学校・教員アスベスト被害、ようやく「公認」に道~地公災基金大阪府・北海道支部審査会 相次ぎ中皮腫公務外取消裁決

片岡明彦・関西労働者安全センター事務局

はじめに

2005年6月29日の新聞報道で、尼崎のクボタ旧神崎工場の内外で多数の中皮腫が発生していることが明るみに出たことをきっかけに、おびただしいアスベスト被害の存在が暴かれた。それまでのアスベストに対する認識、対応が一変した。いわゆる「クボタショック」である。

しかし、クボタショック以前にも同様の時期があった。1980年代後半、1986年から88年にかけて、アスベストの危険性を示す事件が相次ぎ、とくに、学校の吹き付けアスベストへの対応が問題となったことで、逆に、拙速なずさんな除去工事が横行した。これは「学校アスベストパニック」とも言われる。

学校におけるアスベスト対策は、ほとんど、校内の吹き付けアスベスト対策工事を意味してきた。ただし、自治体、文部科学省は順次対策工事等を進めてきたが、様々な問題点が指摘され続けてきているという現実がある(28頁も参照されたい)。大阪府立金岡高校事件などがこれにあたるが、文字どおり氷山の一角だろう。

学校におけるアスベスト対策が注目され、まがりなりにも予算を投じられ実施されてきたのは、子供の健康、安全を守る、という観点が重視されたからであって、「吹き付けアスベストの下での学校生活が危険である」ことは学校管理者、教職員、生徒、保護者の共通認識といえる。

では、これほど対策を講じられてきた学校アスベストによる被害は発生しているのか?

この点について、これまで系統的調査は行われていない。

しかし、ようやくここにきて、公務災害認定というかたちで(後述するように認定のされ方に一部問題はあるものの)、学校におけるアスベスト被害が確認されはじめてきた。そして、その被害はどうも「きわめて例外的」と片付けることはできないようだ。

こうした事態を受けて、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会は、文部科学省に対して実態調査を求める申し入れを行った。公務災害認定は教職員を対象としているが、むろん、児童生徒にも関連している。

本稿では、2014年になり相次いで公務外認定取り消しとなった教員中皮腫2件及び2010年の再審査請求での取り消し事案について述べるとともに、公務災害・労災保険による認定状況、この間行われた文部科学省への要請について報告する。

地公災基金・本部協議の抜本改善を

公立小中高校教職員の公務災害は、地方公務員災害補償法による地方公務員災害補償基金(以下「基金」)によって公務上外が判断され、公務上とされた事案に対しては公務災害補償が実施される。基金制度については、基金HPの「基金の業務」などを参照されたい。

公務災害認定申請は、政令指定都市、各都道府県におかれた基金の各支部に対して被災者や被災者遺族が行う。公務上外の判断は支部長が行う。実務の実質は、担当自治体の人事・厚生部局が担っている。

そして、基金では、石綿疾病にかかる全ての申請事案について「本部協議」に上げて、本部において公務上外判断を行うことにしている。各支部は、本部の指示による調査と資料収集、結果の伝達をするだけの存在だ。

この「本部協議」の実質は、本部事務局の意向と「本部専門医」と称する基金本部の選んだ特定の医師の意見によっている。
さて、これまで基金が公務上認定した教員の中皮腫3件について共通しているのは、

  • 支部において「公務外認定」とされたこと。
  • 滋賀県事案は基金本部審査会、大阪府・北海道事案は基金支部審査会で、この「公務外認定」処分が取り消されたこと=公務上判断がなされたこと

である。

つまり、三つの取り消し裁決は、基金とは一定の独立性をもった審査会が、それぞれの事案についての本部協議による本部判断が間違っていたと断じたといえる。3裁決をみると、単に個別判断において間違ったというのではなく、本部協議・判断に基本的な問題点が浮かび上がってくる。

能力不足か、意図的認定抑制か

3裁決の概要を表にまとめた。

地公災基金による公務外認定処分が取り消しとなった3つの中皮腫事案

そして、原処分における基金の判断、審査段階の請求人側(被災者側)の追加主張、審査会の判断の概要を次に示した。

北海道事案の審査請求における口頭意見陳述時に提出された名取雄二医師意見書(以下「名取意見書」)、大阪府事案の審査請求における口頭意見陳述時に提出された外山尚紀氏の石綿金網取扱による石綿飛散実験報告書(以下「外山意見書」)、各裁決の判断部分については、別の記事として掲載したので参照されたい。

苫小牧市立小学校教諭の中皮腫の業務起因性に関する意見書-学校・教員アスベスト:名取雄司

大阪府立高校化学教員・中皮腫公務外認定処分に関する意見書 石綿付金網による曝露実験結果-学校・教員アスベスト:外山尚紀

学校・教員アスベスト-中皮腫公務外認定取消裁決書3件(判断部分)

また滋賀県、大阪府の事案についての新聞報道記事 を稿末に掲載した。

さて、原因ばく露と認定されたのは、劣化した吹き付け石綿のある建物(体育館)での作業(滋賀)、実験での石綿製品の取り扱い(大阪)、石綿含有建材を使用した建築工事周辺の石綿飛散と掃除作業(北海道)と、三者三様だ。

ただ、このような「原因ばく露」は、民間労働者の労災補償をカバーする労災保険による認定においては、事例的にめずらしいものではない。(下表の「学校関連の石綿関連疾患に係る労災保険・労災時効救済支給事例」参照)

※現在は厚生労働省「石綿曝露作業による労災認定等事業場一覧表(平成30年度以前認定分)」に更新されておりさらに件数は増加している。

滋賀県事案と同様の、厚生労働省が公表している石綿疾病の労災認定事業場リストにおいて「吹付け石綿のある部屋・建物・倉庫等での作業」と石綿ばく露作業状況に記載された事案はすでに数十件におよんでいる。

石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧(当センター検索サイト) で「吹付け石綿のある部屋・建物・倉庫等での作業」で検索してみていただくとわかる。

名取意見書にもあるように、中皮腫については、低濃度・短期間ばく露でも発症するとされていることから、審査する側が、何が「ばく露作業」なのかを適切に判断できるかが、重要となる。この点、3裁決事案における石綿ばく露について、基金本部が「石綿ばく露作業と判断しなかった(できなかった)」という点が最大の問題だった。

3裁決事案での基金の反論において、ばく露が、「高濃度ではない」「長期間(長時間)ではない」といった内容が目につく。たとえば、「被災者が石綿が高濃度に飛散する状況下において長期間勤務に従事したものとは認められず」(北海道事案)、「石綿金網の剥落によって被災職員が石綿粉じんに濃厚にばく露したとは考えられない」(大阪府事案)といった箇所だ。

つまり、基金本部が、中皮腫の「低濃度・短期間ばく露でも発症」という点や労災保険での認定状況をまるで踏まえないで、認定判断を続けてきたことに大きな問題があるというわけだ。

3事案とも、中皮腫診断は確実になされていたので、審査請求の争点は、まさに、各被災者が行った作業が、中皮腫と関連する石綿ばく露作業といえるかどうか、という一点だった。

3裁決において、この判断を適正にし直すに至った根拠をみてみると、滋賀県事案では児童生徒や同僚の証言と神山宣彦東洋大学教授による意見書、大阪府事案では森永謙二医師による意見書が、決定的証拠とされた。北海道事案では、支部審査会は新たな医学的意見や証言を採ったりせず、支部段階(原処分段階)で請求人側が提出した証拠を再評価して、逆転裁決を下した。

このように3裁決の内実を検討してみると、違法な公務外認定を基金本部が行った原因は、アスベスト疾病判断における基金本部や基金専門医の能力不足にあることは、明らかであるとみられる。

でなければ、意図的な認定抑制が実行されてきた、としか考えられない。

いずれにしても、このように不当な認定実務は放置されるべきではない。

鑑定的意見書(森永謙二意見書)にも問題あり

ただ、審査会に提出された鑑定的意見書にも見過ごせない問題がある。

それは、大阪府事案における森永謙二医師による意見書である。森永意見書は、石綿ばく露作業として、炎色反応演示実験における石綿ひもの切断作業によるばく露を有意な原因ばく露として指摘し、これが、逆転裁決の決め手となった。

一方、森永意見書は、請求人側が原処分段階から主張してきた、実験に使用された石綿付金網の取扱いによるばく露については、「石綿金網を使用していたことによるばく露は否定しえないが、石綿金網そのものは非飛散性の状態にあり、したがってそのばく露量はあるとしても非常に微々たるものであるものと思われる」云々として、否定的な評価を下した。

審査請求段階において、請求人側は、東京労働安全衛生センターの外山尚紀氏による再現実験報告書を証拠として提出して、データに基づく主張を行っていたのだが、森永意見書は、これを根拠も示さずに無視したわけで、この点、きわめて非科学的な内容と言わざるを得ない。

筆者は、大阪府事案における代理人であったが、結果においては取り消しとされたのであるが、裁決書の内実は納得できるものではなかった。そして後日、この森永意見書とこれに基づく裁決内容への疑念をさらに深める出来事があった。

3月18日に大阪府事案についての報道が行われたあと、腹膜中皮腫で死亡した大阪府立高校化学教諭の遺族から相談電話がかかってきた。お会いして事情を聞くと、この教諭は公務災害申請をし、2009年7月に公務外認定とされており、審査請求はしておられなかった。遺族のもとに残された資料を見ると、1982年から化学教諭で、基金大阪府支部に対する公務災害申請においては、石綿付金網によるばく露についての立証資料が提出されていたが、今回の裁決事案と同様に公務外とされていた。

裁決事案が公務外とされたのが2009年2月なので、基金大阪府支部は、半年の間に2件の府立高校化学教諭の中皮腫を公務外としていたことになる。基金本部も当然、大阪府立高校の化学教諭の中皮腫事案をたてつづけに公務外と判断したことをわかっていたはずだ。

もし、この方も審査請求し、裁決事案と同時並行で支部審査会による審査が行われていたとしても、森永医師は石綿付金網による石綿ばく露再現実験報告書を無視する意見書を書いた(書くことができた)のだろうか?

低い認定率、少ない請求件数

次表「石綿関連疾患に係る公務災害の請求・認定件数(地方公務員災害補償基金)」は、基金本部が国会議員の資料請求に応じて提出したもの。

中皮腫はじめ石綿疾病の認定率は労災保険に比べて、あらためて計算するまでもなく、明らかに過少である。

本稿で述べている教師においては、認定はゼロ件(上記3件は審査会裁決で認められたものに過ぎない)。建物の破壊、解体現場への立ち入りがある消防でも、認定はゼロ件であるので、ここにも教員におけると同様、きわめて不適切な認定実務が行われている可能性がある。

一方、労災補償の対象とならなかった中皮腫事案で、環境再生保全機構による石綿救済法の認定を受けた件数は、2006~2011年度で合計137件(次表「救済給付累計職業別集計」)。

これに対して、2013年度までの基金への公務災害認定請求件数は、わずかに18件に過ぎない。上記137件には、近隣ばく露や民間労働者の事案もあるだろうが、18件しか公災申請されていないのは、いかにも少ないのではないだろうか。

文部科学省に要請

こうした公務災害、救済認定の実態や大阪府事案の逆転裁決を踏まえて、3月19日、文部科学省に対して、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会から次のような要請を行った。

要請は田村智子参議院議員の立ち会いで行われ、文部科学省側は、稲畑航平(スポーツ・青少年局学校健康教育課企画調整係(併)健康教育企画係係長)、男澤直孝(初等中等教育局初等中等教育企画課専門職(教育公務員係担当))の両氏が対応した。

教員におけるアスベスト被害についての要請

「建物」だけ、から、「人」への対応を!

貴職におかれましては、常日頃から学校教職員、生徒の健康と安全のための取り組みを推進しておられるところと存じます。深く敬意を表します。

さて、わが国におけるアスベスト問題は2005年6月のいわゆる「クボタショック」以降、非常に大きく社会問題化したところですが、振り返れば、1980年代後半に社会的に注目され政策的対応が開始されたいわゆる「学校アスベスト問題」は、わが国における近年のアスベスト問題におけるまさに嚆矢であったのではないでしょうか。

そして、アスベストによる被害を予防するために、学校建物に使用された吹き付けアスベストをはじめとするアスベスト建材、実験器具に使用された石綿付金網などの石綿製品に対する対策工事、回収・代替が順次実施され、今日に至っています。

しかしながら、そのような予防対策が取られる一方で、アスベストばく露の危険性・可能性が存在した学校に勤務した教職員、生徒における被害の有無については、いまだ調査らしい調査が行われていないのではないでしょうか。

このような現状の中で、たとえばアスベスト被害の特異的疾患である「中皮腫」を発症し死亡した被害者・家族が、その原因が学校におけるアスベストばく露にあったとして、公務災害又は労働災害の認定請求件数が相当数にのぼっているにもかかわらず、まさにほとんどすべての案件が認定に至っていないということに代表されるように、被害者にとってまことに厳しく、やりきれない現実があります。

本年1月8日付けで地方公務員災害補償基金大阪府支部審査会は、府立高校理科教師の中皮腫について、理科実験での石綿製品の使用によるものだとして、公務上と判断し、同支部の公務外認定処分を取り消しました。

この件は、2010年3月に滋賀県の公立小学校の体育教師の中皮腫を、地公災基金本部審査会が公務上と裁決した事案につづいて、小中高校の教師としては、まことに、ようやくにして、2件目の業務上認定となりました。

つまり当会としては、現実に学校アスベスト関連被害者がでているにもかかわらず、必要な調査・研究と適正な補償がなされていない、と痛感しているのです。

以上より、この際、今回の理科高校教師の業務上判断を重く受け止め、これを契機として、下記の事項を含む、学校アスベスト被害に対する積極的な対応を、これまでの「建物」に対する対応に加えて、とくに「人」への対応を、貴職に対して要請申し上げる次第です。

1) 教員のアスベスト被害の発生状況に関する情報収集と調査を行うこと。

文部科学省として、環境省・厚生労働省等と協力して、教員・教員退職者における中皮腫発症・死亡状況についての調査・研究を行ってください。
たとえば、石綿健康被害救済法による認定作業を行っている独立行政法人環境再生保全機構においては、平成18年度から23年度にかけて、「ばく露状況調査報告書」を作成し公表しています。これによれば、平成18年度~23年度において、中皮腫137件(男83,女54)、肺がん1件(男)、びまん性胸膜肥厚1件(男)、合計139件が認定されています。これらはすべて、労災・公災としてではなく認定されたものです。
小中高校の教師において、公災・労災として認定された事案はわずかに2件にすぎないとみられること、個人にとってばく露状況の調査が困難を極めること、認定当局の実務判断基準が極めて狭き門を形成していることから、この環境再生保全機構で認定した中皮腫事案137件の中には、労災・公災補償の対象事案が存在しているのではないかとみられます。この点を含め、教員を職歴にもつ中皮腫認定者の実態をぜひ環境再生保全機構と連携して実施し、結果を公表していただきたい。
また、環境再生保全機構から情報提供を受けて、現状において機構が把握しているより詳細なばく露状況(認定された教員事案の担当教科、学校種別など)について明らかにしてください。

2) 公災・労災補償状況に関する情報収集と調査を行うこと。

公災・労災補償を実施している地方公務員災害補償基金、厚生労働省等と協力して、教員からの請求、認定事案について調査を実施し、結果を公表していただきたい。
また、地方公務員災害補償基金、厚生労働省等の認定当局から情報提供を受けて、これら認定当局が把握している補償状況の内訳等を明らかにしていただきたい。

3) 過去の公災・労災認定事案について、周知するとともに、1)2)などを踏まえながら、教員、退職者、児童生徒に対する対策を実施すること。

行政訴訟、新たな請求も

教員のアスベスト被害については、中皮腫で国語教諭の夫を亡くしたUさん(患者と家族の会)が、労災請求したものの不支給とされ、その取り消しを求める全国唯一の行政訴訟が、患者と家族の会、名古屋労災職業病研究会などの支援を受けながら、名古屋地裁で取り組まれている(稿末新聞記事参照)。
また、中皮腫で大阪市立中学数学教諭の夫を亡くしたGさんが、昨年、基金大阪市支部に公務災害認定を請求した。Gさんも患者と家族の会の会員だ。
今年になって2件の公務外認定取り消し裁決が相次いだことで、教員のアスベスト被害がさらに顕在化してくることも予想される。
学校におけるアスベスト被害へのさらなる取り組みが求められている。

関連新聞報道記事

「学校石綿で中皮腫」認定
補償基金 死亡教諭 初の公務災害


滋賀県の公立小中学校に教諭として勤務し、アウベスト(石綿)が原因で発症するがんの一腫、中皮腫で死亡した同県東近江市の古沢康雄さんの遺族が、公務災害認定を求めた申請について、地方公務員災害補償基金審査会は「体育館で暴露したことによる発症」と判断し、公務外の災害とした同基金県支部などの裁決を取り消した。同支部は近く公務災害と認定する。同基金によると、教職員の石綿による公務災密が認められるのは全国初。
<関連記事37面>


裁決は3月29日付で、裁決書などによると、古沢さんは2001年秋に中皮腫と診断され、02年4月に56歳で死亡した。古沢さんが1973~76年に体育教諭として勤めた旧甲西町(現湖南市)の小学校の体育館の壁や天井に石綿が吹きつけられていたことが判明。ほかに石綿にさらされる機会はなかったとして、妻弥恵子Yさん(61)は05年11月、公務災害を申請していた。
県支部は07年5月、「体育館での勤務は限定的」として公務外と裁決。県支部審査会も不服申し立てを棄却したが、再審査した同基金審査会は「石綿が飛散する体育館に長時間いたと推認できる」と判断した。
遺族とともに記者会見した大阪じん肺アスベスト弁護団の山上修平弁護士は比較的低濃度の石綿暴露でも中皮腫を発症することを認定した画期的裁決。国はもっと被害者対策に飛り出すべきだ」と話している。

石綿との“接点” 執念の解明
公務災害認定へ 妻「いい報告できた」

職場環境や仕事内容からアスベスト(石綿)を「直接吸い込むとは考えにくい」とされてきた教職員も、石綿による公務災害が認定される見通しとなった。中皮腫で2002年に56歳で亡くなった古沢康雄さんのケースは、地方公務員災害補償基金の初の認定事例となる。妻弥恵子さん(61)は22日、滋賀県庁で記者会見し、「原因がはっきりし、主人にいい報告ができた」と涙を浮かべた。
<本文記事一面>

弥恵子さんは、夫が亡くなった後の05年、「クボタ」の工場周辺で、住民が中皮腫を発症していたことを知った。「夫もアスベストが原因なのでは」。夫の勤務先などを調べ、石綿の使用が明らかになった場所と照合。1973年から3年間赴任していた旧甲西町立小学校で、体育館の壁や天井に石綿が使われていたことを突き止めた。
石綿との“接点”はここだけ。06年4月には、教え子らが支援する会を結成、記憶をたぐって弥恵子さんに伝えた。
この日明らかにされた同基金審査会の裁決書でも、体育館の天井が低く、頻繁にボールが当たってきらきらとした物が散っていたことや、新しい体育館なのにほこりがよく舞っていた点など、関係者の証言を元に、体育館によくいた古沢さんが暴露したことを認定した。
弥恵子さんは「石綿にさらされた可能性のある教職員や児童は、早く健康診断に行ってほしい。行政側も健康管理体制をとるべきだ」と力を込めた。
同基金によると、石綿被害での公務災害として申請、処理した件数は10年3月末現在で教職員11件を含む94件。うち21件を認定した。
一方、文部科学省が06年3月に発表した学校など約15万施設での.石綿使用実態調査によると、958施設で飛散した石綿を吸う恐れがあるなどの問題が判明。09年10月現在、55施設で使用禁止などの措置が続く。
労働安全衛生に詳しい滋賀医科大の垰田和史准教授(衛生学)は、(70年代当時)教職員が学校で石綿を吸い込む可能性は高く、今回のケースは、今後の認定基準に大きな影響を与えるはず」と評価している。

読売新聞 2010年4月3日

理科実験で石綿労災
死亡の元教諭 初認定 大阪

大阪府立高校の元化学教諭(当時57歳)が中皮腫で死亡したのは「理科の実験で使用したアスベスト(石綿)との関係が認められる」として、地方公務員災害補償基金大阪府支部審査会が死亡を公務上災書と認定したことが分かった。公立小中高校教諭の理科実験での石綿労災が認定されたのは初めて。【大島秀利】

遺族が公務災害の認定を申請したが、同支部で2009年に不認定とされ、不服審査を申し立てていた。
教諭は1975年以来、府立5校で勤務。在職中の06年に中皮腫と診断され、翌年死亡した。審査会の裁決書によると、教諭は78~84年ごろ、化学の授業で金属イオン溶液を石綿のひもにしみ込ませて燃やし、金属の種類によって炎の色が異なるのを確認する「炎色反応実験」を繰り返し行った。審査会は、教諭がこの実験で石綿製のひもをはさみで切断する際に高濃度の石綿を吸った可能性があると判断。中皮腫の主な要因は学校での業務にあったと認定した。
関係者によると、炎色反応実験で石綿を使う方法は、教諭が勤めていた高校で他の教諭も採用。また、当時は教員用の実験手引書に記載されており、他校でも広く実施されていた可能性があるという。
遺族側は、理科の実験で使う石綿金網からも飛散があったと訴えていた。審査会は「石綿金網から石綿が飛散した可能性は否定できないが、濃厚とは考えられない」とした。
公立校教諭の石綿による公務災習の認定申請は13件以上あるが、 中皮腫で死亡した滋賀県湖南市の小学校教諭が体育館の石綿を吸ったとして10年に認定された例しかなかった。
今回の教諭の妻(63)は「夫は理科の実験には石綿が付き物だと言っていた。冒様の実験をした教員のことが心配だ」と話す。支援した関西労働者安金センターの片岡明彦事務局次長は「授業の身近に石綿の危険があったことが公式に認められた意義は大きい。子どもたち以上に教職員が石綿と接したことに着目し、調査すべきだ」と話している。

高い壁再評価を

「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」所長の名取雄司医師の話
教員の中皮腫での公務上災轡の認定はまだ2例目で、認定への壁が高過ぎる。一般の労働者は、石綿が吹き付けられた建物に一定期間いれば労災認定されるのに、教員はなかなか認められない。理科実験の評価も含め改善すべきだ。

毎日新聞 2014年3月18日

教員の石綿被害 労災認定の壁高く
「国は向き合って」

アスベスト(石綿)の健康被害は建設現場にとどまらず、医療や教育現場などに広がっている。ただ、石綿を吸い込んだことが証明しやすい建設作業員らに比べて、労災認定は難しい。教諭だった夫を亡くした日進市の宇田川かほるさん(65)は国に労災認定を求め、名古屋地裁で争っている。(蜘手美鶴)

名地裁で係争中 危険周知も願う

夫暁(さとる)さん=当時(64)=に中皮腫が見つかったのは一九九九年秋。愛知淑徳学園(名古屋市千種区)の中学と高校で三十年以上、国語を教えていた。「中皮腫はアスベストを吸って発症します。どこで吸ったか分かりますか?」。当時の医師の問いに、心当たりはなかった。
同僚から「万年青年」とからかわれるほど、真っすぐで生徒思いの教諭だった。「途中で生徒を放り出せない」と入退院を繰り返しながら働き、2001年、定年四カ月前の秋に亡くなった。
病床では、生徒たちの写真を見ながら「何でこんな病気で死んでいくんだ、悔しい」とつぶやいた。一分でも一秒でも長生きしてほしかった」と宇田川さんは言う。
暁さんの死後、支援団体「中皮腫・じん肺・アスペストセンター」(東京)と共に調査し、改修前の校舎で、テレビスタジオや音響調整室などに石綿が使われていたことが分かった。放送部の顧問だった暁さんは、音響調整室などに頻繁に出入りしていたという。
しかし、名古屋東労働基準監督署は「アスベストにさらされる作業には従事していない」として労災申請を却下。宇田川さんは一一年七月、提訴した。国側も全面的に争う構えで、証人尋問などが続き、審理はまだまだ続く見通しだ。
自宅の居間には、桜に囲まれ、ほほえむ暁さんの写真が飾られている。亡くなる数カ月前、教え子たちが企画してくれた花見での一こまだ。宇田川さんは「この子たちも、これから発症するかもしれない」と不安になる。吸引から数十年後に症状が出ることもある。
「夫も生きていたら生徒たちのことを一番心配していたはず。一学校の一教員の話ではなく、石綿の危険を生徒を含め多くの人に知らせる意味でも、国はちゃんと向き合ってほしい」と訴える。

「小中高」認定1件のみ 因果関係証明が難題

石綿の被害者救済などに取り組む「中皮腫・じん肺・アスペストセンター」によると、これまでに石綿労災として認定された小中高校の教員は、公立、私立を含めて滋賀県東近江市の中学校体育教諭で2002年に亡くなった古沢康雄さん=当時56歳=の一件しかない。
市民団体・名古屋労災職業病研究会の成田博厚さん(40)は「直接石綿を扱ってないので、因果関係の証明が難しい。いまは認定のハードルがあまりにも高すぎる」と解説する。
発症まで数十年かかるとされ、宇田川さんのように職場が改修されていたりして、因果関係を示す証拠がなくなっているケースも多い。
労災認定されない被害者のため、石綿健康被害救済法に基づく救済制度がある。ただ、給付の上限は二百九十九万円で、遺族年金がないなど、労災認定に比べて十分ではない。
独立行政法人「環境再生保全機構」(川崎市)によると、この制度では、10年度までの五年間に128人の教諭を対象に医療費や弔慰金が支払われた。

中日新聞 2013年1月13日

※この名古屋地裁事件については、名古屋高裁判決で勝訴し確定した。

安全センター情報2014年6月号(修正)