場に対する措置については、次に掲げる事項に留意の上、再発防止の徹底を図るため厳正な措置を請ずること。
(1)労災かくしを行った事業場に対しては、司法処分を含め厳正に対処すること。
(2)事案に応じ、事業者に出頭を求め局長又は署長から警告を発するとともに、同種事案再発防止対策を請じさせる等の措置を請ずること。
(3)本社又は支社等が他局管内に所在し、同種事案について管轄局暑の注意を喚起する必要があると思われる事案、特に重大・悪質な事案等にっいては、速やかに局へ連絡し、必要に応じ関係局間・本省とも連携を図り、情報の提供その他必要な措置を謂ずること。
(4)建設事業無災害表彰を受けた事業場にあっては、平成3年12月5日付け基発第685号「建設事業無災害表彰内規の改正にっいて」をもって指示したところにより、当該無災害表彰を返還させること。
(5)労災保険のメリツト制の適用を受けている事業場にあっては、メリット収支率の再計算を行い、必要に応じ、還付金の回収を行う等適正な保険料を徴収するための処理を行うこと。
課長通達
部内限
基監発第52号
平成3年12月5日
都道府県労働基準局長殿
労働省労働基準局
監督課長/補償課長/計画課長
いわゆる労災かくしの排除について
標記にっいては、平成3年12月5日付け基発第687号「いわゆる労災かくしの排除について」(以下「局長通達」という。)をもって指示されたところであるが、これが実施に当たっては、下記に留意し、その効果的な実施に遺憾なきを期されたい。
記
1 事案の動向
最近、労働災害発生に関し、その発生事実を隠蔽するため故意に労働者死傷病報告書を提出しないもの及び虚偽の内容を記載して提出するもの(以下「労災かくし」という。)がみられることから、平成2年に各署で把握した労災かくしを分析したところ、次のようなことが明らかとなった。
(1)業種別件数にっいては、建設業が最も多く過半数を占め、次いで製造業となっていること。
(2)発覚の端緒にっいては、被災労働者等からの申告・情報の提供によるほか、別紙に示す事例のとおり、職員が労働者死傷病報告書、休業補償給付支給請求書等に記載された災害発生状況等に疑問を持ち必要な調査を実施した結果、発覚したものも多く含まれていること。
(3)動機については、建設業にあっては無災害記録の更新又は元請事業者からの指示・圧力若しくは元請事業者への配慮によるものが6割以上を占め、製造業にあっては外国人労働者の発覚を恐れるものが過半数を占めていること。
2 関係部署間の連携
いわゆる労災かくしに対して的確に対応するためには、関係部署間の組織的な連携が必要であるが、その際、特に次の事項に配慮すること。
(1)労災かくしへの対応に当たっては、局署内の実情を踏まえ、各課において取り組む内容を明確にしておくこと。
(2)労災かくしを把握した場合には、調査の実施方法を含め今後の対処方針及び措置内用について各課(方面)間で十分な連携を取り、組織的な対応を図ること。
(3)対処方針等については高度の判断が必要な場合には、局とも十分連絡調整を行うこと。
3 事案の把握及び調査
次に掲げる事項に留意し、労災かくしの疑いのある事案の把握及び調査を行うこととするが、特に、建設業及び金属製品製造業に重点を置くこと。
(1)関係書類の受理時の点検及び相互間の突合
イ 特に次の事項に配意して記載内容が不自然と思われる事案の把握に努めること。(イ)災害発生後著しく遅延して提出されたもの
(ロ)クレーン、移動式クレーン又は車輌系建設機械を使用している場合で、災害発生状況及び災害発生当時のクレーン等の使用状況に不自然さが認められるもの
(ハ)災害発生状況からみて休業見込み日数、傷病の部位、被害の程度に不自然さが認められるもの
(二)建設業にあっては、災害発生場所が、資材置場、自祉敷地内等の建設現場以外であるもの
(ホ)金属製品製造業にあっては、外国人労働者を多く使用しているもの
ロ 休業補償給付支給請求書等の受理時の点検
受理に際しては、特に次の事項に配意して災害の原因及び災害発生状況欄等に係る記載内容が不自然と思われる事案の把握に努めること。
(イ)休業補償給付支給請求書の新規受理に際しては、被災者が特別加入者である場合を除き、「労働者死傷病報告提出年月日」欄の記入のないもの
なお、これに該当する事業場名等について、労災主務課は安全衛生主務課(方面)へ連絡すること。
(ロ)建設業にあっては、災害を発生させた工事現場の名称等からみて本来元請の労働保険番号で請求すべきものを下請の労働保険番号で請求していると思われるもの
(ハ)療養補償給付たる療養の給付請求書及びレセプトの受理に際しては、療養補償給付たる療養の給付請求書の「災害原因及び発生状況」欄の記載内容から推定される傷病の部位等とレセプトの「傷病の部位及び傷病名」欄に記載された内容が不自然と思われるもの
(二)上記3のイの(イ)から(ホ)に掲げるもの
ハ 関係書類相互間の突合
上記イ及びロにより記載内容が不自然と思われる事案を把握した場合には、次の事項に留意し、関係書類相互間の突合を行い、記載内容の整合性の確認を行うこと。
(イ)労働者死傷病報告書と休業補償給付支給請求書等に記載された労働保険番号が一致していること。
(ロ)労働者死傷病報告書の「発生年月日」欄と休業補償給付支給請求書等の「負傷又は発病年月日」欄の記載内容が一致していること。
(ハ)労働者死傷病報告書の「傷病の部位」欄と療養補償給付たる療養の給付謂求書の「傷病の部位及び状態」欄等の記載内容が一致していること。
(二)労働者死傷病報告書の「休業見込日数」欄と休業補償給付支給請求書の「療養のため労働することができなかったと認められる期間」欄等の記載内容がほぼ一致していること。
(ホ)労働者死傷病報告書の「災害発生状況及び原因」欄と休業補償給付支給請求書等の「災害の原因及び発生状況」欄の記載内容がほぼ一致していること。
(へ)なお、昭和59年4月2日付け基発第161号「建設業における総合的労働災害防止対策の推進について」の記の第2の2の(1)に示す特定建設工事に係るものについては、必要に応じ、続括管理状況報告書の「労働災害の発生状況」欄と提出された労働者死傷病報告書が一致していることを確認すること。
(2)被災労働者等からの申告等
被災労働者その他関係者から申告・情報の提供がなされた場合及び社会保険事務所から被災状況からみて労災保険の適用(通勤災害又は被災者が特別加入者である事案を除く。)を受ける疑いが有る旨の照会のあった場合については、その情報に基づき、改めて労働者死傷病報告書、休業補償給付支給請求書等関係書類の提出の有無を確認し、また、その相互間の突合を行い事案の内容を把握すること。
(3)監督指導時の確認
監督指導に当たっては、特に次の事項に配意し、事案の把握に努めること。
イ 出勤簿、賃金台帳、年次有給休暇取得簿等の関係書類の記載内容から欠勤・年次有給休暇の取得等記載内容が不自然と思われるもの
ロ 安全衛生委員会等の議事録、作業日誌等の関係書類の記載内容から欠勤・年次有給休暇の取得等記載内容が不自然と思われるもの
(4)上記に掲げるもののほか、職員が通常業務の遂行過程で把握した労災かくしを別紙に示すので、参考に資すること。
(5)上記において労災かくしの疑いのある事案を把握した場合については、労働災害の発生状況等の事実を確認するため、災害調査、災害時監督、実地調査等必要な調査を実施すること。
なお、労災かくしを把握した場合には、当該事業場が他にも労災かくしを行っていないかどうかにっいても必要に応じ調査し、これを把握すること。
4 措置
労災かくしを行った事業場等に対する措置については、局長通達において示されたところにより行うこととするが、この際、当該事業場については、昭和53年6月12日付け基監発第17号「司法処理基準に該当しない事案であっても司法処分にすべき事例について」において、原則として司法処分に付すものとされていることに留意すること。
別紙 職員による労災かくしの把握事例
安全センター情報1992年3月号