手根管症候群の労災認定(上肢作業障害):大阪そば屋勤務の女性労働者/大阪

豊田正義 (関西労災職業病研究会)

繰り返し手作業で

7年余にわたって「Hそば」で働き続けて両手・手根管症候群に侵され、阪神医療生協診療所(尼崎市)で通院加療を続けているAさん(53歳、女性)が、4月末、職業性疾患として認定された。

『手根管症候群とは、日本ではまだ認定された事例はきわめてめずらしく、1986年以降、アメリカで激増している職業性疾患である。
腕から手首にある手根管をとおって、母指、中指、環指の半ばに正中神経が分布しているが、正中神経を囲む靭帯をくりかえし酷使することによって、腱がはれてきて神経を圧迫し、手首の痛み、しびれ、筋力低下、筋萎縮をきたす。アメリカでの発生職場は表(略)のごとく多方面にわたる。』

一日250杯

Aさんは45歳になって「Hそば」に勤めた。正社員30%で、主にアルバイトによって業務は行われている。仕事の主なものはまず、ダシづくりと、ダシ合わせで、ダシ缶に手ジャクで釜より移しかえるが、1杯で約1.7~1.8kgの重さのものを1日に約800回ほど移す。
店では、うどん(そば)玉をぬくめ、湯をきり、(一部の店はオートメーション)具を入れ、だしかけ、ネギ入れ、運搬の手順をくりかえす。急ぐので運搬は片手でやる。(6人でする。)1杯の重量は丼ともで1.1kg、1日の扱い杯数は約250杯である。

その他の作業としては、かやく御飯用のコンニャク、竹の子、油あげを細かく包丁で切る。(ネギやニンジンは機械で切る)作業が終わっても包丁が手から離れない。
店内(ダシづくりの場所)は、冬は冷え込み、夏はむし風呂のようになる。

特に指先にしびれ、痛み

人社後、1年位してから右肩、肘にダルさ・痛みが、2年位してから手先とか手関節にもダルさ・痛みが起こり、3年目位からさらにひどくなる。(この頃になると手、腕が上がらなくなり、丼をよく落としたりした。)時々、手・指・脚に2~3分「こわばり」がくる。咋年のはじめからは、箸を持ちにくく、右手で持っているものを落とすことがあり、また、特に指先のしびれ、痛みが強くなってきた。

4月になって、阪神医療生協診療所に通院し、パラフィン浴を中心にした物療を行い、徐々に快方に向かっている。
主治医である田島隆興医師は労働基準監督署への意見書の中で次のような諸点を強調している。

『本患者のこれまでの労態様を見るに7年間にわたり、そば、うどん、御飯の調理員として働いており、とりわけ、

  1. だしを採る時に手杓(25cm径、L7~1.8kg)で、だしを800回/日くらい移しかえる作業
  2. 包丁で、ねぎ、油揚げ、コンニャクを切る作業
  3. うどんを指先でほぐす作業④ねぎハサミで、ねぎを丼にのせる作業
  4. 丼を片手で持ち、客の前に置く作業(6人で2500回/日)

等が作業回数も多く、指先に力が入る作業であり、これらのことを毎日毎日繰り返すことによって、横手、手根管靭帯の肥厚を生じたり、DIP(第1関節)の軟骨面に損傷を生じて、この疾病を起こしたものと考えられる。』

昨年8月より、所轄の大阪淀川労働基準監督署に対し、阪神労災職業病被災者交流会、北摂労災職業病対策会議、関西労働者安全センター、北摂地域ユニオンらの支援のもとに職業性疾患としての認定を要請して交渉を繰り返し、認定をかちとったものである。
現在、各自治体での学校給食調理労働者の中にも「変形性手指関節症」(指曲がり症)とともに、この「手根管症候群」の被災者は増大しており、大阪においては高槻市、東人阪市で被災労働者が確認されており、認定闘争も取り組まれているが、4年を経過するも未だに認定されていない。今回の事案はこうした認定闘争にも大きな影響を与えるのは必至である。

安全センター情報1992年7月号