個人事業者、ストレスチェック等で労働安全衛生法令改正へ~職場におけるハラスメント防止対策の強化も

2024年末にかけて検討会や審議会の動きがあわただしくあり、今後関係法令の改定等が予定されている。年末時点における状況を確認して、引き続き注目していきたい。

目次

労働安全衛生法

11月22日に労働政策審議会の第172回安全衛生分科会は「今後の労働安全衛生対策について(報告)(案)」を検討している(以下「報告案」)。以下の項目を取り上げて「法的整備を含めた所要の措置を講じることが適当である」とするものである。
※安全衛生分科会:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei_126972.html

① 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
② 職場のメンタルヘルス対策の推進
③ 化学物質による健康障害防止対策等の推進
④ 機械等による労働災害防止の促進等
⑤ 高年齢労働者の労働災害防止の推進
⑥ 一般健康診断の検査項目等の検討
⑦ 治療と仕事の両立支援対策の推進
⑧ その他所要の措置

個人事業者等に対する安全衛生対策の推進

2021年5月の建設アスベスト訴訟最高裁判決を踏まえて、「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」が、2022年5月13日から2023年10月2日まで15回開催され、同年10月27日に「報告書」が公表された。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_558547_00010.html
これを踏まえてすでに、労働安全衛生法第22条に基づく健康障害防止措置関係11省令の改正(見直し第1弾、2022年6月号参照、2023年4月施行)、同法第20条・第21条に基づく危険防止措置関係4省令の改正(第2弾、2024年7月号参照、2025年4月施行)が行われるとともに、「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」も策定され(2024年5月、同年7月号参照)、厚生労働省は「個人事業者等の安全衛生対策について」のページで関連情報を提供している。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei03_00004.html
安全衛生分科会では、2024年4月26日の第161回から同年9月6日の第166回まで6回、言わば第3弾の見直しに向けた検討が行われた。
「報告案」では、以下にようにしている(文末から「ことが適当である」の文言を省略、以下同じ)。

(1) 個人事業者等の定義

  • 安衛法における保護対象や義務の主体となる個人事業者として、「事業を行う者で、労働者を使用しないもの」を同法に位置付ける。
  • 中小事業の事業主や役員も、安衛法における保護対象や義務の主体として位置付ける。
  • 混在作業による労働災害防止を図る際には、個人事業者中小事業の事業主、役員に限らず、当該作業に従事する全ての作業者を保護対象や義務の主体として位置付ける。

(2) 個人事業者等自身による措置

  • 個人事業者等についても自身の災害や労働災害を防止するために必要な責務を規定する。
  • 個人事業者等に、事業者が講じる措置に応じて必要な事項を遵守することを罰則付きで義務付けるとともに、事業者は必要な措置が確実に伝わるように分かりやすく周知する。
  • 機械等の安全確保について、個人事業者等にも、構造規格又は安全装置を具備しない機械等の使用を禁止するとともに、定期自主検査の実施を義務付ける。
  • 安全衛生教育について、個人事業者等にも危険又は有害な業務に係る特別教育の終了を義務付ける。また、法令により終了が義務付けられているものの他にも、危険又は有害な業務に関する安全衛生教育を受ける努力義務を課す。

(3) 注文者等による措置

  • 仕事を他人に請け負わせる者は、施工方法、工期等について、安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を附さないように配慮しなければならないとの安衛法第3条第3項の規定は、建設工事以外の注文者にも広く適用される規定であることを明確にする。
    また、プラットフォーマーが安衛法第3条第3項の注文者に該当するのは、プラットフォーマー自身が直接的に仕事を他人に請け負わせる場合とするとともに、プラットフォーマーが注文者に該当しない場合であっても、安全で衛生的な作業が行われるよう必要な配慮を行うことが望ましいことをガイドライン等で示す。加えて、今後ともプラットフォーマーを含めた新たな働き方に対する規制を、諸外国の例も参考にしつつ検討する。
  • 混在作業による労働災害防止について、建設業、造船業及び製造業の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所で行われる場合には、作業間の連絡調整等の必要な措置を講じることになっているが、この連絡調整等の対象に個人事業者等を加える。
    併せて、現在は上述の3業種のみに連絡調整等の措置義務が課されているところ、例えば、荷の搬入・搬出作業、機械・設備のメンテナンス作業など、何らかの作業が混在して行われる一の場所においても混在作業による労働災害が発生し得ることから、当該場所を管理する事業者に対し、業種を限定することなく、作業間の連絡調整等の必要な措置を義務付ける。
  • 建設物等や化学物質の製造設備等に由来する労働災害防止について、それらの物を請負人の労働者に使用させる注文者は、労働災害を防止するため必要な措置を講じることになっているが、これらを個人事業者等に使用させる場合にも同様の措置を講じる。
  • 建設機械等を用いる仕事における労働災害防止について、当該仕事の注文者は、作業場所で当該仕事に従事するすべての労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じることになっているが、個人事業者等が当該仕事を行う場合にも同様の措置を講じる。
  • 違法な指示の禁止について、注文者は、請負人に対し、その指示に従って当該請負人の労働者を労働させたならば、労働安全衛生関係法令違反となる指示をしてはならないとされているが、請負人たる個人事業者等が作業する場合にも労働安全衛生関係法令違反となる指示を禁止する。
  • 機械等のリースに伴う労働災害防止について、機械等貸与者は、貸与を受けた事業者に対して、労働災害防止のために必要な措置を講じることになっているが、個人事業者が貸与を受ける場合にも同様の措置を講じる。
    なお、災害実態を踏まえ、「フォークリフト」等の危険性が高い機械等を規制対象に追加する。
  • 建築物(事務所や工場)の貸与に伴う労働災害防止について、建築物貸与者は、貸与を受けた事業者に対して、労働災害防止のために必要な措置を講じることになっているが、個人事業者が貸与を受ける場合にも同様の措置を講じる。
    なお、規制対象の建築物は「事務所」及び「工場」に限定されているところ、災害実態を踏まえ、「店舗のバックヤード」、「物流センター」、「倉庫」等事業の用に供される建築物を規制対象に追加する。

(3) 個人事業者等による労働基準監督署等への申告

  • 個人事業者等が請け負った作業等に関し、労働安全衛生関係法令に違反する事実がある場合については、個人事業者等は労働基準監督署等に対して申告し、是正のため適当な措置をとるように求めることができる仕組みを整備する。
  • 事業者等は、個人事業者等が申告をしたことを理由として不利益な取扱いを行ってはならないこととする。

(4) 個人事業者等の業務上災害の報告制度

  • 個人事業者等の業務上災害については、現在、網羅的に把握する仕組みがないことから、労働者死傷病報告の仕組みを参考にして、個人事業者等の業務上災害の報告制度を創設する。
  • 個人事業者等が業務に伴って休業4日以上の災害に被災した場合には、

    ・個人事業者等から見て直近上位の注文者等(当該者が存在しない場合には、災害発生場所(事業場等)を管理する事業者。以下「報告主体」という。)が労働基準監督署に業務上災害について遅滞なく報告することを義務付ける。
    ・上記の場合において、個人事業者等が災害発生の事実を伝達・報告することが可能な場合には、報告主体に業務上災害について遅滞なく報告することを義務付け、報告主体はその内容を踏まえ、必要事項を補足した上で労働基準監督署に遅滞なく報告することを義務付ける。

    ただし、個人事業者等が中小事業の事業主や役員である場合には、上記にかかわらず、所属企業が労働基準監督署に遅滞なく報告する仕組みとする。
    併せて、休業4日未満の災害など、これらの義務の対象とならない業務上災害についても、業務上災害の報告の実効性を高める観点から、労働基準監督署に対して情報提供することができるような仕組みとする。
  • 報告事項については、労働者死傷病報告の報告対象を参考とすることとし、加えて、報告者に関する情報や、被災した個人事業者等の労災保険の特別加入の有無等についても報告事項とする。
  • 業務上災害の報告の適正化のため、報告主体は、個人事業者が法令上の義務となる業務上災害の報告を行ったことを理由として、不利益取扱いを行ってはならないこととする。
  • 個人事業者等の過重労働による脳・心臓疾患及び精神障害事案については、上記とは区別して、個人事業者等自身等が労働基準監督署に報告することができる仕組みを整備する。
  • こうした業務上災害の報告の仕組みが、個人事業者、報告主体等にとって過度な負担とならないよう、国において、電子申請システムを活用した報告を可能とするなどの環境整備に取り組む。

職場のメンタルヘルス対策の推進

「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」が、2024年3月29日から同年10月10日まで7回開催され、同年11月1日に「中間とりまとめ」が公表された。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38890.html
この「報告書」は同年11月6日の第170回安全衛生分科会に報告され、検討された。
「報告案」では、以下のようにしている。

(1) ストレスチェックの実施及び高ストレス者に対する面接指導の実施

  • 現行法では、労働者数50人未満の事業場においてはストレスチェックの実施が当分の間努力義務となっているところ、事業場規模にかかわらずストレスチェックの実施を義務とする。
    その際、労働者のプライバシー保護の観点から、原則として、外部委託を推奨する。また、労働基準監督署へのストレスチェック実施結果の報告義務は、一般定期健康診断と同様、50人未満の事業場には負担軽減の観点から課さない。
    これらの見直しに当たっては、50人未満の事業場の負担等に配慮し、施行までの十分な準備期間を確保する。
  • 50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施については、その円滑な施行に資するよう、国においては、

    ・ 50人未満の事業場に即した、労働者のプライバシーが保護され、現実的で実効性のある実施体制・実施方法についてのマニュアルの整備(特に10人未満等の小規模な事業場については、その実情を考慮した取り組み可能な実施内容を示す)
    ・ 高ストレス者の面接指導に無料で対応している地域産業保健センターの体制整備

    など、50人未満の事業場に対する十分な支援策を講じるべきである。

(2) 集団分析の実施及び職場環境の改善

・ ストレスチェック実施後の集団分析・職場環境改善は労働安全衛生規則に基づき事業者の努力義務とされているが、大企業であっても試行錯誤しながら取り組んでいるところ、取組内容も極めて多様であること等を踏まえると、現時点では、何を、どの水準まで実施したことをもって、履行されたと判断することは難しく、事業場規模にかかわらずこれを義務とすることは時期尚早であり、義務化については引き続きの検討課題とする。
まずは、
・ 事業者や労働者に対して、ストレスチェック制度は集団分析及び職場環境改善まで含めた一体的な制度であることの周知
・集団分析結果を活用した職場環境改善の取組事例の収集・とりまとめ
・ 取組事例を含めた研修の実施
などの対策を通じて、適切な取組の普及を国、事業者、労働者、医療関係者において計画的かつ確実に進めていく。
・ 集団分析の実施方法については、現行の努力義務の規定を、労働者のプライバシー保護等の観点から、個人を特定できない方法で実施する努力義務規定とする。

化学物質による健康障害防止対策等の推進

既報のとおり、安衛則等の改正による「化学物質による労働災害防止のための新たな規制」が2022~2024年度にかけて施行され、厚生労働省は特設ページで情報を提供している(2022年8月号2023年7月号2024年5月号等参照)。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
また、毎年度、「化学物質管理に係る専門家検討会」が開催されて、「中間取りまとめ報告書」等が公表されている。
※令和4年度:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27563.html
※令和5年度:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33388.html
※令和6年度:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39859.html
2024年9月27日の第167回安全衛生部会で「化学物質のリスクアセスメントの的確な実施に向けた制度改善について」検討され、「報告案」では、以下のようにしている。

(1) 化学物質の譲渡・提供時における危険性及び有害性情報の通知制度の改善等

ア 化学物質の危険性及び有害性情報の通知制度の履行確保
  • 通知義務違反に罰則を設ける。また、通知した事項を変更した場合の再通知については同条第2項に基づき努力義務となっているところ、これを義務とする。

    ・CAS登録番号等、成分名を特定できる一般的な番号
    ・呼吸用保護具を使用する場合に選択すべき呼吸用保護具の種類(防毒用の場合は、加えて成分に応じて使用すべき吸収缶の種類)
    ・含有される化学物質に応じ、保護手袋として不適当な材料
    ・ 含有される成分ごとに適用される法令等

    を追加する。
  • 上記の見直しは、事業者が新たに必須となる通知事項に対応するためには一定の期間を要し、かつ、流通の各段階において化学物質を譲渡・提供する全ての事業者において対応が必要になることを踏まえ、施行までの十分な準備期間を確保するとともに、その間、国において通知の電子化・標準化を進めるための支援に取り組むべきである。
イ 化学物質の危険性及び有害性情報の通知制度における営業秘密の保持
  • 国際連合が策定したGHS改訂9版(2021年)では、企業の営業秘密情報の保持を保証するべきとされており、EU等においては、化学物質の成分名に企業の営業秘密が含まれる場合に通知内容の柔軟化を認める対応がとられている。こうしたGHSの考え方に基づき、EU等の仕組みを参考に、リスクアセスメントの実施に支障がない範囲で営業秘密の保持を図る必要がある。
    具体的には、企業の営業秘密の保持の観点から、

    ・化学物質の成分名が営業秘密に該当する場合には、代替名その他の情報(以下「代替名等」という。)の通知を認めること
    ・含有量については、代替名等の通知を認める物質についても、現行法令で認められている10%刻みでの通知を認めること

    が適当である。
    その際、リスクアセスメントの実施に支障がないことを担保する観点から、

    ・代替名等による通知を認めるのは、国によるGHS分類の結果により重篤な健康障害を生ずる有害性クラスに該当しない物質、特定の有害性クラスであって最も重い区分1に該当しない物質、混合物の有害性区分に影響を与える濃度(濃度限界)に満たない場合、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)等の特別規則の適用対象物質等になっていない物質に限定すること
    ・成分名以外の通知事項(物理的及び化学的性質、人体に及ぼす作用、貯蔵又は取扱い上の注意等)は、非開示を認めないこと
  • 代替名等による通知を行う場合には、
    ・代替名等の通知が営業秘密によるものであることを明示して通知すること
    ・実際の成分名及び通知した代替名等を記録し、通知から5年間保存しなければならないこと

    を譲渡・提供者に義務付ける。
  • 厚生労働大臣は、代替名等の内容を決定するために必要な指針を公表する。
  • 代替名等を通知した場合であっても、

    ・医師が診断及び治療のために必要であるとして、代替名等を通知した化学物質の成分名の開示を求めた場合、直ちに開示すること
    ・産業医が労働者の健康管理のために必要であるとして、代替名等を通知した化学物質の成分名の開示を求めた場合、秘密保持を条件に速やかに開示すること
    ・労働基準監督機関から求められた場合に開示等に応じること
    ・事業を廃止しようとするときは、所轄労働基準監督署長に営業秘密情報の記録を提出すること

    を譲渡・提供者に義務付ける。

(2) 個人ばく露測定の精度の担保

  • 個人ばく露測定について、作業環境測定と同様に測定の精度を担保するため、法律上の位置付けを明確にし、有資格者により実施しなければならないこととする。
    この有資格者の要件は、個人ばく露測定に関する追加講習を修了した作業環境測定士等とする。

機械等による労働災害防止の促進等

「特定機械等の製造許可及び製造時等検査制度の在り方に関する検討会」が、2024年1月26日から同年3月18~22日(持ち回り開催)まで3回開催され、同年3月28日に「報告書」が公表された。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39335.html
2024年9月6日の第166回安全衛生部会で「機械による労働災害防止及びそのための体制整備について」検討され、「報告案」では、以下のようにしている。

(1) 特定機械等の製造許可及び製造時等検査に係る民間活力の活用の促進

  • 特定機械等の製造許可を行うための書面等審査は、

    ・当該機械等の設計が構造に関する技術的基準に適合するかどうかの審査
    ・製造設備等が基準に適合するかどうかの審査

    から構成され、現行では都道府県労働局長が行うものとされているところ、このうち前者の審査については、十分な専門性を有する民間の登録機関が行えるようにする。
    その上で、当該審査は、製造許可を受けた後に行われる製造時等検査と一連の流れで行われることから、これらは同一の登録機関が行うものとする。
  • 製造時等検査について、現在はボイラーと第一種圧力容器に限って民間の登録機関が行えるようになっているところ、製造時等検査が必要な特定機械等すべてについて民間の登録機関が行えるようにする(具体的には移動式クレーンとゴンドラを対象に追加する)。
  • 上記で民間が行えるようにする設計に関する審査と、製造時等検査を行う新たな登録機関については、その業務の適正な遂行を担保するため、
    ・現行の登録製造時等検査機関と同等の登録要件を設ける
    ・登録は機械等の区分及び地域(複数の都道府県に跨る地域ブロック)ごとに行う
    ・審査等を求められたときの応諾や、一定の知識経験を有する者に審査等を実施させることなど、現行の登録製造時等検査機関と同等の実施義務を課す
    ・現行の特定機械等に係る登録機関と同様に、登録要件に適合しなくなった場合や義務規定に違反する場合には厚生労働大臣が適合命令や改善命令を行うことができるようにするとともに、欠格事由に該当する場合や適合命令・改善命令に違反した場合等には厚生労働大臣が業務停止や登録の取り消しをできるようにする
  • 上記のほか、登録機関による検査・検定の公正な実施を担保するため、検査・検定の実施方法や合格基準を法令に規定する。

(2) 機械等に係る登録機関(検査業者、登録教習機関)の不正防止の強化

  • 現行制度では指針に留まっている特定自主検査の検査内容について、基準を設け、検査業者にはこれに従って検査を行うことを義務付けるとともに、基準に違反した場合には厚生労働大臣が改善命令等を行えるようにする。
  • 技能講習を行う登録教習機関が不正に技能講習修了証を交付した場合には、都道府県労働局長が当該登録教習機関に対して当該修了証の回収を命じることができるようにするとともに、回収命令に従わない場合には登録取消等ができるようにする。また、回収命令に従わない者について、登録取消を行う場合には、欠格期間を延長する。

(3) 技術の進歩等を踏まえた型式検定対象機械等及び技能講習対象業務の追加等の迅速化

・ 型式検定対象機械等及び技能講習の種類について、技術の進歩を踏まえて、より迅速かつ適切に追加等ができるようにする。

高年齢労働者の労働災害防止の推進

2024年7月2日の第164回安全衛生部会から同年11月6日の第170回まで3回、「高齢労働者の労働災害防止対策について」検討され、「報告案」では、以下のようにしている。

  • 高年齢労働者の労働災害を防止するため、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、適切な作業の管理その他の必要な措置を講じることを事業者の努力義務とする。
  • 厚生労働大臣が、上記の措置の適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を公表できるようにする。
    また、厚生労働大臣は、当該指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助を行うことができるようにする。

一般健康診断の検査項目等の検討

「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目に関する検討会」が、2023年12月5日から2024年10月18日まで8回開催され、同年11月1日に「中間取りまとめ」が公表された。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36255.html
2024年11月6日の第170回安全衛生部会で「働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等について」検討され、「報告案」では、以下のようにしている。

(1) 女性特有の健康課題への対応

  • 月経随伴症状や更年期障害等の女性特有の健康課題について、一般健康診断の機会を活用し、女性労働者本人への気づきを促し、必要な場合には産婦人科医等女性特有の健康課題に係る診療を専門とする医師への早期受診の勧奨や女性特有の健康課題に対する配慮について申し出を行いやすい職場づくりにもつながるよう、厚生労働省が示している標準的な問診票である一般健康診断問診票に女性特有の健康課題に係る質問を追加する。
    また、女性特有の健康課題があると回答した労働者に対して、健診機関が必要に応じて、女性特有の健康課題に関する情報提供や専門医への早期受診を促す。
    その際、質問に対する労働者の回答は、健診機関から事業者に提供しないこととするが、女性特有の健康課題を抱える個々の労働者と事業者をつなぐ観点から、労働者が女性特有の健康課題で職場において困っている場合、専門医の早期受診を勧奨すること、その上で、専門医の診断書を持って事業者に相談することは可能であること(既に、専門医の診断を受けている場合も同様に可能であること)など、望ましい対応を健診機関向けマニュアルに示す。
    また、労働者自らが事業者に女性特有の健康課題に関する相談を行うことは現時点であっても可能であるとともに、その場合には、専門医による診断書等を示すことが望ましいことなどを事業者向けガイドラインにおいて示す。
    男性の更年期障害については、更なる医学的知見の集積を踏まえ、必要に応じて検討していく。

(2) 一般健診の法定健診項目について

  • 歯科に関する項目を法定健診項目に追加することに関しては、業務起因性又は業務増悪性、就業上の措置等のエビデンスが乏しいことを踏まえると、困難である。
    一方で、労働者の口腔の健康の保持・増進は重要である。現在、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(昭和63年健康保持増進のための指針公示第1号)に「歯と口の健康づくりに向けた口腔保健指導」が盛り込まれているが、現状では十分に実施されているとは言えないことから、今後、好事例を展開する等普及啓発を強化することにより、歯科受診に繋げる方策を検討する。また、職場の健康診断実施強化月間、全国労働衛生週間の周知等の機会を捉えて、周知を強化する。

治療と仕事の両立支援対策の推進

2024年7月2日の第164回安全衛生部会から同年11月6日の第170回まで3回、「治療と仕事の両立支援対策について」検討され、「報告案」では、以下のようにしている。

  • 「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」について、現状では労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)で「疾病、負傷その他の理由により治療を受ける者の職業の安定を図るため、雇用の継続、離職を余儀なくされる労働者の円滑な再就職の促進その他の治療の状況に応じた就業を促進するために必要な施策を充実すること」が国の施策とされていることを踏まえ、治療と仕事の両立支援のための必要な措置を講じることを事業者の努力義務とする。
  • 厚生労働大臣が、上記の措置の適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を公表できるようにする。
  • 上記のほか、国は、以下について取り組むべきである。

    ・「治療と仕事の両立支援カード」について、企業に理解を求めるとともに、医療機関での活用が促進されるような支援策を講じ、関係者の連携した取組を積極的に推進する
    ・「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の普及に当たり、事業者に対しては、治療と仕事の両立支援の取組が経営課題として位置づけられるよう、人材確保や生産性向上、企業の成長にもつながることへの理解を図るとともに、労使一体となった取組について具体的な事例を示す
    ・産業保健や人事労務管理の体制が脆弱な中小企業に対しては、治療と仕事の両立支援の専門家が配置されている産業保健総合支援センターによる企業支援(専門的研修、相談対応・訪問支援、個別調整支援等)をさらに充実する

その他所要の措置

・ 1~7に掲げた事項のほか、これらに伴い必要な措置その他所要の措置を講じる。

労働基準法

「新しい時代の働き方に関する研究会」が、2023年3月20日から同年10月13日まで15回開催され、同年10月20日に「報告書」が公表された。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_558547_00021.html
この「報告書」の項目は、以下のとおり。

① 本研究会の契機となった経済社会の変化
② 新しい時代に対応するための視点
③ 新しい時代に即した労働基準法制の方向性(守り方・支え方)
④ 未来を担う全ての方へ

これを踏まえ、また、「働き方改革関連法」附則第12条第1項及び第3項において、同法による改正後の労働基準法等について、その施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされていることから、今後の労働基準関係法制について包括的かつ中長期的な検討を行うとともに、働き方改革関連法附則第12条に基づく労働基準法等の見直しについて、具体的な検討を行うことを目的として、「労働基準法研究会」が、2024年1月23日から同年12月24日までに16回開催され、「報告書案」を検討している。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_558547_00024.html
この「報告書案」の内容は、以下の「Ⅳ おわりに」に要約されていると言ってよい。

「これまで述べてきたとおり、本研究会では、労働基準関係法制にかかわる諸課題について検討し、それぞれを早期に取り組むべき事項、より良い制度に向けて中長期的に検討を進めるべき事項に分け、方向性を示すこととした。
本研究会としては、本報告書において早期に取り組むべきとした事項を中心として、今後、公労使三者構成の労働政策審議会において、労働基準関係法制に係る諸課題についての議論が更に深められることを期待するものである。一方で、中長期的に検討を進めるべきとした事項については、国内外の実態把握や国際的な動向の把握を進めつつ、引き続き学術的な検討を進めることが必要と考えられる。
本研究会は厚生労働省労働基準局長の開催する研究会である。厚生労働省においては、この報告書をもって労働基準関係法制に係る研究を終了するのではなく、本研究会のような労働基準関係法制に係る研究を行う場を引き続き設けていくことを要望する。」

「早期に取り組むべきとした事項」は以下であると思われ、とりわけ「家事使用人」について迅速な具体的対応が注目される。

  • 家事使用人に対して労働基準法やそれ以外の労働基準関係法制をどのように適用するかについて、履行確保の在り方も含めた具体的な制度設計の検討に早期に取り組むべきである。
  • 法制度の実効的な適用を確保するという観点から、労働基準関係法制における「事業」の概念については、将来的な労使コミュニケーションの在り方も含め検討していく必要がある。例えば、1の(5)で述べた労働者性の研究を継続的に行う場において、「事業」の概念との関係を含めて議論を行うなど、早期に検討に着手することが必要と考える。
  • 働く人を「守る」という観点からは、後述するように、労働時間の情報開示等により企業による自主的な労働時間短縮を促進する取組や、休日等の労働からの解放に関する規制については、早期に対応可能な取組もあるのではないかと考えられる。

被用者保険

「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」が、2024年2月13日から同年7月1日まで8回開催され、同年7月3日に「議論の取りまとめ」が公表されている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37693.html
「議論の取りまとめ」の項目は、以下のとおり。

① はじめに
② これまでの被用者保険の適用拡大の状況
③ 被用者保険の適用に関する基本的な視点
④ 短時間労働者に対する被用者保険の適用範囲の在り方
⑤ 個人事業所に係る被用者保険の適用範囲の在り方
⑥ 多様な働き方を踏まえた被用者保険の在り方
⑦ おわりに

⑥で具体的に取り上げられた「複数の事業所で勤務する者」と「フリーランス等」のうち、後者の結論部分のみを紹介しておきたい。

〇 フリーランス等

  • フリーランス等の働き方や当事者のニーズは様々であるが、現行の労働基準法上の労働者については、被用者保険の適用要件(雇用期間や労働時間等)を満たせば適用となることから、適用が確実なものとなるよう、労働行政との連携を強化しており、その運用に着実に取り組んでいくべきである。
    その上で、労働基準関係法制研究会において、労働基準法上の労働者について国際的な動向を踏まえて検討がなされており、まずは、労働法制における議論を注視する必要がある。また、従来の自営業者に近い、自律した働き方を行っているケースについては、被用者保険が事業主と被用者との関係性を基盤として働く人々が相互に支え合う仕組みであること、医療保険制度や年金制度においては、労働保険と異なり、国民健康保険・国民年金というセーフティネットが存在することを踏まえ、諸外国の動向等を注視しつつ、中長期的な課題として引き続き検討していく必要がある。

ハラスメント対策

「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」が、2024年2月29日から同年8月1日まで11回開催され、同年8月8日に「報告書」が公表された。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37800.html
この「報告書」は同年9月13日の第71回雇用環境・均等分科会に報告されて検討が行われた。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei_126989_old2.html
12月16日の第78回雇用環境・均等分科会では「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について(案) 」が示され、12月26日の第79回分科会でも検討されている。「必要な対応の具体的な内容」は、以下のとおり。

1.女性の職業生活における活躍の更なる推進

(1) 女性活躍推進法の延長
(2) 中小企業における取組の推進
(3) 女性の職業生活における活躍に関する情報公表の充実
(4) 職場における女性の健康支援の推進
(5) えるぼし認定制度の見直し[以上、項目のみ]

2.職場におけるハラスメント防止対策の強化

(1) 職場におけるハラスメントを行ってはならないという規範意識の醸造

① 雇用管理上の措置義務の創設

  • ハラスメント対策に総合的に取り組んでいく必要があることから、雇用管理上の措置義務が規定されている4種類のハラスメントに係る規定とは別に、一般に職場におけるハラスメントを行ってはならないことについて、社会における規範意識の醸成に国が取り組む旨の規定を、法律に設ける。[文末の「ことが適当である」省略、以下同じ]
  • また、ハラスメント対策の強化は、性別を問わず誰もが活躍するために必要不可欠であり、女性活躍の推進に当たってもその基盤となるものであることから、女性活躍推進法の基本方針に定めるべき事項としてハラスメント対策を法律上も明確に位置づけた上で、基本方針に明記する。

(2) カスタマーハラスメント対策の強化

① カスタマーハラスメント対策の強化

  • カスタマーハラスメントは労働者の就業環境を害するものであり、労働者を保護する必要があることから、カスタマーハラスメント対策について、事業主の雇用管理上の措置義務とする。
  • その上で、現行法に規定されている4種類のハラスメントの例に倣い、対象となる行為の具体例やそれに対して事業主が講ずべき雇用管理上の措置の具体的な内容は、指針において明確化する。
  • また、カスタマーハラスメント対策を進めるに当たっては、中小企業を含め、足並みを揃えて取組を進める必要があることから、国が中小企業等への支援に取り組む。
  • さらに、業種・業態によりカスタマーハラスメントの態様が異なるため、厚生労働省が消費者庁、警察庁、業所管省庁等と連携することや、そうした連携を通じて、各業界の取組を推進する。

②カスタマーハラスメントの定義、③上記のほか指針等において示すべき事項、④他の事業主から協力を求められた場合の対応に関する規定、⑤カスタマーハラスメントの防止に向けた周知・啓発[省略、定義については、「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書」において示された考え方を踏まえ、①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと、②社会通念上相当な範囲を超えた言動であること、③労働者の就業環境が害されること、の3つの要素をいずれも満たすものとする。]

(3) 就活等セクシュアルハラスメント対策の強化

① 雇用管理上の措置義務の創設

  • 就職活動中の学生をはじめとする求職者に対するセクシュアルハラスメントの防止を、職場における雇用管理の延長として捉えた上で、事業主の雇用管理上の措置義務とする。
  • 事業主が講ずべき雇用管理上の措置の具体的な内容については、セクシュアルハラスメント防止指針の内容を参考とするほか、例えば以下の内容を、指針において明確化する。
    ・ 事業主の方針等の明確化に際して、いわゆるOB・OG訪問等の機会を含めその雇用する労働者が求職者と接触するあらゆる機会について、実情に応じて、面談等を行う際のルールをあらかじめ定めておくことや、求職者の相談に応じられる窓口を求職者に周知すること
    ・ セクシュアルハラスメントが発生した場合には、被害者である求職者への配慮として、事案の内容や状況に応じて、被害者の心情に十分に配慮しつつ、行為者の謝罪を行うことや、相談対応等を行うことが考えられること
  • 就職活動中の学生をはじめとする求職者に対するパワーハラスメントに類する行為等については、どこまでが相当な行為であるかという点についての社会的な共通認識が必ずしも十分に形成されていない現状に鑑み、パワーハラスメント防止指針等において記載の明確化等を図りつつ、周知を強化することを通じて、その防止に向けた取組を推進するとともに、社会的認識の深化を促していく。

② 求職者に対する情報公表の促進[省略]

(3) パワーハラスメント防止指針へのいわゆる「自爆営業」の明記

  • いわゆる「自爆営業」に関して、職場におけるパワーハラスメントの3要件を満たす場合にはパワーハラスメントに該当することについて、パワーハラスメント防止指針に明記する。

安全センター情報2025年1・2月号