新型コロナウイルス感染症と安全衛生・労災補償⑧/コロナ労災の一年の年末までの状況(2021年1月8日)

2020年(令和2)年はCOVID-19パンデミックの年であり、労働安全衛生ではコロナ労災の一年だった。全国労働安全衛生センター連絡会議は、4月27日に「新型コロナウイルス感染症と労働安全衛生及び労災に関する緊急声明」を発して以来、厚生労働省等に対策とその改善を促し、状況を監視・把握し、労働者・労働組合に情報と支援を提供し続けている唯一の団体と自負している。労災保険と地方公務員災害補償基金の2020年末までの情報が公表されたので、紹介したい。

※これまでの主要な報告を含めたコロナ労災の解説

年末厚生労働省ヒアリング

国会も閉会になった2020年末の12月16日に阿部知子衆議院議員が厚生労働省労働基準局補償課を呼んでヒアリングを実施し、全国安全センターと東京労働安全衛生センターからも出席した。

まず、医師会等5つの医療団体、経済団体等への協力要請などに加えて、新たに「職場で新型コロナウイルスに感染した方」向けチラシ(ウエブサイトにも掲載)を作成、最優先での労災事務処理、クラスター発生事業所への粘り強く説得している等説明したうえで、それでも業務に起因して感染した労働者すべてから請求が出てきていないことは厚生労働省としても感じているという認識を示した。

「10月に都道府県労働局での労災請求・決定状況について各局の判断で公表してよい旨の連絡があった」と伝えられたのは、補償課監察官から各局の担当部課長に宛ててメールで、「当面公表を差し控えていただくようお願いした」5月の「WEB会議から5か月経過し、請求件数が増加している局も見受けられるので、今後、外部より問い合わせが寄せられた場合、各都道府県内の状況に鑑み、各局の判断でお答えいただくことは差し支えない」と連絡したものであることも明らかにされた。

「なお、その際は個人の特定に至らないようご留意下さい」とも付記されており、具体的事情の判断は本省ではできないとして、われわれが要請した本省による都道府県別情報の公表は拒んだ。認定事業場数の公表も、アスベスト以外でそういう集計はしていないと、拒否。
「粘り強く説得している」というクラスター発生事業所対策については、労働基準監督署レベルでの労働者死傷病報告の提出状況のチェック、提出促進との連携を活用できるのではないかと提起したところ、検討してみたいとのことだった。

また、技能実習生など外国人労働者の労災請求促進に関しては、外国人技能実習機構のウエブサイトで労災関係情報も掲載してもらったことが紹介されたが、「職場で新型コロナウイルスに感染した方」向けチラシ等の多言語による提供について、予算との兼ね合いもあるが検討してみたいと回答した。

事業主を通じてだけでなく、直接労働者に働きかける努力も要請したが、全般的に労働基準監督署はそういう機会がないと消極的だった。

さらにより実務的な問題として、「会社が労災保険未加入なために労災請求できない場合がある」と報じるメディアさえあることから、①未加入という言葉自体が間違いで保険料未納状態であっても労働者は労災保険給付を受けられる、②事業主が証明を拒否した場合であっても労働基準監督署に請求することができる、ことをあらためて周知する必要性を強調した。

また、①症状固定・治ゆ、②障害認定、③再発をめぐった問題が生じる可能性が高いことについても議論。具体的な問題が本省にあがってきたことはまだないようだったが、「安易な症状固定を避ける努力をすることが重要という認識をもつ必要がある」ことは一致したように思う。

厚生労働省による労災保険請求・決定状況については、更新頻度を落として、毎週を目標とすることにしたということも伝えられた。

状況の推移と実際に生じている諸問題の監視を継続しながら、今後も機会をとらえて状況をさらに改善させる提案をしていきたい。
なお、この時点までの不支給決定件数31件はすべて、実際には新型コロナウイルス感染症ではなく、かつ業務上と認められなかったもので、新型コロナウイルス感染症であって不支給とされたものはないことも確認された。

2020年末までの、新型コロナウイルス感染症の、労災保険及び地方公務員災害補償の請求・認定状況を紹介する。

労災保険の状況

労災保険については、11月27日現在の12月1日、12月4日現在の12月8日、12月11日現在の12月16日公表後、更新頻度を落とし毎週を目標とするとのことになった以降、12月18日現在の12月23日、12月28日現在の1月8日公表となった。

労災保険請求は、11月12日に2,000件を突破し(2,028件)、12月28日現在2,720件である。前号で紹介した10月23日の1,723件と比較すると、57.9%の増加である。

認定件数のほうは10月23日の857件から、11月13日に1000件を突破し(1,036件)、12月28日1,475件へと、72.1%増加した。

10月20日に初めて「決定件数」と「うち支給決定件数」との間に違いが現われ、11件の不支給件数があったことが明らかになったが、これは12月28日現在33件になっている。医療従事者等が29件とそれ以外が4件(医療業2件、運輸業・郵便業と卸売業・小売業各1件)で、これまでのところ、すべてが新型コロナウイルス感染症ではなかった事例のようである。そうすると、新型コロナウイルス感染症で不支給決定された事例はまだないことになる。

請求件数に対する支給決定件数として計算した「認定率」は、全体では10月23日の49.7%から12月28日の54.2%へ、増加した。

別掲表1に、業種ごとの請求・支給決定件数、認定率と不支給決定件数を示した。

医療従事者等の請求件数は10月23日の1,354件から12月28日2,085件と54.0%増加、それ以外の請求件数は10月23日の362件から12月28日625件と72.7%増加した。

支給/請求としての「認定率」は、医療従事者等は54.3%、医療従事者等以外は48.3%、海外出張者は80.0%。農業・林業と教育・学習支援業ではまだ支給決定事例がなく、学術研究・専門・技術サービス、不動産業・物品賃貸業の認定率がまだ30%未満と低いという状況である。

厚生労働省は11月16日に「労働者の方向けQ&A」ウエブサイト上に公表する「労災補償」関係参考資料に「新型コロナウイルス感染症に関する労災請求・決定件数(月別)」を追加した。

地方公務員災害補償

地方公務員災害補償の状況の公表は、前回紹介の10月23日現在(10月27日公表)の状況以降、10月30日、11月6日、11月18日、11月30日、12月11日、12月31日現在(1月7日公表)の6回あった。

請求件数は各々、109件→117件→120件→137件→145件→171件→200件で、83.5%の増加だった。10月30日に初めて「保健師・助産師」の請求1件が現われた。

こちらは幸いいまだに公務外認定事例は現われておらず、公務上認定件数は各々、71件→76件→77件→80件→92件→98件→123件で、73.2%の増加であった。全体の認定率は65.1%→65.0%→64.2%→58.4%→63.4%→57.3%→61.5%と増減している。

別掲表2に、請求・支給決定件数と認定率を示した。

医療従事者等は4職種合わせて69.4%で、各種技師と消防吏員、それについに公務上認定が出た清掃職員は100.0%、警察官43.6%、その他の職員70.0%となったが、清掃職員と保育士・寄宿舎指導員等、保健師・助産師ではいまだに認定事例がない。

東京都モニタリング会議資料

東京都の新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料から、7/28~8/3の週以降、週単位の「濃厚接触者における感染経路」別割合がわかるようになった。「濃厚接触者」は「接触歴等判明者」のことで、別の資料から日毎の新規陽性者数、接触歴等判明者数、接触歴等不明者数が得られるので、1週間ごとの接触歴等判明者数に割合を掛けて当該感染経路による感染者数の実数を求め、1週間ごとの新規陽性者数に対する割合を計算することができる。この結果を示したのが表3及び図3である。

新規陽性者数全体のうち「職場」を感染経路とする者の割合は3.7%~11.3%、7月28日から1月4日までの全期間では5.7%となった。

年末にかけての新規陽性者数と接触歴等不明者双方の急増により、この割合は減少する傾向にあるが、他に情報がないなかでは貴重な指標である。

また、感染経路が「職場」ではなく、「施設」等他の区分に区分されている中にも、労働者として業務上感染したものが含まれていることは確実である。接触歴等不明も含めて、労災保険の支給決定(業務上認定)や公務員災害補償基金の公務上認定の対象になり得る者が含まれていることにも留意する必要がある。

12月28日現在の全国の累計感染者数は220,236人であり、前述の労災保険請求件数2,720人と地方公務員災害補償基金の請求件数200人を合わせても2,920人で、220,236人の1.3%に相当するだけなので、本来労災補償を受けられるべき者から請求がなされているとは到底言い難い状況である。

労災補償を確実にすることは、労働安全衛生問題としてのCOVID-19に対する対策を促進するうえでの最大の保証である。一層の取り組みをすすめていきたい。

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2020年4月27日の全国安全センター緊急声明
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