元請の書類送検含む厳格な対応を:労災隠し問題で神奈川労基局と交渉
川本浩之(神奈川労災職業病センター)
1991年12月10日、神奈川シテイユニオン、カラバオの会(寿・外国人出稼ぎ労働者と連帯する会)、全造船機械関東地協、外国人労働者と連帯する神奈川連絡会、神奈川労災職業病センターが神奈川労働基準局との緊急の交渉をもった。
この間神奈川シテイユニオンに寄せられた労災相談の中で、実際の事故と異なる現場、状況で死傷病報告が出されているものが立て続けに3件もあったことを受けて(前出のKさん、Iさん、Nさんのケース)、行政の責任を問い、事業主に厳しい処分を求めてのもの。
3件中2件が外国人労働者の事故であったこともあり、諸団体で交渉に臨んだ。労基局側は、吉井監督課長ほか労災管理課なとから9名が出席した。
われわれの要求とそれに対する主なやりとりは以下のとおり。
- 雇用主の悪質な労災隠し(事故現場の捏造と死傷病報告の遅滞》にっいては書類送検を含む厳格な対応を行うこと
- 雇用主の労災手続の怠慢から労働者が不利益を被らないように対応すること
- 雇用主に対する労災隠しのチェック機能を強化すること
- 雇用主に対し、滞日外国人の場合でも労働基準法・労災保険法の保護を受けられることを周知徹底させること
*1.について
「処分を決めるのは一戟的には労基署だが、上級官庁として要求書どおりのスタンスで、厳正厳格に臨む」。
*死傷病報告の遅れとはとの程度を指すのか。
「法的根拠はないが、1週間~10日より遅れた時と、私(監督課長)は理解している」。
*労働組合が要求してもなかなか提出しようとしない企業は書類送検せよ。
「即送検は無理だが、それも含めて検討する」。
*2.について
会社が死傷病報告も労災申請もしていないため、給付が遅れて生活に困窮する被災者が多数いる。
「企業の無知や誤解もあると思う。そのために労働者の救済の遅れることのないよう努める」。
*監督課と労災課が連携し、企業を監督したり、早急に給付に努めるようにせよ。
「監督課、労災課協力していく」。
*3.について
今までにここまで虚偽の報告をしている事例があるか。
「全くないとは言えないが、あまりないですね(周囲に尋ねながら。何人か首をひなりながら同意)」。
*これが小・零細のめちゃくちやな会社ならともかく、名の通った大きい会社とその下請ばかりだ。行政のチェック機能に問題がある。対策をたてよ。
「たしかに指摘のあるまで気づかなかったのは事実。甘さがあった。しかし、会社が嘘をつくというような、故意の悪質な行為を想定していない仕組みになっているので…。具体的にこうすればというのは今のところない」。
*会社が嘘の報告をしているようなので、同僚らと一緒に監督署に細かいことを聞きに行ったら、守秘義弼を楯に全然対応しなかった。一方で、会社が休業補償給付を受け取りながら、立て替え払いを全然労働者にしていない例もある。
*4.について
オーバーステイの外国人や資格外活動(いわゆるr不法」就労)の外国人を雇うなということを言った後、それらの労働者にも労働法規の適用があることを同時に言っても全然効果がない。そもそも法務省・入管の仕事の下請よりも、主務の労働者の権利を守ることに努めるべきではないか。
「就労資格のない者を雇うな、と言わないわけにはいかない。ただこそこそするな。雇うなら堂々として、責任を取れとしか言えない」。
*そんなことでは安全教育の場に、下請がわざと外国人を出さないという実態は変わらない。通報義務について。通報するな。
「これは頭を痛めている。苦悩している。相談に来た労働者や申請された事例の調査中は通報しない。ただ、悪質な企業を把握した場合、やはり県の職安に連絡している。悪質な企業を放置するわけにはいかない」。
*情報がとう扱われていくのか確認しているか。
「していない。それはわからない」。
【労働安全衛生法】
労災隠しに関わる法令
第100条(報告等)労働大臣、都道府県労働基準局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
第120条(罰則)次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する1~4(略)
5 第100条第1項又は第3項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかった者
【労働安全衛生規則】
第97条(労働者死傷病報告)事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により、死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第23号による報告書を所轄労働基準監督暑長に提出しなければならない。
2 前項の場合において、休業の日数が4日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、1月から3月まで、4月から6月まで、7月から9月まで及び10月から12月までの期間における当該事実について、様式第24号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
安全センター情報1992年3月号