特集/新たな化学物質管理4つのステップ-規制実施に必要な4つのステップ 2024年4月1日から全面実施
目次
新たな化学物質管理規制
2022年5月31日に施行された労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号)等に基づく「化学物質による労働災害防止のための新たな規制」が、2024年4月1日から全面的に施行される(表1参照)。
表1 新たな化学物質規制の主の改正項目と実施スケジュール
厚生労働省はそのウエブサイト上の特設ページで、関係法令/関係通達等/報道発表資料/パブリックコメントで寄せられたご意見等について/対象物質の一覧/よくあるお問合せ/参考資料/テキスト/動画/マニュアル等を提供してきたが、2024年2月1日に新たに特設サイト「職場の化学物質管理の道しるべ/ケミガイド」を開設した。
ここでは、①背景、②主な労働災害事例、③ケミサポの紹介、を掲載しているが、「背景」では以下のように言っている。
「今回の労働安全衛生法令の改正で、 規制対象物が、危険有害性が確認されている物質全て※に拡大されます。
※現状の約670物質から順次拡大し、令和8年4月に約2300物質となり、 その後も危険有害性が確認された物質を追加していきます。
これまで危険性・有害性のある物質についてその情報が物質を使う人には伝達されていなかったこと、あるいは、伝達されても使う人が適切な取り扱いをしていなかったことが原因で、職場での労働災害がなかなか減りませんでした。
今回の規制では、化学物質による労働災害で悩む労働者の皆様を少しでも減らしたいという想いがあります。」
また、「自分の職場にも関係するかも!?と思った方に詳しくご案内します」、「化学物質の労働災害を防ぐために、法律に従って自分たちで自律的に化学物質の管理を進める手順を『ケミサポ』で、『4つのステップ』にわけて説明しています」と、独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所が運営する「職場の化学物質管理/ケミサポ」を紹介している。
実施に必要な4つのステップ
ケミサポは、「事業者が実施すること」を「実施に必要な4つのステップ」に分けて説明している。
今号では、ケミサポの説明を再構成するかたちで、「化学物質による労働災害防止のための新たな規制」の内容をみていきたい。表1の「新たな化学物質管理規制の主な改正項目と実施スケジュール」もケミサポに掲載されている内容に準拠した。
STEP1:取り扱い化学物質の把握
事業場内で扱うすべての物質についてリストアップして一覧を作成したらリスクアセスメント対象物を特定する。リスクアセスメント対象物以外の物質も含むすべての物質の危険性・有害性を確認する。
1-1. こんな製品や化学物質を使っていませんか?
1-2. 取扱い物質をリストアップ
1-3. リスクアセスメント対象物に該当するか確認
1-4. その他の確認すべきこと
STEP2:体制の整備
リスクアセスメント対象物を製造、取扱い、譲渡、提供する事業場では、化学物質管理者の選任が、保護具を使用する事業場では保護具着用管理責任者の選任が必要。
これらの選任は選任すべき事由が発生した日から14日以内に行い、それぞれに対して権限の付与及び関係労働者への周知が必要。
2-1. 化学物質管理者の選任
2-2. 保護具着用管理責任者の選任
2-3. 社内の周知・啓発
STEP3:リスクアセスメントの実施
リスクアセスメント対象物を取り扱う事業者は化学物質による危険性・有害性を特定し、その特定された危険性・有害性に基づくリスクを見積もり、リスクの見積もり結果に基づいてリスク低減措置(リスクを減らす対策)の内容を検討するという一連の流れとしてリスクアセスメントが必要。
3-1. リスクアセスメントとは?
3-2. いつ、どの物質について何を行う?
3-3. リスクアセスメントしたらどうする?
STEP4:その他の4つのポイントを確認
以上のステップ以外に自律的な化学物質管理の実施に際して確認しておきたいこと。
4-1. 労働者への教育
4-2. ラベル表示、SDS交付
4-3. がん原性物質への対応
4-4. 労働災害時の対応
STEP1:取り扱い化学物質の把握
1-1. こんな製品や化学物質を使っていませんか?
はじめに事業場内で化学物質(化学物質/混合物含む)を使っている場面(シナリオ)を抽出する。
使っている場合は、化学物質の管理を検討する。
・ 例えばこんな製品を使っていませんか?-接着剤、シール剤/吸着剤/芳香剤、消臭剤/凍結防止剤/合金/消毒剤、害虫駆除剤/コーティング、塗料、うすめ液、ペイントリムーバー/充填剤、しっくい、粘土/爆薬/肥料/燃料/表面処理剤(めっき処理剤)/熱媒/油圧液/インク、トナー/pH調整剤、凝集剤、沈降剤、中和剤/実験用化学物質/染色剤、仕上げ剤/潤滑剤、グリース、剥離剤/植物保護剤/化学薬品/写真現像等に使用する薬品/研磨剤、コンパウンド/漂白剤/洗濯用洗剤、洗浄剤/硬水軟水化剤/水処理用化学製品/溶接剤、はんだ付け製品(フラックスコーティングまたはフラックスコアを含む)、フラックス製品/抽出剤/防さび剤/発泡剤。
・ 例えば化学物質を使ったこんな作業をしていませんか?-化学物質の合成、調合、混合/カレンダー加工/染色/散布/印刷、現像/スプレー剤の使用(空中分散、表面コーティング、接着、つや出し、洗浄、吹き付け等のための噴霧)/化学物質を用いた洗浄、清掃、漂白、消毒、駆除/化学物質の移し替え、充填、計量、サンプリング/ローリング(圧延)/ブラッシング/発泡樹脂製造(発泡処理)/浸漬処理/圧縮成形、押し出し成形、ペレット化等を含む成形作業/油分の塗布、塗り込み/塗装/塗膜の剥離/化学物質を用いた修理修復やメンテナンス/製品の切断、冷間圧延、組み立て/分解/鋳造、溶融固体の使用/熱間圧延、加熱形成、研削、機械的切断、掘削、研磨/溶接、はんだ付け、切削、ろう付け、フレーム切断/金属粉製造/化学物質を使用した実験。
1-2. 取扱い物質をリストアップ
実際に取り扱っている化学物質をリストアップする。取扱っている製品が混合物の場合は、成分として含まれる化学物質の情報を確認する。
〇リストアップのための情報収集方法
製品のSDS(安全データシート)がある場合、SDSの記載事項「3. 組成及び成分情報」、「15. 適用法令」等から含有成分の情報を抽出する。
製品のSDSの情報が入手できていない場合やSDSの内容が不十分と考えられる場合、製品提供元に含有成分情報(物質名等の特定情報、含有割合等)を開示してもらい、疑問点があれば問い合わせる。
1-3. リスクアセスメント対象物に該当するか確認
リストアップした取扱い物質がリスクアセスメント対象物に該当するか確認する。
該当している場合は、リスクアセスメントの実施(STEP3-2)、ラベル表示・SDS交付(STEP4-2)の義務に対応する。
〇検索サイトで調べられる情報
・ NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構」) CHRIP(化学物質総合情報提供システム)(検索)
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/systemTop
・ 職場のあんぜんサイト(検索)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html
ともに、「令別表第9及び別表第3第1号に掲げるラベル表示・SDS交付義務対象667物質」及び「2024年4月施行分234物質」の検索が可能。
〇対象物質一覧:労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付の義務対象物質リスト
・ 2023年9月現在施行中:667物質
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/label_sds_667list_20230830.xlsx
・ 2024年4月施行分:234物質
https://www.jniosh.johas.go.jp/groups/ghs/Label_SDS_tsuika_R03.xlsx
・ 2025年4月施行分/2026年4月施行分:約2,300種類
https://www.jniosh.johas.go.jp/groups/ghs/Label_SDS_List_R07R08_rev2_20231109.xlsx
〇化学物質の危険性・有害性の確認
リスクアセスメント対象物以外にも、危険性・有害性がある物質については適切に管理する必要がある。
各物質の危険性・有害性の情報は、製品や成分のSDS、NITEで公開されているGHS分類情報等を確認する。
・ NITE統合版GHS分類結果一覧
https://www.nite.go.jp/chem/ghs/ghs_nite_all_fy.html
・ NITE-CHRIPで検索して確認
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/systemTop
リスクアセスメント対象物に該当していなくても危険性・有害性がある物質は、①SDSによる情報提供、②ラベル表示、③3リスクアセスメント実施、の3つについての努力義務がある!
1-4. その他の確認すべきこと
従来の安衛法の管理対象物質に該当するかも改めて確認する
〇安衛法上の管理物質
・ 安衛法危険物
・ 特定化学物質障害予防規則(特化則)
・ 有機溶剤中毒予防規則(有機則)
・ 鉛中毒予防規則(鉛則)
・ 四アルキル鉛中毒予防規則(四鉛則)
・ 作業環境評価基準で定める管理濃度を超える場合の当該物質
・ がん原性物質
・ 強い変異原性が認められた化学物質
STEP2:体制の整備
2-1. 化学物質管理者の選任
〇選任が必要な単位
化学物質管理者は個別の作業現場毎ではなく、工場、店社、営業所等事業場ごとに選任する。
選任する人数は事業場の状況に応じて検討することが可能。
現時点で化学物質管理者の選任は不要でも、今後リスクアセスメント対象物が増えたときや新しい製品を使うときには改めて確認が必要!
〇選任要件
化学物質管理者の選任要件は、「化学物質管理者の業務を担当するために必要な能力を有するもの」であり、基本的に事業者の裁量による。
ただし、リスクアセスメント対象物を製造する事業者か、それ以外の取り扱いなのか、状況によって選任の資格要件が異なる。
専門的講習のカリキュラムは告示で示されており、任意の外部専門機関の講習を受講することができる。カリキュラムを満たしていれば事業場内教育による選任も可能。
・ リスクアセスメント対象物製造事業場向け化学物質管理者テキスト(2023年3月公表)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001083281.pdf
講習は次の機関で実施されている。
・ 中央労働災害防止協会
・ 日本規格協会
〇専門的講習のカリキュラム[省略]
〇職務
化学物質管理者の主な職務は次のとおり。
化学物質管理者は、事業者、保護具着用管理責任者、作業主任者、産業医等の関係者と連携してこれらの職務に当たることが求められる。
・ ラベル・SDS等の確認
・ 化学物質に関するリスクアセスメントの実施管理
・ リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施の管理
・ 化学物質の自律的な管理に関する各種記録[様式例は省略]の作成・保存
・ 化学物質の自律的な管理に関する労働者への周知・教育
・ ラベル・SDSの作成(リスクアセスメント対象物の製造事業場の場合)
・ リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応
2-2. 保護具着用管理責任者の選任
〇選任が必要な単位
化学物質管理者を選任した事業者において、リスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者を選任することが必要。選任する人数は事業場の状況に応じて検討することが可能。
〇選任要件
保護具着用管理責任者は、保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから選任することが定められており、例えば次に示す者が挙げられる。
① 化学物質管理専門家
② 作業環境管理専門家
③ 労働衛生コンサルタント
④ 第一種衛生管理者または衛生工学衛生管理者
⑤ 作業主任者(特化物、鉛、四アルキル鉛、有機溶剤のいずれか)
⑥ 安全衛生推進者
⑦ 保護具着用管理責任者教育カリキュラムを修了した者
事業者は、保護具着用管理責任者を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、選任したときは、当該保護具着用管理責任者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示すること等により関係労働者に周知させなければならない。
〇職務
保護具着用管理責任者は、有効な保護具の選択、労働者の使用状況の管理、その他保護具の保守管理にかかわる業務を行う。実際には各種保護具に関するチェックリストの作成等により管理を行うことが望まれる。
2-3. 社内の周知・啓発
改正の趣旨や具体的な実施事項について、社内の安全衛生管理の担当者間での情報共有を進める。また、経営サイドや現場で働く労働者への周知・啓発をすることで、事業場全体の共通理解を促す。改正省令で定められた内容に関するスタッフの役割を参考として一覧に示す(表2)。
表2 改正省令で定められた内容に関するスタッフの役割(まとめ)
STEP3:リスクアセスメントの実施
3-1. リスクアセスメントとは?
〇リスクアセスメントとは
労働安全衛生法に基づいたリスクアセスメントについては、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」にその内容が示されている。
当該指針において「リスクアセスメント」とは、リスクアセスメント対象物の危険性・有害性を特定し、その特定された危険性・有害性に基づくリスクを見積もることに加え、リスクの見積もり結果に基づいてリスク低減措置(リスクを減らす対策)の内容を検討する一連の流れと定義されている。
自律的な化学物質管理において事業者は、リスクアセスメントの結果に基づき、リスク低減措置を実施し、結果の記録保存と労働者への周知を行うことが求められている。
〇リスク低減措置の種類と検討の優先順位
一般的なリスク低減措置の種類と優先順位を下図に示す。①~④の順番は、より信頼性が高いリスク低減措置から順番に実施するとよいことを意味している。例えば、④の保護具の着用は火災・爆発等の発生を防ぐための方策ではなく、あくまで作業者を保護する(火災・爆発等の災害から身を守る)ことを目的としている。
① 本質的安全対策の実施
・ 危険性・有害性が高い物質の使用の中止
・ より危険性・有害性が低い物への代替
・ 使用条件の変更
・ 化学物質等の形状変更等
② 衛生工学的対策の実施
・ 機械設備の防爆構造化
・ 安全装置の二重化
・ 着火源の排除
・ 発散源の密閉化
・ 局所排気装置/全体換気装置の設置等
③ 管理的対策の実施
・ 作業手順の改善
・ マニュアルの整備
・ 定期点検の実施
・ 教育訓練の実施等
④ 有効な個人用保護具の着用
〇リスクアセスメントの重要性
たとえば危害が発生していなくても、潜在的な危険性や有害性は存在していることがあり、これらが放置されている場合、労働災害が発生する可能性が高い状態であるといえる。
技術の進歩により多種多様な機械設備や化学物質が使用されるようになり、その危険性や有害性のリスクが多様化している現在では、さらなる労働災害の減少を図る為に、後追いではなく、先取りの安全衛生対策を行うことが必要となっている。
3-2. いつ、どの物質について何を行う?
〇どの物質について行う?
義務
・ 特別規則対象物質(123物質)
・ リスクアセスメント対象物(2023年9月現在667物質、2024年4月1日234物質追加、2025年以降も追加予定)
→STEP1-3で対象物質を確認
努力義務
・ リスクアセスメント対象物以外に、GHS分類の結果、物理化学的危険性または健康有害性の危険有害性区分が付与される物質
表示対象物質を裾切値以上含む混合物、又は通知対象物質を裾切値以上含む混合物のいずれかに該当するものも、リスクアセスメントの義務の対象!
〇いつ行う?
義務
・ 新たにリスクアセスメント対象物を原材料等として採用あるいは変更することになったとき。
・ リスクアセスメント対象物を取り扱う作業方法や手順が新たに採用あるいは変更になったとき。
・ 化学物質等の危険性・有害性の情報に変化が生じたとき。
努力義務
・ 化学物質等に関連した労働災害が発生した場合のうち、過去のリスクアセスメント等の内容に問題があることがわかったとき。
・ 前回のリスクアセスメント等から一定の期間が経過し、機械設備等の経年劣化や労働者の入れ替わり、新たな安全衛生の知見が集積された場合。
・ 当該化学物質等を製造し、又は取り扱う業務について過去にリスクアセスメント等を実施したことがない場合。
・ 事業場内で取り扱うすべての物質について一度はリスクアセスメント実施の俎上に載せることを推奨。
従来から取り扱っている物質を従来どおりの方法で取り扱う場合は、リスクアセスメント実施義務の対象にはならない。ただし、過去にリスクアセスメントを行ったことがない場合には、事業場における化学物質のリスクを把握するためにも、計画的にリスクアセスメントを実施するようにする。
〇化学物質管理者は何を行う?
・ リスクアセスメント優先順位の決定(取扱量が多い、危険性・有害性が高いものを優先するなど)
・ 作業場あるいは作業者ごとのリスクアセスメントの方法の決定(「どのように行う?」を参照)
・ 決定した方法にしたがったリスクアセスメントの実施
・ リスクアセスメント結果の労働者への周知
〇どのように行う?
労働安全衛生法で求められる化学物質のリスクアセスメントにおけるリスクの見積りはその方法を事業者が自らの責任で選択、実行することができる。
リスクの見積もりは物理化学的な危険性と健康有害性の両方の項目で実施することとされており、危害の発生可能性と重大性の組み合わせで見積もる方法や数理モデルによる方法等が推奨されている。
危険性と健康有害性のそれぞれにおけるリスクアセスメントで求められていることを次に説明する。
化学物質の危険性に対するリスクアセスメント
化学物質の危険性においては、火災・爆発に至るシナリオの発生頻度(発生可能性)と火災・爆発の発生による重篤度(影響の大きさ)でリスクを見積もる。
「化学物質の危険性に対するリスクアセスメント」のサイトも参考になる!
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/houkoku/houkoku_2021_03.html
化学物質の健康有害性に対するリスクアセスメント
化学物質の健康有害性に関するリスクアセスメントは、
① 化学物質などによる有害性の種類と重篤度を特定する
② 化学物質のばく露状況を把握する
③ ①②に基づき特定された有害性に基づくリスクを見積もる
④ リスクの見積もり結果に基づいてリスク低減措置(リスクを減らす対策)の内容を検討する
ことが求められている。
〇リスクの見積もり
リスクの見積もりの方法は事業者に委ねられている。
健康有害性に関するリスクの見積もりについては次[頁左]の図に示すような様々な方法がある。
一般的には数多くの物質についておおまかなリスクを見積もり、リスク低減措置を適用してもリスクの懸念があるケースについてより精緻な評価が行われる。
実際にリスクを見積もる方法の参考として、「職場のあんぜんサイト」にてリスクアセスメントの実施支援システムが公開されている。
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/
リスクアセスメントの実施支援システムは
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/risk/risk_index.html
〇濃度基準値等の情報の有無によるフロー
リスクの見積もりを行うための情報の有無に応じて、リスクアセスメント支援ツールの活用と並行して濃度基準値等の情報を活用することができる。
化学物質の濃度基準値とその適用方法などは告示で定められている。
〇その他の参照情報
関連業界が作成しているマニュアルに従って作業方法等を確認してリスクアセスメントを実施することもできる。
【参考】職場の化学物質管理に関する業種別マニュアル等の紹介
・ 大学の自律的化学物質管理ガイドライン(第2版)2024年1月|国立大学協会(janu.jp)
・ 令和4年(2022年)度建設業における化学物質管理のあり方に関する検討委員会報告書(2023年3月)|建設業労働災害防止協会
また、特化則等に準じた措置等を確認してアセスメントを実施することもできる。
〇各リスクアセスメント手法およびその特徴
労働者のばく露濃度低減措置(ばく露濃度の最小化、濃度基準値の順守)
リスクアセスメントの結果にかかわらず、事業者は労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を次の方法等で最小限度にしなければならない。方法の詳細は前述「STEP3-1:リスク低減措置の種類と検討の優先順位」参照。
① 本質的安全対策の実施
↓
② 衛生工学的対策の実施
↓
③ 管理的対策の実施
↓
④ 有効な個人用保護具の着用
また、濃度基準値が設定された物質は、屋内作業場で労働者がばく露される程度を濃度基準値以下としなければならない。なお、リスクアセスメント対象物以外の物質も労働者がばく露される程度を最小限度にするように努めなければならない。
皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止(障害等防止用保護具の使用)
皮膚・眼刺激性、皮膚腐食性または皮膚から吸収され健康障害を引き起こしうる化学物質と当該物質を含有する製剤を製造し、または取り扱う業務に労働者を従事させる場合には、その物質の有害性に応じて、労働者に障害等防止用保護具を使用させなければならない。
① 健康障害を起こすおそれのあることが明らかな物質を製造し、または取り扱う業務に従事する労働者
↓
保護眼鏡、不浸透性の保護衣、保護手袋または履物等の適切な保護具を使用する
② 健康障害を起こすおそれがないことが明らかなもの以外の物質を製造し、または取り扱う業務に従事する労働者(①の労働者を除く)
↓
保護眼鏡、保護衣、保護手袋または履物等の適切な保護具を使用する
皮膚等障害化学物質等に該当する化学物質に関しては厚生労働省から関係通達が発出されている。
・ 皮膚等障害化学物質等に該当する化学物質について(2023年7月4日付け基発0704第1号)(20235年11月9日一部改正)
・ 皮膚等障害化学物質(労働安全衛生規則第594条の2(令和6年(2024年)4月1日施行))及び特別規則に基づく不浸透性の保護具等の使用義務物質リスト(令和5年11月9日更新、裾切値を追記)
・ 皮膚等障害化学物質の選定のための検討会報告書(2023年4月独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)
なお、個人用保護具については厚生労働省から参考情報が公表されている。
・ 化学物質による薬傷・やけど対策について
・ 労働衛生保護具(呼吸用保護具、保護具手袋、保護メガネ)
・ 防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について(令和5年5月25日付け基発0525第3号)
3-3. リスクアセスメントしたらどうする?
リスクアセスメントを実施した後はその結果の記録や実施内容に関する労働者への意見聴取、関連する健康診断の実施等が必要。これらは必ずしも化学物質管理者が主体となって実施するのではなく、衛生管理者や産業医等と連携し、適切に役割分担を行うことがのぞまれる。
STEP4:その他の4ポイントを確認
4-1. 労働者への教育
化学物質を取り扱う労働者が適切な取り扱いができるように事業者は労働者に教育を行うことが求められる。
具体的には、知識教育(取り扱う装置・設備の構造や機能、化学物質の危険性・有害性、必要な法規・社内基準等)、技能教育(訓練)(作業方法、操作方法、緊急時対応の定期訓練等)、態度教育(化学物質の取扱いによる利益・不利益、危険性の五感での体感等)が挙げられる。
このほかに今回の自律的な化学物質管理の実施において教育に関する対応の変更点は次のとおり。
雇い入れ時の教育の拡充
雇い入れ時等の教育のうち、特定の業種では一部教育項目の省略が認められていたが、この省略規定が廃止される。危険性・有害性のある化学物質を製造し、または取り扱う全ての事業場で、化学物質の安全衛生に関する必要な教育を行わなければならない。また、作業内容が変更された場合も危険有害業務に関する教育が必要。
労働者がラベル表示に記載されている危険有害性情報や注意事項を理解したうえで働けるように教育することが大事!
なお、厚生労働省では、化学物質管理に関する社内安全衛生教育用eラーニング教材を作成して公表している。
化学物質を安全に取り扱うために大事なことやラベルの見方、SDSの読み方、関連法規制と危険有害性等の内容が説明されている。
また、外国語版の教育用資料として、絵表示やGHSラベル学習用テキストの外国語版も公開されている。
職長等に対する安全衛生教育
安衛法第60条の規定で、事業者は、新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導または監督する者に対し、安全衛生教育を行わなければならないとされている。その対象業種に、以下の業種が追加される。
・ 食料品製造業
※食料品製造業のうち、うま味調味料製造業と動植物油脂製造業は、すでに職長教育の対象。
・ 新聞業
・ 出版業
・ 製本業
・ 印刷物加工業
4-2. ラベル表示、SDS交付
労働安全衛生法において、事業者は、当該製品の危険性・有害性に関する情報を特定し(GHS分類を実施し)、危険性・有害性を示す製品の危険性・有害性や取り扱い上の注意事項についてラベル表示やSDS交付によって情報伝達を行うことが求められている。事業者に選任された化学物質管理者はラベル表示及びSDSの内容の適切性の確認等を行うことでこれらの作業を管理する。
また、STEP4-1に示したとおり事業者は、労働者がラベル表示に記載されている各項目の意味、特に危険有害性情報を正しく理解するように教育する必要がある。
[〇検索サイトで調べられる情報/〇対象物質について、一覧STEP4-1参照]
実施すべき事項
化学物質を取り扱う人にラベル表示やSDSによって直接的にその危険性・有害性を知らせることで災害防止対策をとることが重要で、ラベル表示は直接的に労働者等にわかりやすく危険性・有害性を伝えるために、またSDSは事業者間でのさらに詳しい情報伝達のための手段と位置付けられている。
〇ラベル表示
労働安全衛生法及び労働安全衛生規則で定められているラベル表示に記載すべき項目は厳密にはGHSに規定されたラベル表示の項目とは異なるが、GHSに基づいたラベル表示を行うことで、法及び安衛則で定められているラベル表示に記載すべき項目は満足するとされている。
[GHSに基づいたラベル表示の例-省略]
①製品の名称/②注意喚起語/③シンボル、絵表示/④危険有害性情報/⑤注意書き/⑥供給者/⑦補足情報
〇SDSの作成・提供
労働安全衛生法及び労働安全衛生規則で定められているSDSに記載すべき項目は厳密にはGHSに従ったSDSとは異なるが、GHSに基づいた(実際にはGHSに準拠した日本産業規格JISZ7253)SDSを作成することで、法及び安衛則で定められているSDSに記載すべき項目は満足するとされている。下記にJISZ7253:2019に基づいたSDSに記載される項目を示す。
化学品及び会社情報/物理的及び化学的性質/危険有害性の要約/安定性及び反応性/組成及び成分情報/有害性情報/応急措置/環境影響情報/火災時の措置/廃棄上の注意/漏出時の措置/輸送上の注意/取扱い及び保管上の注意/適用法令/ばく露防止及び保護措置/その他の情報
SDSについては厚生労働省のパンフレットが参考になる。
・ -GHS対応-化管法・安衛法・毒劇法におけるラベル表示・SDS提供制度
モデルSDSが職場のあんぜんサイトで公開されている。
・ GHS対応モデルラベル・モデルSDS情報
混合物のSDSを作成する際にはNITE-Gmiccsを利用することができる。
・ NITE-Gmiccs
〇ラベル表示およびSDS等に関連する適用事項
今回の自律的な化学物質管理の実施においてラベル表示およびSDS等に関連する対応の変更点は次のとおり。
・SDS等の「人体に及ぼす作用」の定期確認と更新
SDSの通知事項である「人体に及ぼす作用」を、定期的に確認し、変更があるときは更新しなければならない。更新した場合は、SDS通知先に、変更内容の通知が必要。※1:現在SDS交付が努力義務となっている安衛則第24条の15の特定危険有害化学物質等も、同様の更新と通知が努力義務となる。
5年以内ごとに1回、記載内容の変更の要否を確認
↓
変更があるときは、確認後1年以内に更新
↓
変更をしたときは、SDS通知先に対し、変更内容を通知
・ SDS等による通知事項の追加と含有量表示の適正化
SDSの通知事項に「(譲渡提供時に)想定される用途及び当該用途における使用上の注意」が追加される。
※:譲渡提供を受けた相手方は、想定される用途以外の用途で使用する場合には、使用上の注意に関する情報がないことを踏まえ、当該物の有害性等をより慎重に検討した上でリスクアセスメントを実施し、その結果に基づく措置を講ずる必要がある。
SDSの通知事項である、成分の含有量の記載について、原則として重量パーセントの通知※1が必要であるが、製品の特性上、含有量に幅があるものは、濃度範囲の表記も可能。また、重量パーセントへの換算方法を明記していれば重量パーセントによる表記を行ったものとみなされる。
※1:重量パーセントの通知は、十パーセント未満の端数を切り捨てた数値と当該端数を切り上げた数値との範囲をもって行うことができるとされている。
・ 化学物質を事業場内で別容器等で保管する際の措置の強化
安衛法第57条で譲渡・提供時のラベル表示が義務付けられている化学物質(ラベル表示対象物)について、譲渡・提供時以外も、以下の場合はラベル表示・文書の交付その他の方法で、内容物の名称やその危険性・有害性に関する情報を伝達しなければならない。
・ ラベル表示対象物を、他の容器に移し替えて保管する場合
・ 自ら製造したラベル表示対象物を、容器に入れて保管する場合等
・ SDS等による通知方法の柔軟化
SDS情報の通知手段は、譲渡提供をする相手方がその通知を容易に確認できる方法であれば、事前に相手方の承諾を得なくても、ホームページアドレスの伝達によって閲覧を求める方法等を採用できることになった。
改正前
・ 文書の交付
・ 相手方が承諾した方法(磁気ディスクの交付、FAX送信など)
改正後
事前に相手方の承諾を得ずに、以下の方法で通知が可能
・ 文書の交付、磁気ディスク・光ディスクその他の記録媒体の交付
・ FAX送信、電子メール送信
・ 通知事項が記載されたホームページのアドレス、二次元コード等を伝達し、閲覧を求める
4-3. がん原性物質への対応
がん原性物質については、労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針によって、対象物質へのばく露を低減するための措置等が定められている。
〇がん原性物質の対象物質
・ 労働安全衛生規則第577条の2の規定に基づき作業記録等の30年間保存の対象となる化学物質の一覧(2023年4月1日適用分)
〇実施すべき事項
4-4. 労働災害時の対応
〇労働災害時を想定したマニュアル等の作成
労働災害の発生またはそのおそれのある事業場について、労働基準監督署長が、化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると判断した場合は、当該事業者に対し、改善を指示することができる。
改善の指示を受けた事業者は、化学物質管理専門家(厚生労働大臣告示で定める要件を満たす者)から、リスクアセスメントの結果に基づき講じた措置の有効性の確認と望ましい改善措置に関する助言を受けた上で、1か月以内に改善計画を作成し、労働基準監督署長に報告し、必要な改善措置を実施しなければならない。
そこで、化学物質管理者は、不安全行為やヒヤリハット等の実際の災害には至らなかったケースを含め、労働災害の発生への備えとして災害防止対策及び災害時対応に対する産業医、作業主任者、衛生管理者等との役割を改めて明確にして、マニュアル等を作成しておくことが推奨される。
※ケミサポは、今回紹介した「事業者が実施すること」「実施スケジュール」のほか、「なぜ変わるの?」「どう変わるの?」「サポート」に関する情報も提供している。
安全センター情報2024年5月号