総特集/新たな化学物質規制令和5(2023)年度分施行/「ばく露最小限」義務不徹底、保護具偏重で終わらないか~「確認測定」とリスクアセスメントは調和するか

2023年度分12項目が施行

目次

「新たな化学物質規制」については、2022年8月号等で解説してきた。表1は、「新たな化学物質規制項目と施行期日」を要約したものであるが、2023年4月1日からは、22項目中、令和5年度施行分の12項目が施行されている。

厚生労働省は、「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について~労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))等の内容」に、関係法令、関係通達等、報道発表資料、パブリックコメントで寄せられたご意見等、対象物質の一覧、参考資料等を順次追加している。

2023年4月1日施行分の施行に当たって追加された主なものは、以下のとおりである。

なお、「化学物質に係る専門家検討会」(令和4(2022)年度令和5(2023)年度)が開催されていて、令和4(2022)年度には、11月21日に「中間取りまとめ」(2023年1・2月号)、2023年2月10日に「報告書」(2023年5月号)が公表され、その後も検討が継続されている。

以降、「法」は労働安全衛生法、「令」は労働安全衛生法施行令を言い、労働安全衛生規則等は「安衛則」等と記載している。

① 義務対象物質の大幅拡大

今回の見直しの全体像については2022年8月号の解説記事等を参照していただきたいが、その主眼は、ラベル表示・SDS(安全データシート)交付・リスクアセスメントの3点セットの義務付けという法による規制の枠組みの見直しではなく、その適用対象を大幅に拡大するということである。

ここで言う、ラベル表示は労働安全衛生法(以下「法」)第57条、SDS交付は法第57条の2、リスクアセスメントは法第57条の3に規定され、その対象物質は政令(労働安全衛生法施行令(以下「令」))で定める危険有害化学物質である(改正安衛則ではこれを「リスクアセスメント対象物」と言うとしているが、厳密に言えば「法第57条の3の規定によるリスクアセスメント等義務対象物」)である。リスクアセスメントは法第28条の2でも規定されており、こちらは義務ではなく努力義務とされ、政令で定めるリスクアセスメント等対象物質を除いたすべての化学物質を含めた、また、化学物質以外を含めた危険性又は有害性が対象であることに注意が必要である。

●知っておくべき製造・取扱化学物質等の区分

後述の解説を含め、先まわりして整理しておくと、「化学物質製造・取扱事業者及び労働者が知っていなければならない区分」は表2のとおりである。
今回の見直しでは、政令で定めるリスクアセスメント等義務対象物質を、これまでの「許容濃度または曝露限界値が示されている危険有害物質」から、国がGHS(化学品の分類及び表示に関する国際調和システム)に基づく危険性・有害性分類を行い、危険性・有害性が確認されたすべての対象物質とするとされている。

●リスクアセスメント等義務対象物質の拡大

具体的には、2022年2月24日付け政令第51号により、「2020年度までに国によるGHS分類の結果、発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性及び急性毒性のいずれかの有害性クラスで区分1相当の有害性を有する物質」(令和4年基発0224第1号)234物質が追加され、2024年4月1日から施行される(ただし、施行の日において現に存するものについては、ラベル表示義務の規定は2025年3月31日までの間、適用しないとする経過措置がとられている)。

これにより具体的には234物質が追加されたが、「追加対象物に包含される等の理由により削除される物質もあるため、改正後の表示及び通知対象物の数は903物質」(それまでは674物質)となる。また、新たに追加された234物質の裾切り値(製剤等について、当該物質の含有量がその値未満の場合に、法第57条第1項の表示及び第57条の2第1項の通知の対象とならない値)も定められている(安衛則別表第2)。

※674物質:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html
※234物質:https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001039137.xlsx

表3・4は、「テキスト」掲載の表を改編したものであるが、今後、政府によるGHS分類が終了した物質は表2のようなスケジュールで、ラベル表示・SDS(安全データシート)交付・リスクアセスメントが義務化される予定である。

2021年度追加の234物質は急性毒性、生殖細胞変異原性、発がん性、生殖毒性のいずれかが区分1のもの(2024年4月1日施行)、2022年度追加予定(実際には2023年度にずれこんでいる)の約700物質はそれ以外の健康有害性のいずれかが区分1のもの(2025年4月1日施行予定)、2023年度追加予定の約850物質は健康有害性が区分1以外の区分又は危険性区分があるもの(2026年4月1日施行予定)である。それ以前からの674物質を加えると約2,450物質となるという。

政府によるGHS分類結果は製品評価技術基盤機構(NITE)のホームページで公表されており、2021年までに約3,200物質あるが、環境有害性のみを有する物質もあるために労働安全衛生法上は約2,900物質であり、さらに物質の数え方(単体か包括的か)等もあるために数字が異なると説明されている。

毎年50~100物質のペースで続き、2024年度には2021~23年度分の150~300物質の追加が予定され、その後は、前年度の50~100物質が翌年度に順次追加されることが予定されている。

●義務対象物質の規定方法の変更

なお、法第57条のラベル表示対象物質は令第18条、第57条の2のSDS交付対象物質は、令第18条の2に基づき、特定化学物質第1類物質(令別表第3第1号)のほか、令別表第9に個々の物質名を列挙するかたちで規定されている。

この規定方法を、「対象物質の性質や基準を包括的に示し、規制対象の外枠を規定する方法へと変更する」等の令及び則改正案に関するパブリックコメント手続が行なわれ、2023年6月上旬交付予定、2025年4月1日施行予定である。パブリックコメントでは、令改正によって追加される予定の約700物質(2025年4月1日施行予定)及び約850物質(2026年4月1日施行予定)のリストも参考資料として示されている。

② ばく露を最小限度にする義務

そのうえで、今回の規制見直しの中心(になるべきもの)は、新設された安衛則577条の2第1項及び第577条の3「ばく露の程度の低減等」であろう。

第1に、「事業者は、化学物質を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、

① 代替物の使用
② 発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働
③ 作業の方法の改善
④ 有効な呼吸用保護具を使用させる

こと等必要な措置を講じることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にする」という事業者の義務が新設された。

法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物については則第577条の2第1項として「しなければならない」義務であり、リスクアセスメント対象物以外の化学物質については則第577条の3として「するよう努めなければならない」努力義務であるが、講ずべき措置の内容はまったく同じ規定である。

ともに2023年4月1日から施行されているが、リスクアセスメント対象物は、最初の1年間は対象物質が674物質にとどまり、2024年4月1日から234物質が追加され(合計では903物質)、その後も既述のとおりに追加されていくことになる。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「本規定[則577条の2第1項及び第577条の3]における『リスクアセスメント』とは、法第57条の3第1項の規定により行われるリスクアセスメントをいうものであり[編注:則第577条の3の場合は法第28条の2第1項のリスクアセスメントと解すべきである]、安衛則第34条の2の7第1項に定める時期において、化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成27年9月18日付け危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号)[編注:改正済み]に従って実施すること。
ただし、事業者は、化学物質のばく露を最低限に抑制する必要があることから、同項のリスクアセスメント実施時期に該当しない場合であっても、ばく露状況に変化がないことを確認するため、過去の化学物質の測定結果に応じた適当な頻度で、測定等を実施することが望ましいこと。」

この化学物質リスクアセスメント指針が2023年4月27日付けで改正され(令和5年公示第24号)、解説通達も発出された。詳しくは、6月号に指針と解説通達を対照できるようにして、改正部分に傍線を付して紹介しているので参照していただきたい。

旧指針で「化学物質等」とされていた表現は、新指針ではすべて「リスクアセスメント対象物」に置き換えられている。

●リスクアセスメントの実施内容・実施体制等

「実施内容」の項目は以下のとおりで変わっていないが、②については括弧書きで「濃度基準値が定められている物質について、屋内作業における労働者のばく露の程度が濃度基準値を超えるおそれの把握を含む」が追加され、また、③について「リスクアセスメント対象物への労働者のばく露の程度を最小限度とすること及び濃度基準値が定められている物質については屋内事業場における労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とすることを含めたリスク低減措置の内容の検討」と下線部分が追加された(以下、下線は変更部分)。

① 危険性又は有害性の特定
② リスクの見積もり
③ リスク低減措置の内容の検討
④ リスク低減措置の実施
⑤ リスクアセスメント結果記録及び保存並びに周知

「実施体制等」では、新たに選任が義務付けられる「化学物質管理者を選任し、安全管理者又は衛生管理者が選任されている場合にはその管理の下、化学物質管理者にリスクアセスメント等に関する技術的事項を管理させること」等とされた。

また、「リスクアセスメント等の実施を決定する段階において労働者を参画させること」の内容として、(安全衛生等の)委員会における調査審議に加えて、旧指針にあった「当該委員会が設置されていない場合」という限定を削除して、「リスクアセスメント等の対象業務に従事する労働者に化学物質の管理の実施状況を共有し、当該管理の実施状況について、これらの労働者の意見を聴取する機会を設け」ることと整理されている。

●リスクアセスメントの実施時期

「実施時期」は、以下とおりとされている。

(1) 法令上の実施義務

① リスクアセスメント対象物を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき
② リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき
③ リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性等についての情報に変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき(新指針では、以下が含まれると示された。)

  • 過去の提供された安全データシート(SDS)の危険性又は有害性に関する情報が変更され、その内容が事業者に提供された場合
  • 濃度基準値が新たに設定された場合又は当該値が変更された場合

(2) リスクアセスメント指針による実施努力義務

リスクアセスメント対象物に係る労働災害が発生した場合であって、過去のリスクアセスメント等の内容に問題があることが確認された場合
② 前回のリスクアセスメント等から一定の期間が経過し、リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の経年による劣化、労働者の入れ替わり等に伴う労働者の安全衛生に係る知識経験の変化、新たな安全衛生に係る知見の集積等があった場合
③ 既に製造し、又は取り扱っていた物質がリスクアセスメント対象物として新たに追加された場合など、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務について過去にリスクアセスメント等を実施したことがない場合」

テキスト」では、「事業場内の取扱い物質全てについて一度はリスクアセスメントを実施するべきであろう」。「リスクアセスメントは事業場内のすべての物質を考慮し優先順位をつけて実行することが原則であるが、『義務対象の物質および重大なリスクが懸念される何等かの情報がある物質』については、直ちに実施すべきである」とも言っている。

●対象の選定、情報の入手等、危険性等の特定

旧指針では「事業場におけるすべての化学物質等による危険性又は有害性等を調査等の対象とすること」としていたが、新指針では「事業場において製造又は取り扱う全てのリスクアセスメント対象物をリスクアセスメント等の対象とする」と変更されている。

「情報の入手等」に大きな変更はなく、「危険性又は有害性の特定」では、濃度基準値等と「皮膚等障害化学物質への該当性」が追加されたことが特徴であろう。

●リスクの見積り

リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性並びに当該リスクアセスメント対象物を取り扱う作業方法、設備等により業務に従事する労働者に及ぼし、又は当該労働者に危険を及ぼし、又は当該労働者に健康障害を生ずるおそれの程度及び当該危険又は健康障害の程度(「リスク」)の見積り」という定義に、基本的に変更はない。

旧指針では、「次に掲げるいずれかの方法(危険性に係るものにあっては(1)又は(2)に限る)により、又はこれらの方法の併用による」とされ、以下の方法を例示していた。

(1) 危険又は健康障害の発生可能性及び重篤度を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸とし、あらかじめ発生可能性及び重篤度に応じてリスクが割り付けられた表を使用してリスクを見積もる方法-具体的方法として、①マトリクスを用いた方法、②数値化による方法、③コントロール・バインディング、④化学プラントセーフティ・アセスメント指針による方法を例示

(2) ばく露の程度及び有害性の程度を考慮する方法-具体的には以下を例示したうえで、①の方法を採ることが望ましいとしていた。

① 作業環境測定等により測定した作業場所における気中濃度等を、ばく露限界と比較する方法
② 数理モデルを用いて気中濃度を推定し、ばく露限界と比較する方法
③ ((1)①の方法の縦軸と横軸を有害性と曝露の程度に置き換えた)マトリクスを用いた方法

(3)(1)又は(2)に掲げる方法に準ずる方法-具体的には以下を例示

① 特別規則対象物質及び危険物に該当する物質については、対応する特別則等の各条項の履行状況を確認する方法
② 危険物ではないが危険物と同様の危険性を有する物について、SDS記載の危険性の種類を確認し、当該危険性と同種の危険性を有し、かつ、具体的措置が規定されている物に係る当該規定を確認する方法

新指針では、これらの方法の区分と具体例はそのまま維持したうえで、以下のように、(2)及び(3)に新たにいくつかの方法の例示を追加している。

(2) ばく露の程度及び有害性の程度を考慮する方法-具体的には以下を例示(「採ることが望ましい」方法は指示していない。)

管理濃度が定められている物質については、作業環境測定により測定した第一評価値を管理濃度と比較する方法
濃度基準値が設定されている物質については、個人ばく露濃度測定により測定した濃度を濃度基準値と比較する方法
管理濃度又は濃度基準値が設定されていない物質については、旧指針(2)①の方法
④⑤ 旧指針の(2)②③と同じ
⑥ 解説通達で、以下にも留意することと追加されている。

  • 生物学的モニタリングによりばく露レベルを推定する方法もある
  • 既に感作されている場合や通常よりも高い感受性を示す場合については、濃度基準値又は曝露限界値との比較によるリスクの見積りのみでは不十分な場合があることに注意が必要
  • 経皮吸収による健康障害が懸念される物質については、(1)の方法も考慮すること

(3) (1)又は(2)に掲げる方法に準ずる方法-具体的には以下を例示

①② 旧指針の(3)①②と同じ
毎回異なる環境で作業を行う場合において、典型的な作業を洗い出し、あらかじめ当該作業において労働者がばく露される物質の濃度を測定し、その測定結果に基づくリスク低減措置を定めたマニュアル等を作成するとともに、当該マニュアル等に定められた措置が適切に実施されていることを確認する方法

なお、以上に掲げる方法は、「代表的な手法の例であり、(1)(2)(3)の柱書きに定める事項を満たしている限り、他の手法によっても差し支えないこと」という解説通達の記述も維持されている。

また、「解説通達」で「留意事項」として、「GHS分類において特定標的臓器毒性(単回ばく露)区分3に分類されるリスクアセスメント対象物のうち、麻酔作用を有するものについては…危険又は健康障害が生ずる可能性を増加させる場合があることを考慮することが望ましいこと」が追加された。

(2)の①②③は「気中濃度等を実際に測定し、管理濃度、濃度基準値又はばく露限界と比較する方法」であり、(3)の③も「濃度の測定」を伴うもので、総じて旧指針と比べて濃度測定の比重が増している。また、(2)の④の数理モデルを用いた推定方法の解説として、「厚生労働省が提供している簡易リスクアセスメントツールであるCREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)を用いて気中濃度を推定する方法」が追加されている。

テキスト」は、「リスクアセスメント手法(リスクの見積もり)」として「危険性」と「健康有害性」に分けて解説し、「化学物質の危険性に対するリスクアセスメント等を実施するための手法・ツール」(表5)、「(化学物質の健康有害性に対するリスクアセスメント手法の比較」(表6)も示しているが、リスクアセスメント指針に準拠した内容にはなっていない。

●リスク低減措置の検討及び実施

「リスク低減措置の検討及び実施」は、「次に掲げる優先順位でリスクアセスメント対象物に労働者がばく露する程度を最小限度とすることを含めたリスク低減措置の内容を検討するものとする」と、下線部分が変更及び追加された。

①危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱うリスクアセスメント対象物の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減
②リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の防爆構造化、安全装置の二重化等の工学的対策又はリスクアセスメント対象物に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等の衛生工学的対策
③作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策
リスクアセスメント対象物の有害性に応じた有効な保護具の選択及び使用

「リスク低減措置に要する負担がリスク低減による労働災害防止効果と比較して大幅に大きく、両者に著しい不均衡が発生する場合であって、措置を講ずることを求めることが著しく合理性を欠くと考えられるときを除き、可能な限り高い優先順位のリスク低減措置を実施する必要があるものとする」。
以上は基本的に変更がなく、以下の解説通達の記述もそのまま維持されている。

解説通達で③の例として、「作業時間の短縮」が追加されている。
これは、「合理的に実行可能な限り、より高い優先順位のリスク低減措置を実施することにより、『合理的に実現可能な程度に低い』(ALARP:As Low As Reasonably Practicable)レベルにまで適切にリスクを低減するという考え方を定めたものであること」という記述も維持されている。
他方で、「ただし…リスクの見積り結果として」、旧指針では「ばく露濃度等がばく露限界を相当程度下回る場合」、新指針では「労働者がばく露される程度が濃度基準値又は曝露限界値を十分に下回ることが確認できる場合」には、「当該リスクは許容濃範囲内であり、追加のリスク低減措置を検討する必要がないものとして差し支えないこと」という記述も残されてしまっている。

●結果等の労働者への周知等・その他

「リスクアセスメント結果等の労働者への周知等について」については、周知が「安衛則第34条の2の8第2項の規定に基づく方法によること」とされ、また、安衛則第34条の2の8第1項に基づき、労働者に周知する事項について、「記録を作成し、次にリスクアセスメントを行なうまでの期間(リスクアセスメントを行った日から起算して3年以内に当該リスクアセスメントを行なったときは、3年間)保存しなければならない」としている(⑨を参照されたい)。

最後に「その他」として、「リスクアセスメント対象物以外のものであって、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者に危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものについては、法第28条の2及び安衛則第577条の3に基づき、この指針に準じて取り組むよう努めること」とされている。

●ばく露を最小限度にする義務

新設された義務と関連する改正は、「実施内容」と「リスク低減措置の検討及び実施」の2か所で、「リスクアセスメント対象物に労働者がばく露する程度を最小限度とすることを含めたリスク低減措置」と、下線部分が追加されたことである。

しかし、最小限度の判断に関する考え方は、新指針・解説通達や令和4年施行通達を含め、どこにも示されていない。

Q&A」に「『労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度にすること』の最小限度の目安は?」という設問があって期待したのだが、回答は以下のとおりである。

「ばく露濃度の最小限度の基準はありませんが、各事業場でリスクアセスメントを実施した結果を踏まえて、ばく露濃度を最小限に抑えていただくことが必要となります。なお、日本産業衛生学会の許容濃度、ACGIHのTLV-TWA等が設定されている物質については、これらの値を参考にリスクアセスメントを実施し、ばく露濃度を最小限に抑える方法などの方法もあり、各事業場に応じた自律的な管理をお願いします。」

テキスト」には、67頁に「リスクアセスメントの結果に基づくリスク低減措置には、労働者のばく露の程度を必要最小限度とする措置を含める必要があり」という記述が登場するが、「必要最小限度」が何を意味するのか、また、則第577条の2第1項・第577条の3の義務との関係も説明されていない。

新たな義務・努力義務を導入しながら、きわめて不徹底である。

後述の「労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認する方法」について、「事業者において決定されるもの」としながらも、「労働基準監督機関に対して、労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを明らかにできる必要があること」と同趣旨の考え方を示すべきである。

論理的に考えれば、「最小限度にする」とは、「合理的に実現行可能な程度に低いレベルにする」ことであると解するべきであり、新指針と解説通達にそのことを明記すべきである。

ばく露の程度が「濃度基準値…を十分に下回ることが確認できる場合」には、「追加のリスク低減措置を検討する必要がないものとして差し支えない」という解釈は、新設された義務に違反する可能性すらある。2022年11月21日公表の「化学物質管理に係る専門家検討会中間取りまとめ」は、ばく露を最小化する義務と濃度基準値以下にする義務の「規定には優劣はなく、これらの規定に基づく措置を等しく実施することが必要なものである」という「基本的考え方」を示している。たとえ濃度基準値を下回ることが確認できたとしても、ばく露を最小限度にするために「追加のリスク低減措置を検討する必要はある」と解すべきである。

これらの点については、新指針と解説通達の改正を求めたい。また、本誌が以前から指摘しているように、「ばく露」を最小限度とする義務ではなく、「リスク」を最小限度とする義務とすべきである。

さらに、リスクアセスメント及びその結果に基づくリスク低減措置は、労働安全衛生マネジメントシステム(OSH-MS)の一環に位置付けられる必要があるという視点も忘れられてはならない。

則第24条の2は、OSH-MSを、次に掲げる一連の過程を定めて行う活動として示している。

① 安全衛生に関する方針の表明
② 法第28条の2第1項又は第57条の3第1項及び第2項のリスクアセスメント及びその結果に基づき講ずる措置
③ 安全衛生に関する目標の設定
④ 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善

リスク低減措置は、安全衛生目標・計画との関連も含めて検討及び実施されなければならないということである。これに関する言及も新指針と解説通達でなされていないので、補足が必要である。

いずれにせよ、後述の⑤、⑥、⑨の講じたばく露低減措置についての意見聴取等や衛生委員会付議事項、リスクアセスメントの結果の記録の作成、保存及び周知義務も活用してリスクアセスメントの実効性を確保する必要がある。

●個人保護具について

なお、「テキスト」は、「リスクアセスメント手法(リスク低減対策)」で、危険性及び健康有害性に対する「リスク低減措置検討・実施の順番」と並べて、「個人用保護具」についても項目を設けている。

「危険性」に対しては、「次の2つの考え方を組み合わせて検討すると良い」として、表7及び表8を示して解説している。後者は、「リスクアセスメント指針の第10項には、次の順番でリスク低減措置を検討することとされている」と紹介されている。「(A)→(B)→(C)→(D)の順番は、より信頼性が高いリスク低減措置から順番に実施するとよいことを意味している」とする一方で、「ワンポイント解説」と称して、「『(D)保護具の着用』は最も低い優先順位となっているが、現場では非定常なトラブル(漏洩等)が起こる可能性もあることから、労働者保護(労災防止)のために保護具を着用することは、極めて重要な方策とも言える」ともしている。

「健康有害性」に対しては、表9の内容を示して、「リスク評価の結果、許容できないリスクレベルと評価された場合には、次の優先順位にしたがってリスク低減措置を検討し、具体的に実施する必要がある」、「いくつかの低減措置が考えられる場合には、措置を講ずることを求めることが著しく合理性を欠くと考えられる場合を除き、可能な限り高い優先順位のリスク低減措置を実施する必要がある」等としている。

「個人用保護具」については、後出の「濃度基準値以下にする義務」との関連で、「呼吸用保護具を適切に選択・装着して、労働者の呼吸域の化学物質濃度を濃度基準値以下にすることも対応策として認められている」ことにふれる一方で、「ただし、呼吸用保護具を適切に使用するためには訓練が必要であり、本質安全化、化学物質対策等の信頼性と比較して、呼吸用保護具は最も低い優先順位であることを、化学物質管理者は理解しておく必要がある」ともしている。歯切れの悪い叙述である。

最初の化学物質リスクアセスメント指針の解説通達(平成18年基発第0330004号)は、「個人用保護具の使用」により、優先順位の高い他の措置の「代替を図ってはならないこと」と明記していた。

なお、2023年5月25日付け基発0525第3号「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について」が示された。2005年に示された通達の全面改正である。

③ 濃度基準値以下にする義務

安衛則第577条の2第2項として、法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物のうち「一定程度のばく露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがない物として厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)を行う屋内作業場」においては、事業者は、「当該業務に従事する労働者がこれらの物にばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準[濃度基準値]以下としなければならない」という義務も新設されたが、施行日は、労働者がばく露される程度を最小限度にする義務の場合よりも1年遅い、2024年4月1日である。

令和4年施行通達では、以下のように解説されていた。

「本規定の『厚生労働大臣が定める濃度の基準』については、順次、厚生労働大臣告示で定めていく予定であること。なお、濃度基準値が定められるまでの間は、日本産業衛生学会の許容濃度、米国政府労働衛生専門家会議(ACGIH)のばく露限界値(TLV-TWA)等が設定されている物質については、これらの値を参考にし、これらの物質に対する労働者のばく露を当該許容濃度等以下とすることが望ましいこと。
本規定の労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認する方法には、次に掲げる方法が含まれること。この場合、これら確認の実施に当たっては、別途定める事項に留意する必要があること。
① 個人ばく露測定の測定値と濃度基準値を比較する方法、作業環境測定(C・D測定)の測定値と濃度基準値を比較する方法
② 作業環境測定(A・B測定)の第一評価値と第二評価値を濃度基準値と比較する方法
③ 厚生労働省が作成したCREATE-SIMPLE等の数理モデルによる推定ばく露濃度と濃度基準値と比較する等の方法」

●濃度基準告示と適用等に関する技術上の指針

2023年4月27日付けで、濃度基準告示及び解説通達が示されるとともに、「リスクアセスメント指針と相まって、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業者において、安衛則等の規定が円滑かつ適切に実施されるよう、濃度基準値及びその適用、労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認するための方法、物質の濃度の測定における試料採取方法及び分析方法並びに有効な保護具の適切な使用方法等について、法令で規定された事項のほか、事業者が講ずべき事項を一体的に規定した」技術上の指針及び周知通達が示された。

●濃度基準値の設定基準と定義等

濃度基準告示では、67物質が定められ、濃度基準は、8時間時間加重平均値(「8時間濃度基準値」)及び15分間時間加重平均値(「短時間濃度基準値」)として設定され(物質によって、両方が設定される物質、いずれか一方が設定される物質がある)、適用期日は2024年4月1日とされている。

テキスト」によれば、濃度基準値の設定物質の選定基準は表10のとおり(2023年3月時点)で、濃度基準値の定義は表11のように整理されている。濃度基準告示の解説通達は、「各物質の濃度基準値は、原則として、収集された信頼のおける文献で示された無毒性量等に対し、不確実計数等を考慮の上、決定されたものである。各物質の濃度基準値は、設定された時点での知見に基づき設定されたものであり、濃度基準値に影響を与える新たな知見が得られた場合等においては、再度検討を行う必要があるものであること」。また、8時間濃度基準値は、「この濃度以下のばく露においては、おおむね全ての労働者に健康障害を生じないと考えられているものであること」とされている。

以下のようにされていることにも留意されたい。

  • 特定化学物質等障害予防規則等の特別規則の適用のある物質については、特別規則による規制との二重規制を避けるため、濃度基準値を設定していない。
  • ヒトに対する発がん性が明確な物質については、発がんが確率的影響であることから、長期的な健康影響が発生しない安全な閾値である濃度基準値を設定することは困難であるため、濃度基準値の設定がなされていない。これらの物質については、技術上の指針別表1の※5に示されており、事業者は、有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用等により、労働者がこれらの物質にばく露される程度を最小限度としなければならないこと[編注:既述のとおり、後半は濃度基準値が設定されている物質についても該当する]。
  • 呼吸用保護具を使用していない場合は、労働者の呼吸域において測定される濃度であり、呼吸用保護具を使用している場合は、呼吸用保護具の内側の濃度で表されること。呼吸用保護具を使用している場合、労働者の呼吸域における物質の濃度が濃度基準値を上回っていたとしても、有効な呼吸用保護具の使用により、労働者がばく露される物質の濃度を濃度基準値以下とすることが許容されることに留意すること。ただし、実際に呼吸用保護具の内側の濃度の測定を行うことは困難であるため、労働者の呼吸域における物質の濃度を呼吸用保護具の指定防護計数で除して、呼吸用保護具の内側の濃度を算定することができること。

最後の点は、リスク管理のヒエラルキーの原則からの大きな逸脱であることを認識すべきである。

●濃度基準について事業者が努める事項

事業者は、8時間濃度基準値及び短時間濃度基準値として設定された濃度の基準を超えてはならないが、「次に掲げる事項を行うよう努めなければならない」ともされた(努力義務)。

8時間濃度基準値及び短時間濃度基準値が定められている物質については、15分間時間加重平均値が8時間濃度基準値を超え、かつ、短時間濃度基準値以下の場合にあっては、毒t性学の見地から、複数の高い濃度のばく露による急性健康障害を防止するため、15分間時間加重平均値が8時間濃度基準値を超える最大の回数を4回とし、最短の間隔を1時間とすること。

8時間濃度基準値が設定されているが、短時間濃度基準値が設定されていない物質については、8時間濃度基準値が均等なばく露を想定して設定されていることを踏まえ、毒性学の見地から、短期間に高濃度のばく露を受けることは避けるべきであること。このため、たとえば、8時間中ばく露作業時間が1時間、非ばく露作業時間が7時間の場合に、1時間のばく露作業時間において8時間濃度基準値の8倍の濃度のばく露を許容するようなことがないよう、作業中のいかなるばく露においても、15分間時間加重平均値が、8時間濃度基準値の3倍を超えないようにすること。なお、この場合、15分間時間加重平均値が8時間濃度基準値を超える回数の制限はないが、人体への有害性を考慮し、できる限り回数を減らすことが望ましいとされている。

③ 天井値については、眼への刺激性等、非常に短い時間で急性影響が生ずることが疫学調査等により明らかな物質について規定されており、いかなる短時間のばく露においても超えてはならない基準値であること。事業者は、濃度の連続測定によってばく露が天井値を超えないように管理すること[編注:現時点における連続測定手法の技術的限界を踏まえ、その実施については努力義務とされていると説明されている]。

混合物に含まれる複数の化学物質が、同一の毒性作用機序によって同一の標的臓器に作用する場合、それらの物質の相互作用によって、相加効果や相乗効果によって毒性が増大するおそれがある。しかし、複数の化学物質による相互作用は、個別の化学物質の組み合わせに依存し、かつ、相互作用も様々である。これを踏まえ、混合物への濃度基準値の適用においては、混合物に含まれる複数の化学物質が、同一の毒性作用機序によって同一の標的臓器に作用することが明らかな場合には、それら物質による相互作用を考慮すべきであるため、定められた相加式[編注:換算式が示されている]を活用してばく露管理を行うこと。

●リスクアセスメント指針との関係

以上は、主に解説通達の記述による濃度基準告示の内容であるが、既述のとおり、改正化学物質リスクアセスメント指針にも、濃度基準値に関連した追加が加えられている。

それらの趣旨は、「実施内容」で、リスクの見積りについて括弧書きで「濃度基準値が定められている物質については、屋内事業場における労働者のばく露の程度が濃度基準値を超えるおそれの把握を含む」が、また、「リスクアセスメント対象物に労働者がばく露する程度を最小限度とすること及び濃度基準値が定められている物質については屋内事業場における労働者のばく露の程度が濃度基準値以下とすることを含めたリスク低減措置」と下線部分が追加されたことに、主に示されている。

「リスク低減措置を講じた場合には、当該措置を実施した後に見込まれるリスクを見積もることが望ましいこと」の解説通達の記述-「濃度基準値が設定されている物質については、安衛則第577条の2第2項の規定を満たしているか確認するため、ばく露の程度が濃度基準値以下であることを見積もる必要があることに留意すること」も新設されている。

●技術上の指針-確認測定

技術上の指針は、「濃度基準値が設定されている物質について、リスクの見積りの過程において、労働者が当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれのある屋内作業を把握した場合は、確認測定[編注:ばく露される程度が濃度基準値以下であることを確認するための測定]を実施し、その結果に基づき、当該作業に従事する全ての労働者が当該物質にばく露される程度を濃度基準値以下とすることを含め、必要なリスク低減措置を実施すること。この場合において、ばく露される当該物質の濃度の平均値の上側信頼限界(95%)[編注:濃度の確率的な分布のうち、高濃度側から5%に相当する濃度の推計値]が濃度基準値以下であることを維持することまで求める趣旨ではないこと」としている。

より具体的には、「確認測定の対象者の選定及び実施時期」の冒頭で、「リスクアセスメントによる作業内容の調査、場の測定の結果及び数理モデルによる解析の結果等を踏まえ、均等ばく露作業[編注:労働者がばく露する物質の量がほぼ均一であると見込まれる作業であって、屋内作業場におけるものに限る]に従事する労働者のばく露の程度を評価すること。その結果、労働者のばく露の程度が8時間濃度基準値の2分の1程度を超えると評価された場合は、確認測定を実施すること」とする。

「場の測定」について、「よくデザインされた場の測定とは、主として工学的対策の実施のために、化学物質の発散源の特定、局所排気装置等の有効性の確認等のために、固定点で行う測定をいうこと。従来の作業環境測定のA・B測定の手法も含まれる。場の測定については、作業環境測定士の関与が望ましいこと」という説明がされている。

確認測定の対象者(最大ばく露労働者等)、実施時期(少なくとも6月に1回等)、確認測定における試料採取方法(個体捕集方法及び/又はろ過捕集方法)及び分析方法(ガスクロマトグラフ分析方法、高速液体クロマトグラフ方法等)(物質別に標準的方法が示されている)については、技術上の指針及び「テキスト」等を参照していただきたい。また、技術上の指針は、「濃度基準値の趣旨」等についてもより詳しい説明を提供している。

なお、「労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認する方法は、事業者において決定されるものであり、確認測定の方法以外の方法でも差し支えないが、事業者は、労働基準監督機関等に対して、労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを明らかにできる必要があること。また、確認測定を行う場合は、確認測定の精度を担保するため、作業環境測定士が関与することが望ましいこと」とされている。

「確認測定」をリスクアセスメントのなかに位置づけようとしている意図は感じられるものの、「確認測定」は文字どおり確認のための測定であって、それだけが切り離されて、「確認測定」だけで終わってしまう実態につながってしまわないか、危惧される。

●技術上の指針-リスク低減措置

最後に技術上の指針は、「リスク低減措置」として、「基本的考え方」を以下のように示している。

「事業者は、化学物質リスクアセスメント指針に規定されているように、危険性又は有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用という優先順位に従い、対策を検討し、労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とすることを含めたリスク低減措置を実施すること。その際、保護具については、適切に選択され、使用されなければ効果を発揮しないことを踏まえ、本質安全化、工学的対策等の信頼性と比較し、最も低い優先順位が設定されていることに留意すること。」

後半のリスク低減措置における保護具の位置づけの説明(信頼性が低く、最も優先順位が低い)は、化学物質リスクアセスメント指針の不足を補う好ましいものであるにもかかわらず、その後に続くのは、「保護具の適切な使用」(以下の事項-最初の項目がもっとも重要である)、「呼吸用保護具の適切な選択」(要求防護係数(=濃度の測定の結果得られた値/濃度基準値)を上回る指定防護係数を有するものでなければならない)、「呼吸用保護具の装着の確認」(日本産業規格T8150(呼吸用保護具の選択、使用及び保管方法)に定める方法又はそれと同等の方法により、1年に1回、定期に確認する)だけで、保護具以外のリスク低減措置に関する解説等はないまま終わってしまっている。

  • 事業者は、保護具の使用を除くリスク低減措置を講じてもなお、労働者の呼吸域における化学物質の濃度が当該物質の濃度基準値を超えること等、リスクが高いことを把握した場合、適切な呼吸用保護具を選択し、労働者に適切に使用させること。
  • 事業者は、皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚から侵入して、健康傷害を生ずるおそれがあることが明らかな化学物質及びそれを含有する製剤を製造し、又は取り扱う業務に労働者を従事させるときは、不浸透性の保護衣等適切な保護具を使用させなければならない。
  • 事業者は、保護具に関する措置については、保護具に関して必要な教育を受けた保護具着用管理責任者(後出)の管理下で行わせなければならないこと。

ここでも、リスク管理のヒエラルキーのなかに位置づけようとしている意図は感じられるものの、労働者の呼吸域における物質の濃度が濃度基準値を上回っていたとしても、「有効な呼吸用保護具の使用により、労働者がばく露される物質の濃度」が濃度基準値以下であることが確認されれば、追加のリスク低減措置は検討も実施もされないままに終わってしまう実態につながってしまわないか、危惧される。

本来、手間も資金もより多く使うべきところは、測定よりも、むしろリスク低減措置である。

なお、「労働者のばく露の程度を最小限度とし、労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置については、安衛則第577条の2第10項の規定により、事業者は、関係労働者の意見を聴取するとともに、安衛則第22条第11号の規定により、衛生委員会において、それらの措置について審議することが義務付けられていることに留意し、確認測定の結果の共有も含めて、関係労働者との意思疎通を十分に行うとともに、安全衛生委員会又は衛生委員会で十分な審議を行う必要があること」としていることも重要である。

●技術上の指針-濃度基準の適用以外

技術上の指針は、濃度基準値が設定されている物質に限定しない言及も多い。特徴的なものは、以下のとおりである。

「濃度基準値が設定されていない物質について、リスクの見積りの結果、一定以上のリスクがある場合等、労働者のばく露状況を正確に評価する必要がある場合には、当該物質の濃度の測定を実施すること。この測定は、作業場全体のばく露状況を評価し、必要なリスク低減措置を検討するために行うものであることから、工学的対策を実施しうる場合にあっては、個人サンプリング法等の労働者の呼吸域における物質の濃度の測定のみならず、よくデザインされた場の測定も必要になる場合があること。また、統計的な根拠を持って事業場における化学物質へのばく露が適切に管理されていることを示すため、測定値のばらつきに対して、統計上の上側信頼限界(95%)を踏まえた評価を行うことが望ましいこと。」

「建設作業等、毎回異なる環境で作業を行う場合については、典型的な作業を洗い出し、あらかじめ当該作業において労働者がばく露される物質の濃度を測定し、その測定結果に基づく局所排気装置の設置及び使用、要求防護係数に対して十分な余裕を持った指定防護係数を有する有効な呼吸用保護具の使用(防毒マスクの場合は適切な吸収缶の使用)等を行うことを定めたマニュアル等を作成することで、作業ごとに労働者がばく露される物質の濃度を測定することなく当該作業におけるリスクアセスメントを実施することができること。また、当該マニュアル等に定められた措置を適切に実施することで、当該作業において、労働者のばく露の程度を最小限度とすることを含めたリスク低減措置を実施することができること。」(化学物質リスクアセスメント指針にも同様の記述あり。)

「リスクアセスメントの結果に基づくリスク低減措置として、労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とすることのみならず、危険性又は有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用等を駆使し、労働者のばく露の程度を最小限度とすることを含めた措置を実施する必要があること。事業者は、工学的対策の設定及び評価を実施する場合には、個人ばく露測定のみならず、よくデザインされた場の測定を行うこと。」(リスクアセスメントにおける測定/基本的考え方)

「事業場における全ての労働者のばく露の程度を最小限度とすることを含めたリスク低減措置の実施のために、ばく露状況の評価は、事業場のばく露状況を包括的に評価できるものであることが望ましいこと。このため、事業者は、労働者がばく露される濃度が最も高いと想定される均等ばく露作業のみならず、幅広い作業を対象として、当該作業に従事する労働者の呼吸域における物質の濃度の測定を行い、その測定結果を統計的に分析し、統計上の上側信頼限界(95%)を活用した評価や物質の濃度が最も高い時間帯に行う測定の結果を活用した評価を行うことが望ましいこと。」(リスクアセスメントにおける測定/資料の採取場所及び評価)

「なお、リスクアセスメント対象物以外の化学物質を製造し、又は取り扱う事業者においては、本指針を活用し、労働者が当該化学物質にばく露される程度を最小限度とするように努めなければならない。」

技術上の指針も「労働者のばく露の程度を最小限度とすること」の判断基準は明示していない一方で、「濃度基準値を十分に下回ることが確認できる場合には、追加のリスク低減措置を検討する必要はない」とすることなく、「ばく露の程度を濃度基準値以下とすることのみならず…[様々なリスク低減措置]を駆使して、ばく露の程度を最小限度とすることを含めた措置を実施する必要がある」ことを明確にしている。他方で、リスクアセスメント指針と比較してもより、濃度測定をより重視している。

図1は、「テキスト」から採った「濃度基準値等を含めたリスクアセスメント実施の流れ」であるが、技術上の指針に参考2として付けられた「フローチャート」と同じものである。「テキスト」は、リスクアセスメントについて、主として技術上の指針に拠って解説している。濃度基準値以下となっていてもなお、継続的なばく露の監視や最小限度とすることの必要性をチェックする点は好ましい。

●ばく露の指標、ばく曝露モニタリング

テキスト」では、「リスクアセスメント」とは別の章建てで「ばく露の指標、ばく露モニタリング」があり、以下のような解説をしている。

作業環境測定とは作業環境の実態を把握するため空気環境その他の作業環境について行うデザイン、サンプリングおよび分析(解析を含む)をいう。作業環境測定が義務付けられているのは107物質(放射性物質は除いた数、2022年12月時点)である」。

「管理濃度は、作業環境測定結果を評価するために、学会などのばく露限界や技術的な可能性などを考慮して行政的に決められた値で、2015年現在9795物質(放射性物質は除いた数、2022年12月時点)について決められている。特定化学物質障害防止規則の119物質(インジウム化合物など)については管理濃度が示されていない」。

「有害な物質が生体内に取り込まれる経路として、経気道、経口、経皮があるが、これらを通して体内に取り込まれる物質量を推定・評価する方法を個人ばく露モニタリングという。労働環境においては多くの場合、作業者が体内に取り込む化学物質量は経気道であり、有害性に関する情報の蓄積も多い。この経気道からのばく露量を測定するために、個人ばく露測定を行う。具体的には、呼吸域の空気(気体)を捕集し、対象物質の分析を行い、さらに、濃度基準値等と比較して評価を行う」。

「個人ばく露測定における試料採取方法、分析方法等については、『化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針』に詳細な記載があるので、参照されたい」。

「血液や尿などの生体試料を用いて、物質へのばく露量や生体影響の程度を調べる目的で行われる測定を生物学的モニタリングという。…」。

以上を整理して、「各測定・モニタリングの関係」として、以下のように整理している。

「作業環境測定は作業環境管理の一つの手法としての役割を果たしてきたと言える。…

一方、作業環境気中の有害物質に対する個人ばく露測定は、溶接ヒュームなど、一部の物質についてのみ義務付けられてきたが、令和4年5月の労働安全衛生規則等の改正による新たな化学物質管理の導入に伴い、屋内作業場における作業について濃度基準値が定められ、労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認するために、個人ばく露測定が導入された。また、個人ばく露モニタリングの一つとして、前節で述べたように、数種類の物質に対して生物学的モニタリングが行われている。

それぞれの管理には、状況を把握するための測定(あるいは検査)があり、その結果を評価する判断基準があり、それに基づいて対策を行うようになっている。そしてそれぞれの判断基準は単独でも機能するが、これらを総合的に評価・判断することでより効果的なリスクアセスメントとなるようにしたい」。

●個人サンプリング法の対象物質等の拡大

なお、2023年4月17日付けで「作業環境測定基準及び第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等の一部を改正する告示」(厚生労働省告示第174号)が告示され、解説通達(基発0417第4号)も示されている。

作業環境測定法第2条第3号に規定する指定作業場において作業環境測定を行う際のデザイン及びサンプリングとして、作業環境測定法施行規則の一部改正により、令和3年4月から、当該作業場において作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う個人サンプリング法を選択的に導入することが可能とされてきた。

「今般、現状の測定技術等を踏まえ、個人サンプリング法の対象物質等を追加するため」として、「作業環境測定基準」及び「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」に関する告示(後出㉒を参照されたい)について所要の改正を行なったとされる。

「作業環境測定基準」関係の改正は、すでに規定している個人サンプリング法の対象物質等に以下の物質を追加したものである。

  • 粉じん(遊離けい酸の含有率が極めて高いものを除く)
  • 特定化学物質のうち、アクリロニトリル等15物質
  • 有機溶剤等(塗装作業等有機溶剤等の発散源の場所が一定しない作業が行われる単位作業場所において行われるものに限定する取扱いを廃止し、全ての作業に対象を拡大するもの)

また、同日付けで基発0417第2号「個人サンプリング法による作業環境測定及びその結果の評価に関するガイドラインの一部改正について」も示されている。

●最小限にする/濃度基準値以下にする義務

あらためて安衛則第577条の2第1項と第2項、第577条の3を整理すると、以下のようになる(表2)。

(1) 法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物のうち濃度基準値が設定された物質については、労働者がばく露される程度を、①最小限度にしなければならないとともに、②濃度基準値以下にしなければならない、という2つの義務が二重に課されると解すべきである(屋内作業場に限る)。

(2) 法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物のうち濃度基準値が設定されない物質については、労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならない義務が課される。

(3) 法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物以外の化学物質については、労働者がばく露される程度を最小限にするよう努めなければならない努力義務が課される。

④ 健康診断とそれに基づく措置

新設の安衛則第577条の2「ばく露の程度の低減等」では、以下の義務も規定される(第3~15項(第10~12項は2023年4月1日時点においては第2~4項)。

これらは、厚生労働省リーフレットで、「リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講じるばく露防止措置の一環としての健康診断の実施・記録作成等」とされている内容である。

施行日は、いずれも2024年4月1日である。

まず、事業者は、法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物による健康障害防止のため、法定健康診断のほか、リスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師又は歯科医師(以下「医師等」という。)が必要と認める項目について、医師等による健康診断を行わなければならない(安衛則第577条の2第3項)。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「ア 本規定は、リスクアセスメント対象物について、一律に健康診断の実施を求めるのではなく、リスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聴き、リスクの程度に応じて健康診断の実施を事業者が判断する仕組みとしたものであること。
イ 本規定の『必要があると認めるとき』に係る判断方法及び『医師又は歯科医師が必要と認める項目』は、別途示すところに留意する必要があること。」

また、事業者は、安衛則第577条の2第2項の業務に従事する労働者が、濃度基準値を超えて対象物にばく露したおそれがあるときは、速やかに、医師等が必要と認める項目について、医師等による健康診断を行わなければならない(安衛則第577条の2第4項)。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「ア 本規定は、事業者によるばく露防止措置が適切に講じられなかったこと等により、結果として労働者が濃度基準値を超えてリスクアセスメント対象物にばく露したおそれがあるときに、健康障害を防止する観点から、速やかに健康診断の実施を求める趣旨であること。
イ 本規定の『リスクアセスメント対象物にばく露したおそれがあるとき』には、リスクアセスメント対象物が漏えいし、労働者が当該物質を大量に吸引したとき等明らかに濃度の基準を超えてばく露したと考えられるとき、リスクアセスメントの結果に基づき講じたばく露防止措置(呼吸用保護具の使用等)に不備があり、濃度の基準を超えてばく露した可能性があるとき及び事業場における定期的な濃度測定の結果、濃度の基準を超えていることが明らかになったときが含まれること。
ウ 本規定の『医師又は歯科医師が必要と認める項目』は、別途示すところに留意する必要があること。」

さらに、事業者は、上記2項(安衛則第577条の2第3項と第4項)の健康診断(以下「リスクアセスメント対象物健康診断」という。)を行ったときは、リスクアセスメント対象物健康診断個人票(安衛則様式第24号の2)を作成し、5年間(がん原性物質(がん原性がある物として厚生労働大臣が定めるものをいう。以下同じ。)に係るものは30年間)保存しなければならない(安衛則第577条の2第5項)。

事業者は、リスクアセスメント対象物健康診断の結果(健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、当該健康診断が行われた日から3月以内に、医師等の意見を聴き、リスクアセスメント対象物健康診断個人票に記載しなければならない(安衛則第577条の2第6項)。

事業者は、医師等から、上記の意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報を求められたときは、速やかに、これを提供しなければならない(安衛則第577条の2第7項)。

事業者は、上記の医師等の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、衛生委員会または安全衛生委員会への当該医師等の意見の報告その他の適切な措置を講じなければならない(安衛則第577条の2第8項)。

事業者は、リスクアセスメント対象物健康診断を受けた労働者に対し、遅滞なく、当該健康診断の結果を通知しなければならない(安衛則第577条の2第9項)。

●作業記録保存義務対象発がん物質の告示

作業記録等の30年間保存義務の対象となるがん原性物質を定める告示(令和4年厚生労働省告示第371号)が、2022年12月26日に告示され、2023年4月1日から適用されている。適用について解説した通達(令和4年基発1226第4号)も示され、また、2023年4月24日付け基発0424第2号によって一部改正(「がん原性物質に該当する旨のSDSによる通知について」追加)されている。

具体的には、「リスクアセスメント対象物のうち、国が行う化学物質の有害性の分類の結果、発がん性の区分が区分1に該当する物であって、令和3年3月31日までの間において当該区分に該当すると分類されたもの」(ただし、エタノール、特定化学物質障害予防規則(特化測)第38条の3に規定する特別管理物質、及び事業者が当該物質を臨時に取り扱う場合を除く)とされ、約120物質の一覧が示されている(https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001064830.xlsx、2023年4月1日適用分、2023年3月1日更新)。

エタノールが除外されたのは、「ヒトに対して発がん性があるものと分類されており、これを踏まえ、国によるGHS分類においても発がん性区分1と分類されているが、これは、アルコール飲料として経口摂取した場合の健康有害性に基づくものであり、業務として大量のエタノールを経口摂取することは通常想定されていないこと、疫学調査から業務起因性が不明であること」が理由とされている。
特別管理物質については、「特化則第38条の4において作業記録等の30年間保存が既に義務付けられていることから、二重規制を避けるため」である。
当該物質を臨時に取り扱う場合については、「当該事業場において通常の作業工程の一部又は全部として行っている業務以外の業務で、一時的必要に応じて当該物質を取り扱い、繰り返されない業務に従事する場合」をいい、「通常の作業工程においてがん原性物質を取り扱う場合は、当該物質を取り扱う時間が短時間であっても、又は取扱いの頻度が低くても、『臨時に取り扱う場合』には該当しない」とされている。

「令和3年4月1日以降に発がん性区分に新たに分類され、又は、分類が変更された物質については、本告示を改正することにより、がん原性物質として追加等」される予定である。前出のとおり、リスクアセスメント対象物が追加されることに伴い、2024年4月1日から約80物質が追加される。

また、「法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針(健康障害を防止するための指針公示第27号。以下「がん原性指針」)は、対象となる物質について、ばく露低減等の健康障害防止のための適切な取扱い等を求める指針であることから、がん原性指針の適用対象物質と、本告示で定めるがん原性物質の両方に該当する物質については、本告示に基づき作業の記録等を30年間保存するとともに、がん原性指針に基づき適切な取扱い等を行う必要があること」も示されている。

がん原性指針:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07948.html

⑤ 意見聴取、記録の作成・保存

事業者は、

① 上述の安衛則第577条の2第1項の規定により(=ばく露される程度を最小限度にするために)、
② 同条第2項の規定により(=ばく露される程度を濃度基準値以下にするために)、及び
③ 同条第8項の規定により(=リスクアセスメント対象物健康診断に基づいて)、

講じた措置について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けなければならない(安衛則第577条の2第10項-2023年4月1日時点においては第2項)。

「関係労働者又はその代表が衛生委員会に参加している場合等は、安衛則第22条第11号の衛生委員会における調査審議又は安衛則第23条の2[委員会がも設けられていない場合]に基づき行われる意見聴取と兼ねて行っても差し支えないこと」とされている(令和4年施行通達)。

また、事業者は、①上記の講じたばく露低減措置の状況、②リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のばく露状況、③労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要(リスクアセスメント対象物ががん原性物質である場合に限る。)、④安衛則第577条の2第10項の規定による関係労働者の意見の聴取状況について、1年を超えない期間ごとに1回、定期に、記録を作成し、当該記録を3年間(②及び③について、がん原性物質に係るものは30年間)保存するとともに、①及び④の事項を労働者に周知させなければならない(安衛則第577条の2第11項-2023年4月1日時点においては第3項)。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「ア 本規定におけるがん原性物質を製造し、又は取り扱う労働者に関する記録については、晩発性の健康障害であるがんに対する対応を適切に行うため、当該労働者が離職した後であっても、当該記録を作成した時点から30年間保存する必要があること。
イ ①の記録については、法第57条の3に基づくリスクアセスメントの結果に基づいて措置を講じた場合は、安衛則第34条の2の8の記録と兼ねても差し支えないこと。また、リスクアセスメントに基づく措置を検討し、これらの措置をまとめたマニュアルや作業規程(以下『マニュアル等』という。)を別途定めた場合は、当該マニュアル等を引用しつつ、マニュアル等のとおり措置を講じた旨の記録でも差し支えないこと。
ウ ②については、実際にばく露の程度を測定した結果の記録等の他、マニュアル等を作成した場合であって、その作成過程において、実際に当該マニュアル等のとおり措置を講じた場合の労働者のばく露の程度をあらかじめ作業環境測定等により確認している場合は、当該マニュアル等に従い作業を行っている限りにおいては、当該マニュアル等の作成時に確認されたばく露の程度を記録することでも差し支えないこと。
エ ③の記録に関し、従事した作業の概要については、取り扱う化学物質の種類を記載する、又はSDS等を添付して、取り扱う化学物質の種類が分かるように記録すること。また、出張等作業で作業場所が毎回変わるものの、いくつかの決まった製剤を使い分け、同じ作業に従事しているのであれば、出張等の都度の作業記録を求めるものではなく、当該関連する作業を一つの作業とみなし、作業の概要と期間をまとめて記載することで差し支えないこと。
オ ④の記録に関し、労働者に意見を聴取した都度、その内容と労働者の意見の概要を記録すること。なお、衛生委員会における調査審議と兼ねて行う場合は、これらの記録と兼ねて記録することで差し支えないこと。」

前項の規定による周知は、次に掲げるいずれかの方法により行うものとする(安衛則第576条の2第12項-2023年4月1日時点においては第4項)。

① 当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けること
② 書面を、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に交付すること
③ 磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体に記録し、かつ、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場に、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

2023年4月1日から施行されている。リスクアセスメント及びその結果に基づく措置の実効性を確保するうえで、きわめて重要な事項である。

⑥ 衛生委員会付議事項の追加

以上に関連して、衛生委員会の付議事項に、以下が追加された(安衛則第22条第11号)。

施行日は、①は2023年4月1日、②~⑤は2024年4月1日である。

① 法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限にするために(安衛則第577条の2第1項の規定により)講ずる措置に関すること
② 濃度基準値が設定された物質について、労働者がばく露される程度を濃度基準値以下とするために(安衛則第577条の2第2項の規定により)講ずる措置に関すること
③ リスクアセスメント対象物健康診断に基づき(安衛則第577条の2第8項の規定により)講ずる措置に関すること
④ リスクアセスメントの結果に基づく(安衛則第577条の2第3項の)リスクアセスメント対象物健康診断の実施に関すること
⑤ 濃度基準値を超えてリスクアセスメント対象物にばく露したおそれがあるとき(安衛則第577条の2第4項)のリスクアセスメント対象物健康診断の実施に関すること

なお、安衛則第22条には、第2号「法第28条の2第1項又は第57条の3第1項のリスクアセスメント及びその結果に基づき講ずる措置のうち、衛生に係るものに関すること」もそのまま残されている。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「ア 本条第11号の安衛則第577条の2第1項、第2項及び第8項に係る措置並びに本条第3項及び第4項の健康診断の実施に関する事項は、既に付議事項として義務付けられている本条第2号の『法第28条の2第1項又は第57条の3第1項及び第2項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置のうち、衛生に係るものに関すること』と相互に密接に関係することから、本条第2号と第11号の事項を併せて調査審議して差し支えないこと。
イ 衛生委員会の設置を要しない常時労働者数50人未満の事業場においても、安衛則第23条の2に基づき、本条第11号の事項について、関係労働者の意見を聴く機会を設けなければならないことに留意すること。」

⑦ 直接皮膚接触の防止

「皮膚障害等防止用の保護具」について、安衛則第594条第1項で、皮膚に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは侵入して、健康障害をおこすおそれのある化学物質等関連業務においては、塗布剤、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物等適切な保護具を備えなければならないことが規定されているが、2023年4月1日からは、「眼に障害を与える」が追加されるとともに、保護具として「保護眼鏡」の例示が追加された。

合わせて、皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を起こすことが明らかな化学物質等(「皮膚等障害化学物質等」)に労働者を従事させるときは、適切な保護具を「使用させるよう努めなければならない」努力義務も追加された(安衛則第594条の2第1項)。

2024年4月1日からは、これが「使用させなければならない」義務に代わるとともに、健康障害を起こすことが明らかなもの以外の物質に関しても適切な保護具を「使用させるよう努めなければならない」努力義務が追加される(安衛則第594条の3第1項)。

安衛則第594条、安衛則第594条の2、安衛則第594条の3ではいずれも第2項で、「当該業務の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、保護具について、これらを使用する必要がある旨を周知させる」義務も規定されていて、第1項が努力義務の場合はこちらも努力義務にとどまる。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「『皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなもの』とは、国が公表するGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に基づく危険有害性の分類の結果及び譲渡提供者より提供されたSDS等に記載された有害性情報のうち『皮膚腐食性・刺激性』、『眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性』及び『呼吸器感作性又は皮膚感作性』のいずれも『区分に該当しない』と記載され、かつ、『皮膚腐食性・刺激性』、『眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性』及び『呼吸器感作性又は皮膚感作性』を除くいずれにおいても、経皮による健康有害性のおそれに関する記載がないものが含まれる」。

「ア 本規定は、皮膚等障害化学物質等を製造し、又は取り扱う業務において、労働者に適切な不浸透性の保護衣等を使用させなければならないことを規定する趣旨であること。
イ 本規定の「皮膚等障害化学物質等」には、国が公表するGHS分類の結果及び譲渡提供者より提供されたSDS等に記載された有害性情報のうち「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」及び「呼吸器感作性又は皮膚感作性」のいずれかで区分1に分類されているもの及び別途示すものが含まれること。」

2023年4月19日に独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所から「皮膚等障害化学物質選定のための検討会報告書」(同概要)が公表された。

上記イにもかかわらず、皮膚吸収性有害物質については、GHS に分類がなく、どのような物質が「皮膚吸収性有害物質」に該当するのかを参照することができないため、皮膚等障害化学物質のうち、皮膚吸収性有害物質に該当するものを、どのように決定すべきかを中心に議論し、皮膚吸収性有害物質を選定することを目的とし、356種類の化学物質を選定するとともに、保護手袋の選択や保護具使用に関する養育、皮膚吸収性有害物質に関する教育等、保護具メーカーとユーザーのリスクコミュニケーションについて提言している。詳しくは、報告書を参照していただきたい。

Q&A」では、「対象物質については、今後通達等で示される予定です」とされている。

⑧ がんの発生の把握の強化

事業者は、化学物質又は化学物質を含有する製剤を製造し、又は取り扱う業務を行う事業場において、1年以内に2人以上の労働者が同種のがんに罹患したことを把握したときは、当該罹患が業務に起因するかどうかについて、遅滞なく、医師の意見を聴かなければならず(安衛則第97条の2第1項)、当該医師が、当該がんへの罹患が業務に起因するものと疑われると判断したときは、遅滞なく、①当該がんに罹患した労働者が取り扱った化学物質の名称、②従事していた業務の内容及び当該業務に従事していた期間、③がんに罹患した労働者の年齢及び性別について、所轄都道府県労働局長に報告しなければならないという義務が新設された(安衛則第97条の2第2項)。

2023年4月1日から施行されている。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「(1) 安衛則第97条の2第1項関係
ア 規定は、化学物質のばく露に起因するがんを早期に把握した事業場におけるがんの再発防止のみならず、国内の同様の作業を行う事業場における化学物質によるがんの予防を行うことを目的として規定したものであること。
イ 本規定の『1年以内に2人以上の労働者』の労働者は、現に雇用する同一の事業場の労働者であること。
ウ 本規定の『同種のがん』については、発生部位等医学的に同じものと考えられるがんをいうこと。
エ 本規定の『同種のがんに罹患したことを把握したとき』の『把握』とは、労働者の自発的な申告や休職手続等で職務上、事業者が知り得る場合に限るものであり、本規定を根拠として、労働者本人の同意なく、本規定に関係する労働者の個人情報を収集することを求める趣旨ではないこと。なお、アの趣旨から、広くがん罹患の情報について事業者が把握できることが望ましく、衛生委員会等においてこれらの把握の方法をあらかじめ定めておくことが望ましいこと。
オ アの趣旨を踏まえ、例えば、退職者も含め10年以内に複数の者が同種のがんに罹患したことを把握した場合等、本規定の要件に該当しない場合であっても、それが化学物質を取り扱う業務に起因することが疑われると医師から意見があった場合は、本規定に準じ、都道府県労働局に報告することが望ましいこと。
カ 本規定の『医師』には、産業医のみならず、定期健康診断を委託している機関に所属する医師や労働者の主治医等も含まれること。また、これらの適当な医師がいない場合は、各都道府県の産業保健総合支援センター等に相談することも考えられること。
(2) 安衛則第97条の2第2項関係
ア 本規定の『罹患が業務に起因するものと疑われると判断」については、(1)アの趣旨から、その時点では明確な因果関係が解明されていないため確実なエビデンスがなくとも、同種の作業を行っていた場合や、別の作業であっても同一の化学物質にばく露した可能性がある場合等、化学物質に起因することが否定できないと判断されれば対象とすべきであること。
イ 本項第1号の『がんに罹患した労働者が当該事業場で従事した業務において製造し、又は取り扱った化学物質の名称』及び本項第2号の『がんに罹患した労働者が当該事業場で従事していた業務の内容及び当該業務に従事していた期間』については、(1)アの趣旨から、その時点ではがんの発症に係る明確な因果関係が解明されていないため、当該労働者が当該事業場において在職中ばく露した可能性がある全ての化学物質、業務及びその期間が対象となること。また、記録等がなく、製剤中の化学物質の名称や作業歴が不明な場合であっても、その後の都道府県労働局等が行う調査に資するよう、製剤の製品名や関係者の記憶する関連情報をできる限り記載し、報告することが望ましいこと。」

⑨ リスクアセスメントの記録作成等

法第57条の3第1項のリスクアセスメントに関して、安衛則第34条の2の8で「結果等の周知」が規定されていたが、「結果等の記録及び保存並びに周知」と変更された(以下の下線が追加部分)。

2023年4月1日から施行されている。

事業者は、法第57条の3第1項のリスクアセスメントを行ったときは、①当該リスクアセスメント対象物の名称、②当該業務の内容、③当該リスクアセスメントの結果、④当該リスクアセスメントの結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容について、記録を作成し、次にリスクアセスメントを行うまでの期間(リスクアセスメントを行った日から起算して3年以内に次のリスクアセスメントを行ったときは、3年間)保存するとともに、当該事項を、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に周知させなければならない。

周知は、①作業場の見やすい場所に常時掲示又は備え付け、②労働者に交付、③磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体に記録し作業場に当該記録内容を常時確認できる機器を設置、のいずれかの方法により行うものとする。

⑤による講じたばく露低減措置についての関係労働者の意見聴取等とともに、⑨リスクアセスメント結果等についても、記録の作成、保存及び周知を義務づけられているわけである。

⑩ 災害発生事業場への改善指示

安衛則第34条の2の10「改善の指示等」として、「化学物質による労働災害が発生した事業場等における化学物質管理の改善措置」に関する規定が新設される。

施行日は、2024年4月1日である。

(1) 労働基準監督署長は、化学物質による労働災害が発生した、又はそのおそれがある事業場の事業者に対し、当該事業場において化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると認めるときは、当該事業場における化学物質の管理の状況について、改善すべき旨を指示することができる(第1項)。
(2) (1)の指示を受けた事業者は、遅滞なく、事業場の化学物質の管理の状況について必要な知識及び技能を有する者として厚生労働大臣が定める者(以下「化学物質管理専門家」という。)から、当該事業場における化学物質の管理の状況についての確認及び当該事業場が実施し得る望ましい改善措置に関する助言を受けなければならない(第2項)。
(3) (2)の確認及び助言を求められた化学物質管理専門家は、事業者に対し、確認後速やかに、当該確認した内容及び当該事業場が実施し得る望ましい改善措置に関する助言を、書面により通知しなければならない(第3項)。
(4) 事業者は、(3)の通知を受けた後、1月以内に、当該通知の内容を踏まえた改善措置を実施するための計画を作成するとともに、当該計画作成後、速やかに、当該計画に従い改善措置を実施しなければならない(第4項)。
(5) 事業者は、(4)の計画を作成後、遅滞なく、当該計画の内容について、(3)の通知及び当該計画の写しを添えて、改善計画報告書(安衛則様式第4号)により所轄労働基準監督署長に報告しなければならない(第5項)。
(6) 事業者は、(4)の計画に基づき実施した改善措置の記録を作成し、当該記録について、(3)の通知及び当該計画とともにこれらを3年間保存しなければならない(第6項)。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「(1) 安衛則第34条の2の10第1項関係
ア 本規定は、化学物質による労働災害が発生した又はそのおそれがある事業場で、管理が適切に行われていない可能性があるものとして労働基準監督署長が認めるものについて、自主的な改善を促すため、化学物質管理専門家による当該事業場における化学物質の管理の状況についての確認・助言を受け、その内容を踏まえた改善計画の作成を指示することができるようにする趣旨であること。
イ 『化学物質による労働災害発生が発生した、又はそのおそれがある事業場』とは、過去1年間程度で、①化学物質等による重篤な労働災害が発生、又は休業4日以上の労働災害が複数発生していること、②作業環境測定の結果、第三管理区分が継続しており、改善が見込まれないこと、③特殊健康診断の結果、同業種の平均と比較して有所見率の割合が相当程度高いこと、④化学物質等に係る法令違反があり、改善が見込まれないこと等の状況について、労働基準監督署長が総合的に判断して決定するものであること。
ウ 『化学物質による労働災害』には、一酸化炭素、硫化水素等による酸素欠乏症、化学物質(石綿を含む。)による急性又は慢性中毒、がん等の疾病を含むが、物質による切創等のけがは含まないこと。また、粉じん状の化学物質による中毒等は化学物質による労働災害を含むが、粉じんの物理的性質による疾病であるじん肺は含まないこと。
(2) 安衛則第34条の2の10第2項関係
ア 化学物質管理専門家に確認を受けるべき事項には、以下のものが含まれること。
① リスクアセスメントの実施状況
② リスクアセスメントの結果に基づく必要な措置の実施状況
③ 作業環境測定又は個人ばく露測定の実施状況
④ 特別則に規定するばく露防止措置の実施状況
⑤ 事業場内の化学物質の管理、容器への表示、労働者への周知の状況
⑥ 化学物質等に係る教育の実施状況
イ 化学物質管理専門家は客観的な判断を行う必要があるため、当該事業場に属さない者であることが望ましいが、同一法人の別事業場に属する者であっても差し支えないこと。
ウ 事業者が複数の化学物質管理専門家からの助言を求めることを妨げるものではないが、それぞれの専門家から異なる助言が示された場合、自らに都合良い助言のみを選択することのないよう、全ての専門家からの助言等を踏まえた上で必要な措置を実施するとともに、労働基準監督署への改善計画の報告に当たっては、全ての専門家からの助言等を添付する必要があること。
(3) 安衛則第34条の2の10第3項関係
化学物質管理専門家は、本条第2項の確認を踏まえて、事業場の状況に応じた実施可能で具体的な改善の助言を行う必要があること。
(4) 安衛則第34条の2の10第4項関係
ア 本規定の改善計画には、改善措置の趣旨、実施時期、実施事項(化学物質管理専門家が立ち会って実施するものを含む。)を記載するとともに、改善措置の実施に当たっての事業場内の体制、責任者も記載すること。
イ 本規定の改善措置を実施するための計画の作成にあたり、化学物質管理専門家の支援を受けることが望ましいこと。また、当該計画作成後、労働基準監督署長への報告を待たず、速やかに、当該計画に従い必要な措置を実施しなければならないこと。
(5) 安衛則第34条の2の10第5項関係
本規定の所轄労働基準監督署長への報告にあたっては、化学物質管理専門家の助言内容及び改善計画に加え、改善計画報告書(安衛則様式第4号等)の備考欄に定める書面を添付すること。
(6) 安衛則第34条の2の10第6項関係
本規定は、改善措置の実施状況を事後的に確認できるようにするため、改善計画に基づき実施した改善措置の記録を作成し、化学物質管理専門家の助言の通知及び改善計画とともに3年間保存することを義務付けた趣旨であること。」

2022年9月7日付け「厚生労働大臣が定める者」(令和4年厚生労働省告示第274号-「専門家告示」)によって、化学物質管理専門家の要件は、以下のとおり定められた。

  • 労働衛生コンサルタント試験(労働衛生工学に限る)に合格し、法第84条第1項の登録を受けた者で、5年以上化学物質の管理に係る業務に従事した経験を有するもの
  • 法第12条第1項の規定による衛生管理者のうち、衛生工学衛生管理者免許を受けた者で、その後8年以上法第10条第1項各号の業務のうち衛生に係る技術的事項で衛生工学に関するものの管理の業務に従事した経験を有するもの
  • 作業環境測定士で、その後6年以上作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有し、かつ、厚生労働省労働基準局長が定める講習を修了したもの
  • 上記と同等以上の能力を有すると認められる者として通達(令和4年基発0907第1号)に定められた次のもの
    - 法第82条第1項の労働安全コンサルタント試験(化学に限る)に合格し、法第84条第1項の登録を受けた者であって、その後5年以上化学物質に係る法第81条第1項に定める業務(専門家告示(粉じん則)第4号においては、粉じんに係る法第81条第1項に定める業務)に従事した経験を有するもの
    - 一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会が運用している「生涯研修制度」によるCIH(Certified Industrial Hygiene Consultant)労働衛生コンサルタントの称号の使用を許可されているもの
    - 公益社団法人日本作業境測定協会の認定オキュペイショナル・ハイジニスト又は国際オキュペイショナル・ハイジニスト協会(IOHA)の国別認証を受けている海外のオキュペイショナル・ハイジニスト若しくはインダストリアル・ハイジニストの資格を有する者
    - 公益社団法人日本作業環境測定協会の作業環境測定インストラクターに認定されている者
    - 労働災害防止団体法第12条の衛生管理士(法第83条第1項の労働衛生コンサルタント試験(労働衛生工学に限る)に合格した者に限る)に選任された者であって、5年以上労働災害防止団体法第11条第1項の業務又は化学物質の管理に係る業務を行った経験を有する者

⑪ 化学物質管理者の選任

「事業場における化学物質管理体制の強化」として、いくつかの規定が新設される。

第1に、化学物質管理者の選任に係る安衛則第12条の5である。

事業者は、法第57条の3第1項の「リスクアセスメント」対象物を製造し、又は取り扱う事業場ごとに、化学物質管理者を選任し、その者に当該事業場における次に掲げる化学物質の管理に係る技術的事項を管理させなければならない(第1項)。

① 法第57条の規定によるラベル表示等及び法第57条の2第1項の規定によるSDSによる通知に関すること
② リスクアセスメントの実施に関すること
③ 安衛則第577条の2(ばく露の程度の低減等)第1項及び第2項の措置その他法第57条の3第2項の措置(リスクアセスメントの結果に基づく命令の規定による措置のほか労働者の棄権又は健康障害を防止するため必要な措置)の内容及び実施に関すること
④ リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合の対応に関すること
⑤ 安衛則第34条の2の8第1項各号の規定によるリスクアセスメントの結果等の記録及び保存並びに周知に関すること
⑥ 安衛則第577条の2(ばく露の程度の低減等)第11項の規定による記録の作成及び保存並びにその周知に関すること
⑦ ①~⑥の事項の管理を実施するに当たっての労働者に対する必要な教育に関すること

事業者は、法第57条の3第1項の「リスクアセスメント」対象物の譲渡又は提供を行う事業場(上記のリスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場事業場を除く。)ごとに、化学物質管理者を選任し、その者に当該事業場におけるラベル表示及びSDS等による通知等(以下「表示等」という。)並びに教育管理に係る技術的事項を管理させなければならない(第2項)。

化学物質管理者の選任は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に行い、リスクアセスメント対象物を製造する事業場においては、厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習を修了した者等のうちから選任しなければならない(第3項)。

事業者は、化学物質管理者を選任したときは、当該化学物質管理者に対し、必要な権限を与えるとともに、当該化学物質管理者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示すること等により関係労働者に周知させなければならない(第4項及び第5項)。

施行日は、いずれも2024年4月1日である。

令和4年施行通達で、以下のように解説されている。

「(1) 安衛則第12条の5第1項関係
ア 化学物質管理者は、ラベル・SDS等の作成の管理、リスクアセスメント実施等、化学物質の管理に関わるもので、リスクアセスメント対象物に対する対策を適切に進める上で不可欠な職務を管理する者であることから、事業場の労働者数によらず、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う全ての事業場において選任することを義務付けたこと。
なお、衛生管理者の職務は、事業場の衛生全般に関する技術的事項を管理することであり、また有機溶剤作業主任者といった作業主任者の職務は、個別の化学物質に関わる作業に従事する労働者の指揮等を行うことであり、それぞれ選任の趣旨が異なるが、化学物質管理者が、化学物質管理者の職務の遂行に影響のない範囲で、これらの他の法令等に基づく職務等と兼務することは差し支えないこと。
イ 化学物質管理者は、工場、店社等の事業場単位で選任することを義務付けたこと。したがって、例えば、建設工事現場における塗装等の作業を行う請負人の場合、一般的に、建設現場での作業は出張先での作業に位置付けられるが、そのような出張作業先の建設現場にまで化学物質管理者の選任を求める趣旨ではないこと。
ウ 化学物質管理者については、その職務を適切に遂行するために必要な権限が付与される必要があるため、事業場内の労働者から選任されるべきであること。また、同じ事業場で化学物質管理者を複数人選任し、業務を分担することも差し支えないが、その場合、業務に抜け落ちが発生しないよう、業務を分担する化学物質管理者や実務を担う者との間で十分な連携を図る必要があること。なお、化学物質管理者の管理の下、具体的な実務の一部を化学物質管理に詳しい専門家等に請け負わせることは可能であること。
エ 本規定の『リスクアセスメント対象物』は、改正省令による改正前の安衛則第34条の2の7第1項第1号の「通知対象物」と同じものであり、例えば、原材料を混合して新たな製品を製造する場合であって、その製品がリスクアセスメント対象物に該当する場合は、当該製品は本規定のリスクアセスメント対象物に含まれること。
オ 本規定の『リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う』には、例えば、リスクアセスメント対象物を取り扱う作業工程が密閉化、自動化等されていることにより、労働者が当該物にばく露するおそれがない場合であっても、リスクアセスメント対象物を取り扱う作業が存在する以上、含まれること。ただし、一般消費者の生活の用に供される製品はリスクアセスメントの対象から除かれているため、それらの製品のみを取り扱う事業場は含まれないこと。また、密閉された状態の製品を保管するだけで容器の開閉等を行わない場合や、火災や震災後の復旧、事故等が生じた場合の対応等、応急対策のためにのみ臨時的にリスクアセスメント対象物を取り扱うような場合は、『リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う』には含まれないこと。
カ 本規定の表示等及び教育管理に係る技術的事項を『他の事業場において行っている場合』とは、例えば、ある工場でリスクアセスメント対象物を製造し、当該工場とは別の事業場でラベル表示の作成を行う場合等のことをいい、その場合、当該工場と当該事業場それぞれで化学物質管理者の選任が必要となること。安衛則第12条の5第2項についてもこれと同様であること。
キ 本項第4号については、実際に労働災害が発生した場合の対応のみならず、労働災害が発生した場合を想定した応急措置等の訓練の内容やその計画を定めること等も含まれること。
ク 本項第7号については、必要な教育の実施における計画の策定等の管理を求めるもので、必ずしも化学物質管理者自らが教育を実施することを求めるものではなく、労働者に対して外部の教育機関等で実施している必要な教育を受けさせること等を妨げるものではないこと。また、本規定の施行の前に既に雇い入れ教育等で労働者に対する必要な教育を実施している場合には、施行後に改めて教育の実施を求める趣旨ではないこと。
(2) 安衛則第12条の5第3項関係
ア 本項第2号イの『厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習』は、厚生労働大臣が定める科目について、自ら講習を行えば足りるが、他の事業者の実施する講習を受講させることも差し支えないこと。また、『これと同等以上の能力を有すると認められる者』については、本項第2号イの厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習に係る告示と併せて、おって示すこととすること。
イ 本項第2号ロの『必要な能力を有すると認められる者』とは、安衛則第12条の5第1項各号の事項に定める業務の経験がある者が含まれること。また、適切に業務を行うために、別途示す講習等を受講することが望ましいこと。
(3) 安衛則第12条の5第4項関係
化学物質管理者の選任に当たっては、当該管理者が実施すべき業務をなし得る権限を付与する必要があり、事業場において相応するそれらの権限を有する役職に就いている者を選任すること。
(4) 安衛則第12条の5第5項関係
本規定の『事業場の見やすい箇所に掲示すること等』の『等』には、化学物質管理者に腕章を付けさせる、特別の帽子を着用させる、事業場内部のイントラネットワーク環境を通じて関係労働者に周知する方法等が含まれること。」

2022年9月7日付け「厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習」(令和4年厚生労働省令第276号)によって、化学物質管理者の専門的講習の内容について、次のカリキュラムが示された。

  • 化学物質の危険性及び有害性並びに表示等:2.5時間
  • 化学物質の危険性又は有害性等の調査:3.0時間
  • 化学物質の危険性又は有害性等の調査に基づく措置等その他必要な記録等:2.0間
  • 化学物質を原因とする災害発生への対応:0.5時間
  • 関係法令:1.0時間
  • 化学物質の危険性又は有害性等の調査の結果に基づく措置等に関する実習:3.0時間

なお、「Q&A」では、「講習機関に対する登録等の規定はありませんので、どのような機関が講習を実施するかを国が把握する制度にはなっていません。これまで労働安全衛生法関連の講習を実施してきた機関等で講習が開催されています」とされている。

⑫ 保護具着用管理責任者の選任

第2に、保護具着用管理責任者の選任に係る安衛則第12条の6である。

化学物質管理者を選任した事業者は、リスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者を選任し、次に掲げる事項を管理させなければならない(第1項)。

① 保護具の適正な選択に関すること
② 労働者の保護具の適正な使用に関すること
③ 保護具の保守管理に関すること

保護具着用管理責任者の選任は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に行うこととし、保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから選任しなければならない(第2項)。

事業者は、保護具着用管理責任者を選任したときは、当該保護具着用管理責任者に対し、必要な権限を与えるとともに、当該保護具着用管理責任者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示すること等により関係労働者に周知させなければならない(第3項及び第4項)。

施行日は、いずれも2024年4月1日である。

令和4年施行通達で、以下のように解説されている。

「(1) 安衛則第12条の6第1項関係
本規定は、保護具着用管理責任者を選任した事業者について、当該責任者に本項各号に掲げる事項を管理させなければならないこととしたものであり、保護具着用管理責任者の職務内容を規定したものであること。
保護具着用管理責任者の職務は、次に掲げるとおりであること。
ア 保護具の適正な選択に関すること。
イ 労働者の保護具の適正な使用に関すること。
ウ 保護具の保守管理に関すること。
これらの職務を行うに当たっては、平成17年2月7日付け基発第0207006号「防じんマスクの選択、使用等について」、平成17年2月7月付け基発第0207007号「防毒マスクの選択、使用等について」[編注:既出のとおり、両通達は、令和5年5月25日付け基発0525第3号「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について」に置き換えられていることに留意されたい]及び平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」に基づき対応する必要があることに留意すること。
(2) 安衛則第12条の6第2項関係
本項第2号中の『保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者』には、次に掲げる者が含まれること。なお、次に掲げる者に該当する場合であっても、別途示す保護具の管理に関する教育を受講することが望ましいこと。また、次に掲げる者に該当する者を選任することができない場合は、上記の保護具の管理に関する教育を受講した者を選任すること。
① 別に定める化学物質管理専門家の要件に該当する者
② 後掲の新規制㉑の施行通達による解説(1)ウに定める作業環境管理専門家の要件に該当する者
③ 法第83条第1項の労働衛生コンサルタント試験に合格した者
④ 安衛則別表第4に規定する第1種衛生管理者免許又は衛生工学衛生管理者免許を受けた者
⑤ 安衛則別表第1の上欄に掲げる、令第6条第18号から第20号までの作業及び令第6条第22号の作業に応じ、同表の中欄に掲げる資格を有する者(作業主任者)
⑥ 安衛則第12条の3第1項の都道府県労働局長の登録を受けた者が行う講習を終了した者その他安全衛生推進者等の選任に関する基準(昭和63年労働省告示第80号)の各号に示す者(安全衛生推進者に係るものに限る。)
(3) 安衛則第12条の6第3項関係
保護具着用管理責任者の選任に当たっては、その業務をなし得る権限を付与する必要があり、事業場において相応するそれらの権限を有する役職に就いている者を選任することが望ましいこと。なお、選任に当たっては、事業場ごとに選任することが求められるが、大規模な事業場の場合、保護具着用管理責任者の職務が適切に実施できるよう、複数人を選任することも差し支えないこと。また、職務の実施に支障がない範囲内で、作業主任者が保護具着用管理責任者を兼任しても差し支えないこと(後掲の新規制㉑の施行通達による解説(4)に係る職務を除く。)。
(4) 安衛則第12条の6第4項関係
本規定の『事業場の見やすい箇所に掲示すること等』の『等』には、保護具着用管理責任者に腕章を付けさせる、特別の帽子を着用させる、事業場内部のイントラネットワーク環境を通じて関係労働者に周知する方法等が含まれること。」

2022年12月26日付け基安化発1226第1号「保護具着用管理責任者に対する教育の実施について」によって、次のカリキュラムが示された。

  • 保護具着用管理:0.5時間
  • 保護具に関する知識:3.0時間
  • 労働災害に関する知識:1.0間
  • 関係法令:1.0時間
  • 保護具の使用方法(実技):1.0時間

⑬ 雇入れ時等教育の拡充

第3に、雇入れ時等における化学物質等に係る教育の拡充に係る安衛則第35条第1項で、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときに行わなければならない安衛則第35条第1項の教育について、令第2条第3号に掲げる業種の事業場の労働者については、安衛則第35条第1項第1号から第4号までの事項の教育の省略が認められてきたが、改正省令により、この省略規定を削除し、同項第1号から第4号までの事項の教育を行わなければならないことが事業者に義務付けられる。

「本規定の改正は、雇入れ時等の教育のうち本条第1項第1号から第4号までの事項の教育に係る適用業種を全業種に拡大したもので、当該事項に係る教育の内容は従前と同様であるが、新たな対象となった業種においては、各事業場の作業内容に応じて安衛則第35条第1項各号に定められる必要な教育を実施する必要がある」(令和4年施行通達)。

施行日は、2024年4月1日である。

⑭ 職長等に対する安全衛生教育

第4に、「職長等に対する安全衛生教育の対象となる業種の拡大」で、法第60条の職長等に対する安全衛生教育の対象となる業種に、化学物質を取り扱う業種を追加するため、これまで対象外であった「食料品製造業(うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く。)」、「新聞業、出版業、製本業及び印刷物加工業」の2業種が追加された(令第19条)。

「うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く。」とされているのは、うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業については、従前から職長等に対する安全衛生教育の対象業種となっており、新たに追加されるものではないという趣旨である。したがって、今般の改正により、すべての食料品製造業が職長等に対する安全衛生教育の対象となるとされている(令和4年基発0224第1号)。

2023年4月1日から施行されている。

⑮ SDS等による通知方法の柔軟化

「化学物質の危険性・有害性に関する情報の伝達の強化」として、いくつかの規定が新設された。

第1に、「SDS等による通知方法の柔軟化」で、法第57条の2の規定によるSDS等による通知の方法として、相手方の承諾を要件とせず、電子メールの送信や、通知事項が記載されたホームページのアドレス(二次元コードその他のこれに代わるものを含む。)を伝達し閲覧を求めること等による方法が新たに認められた(安衛則第24条の15第1項及び第3項(公布日時点においては第2項)、第34条の2の3)。

施行日はもっとも早く、2022年5月31日から施行されている。

令和4年施行通達で、「電子メールの送信により通知する場合は、送信先の電子メールアドレスを事前に確認する等により確実に相手方に通知できるよう配慮すべきであること」とされている。

⑯ 人体に及ぼす作用の定期確認等

第2に、「『人体に及ぼす作用』の定期確認及び『人体に及ぼす作用』についての記載内容の更新で、法第57条の2第1項の規定による通知事項のひとつである「人体に及ぼす作用」について、直近の確認を行った日から起算して5年以内ごとに1回、記載内容の変更の要否を確認し、変更を行う必要があると認めるときは、当該確認をした日から1年以内に変更を行うように努めなければならない。また、変更を行ったときは、当該通知を行った相手方に対して、速やかに、変更内容を通知し、当該相手方が閲覧できるように努めなければならない。加えて、安衛則第24条の15第2項及び第3項の規定による特定危険有害化学物質等に係る通知における「人体に及ぼす作用」についても、同様の確認及び更新を努力義務とされる(安衛則第24条の15第2項及び第3項、第34条の2の5第2項及び第3項)。

2023年4月1日から施行されている。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「ア SDS等における通知事項である『人体に及ぼす作用』については、当該物質の有害性情報であり、リスクアセスメントの実施に当たって最も重要な情報であることから、定期的な確認及び更新を新たに義務付けたこと。定期確認及び更新の対象となるSDS等は、現に譲渡又は提供を行っている通知対象物又は特定危険有害化学物質等に係るものに限られ、既に譲渡提供を中止したものに係るSDS等まで含む趣旨ではないこと。
イ 確認の結果、SDS等の更新を行った場合、変更後の当該事項を再通知する対象となる、過去に当該物を譲渡提供した相手方の範囲については、各事業者における譲渡提供先に関する情報の保存期間、当該物の使用期限等を踏まえて合理的な期間とすれば足りること。また、確認の結果、SDS等の更新の必要がない場合には、更新及び相手方への再通知の必要はないが、各事業者においてSDS等の改訂情報を管理する上で、更新の必要がないことを確認した日を記録しておくことが望ましいこと。
ウ SDS等を更新した場合の再通知の方法としては、各事業者で譲渡提供先に関する情報を保存している場合に当該情報を元に譲渡提供先に再通知する方法のほか、譲渡提供者のホームページにおいてSDS等を更新した旨を分かりやすく周知し、当該ホームページにおいて該当物質のSDS等を容易に閲覧できるようにする方法等があること。
エ 本規定の施行日において現に存するSDS等については、施行日から起算して5年以内(令和10年3月31日まで)に初回の確認を行う必要があること。また、確認の頻度である『5年以内ごとに1回』には、5年より短い期間で確認することも含まれること。」

⑰ SDS通知事項の追加等

第3に、「SDS等における通知事項の追加及び成分含有量表示の適正化」で、法第57条の2第1項の規定により通知するSDS等における通知事項に、「想定される用途及び当該用途における使用上の注意」が追加される。また、安衛則第24条の15第1項の規定により通知を行うことが努力義務となっている特定危険有害化学物質等に係る通知事項についても、同事項が追加される。さらに、法第57条の2第1項の規定により通知するSDS等における通知事項のうち、「成分の含有量」について、重量パーセントを通知しなければならないこととされる(安衛則第24条の15第1項、第34条の2の4、第34条の2の6)。

施行日は、2024年4月1日である。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「(1) 安衛則第24条の15第1項、第34条の2の4関係
ア SDS等における通知事項に追加する『想定される用途及び当該用途における使用上の注意』は、譲渡提供者が譲渡又は提供を行う時点で想定される内容を記載すること。
イ 譲渡提供を受けた相手方は、当該譲渡提供を受けた物を想定される用途で使用する場合には、当該用途における使用上の注意を踏まえてリスクアセスメントを実施することとなるが、想定される用途以外の用途で使用する場合には、使用上の注意に関する情報がないことを踏まえ、当該物の有害性等をより慎重に検討した上でリスクアセスメントを実施し、その結果に基づく措置を講ずる必要があること。
(2) 安衛則第34条の2の6関係
ア SDS等における通知事項のうち『成分の含有量』について、GHS及びJIS Z 7253の原則に従って、従前の10パーセント刻みでの記載方法を改めるものであること。重量パーセントによる濃度の通知が原則であるが、通知対象物であって製品の特性上含有量に幅が生じるもの等については、濃度範囲による記載も可能であること。なお、重量パーセント以外の表記による含有量の表記がなされているものについては、平成12年3月24日付け基発第162号『労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の施行について』の記のⅢ第8の2(2)に示したとおり、重量パーセントへの換算方法を明記していれば、重量パーセントによる表記を行ったものと見なすこと。
イ 『成分及びその含有量』が営業上の秘密に該当する場合については、SDS等にはその旨を記載の上、成分及びその含有量の記載を省略し、秘密保持契約その他事業者間で合意した情報伝達の方法により別途通知することも可能であること。」

関連して、2022年5月31日付けで「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針」の一部を改正する告示(令和4年厚生労働省告示第190号)が告示され、同日付けで基安化発0531第1号「『労働安全衛生法等の一部を改正する法律等の施行等(化学物質等に係る表示及び文書交付制度の改善関係)に係る留意事項について』の改正について」も示された。

さらに、2023年4月24日付け労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第70号)により、安衛則第34条の2の6に第2項が追加され、有機則、鉛則、四アルキル鉛則、特化測の適用対象物質を除き、「成分の含有量について重量パーセントの通知をすることにより、契約又は交渉に関し、事業者の財産上の利益を不当に害するおそれがあるものについては、その旨を明らかにした上で、重量パーセントの通知を、10パーセント未満の端数を切り捨てた数値と当該端数を切り上げた数値との範囲をもって行うことができる」という規定が追加された。

ただし、「この場合において、当該物を譲渡し、又は提供する相手方の事業者の求めがあるときは、成分の含有量に係る秘密が保全されることを条件に、当該相手方の事業場におけるリスクアセスメントの実施に必要な範囲内において、当該物の成分の含有量について、より詳細な内容を通知しなければならない」ともされている。

また、同日付けで、改正省令の施行通達(基発0424第2号)及び基安化発0424第1号「『労働安全衛生法等の一部を改正する法律等の施行等(化学物質等に係る表示及び文書交付制度の改善関係)に係る留意事項について』の改正について」も示された。

⑱ 事業場内別容器保管時措置

第4に、「化学物質を事業場内において別容器等で保管する際の措置の強化」で、事業者は、令第17条に規定する物(製造許可物質)又は令第18条に規定する物(ラベル表示対象物)をラベル表示のない容器に入れ、又は包装して保管するときは、当該容器又は包装への表示、文書の交付その他の方法により、当該物を取り扱う者に対し、当該物の名称及び人体に及ぼす作用を明示しなければならない(安衛則第33条の2)。

2023年4月1日から施行されている。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「ア 製造許可物質及びラベル表示対象物を事業場内で取り扱うに当たって、他の容器に移し替えたり、小分けしたりして保管する際の容器等にも対象物の名称及び人体に及ぼす作用の明示を義務付けたこと。なお、本規定は、対象物を保管することを目的として容器に入れ、又は包装し、保管する場合に適用されるものであり、保管を行う者と保管された対象物を取り扱う者が異なる場合の危険有害性の情報伝達が主たる目的であるため、対象物の取扱い作業中に一時的に小分けした際の容器や、作業場所に運ぶために移し替えた容器にまで適用されるものではないこと。また、譲渡提供者がラベル表示を行っている物について、既にラベル表示がされた容器等で保管する場合には、改めて表示を求める趣旨ではないこと。
イ 明示の際の『その他の方法』としては、使用場所への掲示、必要事項を記載した一覧表の備え付け、磁気ディスク、光ディスク等の記録媒体に記録しその内容を常時確認できる機器を設置すること等のほか、日本産業規格Z7253(GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法-ラベル、作業場内の表示及び安全データシート(SDS))(以下『JIS Z 7253』という。)の『5.3.3作業場内の表示の代替手段』に示された方法として、作業手順書又は作業指示書によって伝達する方法等によることも可能であること。」

関係告示でも、同様の対応がとられる。

⑲ 注文者が措置を講じる設備

第5に、「労働災害を防止するため注文者が必要な措置を講じなければならない設備の範囲の拡大」で、法第31条の2の規定により、注文者が請負人の労働者の労働災害を防止するために必要な措置を講じなければならない設備の範囲について、危険有害性を有する化学物質である法第57条の2の通知対象物を製造し、又は取り扱う設備に対象が拡大された(令第9条の3)。

2023年4月1日から施行されている。

⑳ 良好事業場の特別則適用除外

特別則についてもいくつかの改正が行われ、また、行なわれる。

第1に、「化学物質管理の水準が一定以上の事業場に対する個別規制の適用除外」である(特化則第2条の3、有機則第4条の2、鉛則第3条の2及び粉じん則第3条の2関係)。

(1) 特化則等の規定(健康診断及び呼吸用保護具に係る規定を除く。)は、専属の化学物質管理専門家が配置されていること等の一定の要件を満たすことを所轄都道府県労働局長が認定した事業場については、特化則等の規制対象物質を製造し、又は取り扱う業務等について、適用しない。
(2) (1)の適用除外の認定を受けようとする事業者は、適用除外認定申請書(特化則様式第1号、有機則様式第1号の2、鉛則様式第1号の2、粉じん則様式第1号の2)に、当該事業場が(1)の要件に該当することを確認できる書面を添えて、所轄都道府県労働局長に提出しなければならない。
(3) 所轄都道府県労働局長は、適用除外認定申請書の提出を受けた場合において、認定をし、又はしないことを決定したときは、遅滞なく、文書でその旨を当該申請書を提出した事業者に通知する。
(4) 認定は、3年ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によって、その効力を失う。
(5) 上記の(1)から(3)までの規定は、(4)の認定の更新について準用する。
(6) 認定を受けた事業者は、当該認定に係る事業場がアの要件を満たさなくなったときは、遅滞なく、文書で、その旨を所轄都道府県労働局長に報告しなければならない。
(7) 所轄都道府県労働局長は、認定を受けた事業者がアの要件を満たさなくなったと認めるとき等の取消要件に該当するに至ったときは、その認定を取り消すことができる。

2023年4月1日から施行されている。

この事項に関する令和4年施行通達による解説の内容は、つぎの通り。

「(1) 特化則第2条の3第1項、有機則第4条の2第1項、鉛則第3条の2第1項及び粉じん則第3条の2第1項関係
ア 本規定は、事業者による化学物質の自律的な管理を促進するという考え方に基づき、作業環境測定の対象となる化学物質を取り扱う業務等について、化学物質管理の水準が一定以上であると所轄都道府県労働局長が認める事業場に対して、当該化学物質に適用される特化則等の特別則の規定の一部の適用を除外することを定めたものであること。適用除外の対象とならない規定は、特殊健康診断に係る規定及び保護具の使用に係る規定である。なお、作業環境測定の対象となる化学物質以外の化学物質に係る業務等については、本規定による適用除外の対象とならないこと。
また、所轄都道府県労働局長が特化則等で示す適用除外の要件のいずれかを満たさないと認めるときには、適用除外の認定は取消しの対象となること。適用除外が取り消された場合、適用除外となっていた当該化学物質に係る業務等に対する特化則等の規定が再び適用されること。
イ 特化則第2条の3第1項第1号、有機則第4条の2第1項第1号、鉛則第3条の2第1項第1号及び粉じん則第3条の2第1項第1号の化学物質管理専門家については、作業場の規模や取り扱う化学物質の種類、量に応じた必要な人数が事業場に専属の者として配置されている必要があること。
ウ 特化則第2条の3第1項第2号、有機則第4条の2第1項第2号、鉛則第3条の2第1項第2号及び粉じん則第3条の2第1項第2号については、過去3年間、申請に係る当該物質による死亡災害又は休業4日以上の労働災害を発生させていないものであること。「過去3年間」とは、申請時を起点として遡った3年間をいうこと。
エ 特化則第2条の3第1項第3号、有機則第4条の2第1項第3号、鉛則第3条の2第1項第3号及び粉じん則第3条の2第1項第3号については、申請に係る事業場において、申請に係る特化則等において作業環境測定が義務付けられている全ての化学物質等(例えば、特化則であれば、申請に係る全ての特定化学物質)について特化則等の規定に基づき作業環境測定を実施し、作業環境の測定結果に基づく評価が第一管理区分であることを過去3年間維持している必要があること。
オ 特化則第2条の3第1項第4号、有機則第4条の2第1項第4号、鉛則第3条の2第1項第4号及び粉じん則第3条の2第1項第4号第4号については、申請に係る事業場において、申請に係る特化則等において健康診断の実施が義務付けられている全ての化学物質等(例えば、特化則であれば、申請に係る全ての特定化学物質)について、過去3年間の健康診断で異常所見がある労働者が一人も発見されないことが求められること。また、粉じん則については、じん肺法(昭和35年法律第30号)の規定に基づくじん肺健康診断の結果、新たにじん肺管理区分が管理2以上に決定された労働者、又はじん肺管理区分が決定されていた者でより上位の区分に決定された労働者が一人もいないことが求められること。なお、安衛則に基づく定期健康診断の項目だけでは、特定化学物質等による異常所見かどうかの判断が困難であるため、安衛則の定期健康診断における異常所見については、適用除外の要件とはしないこと。
カ 特化則第2条の3第1項第5号、有機則第4条の2第1項第5号、鉛則第3条の2第1項第5号及び粉じん則第3条の2第1項第5号については、客観性を担保する観点から、認定を申請する事業場に属さない化学物質管理専門家から、安衛則第34条の2の8第1項第3号及び第4号に掲げるリスクアセスメントの結果やその結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容に対する評価を受けた結果、当該事業場における化学物質による健康障害防止措置が適切に講じられていると認められることを求めるものであること。なお、本規定の評価については、ISO(JIS Q)45001の認証等の取得を求める趣旨ではないこと。
キ 特化則第2条の3第1項第6号、有機則第4条の2第1項第6号、鉛則第3条の2第1項第6号及び粉じん則第3条の2第1項第6号については、過去3年間に事業者が当該事業場について法及びこれに基づく命令に違反していないことを要件とするが、軽微な違反まで含む趣旨ではないこと。なお、法及びそれに基づく命令の違反により送検されている場合、労働基準監督機関から使用停止等命令を受けた場合、又は労働基準監督機関から違反の是正の勧告を受けたにもかかわらず期限までに是正措置を行わなかった場合は、軽微な違反には含まれないこと。

(2) 特化則第2条の3第2項、有機則第4条の2第2項、鉛則第3条の2第2項及び粉じん則第3条の2第2項関係
本規定に係る申請を行う事業者は、適用除外認定申請書に、様式ごとにそれぞれ、(1)イ、エからカまでに規定する要件に適合することを証する書面に加え、適用除外認定申請書の備考欄で定める書面を添付して所轄都道府県労働局長に提出する必要があること。

(3) 特化則第2条の3第4項及び第5項、有機則第4条の2第4項及び第5項、鉛則第3条の2第4項及び第5項並びに粉じん則第3条の2第4項及び第5項関係
ア 特化則第2条の3第4項、有機則第4条の2第4項、鉛則第3条の2第4項及び粉じん則第3条の2第4項について、適用除外の認定は、3年以内ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によって、その効果を失うものであることから、認定の更新の申請は、認定の期限前に十分な時間的な余裕をもって行う必要があること。
イ 特化則第2条の3第5項、有機則第4条の2第5項、鉛則第3条の2第5項及び粉じん則第3条の2第5項については、認定の更新に当たり、それぞれ、特化則第2条の3第1項から第3項まで、有機則第4条の2第1項から第3項まで、鉛則第3条の2第1項から第3項まで、粉じん則第3条の2第1項から第3項までの規定が準用されるものであること。

(4) 特化則第2条の3第6項、有機則第4条の2第6項、鉛則第3条の2第6項及び粉じん則第3条の2第6項関係
本規定は、所轄都道府県労働局長が遅滞なく事実を把握するため、当該認定に係る事業場がそれぞれ(1)イからカまでに掲げる事項のいずれかに該当しなくなったときは、遅滞なく報告することを事業者に求める趣旨であること。

(5) 特化則第2条の3第7項、有機則第4条の2第7項、鉛則第3条の2第7項及び粉じん則第3条の2第7項関係
本規定は、認定を受けた事業者がそれぞれ特化則第2条の3第7項、有機則第4条の2第7項、鉛則第3条の2第7項及び粉じん則第3条の2第7項に掲げる認定の取消し要件のいずれかに該当するに至ったときは、所轄都道府県労働局長は、その認定を取り消すことができることを規定したものであること。この場合、認定を取り消された事業場は、適用を除外されていた全ての特化則等の規定を速やかに遵守する必要があること。

(6) 特化則第2条の3第8項、有機則第4条の2第8項、鉛則第3条の2第8項及び粉じん則第3条の2第8項関係
特化則第2条の3第5項から第7項まで、有機則第4条の2第5項から第7項まで、鉛則第3条の2第5項から第7項まで、粉じん則第3条の2第5項から第7項までの場合における特化則第2条の3第1項第3号、有機則第4条の2第1項第3号、鉛則第3条の2第1項第3号、粉じん則第3条の2第1項第3号の規定の適用については、過去3年の期間、申請に係る当該物質に係る作業環境測定の結果に基づく評価が、第一管理区分に相当する水準を維持していることを何らかの手段で評価し、その評価結果について、当該事業場に属さない化学物質管理専門家の評価を受ける必要があること。なお、第一管理区分に相当する水準を維持していることを評価する方法には、個人ばく露測定の結果による評価、作業環境測定の結果による評価又は数理モデルによる評価が含まれること。これらの評価の方法については、別途示すところに留意する必要があること。

(7) 特化則様式第1号、有機則様式第1号の2、鉛則様式第1号の2、粉じん則様式第1号の2関係
適用除外の認定の申請は、特化則及び有機則においては、対象となる製造又は取り扱う化学物質を、鉛則においては、対象となる鉛業務を、粉じん則においては、対象となる特定粉じん作業を、それぞれ列挙する必要があること。」

2023年1月30日付けで基安発0130第1号「有機溶剤中毒予防規則等に基づく化学物質の管理が一定の水準にある場合の適用除外の認定制度の運用について」が示された。認定対象、申請書類、認定(更新)基準、認定(更新)の手続き等についてとともに、関係書類の書式も示されているので、詳しくは原文にあたっていただきたい。

㉑ 特殊健診実施頻度の緩和

第2に、「作業環境管理やばく露防止措置等が適切に実施されている場合における特殊健康診断の実施頻度の緩和」である(特化則第39条第4項、有機則第29条第6項、鉛則第53条第4項及び四アルキル則第22条第4項関係)。

本規定による特殊健康診断の実施について、以下の①から③までの要件のいずれも満たす場合(四アルキル則第22条第4項の規定による健康診断については、以下の②及び③の要件を満たす場合)には、当該特殊健康診断の対象業務に従事する労働者に対する特殊健康診断の実施頻度を6月以内ごとに1回から、1年以内ごとに1回に緩和することができる。ただし、危険有害性が特に高い製造禁止物質及び特別管理物質に係る特殊健康診断の実施については、特化則第39条第4項に規定される実施頻度の緩和の対象とはならないこと。

① 当該労働者が業務を行う場所における直近3回の作業環境測定の評価結果が第1管理区分に区分されたこと。
② 直近3回の健康診断の結果、当該労働者に新たな異常所見がないこと。
③ 直近の健康診断実施後に、軽微なものを除き作業方法の変更がないこと。

2023年4月1日から施行されている。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「ア 本規定は、労働者の化学物質のばく露の程度が低い場合は健康障害のリスクが低いと考えられることから、作業環境測定の評価結果等について一定の要件を満たす場合に健康診断の実施頻度を緩和できることとしたものであること。
イ 本規定による健康診断の実施頻度の緩和は、事業者が労働者ごとに行う必要があること。
ウ 本規定の「健康診断の実施後に作業方法を変更(軽微なものを除く。)していないこと」とは、ばく露量に大きな影響を与えるような作業方法の変更がないことであり、例えば、リスクアセスメント対象物の使用量又は使用頻度に大きな変更がない場合等をいうこと。
エ 事業者が健康診断の実施頻度を緩和するに当たっては、労働衛生に係る知識又は経験のある医師等の専門家の助言を踏まえて判断することが望ましいこと。
オ 本規定による健康診断の実施頻度の緩和は、本規定施行後の直近の健康診断実施日以降に、本規定に規定する要件を全て満たした時点で、事業者が労働者ごとに判断して実施すること。なお、特殊健康診断の実施頻度の緩和に当たって、所轄労働基準監督署や所轄都道府県労働局に対して届出等を行う必要はないこと。」

㉒ 第三管理区分への措置強化

第3に、「作業環境測定結果が第三管理区分の作業場所に対する措置の強化」として、以下の内容がある

施行日は、いずれも2024年4月1日である。

(1) 作業環境測定の評価結果が第三管理区分に区分された場合の義務(特化則第36条の3の2第1項から第3項まで、有機則第28条の3の2第1項から第3項まで、鉛則第52条の3の2第1項から第3項まで、粉じん則第26条の3の2第1項から第3項まで関係)
特化則等に基づく作業環境測定結果の評価の結果、第三管理区分に区分された場所について、作業環境の改善を図るため、事業者に対して以下の措置の実施を義務付ける。
① 当該場所の作業環境の改善の可否及び改善が可能な場合の改善措置について、事業場における作業環境の管理について必要な能力を有すると認められる者(以下「作業環境管理専門家」という。)であって、当該事業場に属さない者からの意見を聴くこと。
② ①において、作業環境管理専門家が当該場所の作業環境の改善が可能と判断した場合、当該場所の作業環境を改善するために必要な措置を講じ、当該措置の効果を確認するため、当該場所における対象物質の濃度を測定し、その結果の評価を行うこと。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている(令和4年基発0907第1号による一部改正後の内容を示した-下線が改正部分)。

「ア 本規定は、第三管理区分となる作業場所には、局所排気装置の設置等が技術的に困難な場合があることから、作業環境を改善するための措置について高度な知見を有する専門家の視点により改善の可否、改善措置の内容について意見を求め、改善の取組等を図る趣旨であること。このため、客観的で幅広い知見に基づく専門的意見が得られるよう、作業環境管理専門家は、当該事業場に属さない者に限定していること。
イ 本規定の作業環境管理専門家の意見は、必要な措置を講ずることにより、第一管理区分又は第二管理区分とすることの可能性の有無についての意見を聴く趣旨であり、当該改善結果を保証することまで求める趣旨ではないこと。また、本規定の作業環境管理専門家の意見聴取にあたり、事業者は、作業環境管理専門家から意見聴取を行う上で必要となる業務に関する情報を求められたときは、速やかに、これを提供する必要があること。
ウ 本規定の「作業環境管理専門家」には、次に掲げる者が含まれること。
① 別に定める化学物質管理専門家の要件に該当する者
② 労働衛生コンサルタント(試験の区分が労働衛生工学又は化学であるものに合格した者に限る。)又は労働安全コンサルタント(試験の区分が化学であるものに合格した者に限る。)であって、3年以上化学物質又は粉じんの管理に係る業務に従事した経験を有する者
③ 6年以上、衛生工学衛生管理者としてその業務に従事した経験を有する者
④ 衛生管理士(法第83条第1項の労働衛生コンサルタント試験(試験の区分が労働衛生工学であるものに限る。)に合格した者に限る。)に選任された者であって、3年以上労働災害防止団体法第11条第1項の業務又は化学物質の管理に係る業務を行った経験を有する者
⑤ 6年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有する者
⑥ 4年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有する者であって、公益社団法人日本作業環境測定協会が実施する研修又は講習のうち、同協会が化学物質管理専門家の業務実施に当たり、受講することが適当と定めたものを全て修了した者
⑦ オキュペイショナル・ハイジニスト資格又はそれと同等の外国の資格を有する者」

「本規定の『直ちに』については、作業環境管理専門家の意見を踏まえた改善措置の実施準備に直ちに着手するという趣旨であり、措置そのものの実施を直ちに求める趣旨ではなく、準備に要する合理的な時間の範囲内で実施すれば足りるものであること。」

「本規定の測定及びその結果の評価は、作業環境管理専門家の意見を踏まえて講じた改善措置の効果を確認するために行うものであるから、改善措置を講ずる前に行った方法と同じ方法で行うこと。なお、作業場所全体の作業環境を評価する場合は、作業環境測定基準及び作業環境評価基準に従って行うこと。
また、本規定の測定及びその結果の評価は、作業環境管理専門家が作業場所の作業環境を改善することが困難と判断した場合であっても、事業者が必要と認める場合は実施して差し支えないこと。」

(2) 作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合等の義務(特化則第36条の3の2第4項、有機則第28条の3の2第4項、鉛則第52条の3の2第4項、粉じん則第26条の3の2第4項関係)
(1)①で作業環境管理専門家が当該場所の作業環境の改善は困難と判断した場合及び(1)②の評価の結果、なお第三管理区分に区分された場合、事業者は、以下の措置を講ずること。

① 労働者の身体に装着する試料採取器等を用いて行う測定その他の方法による測定(以下「個人サンプリング測定等」という。)により対象物質の濃度測定を行い、当該測定結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること。また、当該呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)が適切に着用されていることを確認し、その結果を記録し、これを3年間保存すること。なお、当該場所において作業の一部を請負人に請け負わせる場合にあっては、当該請負人に対し、有効な呼吸用保護具を使用する必要がある旨を周知させること。
② 保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから、保護具着用管理責任者を選任し、呼吸用保護具に係る業務を担当させること。
③ (1)ア①の作業環境管理専門家の意見の概要並びに(1)②の措置及び評価の結果を労働者に周知すること。
④ 上記①から③までの措置を講じたときは、第三管理区分措置状況届(特化則様式第1号の4、有機則様式第2号の3、鉛則様式第1号の4、粉じん則様式第5号)を所轄労働基準監督署長に提出すること。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「ア 本規定は、有効な呼吸用保護具の選定にあたっての対象物質の濃度の測定において、個人サンプリング測定等により行い、その結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を選定する趣旨であること。
イ 本規定の呼吸用保護具の装着の確認は、面体と顔面の密着性等について確認する趣旨であることから、フード形、フェイスシールド形等の面体を有しない呼吸用保護具を確認の対象から除く趣旨であること。」

(3) 作業環境測定の評価結果が改善するまでの間の義務(特化則第36条の3の2第5項、有機則第28条の3の2第5項、鉛則第52条の3の2第5項、粉じん則第26条の3の2第5項関係)
特化則等に基づく作業環境測定結果の評価の結果、第三管理区分に区分された場所について、第一管理区分又は第二管理区分と評価されるまでの間、上記(2)①の措置に加え、以下の措置を講ずること。
6月以内ごとに1回、定期に、個人サンプリング測定等により特定化学物質等の濃度を測定し、その結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること。

令和4年施行通達では、以下のように解説されている。

「本規定は、作業環境管理専門家の意見に基づく改善措置等を実施してもなお、第三管理区分に区分された場所について、化学物質等へのばく露による健康障害から労働者を守るため、定期的な測定を行い、その結果に基づき労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる等の必要な措置の実施を義務付ける趣旨であること。」

2023年4月24日付け労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第70号)により、この場合においては、6月以内ごとに1回の作業環境測定を行うことを要しないという規定も追加された。

(4) 記録の保存
(1)①又は(3)の個人サンプリング測定等を行ったときは、その都度、結果及び評価の結果を記録し、3年間(ただし、粉じんについては7年間、クロム酸等については30年間)保存すること。

●第三管理区分告示(濃度の測定方法等)

有機溶剤、鉛、特定化学物質及び粉じんに係る作業環境測定の評価の結果、第三管理区分に区分された場所における作業環境の改善の可否等について、作業環境管理専門家の意見を聴き、当該専門家が当該場所を第一管理区分若しくは第二管理区分とすることが困難であると判断した場合等は、厚生労働大臣の定めるところにより、有機溶剤等の濃度を測定しなければならないこと等が義務付けられたことと関連して、2022年11月30日付けで「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」(令和4年厚生労働省告示第341号)が告示され、その適用等に関する解説通達(令和4年基発1130第1号)も示されている。

詳しくは原文にあたっていただきたいが、告示のポイントは以下のとおりと説明されている。

1 有機溶剤等の濃度測定
個人サンプリング法(労働者の身体に試料採取機器を装着して行う測定方法)による作業環境測定等や個人ばく露測定の方法、その試料採取方法と分析方法を規定。

2 有効な呼吸用保護具の使用
有効な呼吸用保護具として、測定結果に応じた要求防護係数(労働者がばく露される濃度が基準値の何倍かを示す係数)を上回る指定防護係数を有するものでなければならないことを規定。

3 呼吸用保護具の適切な装着の確認
呼吸用保護具が適切に装着されていることを確認する方法として、フィットファクタ(労働者の顔面と呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数)が呼吸用保護具の種類に応じた要求フィットファクタを上回っていることを確認することを規定

また、上記「③ 濃度基準値以下にする義務」でも紹介しているが、さらに2023年4月17日付けで「作業環境測定基準及び第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等の一部を改正する告示」(令和5年厚生労働省告示第174号)が告示され、解説通達(基発0417第4号)も示された。
「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」告示関係の改正は、「作業環境測定基準の改正により追加された個人サンプリング法の対象物質等のうち、管理濃度が定められている特定化学物質(12物質)等を第三管理区分告示における個人サンプリング法の対象物質等に追加する趣旨である。なお、管理濃度が定められていない3物質については…除外している趣旨であること」とされている。

文・古谷杉郎

安全センター情報2023年7月号